黒狼の牙 〜領地を追われた元貴族。過去の世界で魔法の力を得て現在に帰還する。え、暴力組織? やめて下さい、黒狼会は真っ当な商会です〜

ネコミコズッキーニ

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帝都帰還 黒狼会を訪ねる者

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「ここが帝都ゼルダスタッド……!」

 リリアーナは帝都に到着すると、歓声を上げる。ここまでの道中、俺たちは黒狼会についておおよその説明を行っていた。

 無頼漢どもの集まった組織である事は伝えたが、リリアーナはそれでもいいので働きたいと言ってきた。まぁ自分の腕にもある程度自信があるのだろう。

「ダグド、ご苦労だったな」

「いえ……」

「もし冥狼が何か仕掛けてきた様子があれば、直ぐに言ってくれ」

 城壁内でダグドと別れ、俺達は屋敷へと戻る。リリアーナはアックスに任せ、俺は部屋でロイとミュリアから不在中の出来事を聞いていた。

「賞金首レースは現在、ガードンが1位ねぇ……。意外な結果だな。てっきりじいさんかフィンあたりかと思っていたぜ」

「二人もそこそこ捕えてはいるんですけどね。ガードンさんは大物狙いで当てた形です」

「というかそのゲーム、まだ続いていたんだな……」

 ミュリアはもう慣れたのか、何も言わない。そして別の報告を行った。

「騎士団からの呼び出しだと……!?」

「はい。ヴェルトさんに用があったみたいなのですが。しばらく不在だという旨をお伝えすると、特に何も伝言を残さず帰っていかれました」

 騎士団が俺に用ねぇ……。伝言を残さなかったという事は、それほど重要な要件ではなかったんだろうが。

 思い当たる節はあるな。冥狼の情報を流したお礼か、路地裏で戦った事についての事情聴取か。

 あの時俺は黒曜腕駆の姿を見せていたからな。そろそろ黒狼会のボスが全身に黒い甲冑を着こむという話から、同一人物だと繋げてもおかしくはない。

 使いは一人で来たという話だし、何にせよそう警戒することではないだろう。今のところ黒狼会は至極真っ当に商売をしているだけの組織だからな。

 ……まぁ騎士団のことだ、証拠はなくともこれまで裏組織の者たちを殺してきたことも掴んではいるだろうが。

 だからこそ、庶民に迷惑をかけるつもりはないと騎士団に尻尾を振る姿勢を見せた訳だ。

 俺は改めてロイに視線を向ける。

「地下闘技場はどうだ?」

「そちらは見つかっていません。ミュリアさんにも協力してもらって、怪しい箇所にはあたりをつけたのですが……」

 ガーラッドからは冥狼の情報をいくらか聞きだすことができた。幹部の情報もあったが、中でも興味を引いたのは冥狼が運営しているという地下闘技場の話だった。

 そこでは凶悪犯罪者や奴隷、それに猛獣たちを戦わせているらしい。極一部の限られた豪商や貴族が賭けをしているそうだ。

「父にも聞きましたが。貴族は分かりませんが、そういった趣味の悪い賭け事に興味を持っていそうな商人には心当たりがあるとのことでしたね」

「もしかしたらそっちをあたった方が見つかるかもな。まぁ開催場所を毎回変えている可能性もあるし、開催頻度も分からないから効率は悪そうだが」

 しかし闘技場か。俺たちの戦った幻魔歴ではどこも常時闘技場みたいな感じだったし、その様な娯楽は無かったが。

 平和になると戦いも娯楽になるもんなんだな。闘技場自体は違法でない可能性もあるが、積極的に運営したいとも思わない。

「ところであのリリアーナという少女ですが。本気でお雇いになられるつもりですか?」

 ミュリアの視線がやや厳しいものになる。単純にリリアーナを雇うメリットとデメリットを天秤にかけた結果、デメリットの方にやや傾いたのだろう。確かに黒狼会として見るとそうなるな。

