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交戦開始 アデライアを狙う者たち
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クインシュバインが屋敷の外に出ると、そこには目を疑う光景が広がっていた。
部下の報告通り、確かに相手は9人だ。だが相手は数で大きく劣っているのにも関わらず、圧倒的な武力で騎士たちを文字通りなぎ倒していた。
身の丈を超える斧を持つ男が、信じられない速度で武器を振り回すと、騎士は鎧ごと両断される。他の男たちも動きが速く、正面から騎士の剣を弾けるだけの筋力も見せている。
そして不思議な雰囲気を持つ女。こっちも問題だった。その女は手を掲げると、目の前に青白い光球を生み出したのだ。
光球は騎士たちに迫ると衝撃を伴った爆発を起こし、多くの騎士たちを吹き飛ばした。
「く……! 皆、落ち着け! 数はまだこちらが上だ! 玄関前を中心に陣を組め!」
「団長!」
「クインシュバイン様!」
クインシュバインは配下たちの指揮を執り、自らも大剣を引き抜く。その大剣は幻魔歴末期に活躍した伝説の鍛冶師、ガーディンの鍛えたものだった。
かつてヴェルトが帝都に来たばかりの頃、金物を取り扱っていた商店に売った物だ。
鑑定の結果、本物であると証明された伝説の剣は、紆余曲折を経てクインシュバインの手元にきた。
本来であれば美術館に飾られていてもおかしくないが、過去から直接渡ってきただけあって、400年以上前の物だとは思えないくらい状態が良かった。
武人であるクインシュバインは、戦場で振るわなければこの剣に対して失礼だと考え、家で飾る様な事はしなかった。
「あの大斧を持つ男は私が抑える! お前たちはあの女に最大限警戒しつつ、入り口を固めろ! 決して誰もここを通すな!」
「は!!」
騎士たちの士気が戻り始める。賊たちも動きが変わった騎士たちを少し距離をおいて警戒した。
そこにもう一人の少女……リリアーナが姿を見せる。
「あ……」
リリアーナは賊の女を確認する。その瞬間、激昂しながら声をあげた。
「リステルマァァァァ!!」
「……リリアーナ。こんなところにいたのですか」
賊の女……リステルマも動きを止めてリリアーナに顔を向ける。
部屋にいた時とは違い、ローブを纏っているリリアーナに困惑しつつも、クインシュバインは口を開いた。
「知っているのか?」
「ええ……! あの女は私がやるわ……!」
「大丈夫なのか……? 尋常ではない使い手の様だが……」
「大丈夫よ……! 手の内は分かっているもの……! でも1対1で集中させて……!」
リステルマという女性との関係や、その手の内について聞きたい事は多い。だが今はその時ではないとクインシュバインは判断した。
「賊の女はリリアーナ嬢に任せる! お前たちは他の賊が邪魔をしない様に、かつ屋敷に入れない様に援護しろ!」
「は!!」
リリアーナはローブから刀身のない剣の柄を取り出す。そしてリステルマに向けてゆっくりと足を進めた。
「会いたかったわ……リステルマ……!」
「リリアーナ。あなたの姉は……」
「うるさい……! ここであなたを殺す……!」
そう言うとリリアーナは右手に握った柄を小さく振るう。するとローブの内側に装着されていた数多の金属片がリリアーナの周囲に浮かび、そのまま柄の先で歪な剣の形状を作った。
「流聖剣ロンダーヴ。完璧に使いこなしている様ですね。ですが……」
「はぁ!!」
リリアーナが剣を振るうと、剣を形作っていた金属片は一斉にリステルマに襲い掛かる。
しかしリステルマが目前に光球を生み出すと、金属片は弾かれた様にリリアーナの持つ柄へと戻った。
「…………!」
「私の魔導を打ち破れるかは話が別です。……リアデインをやったのはあなたかしら?」
