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劇場の再会と出会い
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エルヴァールに招待された当日は、屋敷まで馬車が迎えに来てくれた。馬車はそのまま貴族街へと入り、劇場まで運んでくれる。
そこは音楽祭の時の会場とは違う、荘厳な造りをした建物だった。中へと案内され、そのまま3階席へと連れて行かれる。そして個室になっている3階観覧席へと入った。
さすが大貴族、劇場の中でもこんな観覧席を用意しているとは。
「来てくれたか、ヴェルト殿」
エルヴァールは既に席についていた。他には誰もいない。俺はエルヴァールの勧めに応じ、テーブルに着席した。
なるほど、ここからなら2階席や1階席に加え、舞台も良く見える。丁度演劇も始まり、美男美女の役者たちが声高らかに演技を始めた。
「今日の演目はシャノーラ王女の愛というものだ。もう何年も受け継がれてきているものでね。帝都に住む貴族であれば、誰もが一度は見たことがある」
「シャノーラ王女……幻魔歴末期の方ですね。ゼルダンシア王国最後の姫。そして後の帝国の基盤を築いた初代皇帝、アルグローガの母」
「詳しいな」
エルヴァールはやや目を見開きながら、ワインボトルを手に取る。そして俺のグラスに注いでくれた。
「君には言葉では言い表せないくらい、とても世話になった。このワインも特別に取り寄せた物だ。遠慮しないでくれ」
「ありがとうございます」
だが俺は直ぐにはワインに口をつけない。意図を理解したエルヴァールは、無言で自分のグラスにもワインを注ぐ。そしてそれを飲んでみせた。俺もワインに口をつける。
「確かに美味しいですね」
「はは、気に入ってくれて良かったよ。……シャノーラ王女の愛はね。当時活躍した伝説の傭兵団、群狼武風。その団長マーカスとの禁断の愛を描いたものなんだ」
「……マーカス?」
「ああ。群狼武風はその名は知られているが、そこに所属していた個人の名までは伝わっていないんだよ。そのため群狼武風団長の名はいろいろ使われているんだが、マーカスは中でも人気の名だ」
いや、誰だよ。そんな奴、群狼武風にはいなかったぞ。
俺は陶器に入ったナッツもかじりながら、演劇を見る。ローガ役の偉丈夫が、シャノーラ役の美女に愛を叫んでいるシーンだった。
はは。ローガもまさか後の世までこうしてシャノーラとの逢瀬が伝わっているなんて、思いもしなかっただろうな。
「シャノーラ王女の相手……つまりはアルグローガ皇帝の父だが。今でもいろいろ謎が多くてね。有力な説では帝国貴族だが、中には群狼武風の団長こそが初代皇帝の父であると話す者もいる。もちろん、多くの者は信じていないがね」
「……エルヴァール様はどうなのです?」
「そうだな……。だが当時は強者こそ英雄であり、称えられるべき勇者であった。皇族の血を神聖視する者からすれば不敬だと思われるだろうが、そういうロマンもあっても良いのではないかと思うね」
ローガとシャノーラが血を残し、今日の帝国の発展に大きく寄与してきた。そして今、俺たちはそんな帝国の帝都でこうして暮らしている。
人生どこでどうなるかなんて、いつもその時になってみないと分からないものだな。
「……ハイラントだがね。少し帝都を離れる事になったよ。君のおかげだ」
「そうですか。これでエルヴァール様もやりやすくなりますね。暗殺者を仕向けたという誤解も解けたのでしょう?」
「ああ。だがハイラント家も帝国において、大きくその役目を担っている貴族だ。さすがに取り潰しは容易ではない。それに音楽祭での経緯には関わっていなかった様だしね」
「それで帝都から追い出し、蟄居に追い込んだ訳ですか」
甘いとは思うが、ハイラント自身が今回の惨劇を引き起こした訳ではない。そしてこれまでの帝国に対する貢献も考えると、これを罰する事はできなかったのだろう。
下手な罰は他の貴族の反感……特にハイラント派の離反を招く原因にもなる。だがこのまま良しと放置もできない。エルヴァールや皇帝としても、いろいろ考えた上での結論だろう。
「これで武力による拡大路線派は、大きく宮中で影響力を落とす。何とかこの拡がり過ぎた帝国の地盤固めに集中できそうだよ」
「お役に立てて良かったです」
