黒狼の牙 〜領地を追われた元貴族。過去の世界で魔法の力を得て現在に帰還する。え、暴力組織? やめて下さい、黒狼会は真っ当な商会です〜

ネコミコズッキーニ

文字の大きさ
64 / 174

暴かれた真名 地下空間に集う者たち

しおりを挟む
 地下通路はいくつかに道が分かれていたが、明かりがついている通路は一つだけだったので、迷う事はなかった。よく見ると昔、人の手によって作られた形跡が確認できる。

「貴族街の地下にこんな空間が広がっていたとはな……」

「元々帝都の地下にはこうした空間が広がっているのだ。かなり広大らしく、ほとんど把握はされていないがな」

「へぇ……」

 帝都も幻魔歴から存在している都市だからな。もしかしたら戦乱の時代、貴族たちの脱出路として作られたものなのかもしれない。

 それに冥狼がこの通路を使って会場に現れた事を考えると、奴らの今の拠点はこのどこかにある可能性もある。そもそも地下闘技場と繋がっている可能性もあるか。

「冥狼が姫さんを狙う理由に何か心当たりはあるか?」

「……正直ない。冥狼からすれば、姿を見せないのが一番良いはず。どうしてわざわざあんな目立つ様な事をしたのか……」

 そこは俺も気になっていた。ありそうなのは、冥狼を語る偽物。皇女さらいの犯行を冥狼に擦り付ける事が狙いとかか。

 しかしあの獣は間違いなく冥狼と結社が実験していたものだろう。やはり本物の線が濃厚だな。

「それにあの男。明らかに人を越えた力の持ち主だった」

「姫さんをさらっていった奴か。やり合ったのか?」

「ああ。まさかこの私に……いや。これも驕りか」

 ディアノーラが強いという事は、初めて見た時から感じていた。そのディアノーラの守りを抜いて皇族さらいに成功したんだ。相手も相応の実力の持ち主だというのは分かる。

「それに。何故か私たち全員の名を知っていた」

「事前に調べてきていた……か?」

「というより、まるで私たちを見て、初めてその場で名前を知ったかの様な反応だった。そんなはずはないと分かっているのだが……」

 敵についてはまだ確実な事は何も言えない。だがうまくいけば、ここで冥狼を潰す事もできる。

 しかし闇組織の割に、今回の騒動は派手過ぎる。ハイラントは関係なさそうだったが……。

 まぁいい。直接話を聞けば済む話だ。
 




「んふふ。万事うまくいっちゃったわねぇ」

 リアデインはアデライアを担ぎながら、意気揚々と地下道を進んでいた。その足取りはとても軽い。

「それにしてもぉ。キヤトちゃんたちがこんな便利な通路を知っていたおかげで、いろいろ楽ができたわぁ。あとはアデライアちゃんを連れて帰れば、私の仕事もおしまいね!」

 帝都に来た目的はあくまでアデライア。後の事はグナトスたちの仕事。リアデインはそう割り切っていた。

 そして歩き続けることしばらく、地下道は少し開けた空間に出た。そこにはキヤトと冥狼の幹部が一部そろっていた。

「お・ま・た・せぇ~」

「リアデインさん。本当に皇女をさらってこれたのかい……」

「ええ。噂のアルフォース家の騎士様がいたから、どんなものかと思っていたけどぉ。正直期待外れだったわねぇ」

 代々帝国最強の剣士を輩出してきているアルフォース家の護衛を期待外れと断じ、リアデインは肩をすくめる。それを見て、針刺しオーバンはくくっと笑った。

「やはり閃刺鉄鷲は違うってなぁ。帝国最強の騎士も、世界最強の暗殺者には敵わねぇか」

「だがペットを地上に放ったままになっちまったよ。それは良かったのかい?」

「かまわないわぁ。何事も派手にいきましょうよ! ほら、私たちこんな仕事じゃない? 普段地味な分、こういう時は思いっきり派手にした方が良いと思うの! きっと今日から冥狼の名は、帝都一の悪名として知れ渡るはずよ!」

 今回の騒動のほとんどは、リアデインの発案によるものだった。エルクォーツの完成度を試す意味合いもあったのだが、わざわざ冥狼を表に出したのもリアデインの演出によるものだ。

 リアデインはアデライアを優しく地面に降ろした。

「ごめんねぇ、アデライアちゃん。怖い目に合わせて。もぅ少し我慢してねぇ」

「…………」

 アデライアは視線を下に向け、リアデインを見ない様にしていた。

 多くの人が目の前で死に、ディアノーラもやられ、こうしてさらわれてしまったのだ。幼い少女の身では強い恐怖心を抱いても仕方がない。

「その姫が、噂の?」

「そう、赤い眼のアデライアちゃんよ! でもほんと、可愛い子で良かったわぁ。もし私好みじゃなかったら、どうなっていたか分からないもの」

 リアデインはアデライアの頭を撫でながら、キヤトたちに視線を向ける。

「私はアデライアちゃんを連れて帝都を出て行くからぁ。あとの指示はグナトス辺りに聞いてね」

「は、はい。あの……」

「なぁに? ……あぁ、閃刺鉄鷲の枝葉の事? 安心して、また何人か貸してかげるわよ。でもまさか10人以上もやられていたなんてね。閃刺鉄鷲の面汚しだわ。私、困っちゃう」