「そうよ……! あいつもロンダーヴで切り刻んでやったわ……!」
「そうですか。帝国に獅徒が来ているとは思っていませんでしたよ。……忠告は一度きりです。退きなさい。そうすれば、獅徒とはいえ私は追いません」
「ふざけないで……!」
リリアーナは再び剣を振るう。二人の戦いが本格化していくのを余所に、クインシュバインも正面の敵に意識を集中する。
敵の力は未知数、リリアーナの武器も理解不能の産物だ。しかし自分がやるべき事は変わらない。大斧を持つ男もクインシュバインに対し、油断なく腰を落とす。
「……貴族の遊びとは違う、本物の騎士の様だな。年相応の経験を積んで来た事が分かる。帝国はたまにこういう騎士がいるからやりづらい」
「他国にも優れた騎士は多いだろう」
「確かに他国の方が優れた騎士は多いだろう。しかしあくまで割合で見た話だ。帝国には多少質は悪くとも、それを補う圧倒的な数があるからな」
だが……と大斧を持つ男、ベインは続ける。
「あんたはその中でも、特に有能な手合いだろう。いらないだろうが、名乗らせてもらう。俺は剛腕爆斧のベイン。あんたが最後に戦う男だ」
賊が名乗りをあげるなど……とは思わない。クインシュバインもベインの名乗りに応える。
「私は正剣騎士団団長、クインシュバイン・ディグマイヤー。もっとも、今は団長職は休止中だが」
「ああ……あんたが閃光の剣騎士か。道理でな。それじゃ、互いに名乗りが終わったところで……」
「いくぞ!」
二人は同時に駆けだし、大剣と大斧をぶつけ合う。周囲に激しい金属音と衝撃が走った。
■
「兄さん……大丈夫かしら……」
「大丈夫さ。多くの逆境を覆してきた、本物の騎士なんだから」
あれから騎士の伝令は飛んでこない。便りがないのは良い報せ……と思いたいところだな。
しかしヴィローラとアデライアの2人は、メルたちに比べると落ち着いたものだった。
「……2人とも落ち着いているな」
「あら。だってここには黒騎士様がおられるのですもの」
「はい。これほど心強いことはありません」
「えらく信頼されているみたいで……」
考えてみれば2人とも、俺の力の一片を見た事があるのか。
アデライアはともかく、こりゃやっぱ長くは隠し通せそうにないな。2人の反応を聞いてジェリアムも声をかけてきた。
「黒騎士様というのは……?」
「ふふ。ヴェルト様は戦場に立つ時、全身に黒い甲冑を身に纏われるのです。その時の強さは相当なものですわ。私、一度ではありますが直に見ておりますの」
何故かヴィローラは得意げに話す。だがジェリアムは感心した様だった。
「やっぱり戦場でのご経験もあるのですね。身体をよく鍛えておられる様子でしたので、もしかしたらと思ったのですが」
「昔、いろいろありましてね。今はそういう荒事からは距離を置いていますよ」
嘘だ。今も絶賛暴力で生活の基盤を築いているところだ。だがメルに乱暴者の印象を持ってほしくないという見栄が働いてしまった。
あれだけ暴力を振るって黒狼会を大きくしておきながら、なんと言う言い草だろうか。
「……私は戦場に出た事がないのです。私の世代では、戦場に出て箔を付けようという者は結構多かったのですが……」
「戦場など行かないにこしたことはありませんよ。私も二度と御免です」
「ではどうして……?」
どうして……か。そうしなければ生きられなかったというのは確かにあった。だがそれも最初だけ。途中からは自分のために、その力を戦場で振るい続けた。
そして最後には譲れない……譲りたくないもののために、勝ち目のない戦いに身を投じた。……なんて言えば格好はいいが、単なる意地だ。それ以上の意味はない。
「そういう生き方しかできなかったからです。それにあの頃は、命を賭してでも譲れないものも確かにあった。ですが今はこうして別の生き方ができているし、そんな現状が気に入っている。あなたも領主として、自分にしかできない生き方をしてこられたのでは?」