「ああ。既に私と君の仲も広がりつつある。これからも頼りにさせてもらいたい」
「こちらこそ」
今思うと、エルヴァールは初めから黒狼会との仲を隠すつもりがなかったのだろう。最初から黒狼会を買っていたのか……それともそれだけの覚悟を決めて、ハイラントと冥狼のタッグに立ち向かおうとしたのか。
だが今後は黒狼会のスキャンダルは、そのままエルヴァールのスキャンダルに繋がりかねない。これまで以上に手を出す商売には気を付けた方がいいだろうな。
「実は今日、君をここに呼んだのは、合わせたい人がいるからなんだ」
「ほう……」
やっぱりな。おそらくその合わせたい人物の予定を取り付けた結果、今日この時間この場所が決まったのだろう。
俺の予定を確認せずに日付を指定した理由は想像通りだった。
「そろそろ来る頃だと思うのだが……」
丁度その時、扉に小さなノックが響く。そして部屋の中に入ってきたのは、2人の男性だった。
俺は立とうとするが、相手はそれを手で制す。そして2人ともテーブルに座った。
「楽にしてくれていい。君には娘が世話になったからな」
「お前が黒狼会のボス、ヴェルトか。騎士団もお前のもたらした情報には世話になっている。これは公式の場ではないし、礼儀についてうるさく言うつもりはない」
二人の発言から、おおよそのあたりをつける。エルヴァールは新たに取り出したグラスにワインを注ぎながら紹介してくれた。
「紹介しよう。こちらは帝国の剣、アルフォース家の当主。ディザイア・アルフォース殿。そしてこちらは帝国騎士団総代、ディナルド・アドルナー殿だ」
「……黒狼会の代表、ヴェルトです」
これは驚いたな……。
片方はディアノーラの父だろう。こちらも相当な実力を持っている事が伺える。おそらくリアデインよりも上だろう。
そしてディナルド。騎士団総代という事は、実質的に帝国騎士を束ねる立場に立っている男だという事だ。だが俺が驚いたのはその身分にではない。アドルナーという名だ。
ダグドの用意した資料には、帝国に来たディグマイヤー家の生き残りはアドルナー家に引き取られたと書いてかった。
そして母はアドルナー家の当主と再婚し、クインとメルはアドルナー家の一員として帝国貴族の身分を得た。つまりディグマイヤー家としては、いくらか恩のある貴族家と言えるだろう。
「地下通路でアデライア様をお救いしてくれた事。改めて礼を言おう」
「……いえ。私は雇い主であるエルヴァール様の求めに応じたまで。個別に礼を言われる様な事ではありません」
「ほう……。娘からも聞いていたが、なるほど。中々の御仁の様だな」
ディザイアは俺を探る様な視線で見てくる。実際にその実力の一端を測ろうとしているのだろう。ディナルドもまた俺を見て小さく頷いた。
「これまで騎士団に有益な情報をよく知らせてくれた。またアデライア様救出にあたり、騎士の領分を侵さぬ様に気遣ってくれたおかげで、混乱を小さくまとめられたのも事実だ。……立場的に複雑な思いではあるが、そこは礼を述べておこう」
どうやら俺の今日までの心付けが効いてくれた様だ。敵意は感じない。演劇が盛り上がる中、俺たちの密談は続く。
「黒狼会に対し、余計な追及は禁止されておる。だからこれだけ聞きたい。……信用して良いのだな?」
追及を禁止しているのは誰だとか、信用の意味とか気になる点は多い。だがここは聞き返す場面ではないだろう。
「さて……問われている範囲が広すぎて、素直に首を縦に振るのは難しいですが。少なくとも、帝都の安寧に寄与できればとは考えております」
「……でなくては、エルヴァール殿に今日まで協力もしておらんか。よく冥狼とハイラント家の繋がりを暴いてくれたな。あやうく騎士団も判断を誤るところであった」
「それもエルヴァール様の依頼があったからこそです。黒狼会単独では、冥狼と敵対はしても貴族様方の都合に首を突っ込む真似はしていませんでしたよ」
どうやら黒狼会から意見聴取しようという場ではない様だ。そして今日まで召致されなかった理由も分かった。誰かが意図して黒狼会への追及を止めていたんだな。
しかし騎士団総代や、この強そうな男を止められるだけの権力を持つ者か。相当限られそうだが……。
「君をこの場に呼んだのは、共有しておきたい情報があったのと、お願いごとがあったからだ」
「お願いごと……ですか」
「ああ。まぁそう構えないでくれ。別に断ってくれても構わない話だ」