「ありがとうございます。借りていた閃刺鉄鷲の者たちをやったのは、黒狼会という組織の者でして……」

 黒狼会と聞き、リアデインは反応を示す。

「ああ、ここに来る前に少し聞いたわね」

「はい。それでですね。もしかしたら黒狼会は、例の結社の者ではないかと……」

「…………へぇえ?」

 リアデインの空気が少し剣呑なものに変わる。頭を撫でられていたアデライアはびくりと身体を震わせた。

 話していた幹部に変わり、キヤトが続きを話す。

「見届け人が見ていたのさ。黒狼会の幹部が妙な力を使っていたのをね」

「ふぅん? でも主だった者はほとんどエル=グナーデとして再結成されたしぃ。そんなに大した人が残っていたとは聞いていないんだけどねぇ?」

 リアデインは少し考える様に目を細めていたが、何でもない様に首を振った。

「ま、私の仕事には関係ないわ。必要ならグナトスに言えば、あいつも人を貸してくれるはずよ。私たち、これからも仲良くしていきましょ」

「……そうだね」

 答えながらキヤトの心情は複雑だった。かつては帝都に多大な影響力を持つ闇組織だった冥狼も、今では結社の帝都における分室扱いだ。

 しかしそれでも結社と手を組むメリットはあったし、何より影狼の末路を見ると、逆らうという選択肢は選べなかった。

「それじゃそろそろ行くとするかい? ここから拠点まで、まだ結構な距離があるが……」

「帝都は広いものね。こればかりは仕方がないわ」

「まぁ待て。もう少しここでゆっくりしていけよ」

「!?」

 後方から男の声が聞こえる。リアデインたちが視線を向けると、そこにはヴェルトが立っていた。




 
 冥狼どもは幸い立ち止まっていた。俺たちはその姿を確認すると、姿を隠しながら慎重に近づく。そしてしばらく話を聞いていた。

(なんだ……あの男は。明らかにやばい奴の気配がする。例えるなら、裂閃爪鷲の隊長格の様な気配だ)

 話の内容からおおよその経緯を察する。あの男は閃刺鉄鷲の暗殺者。そして背後にいるのはやはり結社か。

 俺はディアノーラと簡単に打ち合わせを済ませ、冥狼どもがその場を離れそうになるタイミングで単身姿を見せた。

「あらぁ? もしかして私、つけられてたぁ?」

「こ、この男は……」

「知っているの、オーバンちゃん」

「リアデインさん。こいつはさっき話していた黒狼会のボス。ヴェルトだ」

「へぇえ?」

 さすがに俺の顔は割れているか。それにオーバンという名にも覚えがある。ガーラッドが語っていた、冥狼の幹部の一人だな。

「あら……? でもあなた、生まれは貴族なのね?」

「……あぁん?」

「だって家名があるじゃない? ふむふむ、ヴェルトハルト・ディグマイヤーというのね」

「…………っ!!」

 なんだと……!? こいつ、一目見て俺の名を……!? 

 いや、やはりおかしい! ヴェルトハルトはもうとっくの昔に死亡した扱いになっている! 仮に名を知っていたとしても、実年齢と俺の見た目から繋げる事はできないはずだ……!

「でもぉ。自分の力に自信はあるみたいね? で、何しにここへ来たのかしら?」

「……。黒狼会のボスがわざわざ姿を見せた理由なんて、一つしかねぇだろうが」

「まさかぁ。アデライアちゃんを助けにきた騎士様のつもり?」

「あ? 何言ってやがる。黒狼会は冥狼と敵対関係にある。せっかく尻尾を掴んだ冥狼のボスとその幹部どもだ。ここで皆殺しにしておこうと追いかけてきたんだよ」

 アデライアという姫が目的であると分かれば、人質として使われる可能性もある。こいつもアデライアが目的である以上、手荒な真似はしないと思うが、用心にこしたことはない。

 リアデインは確かめる様にキヤトに顔を向けた。

「……本当さ。特にこの数日、うちと黒狼会は直接ぶつかってもいる」

「あらぁ。まさか冥狼にたてつく組織が出てくるなんてねぇ。キヤトちゃん、冥狼の影響力も落ちたんじゃないのぉ? 大丈夫? 他に追随する組織とか出てきてない?」

「……! 舐めた真似してくれたのは黒狼会だけさね。私たちも丁度、黒狼会は潰すつもりだったのさ!」

「で、不可解な力を見せられたから、結社との関係を疑ったのね。なら断言しておいてアゲル。あの結社に、こんな男は存在していないわよ」

 リアデインは俺に対し身体を向ける。そして楽し気に目を細めた。

「で・も。強いのは確かみたいねぇ。ふふ、いいわ。キヤトちゃんたちも手こずっているみたいだしぃ。ここは大サービスで、この私が相手をしてあげる!」
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

辺境貴族ののんびり三男は魔道具作って自由に暮らします

雪月夜狐
ファンタジー
書籍化決定しました! (書籍化にあわせて、タイトルが変更になりました。旧題は『辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~』です) 壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

魔道具は歌う~パーティ追放後に最高ランクになった俺を幼馴染は信じない。後で気づいてももう遅い、今まで支えてくれた人達がいるから~

喰寝丸太
ファンタジー
異世界転生者シナグルのスキルは傾聴。 音が良く聞こえるだけの取り柄のないものだった、 幼馴染と加入したパーティを追放され、魔道具に出会うまでは。 魔道具の秘密を解き明かしたシナグルは、魔道具職人と冒険者でSSSランクに登り詰めるのだった。 そして再び出会う幼馴染。 彼女は俺がSSSランクだとは信じなかった。 もういい。 密かにやってた支援も打ち切る。 俺以外にも魔道具職人はいるさ。 落ちぶれて行く追放したパーティ。 俺は客とほのぼのとした良い関係を築きながら、成長していくのだった。

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~

空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。 もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。 【お知らせ】6/22 完結しました!

1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!

マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。 今後ともよろしくお願いいたします! トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕! タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。 男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】 そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】 アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です! コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】 マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。 見てください。

処理中です...