ま、貴族でも何でもない俺が偉そうに言える事ではないがな。何となく遠回しに、戦場経験がなくても何も気にする事はないと話す。
平民風情が何を……という気はすごくするが。しかし2人の皇女様方は、どこか聞きいっている様子だった。
「ヴェルトさ……」
「で、伝令!」
部屋の扉が開かれる。姿を見せた男は、焦った口調で言葉を続けた。
「そ、外の賊ですが……!」
しかしその言葉を待たず、俺はテーブルの上にあったナイフを手に取ると男に向けて投擲する。
ナイフは正確に男の額に向けて放たれたが、当の男は最小限の動きでこれを躱した。
「ヴェルトさん!?」
俺の突然の行動に驚きの声が響く。しかし伝令に来たという男は、腰を落としながら注意深く俺を睨みつけてきた。
「おいおい、危ねぇじゃねぇか! てめぇ、何しやがんだぁ!? てめぇのその軽はずみな判断で、伝令が持ってきた貴重な情報が聞けなくなったらどう責任取るつもりなんだ、おぉ!?」
「部屋に入るなり配置されている物と人の位置、数を把握し、ターゲットであるアデライアに多くの意識と視線を割く。典型的な刺客だろう、てめぇ。伝令の真似事がしたいなら他でやりやがれ」
刺客は俺の発言に強い興味を覚えたのか、今は俺にその視線を向けていた。
「はぁん? あの一瞬で、俺がそこまで見ているって気付いたのか? っかしぃなぁ。情報じゃあアルフォース家の剣士は護衛についていねぇって話だったのによぉ。んだが貴族にも見えねぇな。なにもんだ?」
「まずは自分から名乗るのが礼儀ってもんだぜ」
部屋に戦いの気配が充満していく。俺はジークリットに視線を向ける。彼女は俺の意図をくみ取り、部屋にいる人を一か所に固めてくれた。
「どうやらてめぇをやらねぇと、皇女はさらえそうにねぇなぁ! だがてめぇさえ片付ければ、この部屋にいる奴らは好き放題ってぇ訳だ! くはは……! これはいい……! 部屋にいるのはほとんど女じゃねぇか! 今からどう遊ぼうか、楽しみだぜぇ……!」
幻魔歴でもたまに見たタイプだな。殺しが日常化し、そこに楽しみなどのプラス要素を求める手合いだ。
「聞いてくれよぉ! 最近、クソ女の監視が厳しくてよぉ! 全然遊べてねぇんだよ! だが久々の機会だ! 俺は今日! ここで! たっぷりと遊ぶぜぇ! お前が早く死ねばそれだけ俺が遊べる時間が増えるんだ! なぁ頼むよ、今すぐ死んでくんね? 皇女サマを人質に、部屋にいる女どもで遊びたいんだよぉ!」
「お前、リアデインのお友達だろ? あいつとはまた随分と違う性格なんだな」
「……なんでてめぇの口から、あいつの名が出てくんだぁ!?」
カマかけに対し素直な反応を見せる。こいつからしたら俺はここで殺すつもりだから、何を話しても問題ないという判断なのかもしれないが。
「てめぇが何を知っているのか吐かすか! さっさと殺して女たちで遊ぶか! 結論が出たぜぇ! 今すぐ死ねえぇぇ!」
リアデインとほぼ同等の速さで迫ってくる。男は両手にナイフを握っていた。
普通のナイフではない。柄の両端に刃がついている。中々取り回しの難しそうな武器に見えるが、刃に毒が塗られている可能性も考えると油断はできねぇな……!
「……ふっ!」
俺は椅子を、向かってくる男に向かって蹴り飛ばす。男は突如正面から向かってきた椅子に対し、ジャンプで躱した。
「シャアアアアアア!!」
そのまま真っすぐこちらに飛び掛かってくるが、俺は椅子を蹴り飛ばした時に手にしたテーブルクロスを引っ張り、大きく広げながら男にかぶせる。そうして視界を潰したところに蹴りを放った。
「んがぁ! 見えねぇぞおい!」
しかし男はテーブルクロスをすぐさま切り裂くと、再び姿を見せる。
ここまでの動きで、こいつがリアデイン並だという事は分かった。だとすると、このままアデライアやメルたちを守りながら戦うのは不利……! ったく、仕方がねぇ!