お貴族様からのお願いごとねぇ……。依頼ではない以上、金も出ないだろうし強制してくるつもりもないようだが。
「情報共有の件だが。君が地下通路で戦った七殺星。これについて教えておこうと思ったのだよ」
そこは音楽祭の時の会場とは違う、荘厳な造りをした建物だった。中へと案内され、そのまま3階席へと連れて行かれる。そして個室になっている3階観覧席へと入った。
さすが大貴族、劇場の中でもこんな観覧席を用意しているとは。
「来てくれたか、ヴェルト殿」
エルヴァールは既に席についていた。他には誰もいない。俺はエルヴァールの勧めに応じ、テーブルに着席した。
なるほど、ここからなら2階席や1階席に加え、舞台も良く見える。丁度演劇も始まり、美男美女の役者たちが声高らかに演技を始めた。
「今日の演目はシャノーラ王女の愛というものだ。もう何年も受け継がれてきているものでね。帝都に住む貴族であれば、誰もが一度は見たことがある」
「シャノーラ王女……幻魔歴末期の方ですね。ゼルダンシア王国最後の姫。そして後の帝国の基盤を築いた初代皇帝、アルグローガの母」
「詳しいな」
エルヴァールはやや目を見開きながら、ワインボトルを手に取る。そして俺のグラスに注いでくれた。
「君には言葉では言い表せないくらい、とても世話になった。このワインも特別に取り寄せた物だ。遠慮しないでくれ」
「ありがとうございます」
だが俺は直ぐにはワインに口をつけない。意図を理解したエルヴァールは、無言で自分のグラスにもワインを注ぐ。そしてそれを飲んでみせた。俺もワインに口をつける。
「確かに美味しいですね」
「はは、気に入ってくれて良かったよ。……シャノーラ王女の愛はね。当時活躍した伝説の傭兵団、群狼武風。その団長マーカスとの禁断の愛を描いたものなんだ」
「……マーカス?」
「ああ。群狼武風はその名は知られているが、そこに所属していた個人の名までは伝わっていないんだよ。そのため群狼武風団長の名はいろいろ使われているんだが、マーカスは中でも人気の名だ」
いや、誰だよ。そんな奴、群狼武風にはいなかったぞ。
俺は陶器に入ったナッツもかじりながら、演劇を見る。ローガ役の偉丈夫が、シャノーラ役の美女に愛を叫んでいるシーンだった。
はは。ローガもまさか後の世までこうしてシャノーラとの逢瀬が伝わっているなんて、思いもしなかっただろうな。
「シャノーラ王女の相手……つまりはアルグローガ皇帝の父だが。今でもいろいろ謎が多くてね。有力な説では帝国貴族だが、中には群狼武風の団長こそが初代皇帝の父であると話す者もいる。もちろん、多くの者は信じていないがね」
「……エルヴァール様はどうなのです?」
「そうだな……。だが当時は強者こそ英雄であり、称えられるべき勇者であった。皇族の血を神聖視する者からすれば不敬だと思われるだろうが、そういうロマンもあっても良いのではないかと思うね」
ローガとシャノーラが血を残し、今日の帝国の発展に大きく寄与してきた。そして今、俺たちはそんな帝国の帝都でこうして暮らしている。
人生どこでどうなるかなんて、いつもその時になってみないと分からないものだな。
「……ハイラントだがね。少し帝都を離れる事になったよ。君のおかげだ」
「そうですか。これでエルヴァール様もやりやすくなりますね。暗殺者を仕向けたという誤解も解けたのでしょう?」
「ああ。だがハイラント家も帝国において、大きくその役目を担っている貴族だ。さすがに取り潰しは容易ではない。それに音楽祭での経緯には関わっていなかった様だしね」
「それで帝都から追い出し、蟄居に追い込んだ訳ですか」
甘いとは思うが、ハイラント自身が今回の惨劇を引き起こした訳ではない。そしてこれまでの帝国に対する貢献も考えると、これを罰する事はできなかったのだろう。
下手な罰は他の貴族の反感……特にハイラント派の離反を招く原因にもなる。だがこのまま良しと放置もできない。エルヴァールや皇帝としても、いろいろ考えた上での結論だろう。
「これで武力による拡大路線派は、大きく宮中で影響力を落とす。何とかこの拡がり過ぎた帝国の地盤固めに集中できそうだよ」
「お役に立てて良かったです」
「ああ。既に私と君の仲も広がりつつある。これからも頼りにさせてもらいたい」
「こちらこそ」
