黒狼の牙 〜領地を追われた元貴族。過去の世界で魔法の力を得て現在に帰還する。え、暴力組織? やめて下さい、黒狼会は真っ当な商会です〜

ネコミコズッキーニ

文字の大きさ
70 / 174

劇場の再会と出会い

しおりを挟む
 エルヴァールに招待された当日は、屋敷まで馬車が迎えに来てくれた。馬車はそのまま貴族街へと入り、劇場まで運んでくれる。

 そこは音楽祭の時の会場とは違う、荘厳な造りをした建物だった。中へと案内され、そのまま3階席へと連れて行かれる。そして個室になっている3階観覧席へと入った。

 さすが大貴族、劇場の中でもこんな観覧席を用意しているとは。

「来てくれたか、ヴェルト殿」

 エルヴァールは既に席についていた。他には誰もいない。俺はエルヴァールの勧めに応じ、テーブルに着席した。

 なるほど、ここからなら2階席や1階席に加え、舞台も良く見える。丁度演劇も始まり、美男美女の役者たちが声高らかに演技を始めた。

「今日の演目はシャノーラ王女の愛というものだ。もう何年も受け継がれてきているものでね。帝都に住む貴族であれば、誰もが一度は見たことがある」

「シャノーラ王女……幻魔歴末期の方ですね。ゼルダンシア王国最後の姫。そして後の帝国の基盤を築いた初代皇帝、アルグローガの母」

「詳しいな」

 エルヴァールはやや目を見開きながら、ワインボトルを手に取る。そして俺のグラスに注いでくれた。

「君には言葉では言い表せないくらい、とても世話になった。このワインも特別に取り寄せた物だ。遠慮しないでくれ」

「ありがとうございます」

 だが俺は直ぐにはワインに口をつけない。意図を理解したエルヴァールは、無言で自分のグラスにもワインを注ぐ。そしてそれを飲んでみせた。俺もワインに口をつける。

「確かに美味しいですね」

「はは、気に入ってくれて良かったよ。……シャノーラ王女の愛はね。当時活躍した伝説の傭兵団、群狼武風。その団長マーカスとの禁断の愛を描いたものなんだ」

「……マーカス?」

「ああ。群狼武風はその名は知られているが、そこに所属していた個人の名までは伝わっていないんだよ。そのため群狼武風団長の名はいろいろ使われているんだが、マーカスは中でも人気の名だ」

 いや、誰だよ。そんな奴、群狼武風にはいなかったぞ。

 俺は陶器に入ったナッツもかじりながら、演劇を見る。ローガ役の偉丈夫が、シャノーラ役の美女に愛を叫んでいるシーンだった。

 はは。ローガもまさか後の世までこうしてシャノーラとの逢瀬が伝わっているなんて、思いもしなかっただろうな。

「シャノーラ王女の相手……つまりはアルグローガ皇帝の父だが。今でもいろいろ謎が多くてね。有力な説では帝国貴族だが、中には群狼武風の団長こそが初代皇帝の父であると話す者もいる。もちろん、多くの者は信じていないがね」

「……エルヴァール様はどうなのです?」

「そうだな……。だが当時は強者こそ英雄であり、称えられるべき勇者であった。皇族の血を神聖視する者からすれば不敬だと思われるだろうが、そういうロマンもあっても良いのではないかと思うね」

 ローガとシャノーラが血を残し、今日の帝国の発展に大きく寄与してきた。そして今、俺たちはそんな帝国の帝都でこうして暮らしている。

 人生どこでどうなるかなんて、いつもその時になってみないと分からないものだな。

「……ハイラントだがね。少し帝都を離れる事になったよ。君のおかげだ」

「そうですか。これでエルヴァール様もやりやすくなりますね。暗殺者を仕向けたという誤解も解けたのでしょう?」

「ああ。だがハイラント家も帝国において、大きくその役目を担っている貴族だ。さすがに取り潰しは容易ではない。それに音楽祭での経緯には関わっていなかった様だしね」

「それで帝都から追い出し、蟄居に追い込んだ訳ですか」

 甘いとは思うが、ハイラント自身が今回の惨劇を引き起こした訳ではない。そしてこれまでの帝国に対する貢献も考えると、これを罰する事はできなかったのだろう。

 下手な罰は他の貴族の反感……特にハイラント派の離反を招く原因にもなる。だがこのまま良しと放置もできない。エルヴァールや皇帝としても、いろいろ考えた上での結論だろう。

「これで武力による拡大路線派は、大きく宮中で影響力を落とす。何とかこの拡がり過ぎた帝国の地盤固めに集中できそうだよ」

「お役に立てて良かったです」

「ああ。既に私と君の仲も広がりつつある。これからも頼りにさせてもらいたい」

「こちらこそ」

 今思うと、エルヴァールは初めから黒狼会との仲を隠すつもりがなかったのだろう。最初から黒狼会を買っていたのか……それともそれだけの覚悟を決めて、ハイラントと冥狼のタッグに立ち向かおうとしたのか。