「初めから全開でいかせてもらうぞ……!」
「ははぁ! まさか今まで遊んでましたぁ、とか言うつもりかボケェ!」
俺は男の言葉を無視し、黒曜腕駆を発動させる。全身を一瞬黒い霧が包み込んだが、即座に俺の身体は黒い外骨格状の物体で覆われた。
はたから見れば、それは黒い甲冑を着込んでいる様に見えるだろう。
「ああぁぁああん!? なんだそれはあぁぁ!?」
「……今度は自殺されない様に、両手を潰すか」
いろいろ聞きたい事があるしな。
部下の報告通り、確かに相手は9人だ。だが相手は数で大きく劣っているのにも関わらず、圧倒的な武力で騎士たちを文字通りなぎ倒していた。
身の丈を超える斧を持つ男が、信じられない速度で武器を振り回すと、騎士は鎧ごと両断される。他の男たちも動きが速く、正面から騎士の剣を弾けるだけの筋力も見せている。
そして不思議な雰囲気を持つ女。こっちも問題だった。その女は手を掲げると、目の前に青白い光球を生み出したのだ。
光球は騎士たちに迫ると衝撃を伴った爆発を起こし、多くの騎士たちを吹き飛ばした。
「く……! 皆、落ち着け! 数はまだこちらが上だ! 玄関前を中心に陣を組め!」
「団長!」
「クインシュバイン様!」
クインシュバインは配下たちの指揮を執り、自らも大剣を引き抜く。その大剣は幻魔歴末期に活躍した伝説の鍛冶師、ガーディンの鍛えたものだった。
かつてヴェルトが帝都に来たばかりの頃、金物を取り扱っていた商店に売った物だ。
鑑定の結果、本物であると証明された伝説の剣は、紆余曲折を経てクインシュバインの手元にきた。
本来であれば美術館に飾られていてもおかしくないが、過去から直接渡ってきただけあって、400年以上前の物だとは思えないくらい状態が良かった。
武人であるクインシュバインは、戦場で振るわなければこの剣に対して失礼だと考え、家で飾る様な事はしなかった。
「あの大斧を持つ男は私が抑える! お前たちはあの女に最大限警戒しつつ、入り口を固めろ! 決して誰もここを通すな!」
「は!!」
騎士たちの士気が戻り始める。賊たちも動きが変わった騎士たちを少し距離をおいて警戒した。
そこにもう一人の少女……リリアーナが姿を見せる。
「あ……」
リリアーナは賊の女を確認する。その瞬間、激昂しながら声をあげた。
「リステルマァァァァ!!」
「……リリアーナ。こんなところにいたのですか」
賊の女……リステルマも動きを止めてリリアーナに顔を向ける。
部屋にいた時とは違い、ローブを纏っているリリアーナに困惑しつつも、クインシュバインは口を開いた。
「知っているのか?」
「ええ……! あの女は私がやるわ……!」
「大丈夫なのか……? 尋常ではない使い手の様だが……」
「大丈夫よ……! 手の内は分かっているもの……! でも1対1で集中させて……!」
リステルマという女性との関係や、その手の内について聞きたい事は多い。だが今はその時ではないとクインシュバインは判断した。
「賊の女はリリアーナ嬢に任せる! お前たちは他の賊が邪魔をしない様に、かつ屋敷に入れない様に援護しろ!」
「は!!」
リリアーナはローブから刀身のない剣の柄を取り出す。そしてリステルマに向けてゆっくりと足を進めた。
「会いたかったわ……リステルマ……!」
「リリアーナ。あなたの姉は……」
「うるさい……! ここであなたを殺す……!」
そう言うとリリアーナは右手に握った柄を小さく振るう。するとローブの内側に装着されていた数多の金属片がリリアーナの周囲に浮かび、そのまま柄の先で歪な剣の形状を作った。
「流聖剣ロンダーヴ。完璧に使いこなしている様ですね。ですが……」
「はぁ!!」
リリアーナが剣を振るうと、剣を形作っていた金属片は一斉にリステルマに襲い掛かる。
しかしリステルマが目前に光球を生み出すと、金属片は弾かれた様にリリアーナの持つ柄へと戻った。
「…………!」
「私の魔導を打ち破れるかは話が別です。……リアデインをやったのはあなたかしら?」
「そうよ……! あいつもロンダーヴで切り刻んでやったわ……!」