「言いたい事は分かるが、かなり好奇心の強い子でなぁ……。放っておいた方が返って危ないと思ったんだよ」

「いくら黙っていても、直ぐに噂は広まりますよ。将来の面倒を引き入れた様に思えるのですが……」

 ロジカルで納得はさせられないな。ならここは感情面で訴えよう。

「あーあ、随分冷たいんだなぁ。せっかく遠く離れた帝都まできたのに、放っておけってか? あんな目立つ子だ、帝都に放りだした途端、どんな目に合うか……。純粋に帝都を見て回りたいという少女の願いくらい、大人の俺たちが叶えてあげてもいいじゃないか」

「……はぁ。黒狼会のボスはヴェルトさんです。私は所詮、父に言われて派遣されているだけの部外者ですから、別にヴェルトさんの決定に異を唱えるつもりはありませんよ」

 感情で押そうとしたら、逆に感情で返されてしまった。

「いや、悪かったよ。別にミュリアの事を部外者なんて思っていないって……」

 実際頼りになっているしな。まぁリリアーナについてはしばらく様子見だ。飽きたら帰るかなんかするだろう。 

「でもあの子。結構強いですよね」

「お、やっぱりロイも気付いたか」

「ええ。得物次第ではいつかの暗殺者よりも強いのでは?」

「……そうなのですか?」

 ミュリアは驚いている。リリアーナの実際の実力は分からないが、ロイの言う通りだろう。

 相手との体格差や得物の差、得意な環境などによってパフォーマンスは大きく変動するため、実力なんてものは曖昧なものだが。

「ま、それとなく見守ってやってくれよ」

 その後も三人で他愛のない話を続ける。しかし途中で使用人が来客を知らせてきた。

「俺に来客? 騎士団か?」

「いえ。さる貴族の使者だということです。ヴェルト様に取り次いでもらいたいと……」

 てっきり騎士団が再訪してきたのかと思ったが。しかしさる貴族ねぇ……。

「まぁ無視してもまた来るだろうしな。分かった、通してくれ」

「はい」

 ロイとミュリアにはこのまま一緒に会ってもらう事にした。やはり黒狼会はそれなりに名が売れたのか、貴族の中には関係を持ちたいと考える奴もいる様だ。

 それから使者は直ぐに部屋に通された。どうやら一人の様だ。

「初めまして。私が黒狼会のボス、ヴェルトです。こっちはロイとミュリア。同席をお許しいただきたい」

「ええ、構いません。噂の黒狼会のボスにお会いできて光栄です」

 互いに軽く挨拶を済ませる。使用人が人数分の茶を運んできたところで、使者は本題に入った。

「ヴェルトさんは大層なご活躍を見せておられますが。これまで多くの貴族にも会われてきたのでは?」

「それほどの人数には会っていませんよ。それにお会いした方々とはほとんど連絡もとっていませんしね」

 会う貴族はミュリアに相談し、相当絞っていた。ほとんどがチェスカールの様な、領地を持たない弱小貴族しか面会を申し込んできていないため、無視するか会っても無難な話で終わらせているのだ。

 黒狼会に会いたいと考える貴族のほとんどは、金の無心かいざという時の戦力を求めている様な奴らだからな。

 こっちからしたら金は逆に支援して欲しいし、大した権力もないのに戦力を提供する理由がない。結果、これまで会ってきた貴族の中で、有益な奴は一人もいなかった。

「そうですか。噂では貴族に対して冷たいとか」

「そんなつもりはないのですが。ただこちらにメリットもないのに、貴族だからという理由だけで金を要求されても困るというだけです」

 自分は貴族だから、恩を売っておくと良い事があると言う奴は多いが。

 確かに出世しそうな奴には投資する価値もあるだろうが、何年経っても弱小貴族の立場から抜けられない奴が、今さら金を得たところで何かができるとも思えない。

「ははは、まったくですね。ですがご安心下さい。私の主は帝都において名の知られている方です。決して無為な時間にはならないでしょう。ヴェルトさんさえよければ、一度席をセッティングしたいのですが……」