今思うと、エルヴァールは初めから黒狼会との仲を隠すつもりがなかったのだろう。最初から黒狼会を買っていたのか……それともそれだけの覚悟を決めて、ハイラントと冥狼のタッグに立ち向かおうとしたのか。
だが今後は黒狼会のスキャンダルは、そのままエルヴァールのスキャンダルに繋がりかねない。これまで以上に手を出す商売には気を付けた方がいいだろうな。
「実は今日、君をここに呼んだのは、合わせたい人がいるからなんだ」
「ほう……」
やっぱりな。おそらくその合わせたい人物の予定を取り付けた結果、今日この時間この場所が決まったのだろう。
俺の予定を確認せずに日付を指定した理由は想像通りだった。
「そろそろ来る頃だと思うのだが……」
丁度その時、扉に小さなノックが響く。そして部屋の中に入ってきたのは、2人の男性だった。
俺は立とうとするが、相手はそれを手で制す。そして2人ともテーブルに座った。
「楽にしてくれていい。君には娘が世話になったからな」
「お前が黒狼会のボス、ヴェルトか。騎士団もお前のもたらした情報には世話になっている。これは公式の場ではないし、礼儀についてうるさく言うつもりはない」
二人の発言から、おおよそのあたりをつける。エルヴァールは新たに取り出したグラスにワインを注ぎながら紹介してくれた。
「紹介しよう。こちらは帝国の剣、アルフォース家の当主。ディザイア・アルフォース殿。そしてこちらは帝国騎士団総代、ディナルド・アドルナー殿だ」
「……黒狼会の代表、ヴェルトです」
これは驚いたな……。
片方はディアノーラの父だろう。こちらも相当な実力を持っている事が伺える。おそらくリアデインよりも上だろう。
そしてディナルド。騎士団総代という事は、実質的に帝国騎士を束ねる立場に立っている男だという事だ。だが俺が驚いたのはその身分にではない。アドルナーという名だ。
ダグドの用意した資料には、帝国に来たディグマイヤー家の生き残りはアドルナー家に引き取られたと書いてかった。
そして母はアドルナー家の当主と再婚し、クインとメルはアドルナー家の一員として帝国貴族の身分を得た。つまりディグマイヤー家としては、いくらか恩のある貴族家と言えるだろう。
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「……いえ。私は雇い主であるエルヴァール様の求めに応じたまで。個別に礼を言われる様な事ではありません」
「ほう……。娘からも聞いていたが、なるほど。中々の御仁の様だな」
ディザイアは俺を探る様な視線で見てくる。実際にその実力の一端を測ろうとしているのだろう。ディナルドもまた俺を見て小さく頷いた。
「これまで騎士団に有益な情報をよく知らせてくれた。またアデライア様救出にあたり、騎士の領分を侵さぬ様に気遣ってくれたおかげで、混乱を小さくまとめられたのも事実だ。……立場的に複雑な思いではあるが、そこは礼を述べておこう」
どうやら俺の今日までの心付けが効いてくれた様だ。敵意は感じない。演劇が盛り上がる中、俺たちの密談は続く。
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追及を禁止しているのは誰だとか、信用の意味とか気になる点は多い。だがここは聞き返す場面ではないだろう。
「さて……問われている範囲が広すぎて、素直に首を縦に振るのは難しいですが。少なくとも、帝都の安寧に寄与できればとは考えております」
「……でなくては、エルヴァール殿に今日まで協力もしておらんか。よく冥狼とハイラント家の繋がりを暴いてくれたな。あやうく騎士団も判断を誤るところであった」
「それもエルヴァール様の依頼があったからこそです。黒狼会単独では、冥狼と敵対はしても貴族様方の都合に首を突っ込む真似はしていませんでしたよ」
どうやら黒狼会から意見聴取しようという場ではない様だ。そして今日まで召致されなかった理由も分かった。誰かが意図して黒狼会への追及を止めていたんだな。
しかし騎士団総代や、この強そうな男を止められるだけの権力を持つ者か。相当限られそうだが……。
「君をこの場に呼んだのは、共有しておきたい情報があったのと、お願いごとがあったからだ」
「お願いごと……ですか」
「ああ。まぁそう構えないでくれ。別に断ってくれても構わない話だ」
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