「そうですか。帝国に獅徒が来ているとは思っていませんでしたよ。……忠告は一度きりです。退きなさい。そうすれば、獅徒とはいえ私は追いません」
「ふざけないで……!」
リリアーナは再び剣を振るう。二人の戦いが本格化していくのを余所に、クインシュバインも正面の敵に意識を集中する。
敵の力は未知数、リリアーナの武器も理解不能の産物だ。しかし自分がやるべき事は変わらない。大斧を持つ男もクインシュバインに対し、油断なく腰を落とす。
「……貴族の遊びとは違う、本物の騎士の様だな。年相応の経験を積んで来た事が分かる。帝国はたまにこういう騎士がいるからやりづらい」
「他国にも優れた騎士は多いだろう」
「確かに他国の方が優れた騎士は多いだろう。しかしあくまで割合で見た話だ。帝国には多少質は悪くとも、それを補う圧倒的な数があるからな」
だが……と大斧を持つ男、ベインは続ける。
「あんたはその中でも、特に有能な手合いだろう。いらないだろうが、名乗らせてもらう。俺は剛腕爆斧のベイン。あんたが最後に戦う男だ」
賊が名乗りをあげるなど……とは思わない。クインシュバインもベインの名乗りに応える。
「私は正剣騎士団団長、クインシュバイン・ディグマイヤー。もっとも、今は団長職は休止中だが」
「ああ……あんたが閃光の剣騎士か。道理でな。それじゃ、互いに名乗りが終わったところで……」
「いくぞ!」
二人は同時に駆けだし、大剣と大斧をぶつけ合う。周囲に激しい金属音と衝撃が走った。
■
「兄さん……大丈夫かしら……」
「大丈夫さ。多くの逆境を覆してきた、本物の騎士なんだから」
あれから騎士の伝令は飛んでこない。便りがないのは良い報せ……と思いたいところだな。
しかしヴィローラとアデライアの2人は、メルたちに比べると落ち着いたものだった。
「……2人とも落ち着いているな」
「あら。だってここには黒騎士様がおられるのですもの」
「はい。これほど心強いことはありません」
「えらく信頼されているみたいで……」
考えてみれば2人とも、俺の力の一片を見た事があるのか。
アデライアはともかく、こりゃやっぱ長くは隠し通せそうにないな。2人の反応を聞いてジェリアムも声をかけてきた。
「黒騎士様というのは……?」
「ふふ。ヴェルト様は戦場に立つ時、全身に黒い甲冑を身に纏われるのです。その時の強さは相当なものですわ。私、一度ではありますが直に見ておりますの」
何故かヴィローラは得意げに話す。だがジェリアムは感心した様だった。
「やっぱり戦場でのご経験もあるのですね。身体をよく鍛えておられる様子でしたので、もしかしたらと思ったのですが」
「昔、いろいろありましてね。今はそういう荒事からは距離を置いていますよ」
嘘だ。今も絶賛暴力で生活の基盤を築いているところだ。だがメルに乱暴者の印象を持ってほしくないという見栄が働いてしまった。
あれだけ暴力を振るって黒狼会を大きくしておきながら、なんと言う言い草だろうか。
「……私は戦場に出た事がないのです。私の世代では、戦場に出て箔を付けようという者は結構多かったのですが……」
「戦場など行かないにこしたことはありませんよ。私も二度と御免です」
「ではどうして……?」
どうして……か。そうしなければ生きられなかったというのは確かにあった。だがそれも最初だけ。途中からは自分のために、その力を戦場で振るい続けた。
そして最後には譲れない……譲りたくないもののために、勝ち目のない戦いに身を投じた。……なんて言えば格好はいいが、単なる意地だ。それ以上の意味はない。
「そういう生き方しかできなかったからです。それにあの頃は、命を賭してでも譲れないものも確かにあった。ですが今はこうして別の生き方ができているし、そんな現状が気に入っている。あなたも領主として、自分にしかできない生き方をしてこられたのでは?」
ま、貴族でも何でもない俺が偉そうに言える事ではないがな。何となく遠回しに、戦場経験がなくても何も気にする事はないと話す。
平民風情が何を……という気はすごくするが。しかし2人の皇女様方は、どこか聞きいっている様子だった。