 これまで会った貴族といえば、この日にいくから準備しておくように、と一方的に言ってくる奴ばかりだった。

 ところが今度の貴族はまず俺の都合を聞き、その上で日程を調整してくれるという。それだけ確実に俺との時間が欲しいという事だろう。

 わざわざ俺にそんな手間をかける理由を考える。真っ先に浮かんだのはリリアーナの存在だった。

「……残念ですが、私は珍しい商品は扱っていませんよ」

「どうやら誤解させたようですね。その手の商談ではありません。主はどこかの珍しい奴隷など特に求めておりませんので、ご安心ください」

 フェルグレッド聖王国民の事も把握済みか。奴隷ではなく観光客が一人、うちに滞在していると聞いたら驚くだろうがな。

「お名前を伺ってから判断するというのは難しいですかね?」

「主からは会うと決断されたら名を明かして良いと言われております。判断材料が与えられないのは申し訳ないのですが、それだけ慎重なのだと察していただけましたら幸いです」

 回りくどい……が、強引な感じもしない。今はまだ、だが。

「ちなみにどういったご用件なのです?」

「詳細は私も存じておりません。ですがもし会っていただける際には、主は屋敷に招待したいとの事です」

 これはいよいよ怪しい匂いがしてきたな。無頼漢どものボスである俺を貴族街に入れるとは。そうまでして会いたがっているという事は、ここで断っても食い下がってくるだろう。

 今は温厚に対応しているが、何が何でもという感じだ。遠回しに拒否権はないと伝えているのかもしれない。

 まぁ実際面会を断れる貴族というのは、黒狼会より金も影響力もない弱小貴族までだ。ある程度力のある貴族に面会を求められたら、一庶民の身として否はない。

 それに。こういう怪しい匂いには、俺の好奇心が刺激されるのも事実。

「……分かりました。どこまでお役立てできるか分かりませんが、お会いさせていただきます」

「おお! それはありがたい!」

 ミュリアにスケジュールの確認を行い、使者にはその旨を持ち帰ってもらう。日程が決まったら後日改めて招待状を送るとの事だった。

「それで。私に会いたいという貴族様のお名前は?」

「主の名はアルフレッド・ガルメラード。ご先祖様はかの群狼武風と関係の深かったカーライル・ガルメラード様になります。貴族界でも有名人ですよ」

「!!」

 その名を聞いた俺とロイは目を大きく見開く。あのおっさん、子供が生き残っていたのか……! 

 カーライルと言えば、俺たち群狼武風の働きを評価し、いち早く魔法の祝福を与える様に王へ進言してくれた人だ。確かに群狼武風とは関係が深かったと言えるだろう。

 使者が帰り、ミュリアも部屋から出て行った後で、俺はロイと話をしていた。

「まさかカーライルの名をここで聞くとはなぁ……」

「ある意味で僕たちの恩人とも言える人ですからね。もう少し魔法の祝福を授かるタイミングが遅れていたら、僕たちは戦場で満足に魔法が使えなかった可能性もありますし……」

「俺もあの土壇場で、黒曜腕駆を今の形まで進化させられていたか分からないしな」

 ミュリアに確認したが、ガルメラード家は確かに帝国貴族の中では有名な方との事だった。割と高位に位置する貴族らしく、豪商でも直接の関係を持つ者はいないのではないか、との事だ。

「一部の仕立て屋なんかは会った事もあるだろうが……」

「それでも関係を持っていると呼べるレベルの者が何人いるか。時を越えて思わぬ再会になりましたね」

「血筋だけだがな」

 アルフレッドはともかく、先祖のカーライルに世話になったのは間違いない。

 一肌脱ぐ……かどうかは要件次第だが、前向きに検討するくらいは構わないだろう。

「そういえば貴族と会うのに相応しい服なんて持っていなかったな」

「ライルズさんに相談されては?」

「そうしよう。早速今から行ってくるかな」

 席を立ってでかける準備をする。そしてミュリアに言って用意してもらったローブを羽織った。

「でも困りましたね。帝国貴族に対する礼儀作法なんて、ヴェルトさんも今から身に付けるのは大変なのでは?」

「……まぁ向こうも裏組織のボスにそこまでちゃんとした礼儀なんて求めないだろ」

 俺も生まれは上級貴族だからな。国や時代が違えばどこまで通じるかは分からないが、最低限失礼にならないくらいの振る舞いはできるだろ。……たぶん。
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