 だが今後は黒狼会のスキャンダルは、そのままエルヴァールのスキャンダルに繋がりかねない。これまで以上に手を出す商売には気を付けた方がいいだろうな。

「実は今日、君をここに呼んだのは、合わせたい人がいるからなんだ」

「ほう……」

 やっぱりな。おそらくその合わせたい人物の予定を取り付けた結果、今日この時間この場所が決まったのだろう。

 俺の予定を確認せずに日付を指定した理由は想像通りだった。

「そろそろ来る頃だと思うのだが……」

 丁度その時、扉に小さなノックが響く。そして部屋の中に入ってきたのは、2人の男性だった。

 俺は立とうとするが、相手はそれを手で制す。そして2人ともテーブルに座った。

「楽にしてくれていい。君には娘が世話になったからな」

「お前が黒狼会のボス、ヴェルトか。騎士団もお前のもたらした情報には世話になっている。これは公式の場ではないし、礼儀についてうるさく言うつもりはない」

 二人の発言から、おおよそのあたりをつける。エルヴァールは新たに取り出したグラスにワインを注ぎながら紹介してくれた。

「紹介しよう。こちらは帝国の剣、アルフォース家の当主。ディザイア・アルフォース殿。そしてこちらは帝国騎士団総代、ディナルド・アドルナー殿だ」

「……黒狼会の代表、ヴェルトです」

 これは驚いたな……。

 片方はディアノーラの父だろう。こちらも相当な実力を持っている事が伺える。おそらくリアデインよりも上だろう。

 そしてディナルド。騎士団総代という事は、実質的に帝国騎士を束ねる立場に立っている男だという事だ。だが俺が驚いたのはその身分にではない。アドルナーという名だ。

 ダグドの用意した資料には、帝国に来たディグマイヤー家の生き残りはアドルナー家に引き取られたと書いてかった。

 そして母はアドルナー家の当主と再婚し、クインとメルはアドルナー家の一員として帝国貴族の身分を得た。つまりディグマイヤー家としては、いくらか恩のある貴族家と言えるだろう。

「地下通路でアデライア様をお救いしてくれた事。改めて礼を言おう」

「……いえ。私は雇い主であるエルヴァール様の求めに応じたまで。個別に礼を言われる様な事ではありません」

「ほう……。娘からも聞いていたが、なるほど。中々の御仁の様だな」

 ディザイアは俺を探る様な視線で見てくる。実際にその実力の一端を測ろうとしているのだろう。ディナルドもまた俺を見て小さく頷いた。

「これまで騎士団に有益な情報をよく知らせてくれた。またアデライア様救出にあたり、騎士の領分を侵さぬ様に気遣ってくれたおかげで、混乱を小さくまとめられたのも事実だ。……立場的に複雑な思いではあるが、そこは礼を述べておこう」

 どうやら俺の今日までの心付けが効いてくれた様だ。敵意は感じない。演劇が盛り上がる中、俺たちの密談は続く。

「黒狼会に対し、余計な追及は禁止されておる。だからこれだけ聞きたい。……信用して良いのだな?」

 追及を禁止しているのは誰だとか、信用の意味とか気になる点は多い。だがここは聞き返す場面ではないだろう。

「さて……問われている範囲が広すぎて、素直に首を縦に振るのは難しいですが。少なくとも、帝都の安寧に寄与できればとは考えております」

「……でなくては、エルヴァール殿に今日まで協力もしておらんか。よく冥狼とハイラント家の繋がりを暴いてくれたな。あやうく騎士団も判断を誤るところであった」

「それもエルヴァール様の依頼があったからこそです。黒狼会単独では、冥狼と敵対はしても貴族様方の都合に首を突っ込む真似はしていませんでしたよ」

 どうやら黒狼会から意見聴取しようという場ではない様だ。そして今日まで召致されなかった理由も分かった。誰かが意図して黒狼会への追及を止めていたんだな。

 しかし騎士団総代や、この強そうな男を止められるだけの権力を持つ者か。相当限られそうだが……。

「君をこの場に呼んだのは、共有しておきたい情報があったのと、お願いごとがあったからだ」

「お願いごと……ですか」

「ああ。まぁそう構えないでくれ。別に断ってくれても構わない話だ」

 お貴族様からのお願いごとねぇ……。依頼ではない以上、金も出ないだろうし強制してくるつもりもないようだが。

「情報共有の件だが。君が地下通路で戦った七殺星。これについて教えておこうと思ったのだよ」
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

辺境貴族ののんびり三男は魔道具作って自由に暮らします

雪月夜狐
ファンタジー
書籍化決定しました! (書籍化にあわせて、タイトルが変更になりました。旧題は『辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~』です) 壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。 彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。 優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。 それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。 その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。 しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。 ※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。 詳細は近況ボードをご覧ください。

【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~

石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。 ありがとうございます 主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。 転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。 ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。 『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。 ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする 「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。

セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~

空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。 もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。 【お知らせ】6/22 完結しました!

1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!

マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。 今後ともよろしくお願いいたします! トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕! タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。 男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】 そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】 アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です! コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】 マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。 見てください。

処理中です...