「ヴェルトさ……」
「で、伝令!」
部屋の扉が開かれる。姿を見せた男は、焦った口調で言葉を続けた。
「そ、外の賊ですが……!」
しかしその言葉を待たず、俺はテーブルの上にあったナイフを手に取ると男に向けて投擲する。
ナイフは正確に男の額に向けて放たれたが、当の男は最小限の動きでこれを躱した。
「ヴェルトさん!?」
俺の突然の行動に驚きの声が響く。しかし伝令に来たという男は、腰を落としながら注意深く俺を睨みつけてきた。
「おいおい、危ねぇじゃねぇか! てめぇ、何しやがんだぁ!? てめぇのその軽はずみな判断で、伝令が持ってきた貴重な情報が聞けなくなったらどう責任取るつもりなんだ、おぉ!?」
「部屋に入るなり配置されている物と人の位置、数を把握し、ターゲットであるアデライアに多くの意識と視線を割く。典型的な刺客だろう、てめぇ。伝令の真似事がしたいなら他でやりやがれ」
刺客は俺の発言に強い興味を覚えたのか、今は俺にその視線を向けていた。
「はぁん? あの一瞬で、俺がそこまで見ているって気付いたのか? っかしぃなぁ。情報じゃあアルフォース家の剣士は護衛についていねぇって話だったのによぉ。んだが貴族にも見えねぇな。なにもんだ?」
「まずは自分から名乗るのが礼儀ってもんだぜ」
部屋に戦いの気配が充満していく。俺はジークリットに視線を向ける。彼女は俺の意図をくみ取り、部屋にいる人を一か所に固めてくれた。
「どうやらてめぇをやらねぇと、皇女はさらえそうにねぇなぁ! だがてめぇさえ片付ければ、この部屋にいる奴らは好き放題ってぇ訳だ! くはは……! これはいい……! 部屋にいるのはほとんど女じゃねぇか! 今からどう遊ぼうか、楽しみだぜぇ……!」
幻魔歴でもたまに見たタイプだな。殺しが日常化し、そこに楽しみなどのプラス要素を求める手合いだ。
「聞いてくれよぉ! 最近、クソ女の監視が厳しくてよぉ! 全然遊べてねぇんだよ! だが久々の機会だ! 俺は今日! ここで! たっぷりと遊ぶぜぇ! お前が早く死ねばそれだけ俺が遊べる時間が増えるんだ! なぁ頼むよ、今すぐ死んでくんね? 皇女サマを人質に、部屋にいる女どもで遊びたいんだよぉ!」
「お前、リアデインのお友達だろ? あいつとはまた随分と違う性格なんだな」
「……なんでてめぇの口から、あいつの名が出てくんだぁ!?」
カマかけに対し素直な反応を見せる。こいつからしたら俺はここで殺すつもりだから、何を話しても問題ないという判断なのかもしれないが。
「てめぇが何を知っているのか吐かすか! さっさと殺して女たちで遊ぶか! 結論が出たぜぇ! 今すぐ死ねえぇぇ!」
リアデインとほぼ同等の速さで迫ってくる。男は両手にナイフを握っていた。
普通のナイフではない。柄の両端に刃がついている。中々取り回しの難しそうな武器に見えるが、刃に毒が塗られている可能性も考えると油断はできねぇな……!
「……ふっ!」
俺は椅子を、向かってくる男に向かって蹴り飛ばす。男は突如正面から向かってきた椅子に対し、ジャンプで躱した。
「シャアアアアアア!!」
そのまま真っすぐこちらに飛び掛かってくるが、俺は椅子を蹴り飛ばした時に手にしたテーブルクロスを引っ張り、大きく広げながら男にかぶせる。そうして視界を潰したところに蹴りを放った。
「んがぁ! 見えねぇぞおい!」
しかし男はテーブルクロスをすぐさま切り裂くと、再び姿を見せる。
ここまでの動きで、こいつがリアデイン並だという事は分かった。だとすると、このままアデライアやメルたちを守りながら戦うのは不利……! ったく、仕方がねぇ!
「初めから全開でいかせてもらうぞ……!」
「ははぁ! まさか今まで遊んでましたぁ、とか言うつもりかボケェ!」
俺は男の言葉を無視し、黒曜腕駆を発動させる。全身を一瞬黒い霧が包み込んだが、即座に俺の身体は黒い外骨格状の物体で覆われた。
はたから見れば、それは黒い甲冑を着込んでいる様に見えるだろう。
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