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帝都への帰還 深まる謎
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エルセマー領からの帰り道は、皇女殿下と共に行く事になった。その事を聞いたライルズさんは大層驚いていた。
「いやいや。すごいですね、ヴェルトさんは。一体何があったのです? 領主様のお屋敷で騒ぎがあったという噂もありますが……」
「すみません、詳細は言えないのです」
「ああ、それはそうですよね。しかし祭りで皇女殿下に呼ばれ、そのまま帰りの供まで務めることになるなんて。これはますますアリアを黒狼会で修行させたくなりましたよ」
ライルズさんに間に入ってもらい、俺も商談をまとめる事ができた。そして次の日。アックスたちが街に姿を見せる。
アックスには俺から、ディアノーラたちにはクインからこれからの事やエルセマー領で何が起こったかの説明を行った。
「ヴェルトがここにいる事にも驚いたが。いよいよ結社とやらが匂ってきやがった訳だな」
「ああ。アックスにはすまないが……」
「なぁに、気にすんな! お前の弟とリーンハルトの面倒はしっかり見てやるって!」
アックスもテンブルク領では結社の一員と思わしき者と交戦したとの事だった。だがこれも逃がしたものの、大した相手ではなかったらしい。
アックスは魔法による身体能力の強化はできないが、水魔法をなかなか独創的な使い方をするからな。
そうして俺はアデライア達一行と帝都までの帰り道を一緒する事になった。ちなみにレグザックは騎士団が厳重に警戒して運んでいる。
護衛戦力は騎士数名にディアノーラたちだ。正剣騎士団に所属している騎士たちはさすがにクインの管理が行き届いているのか、俺が一行に混じっている事について誰も指摘しなかった。
しかし新たに加わった者の中には一人口うるさい奴もいた。一度黒狼会の屋敷にも来た事のある坊ちゃんだ。
「なんで平民であるお前が、皇女殿下と帝都までの帰り道を一緒にするんだ!? おかしいだろ!」
こいつの名はダンタリウス・ルングーザ。にっくき旧ルングーザ王の孫にあたる。
だがこいつに直接の恨みがある訳ではないという事と、クインと久しぶりに話せて機嫌がいい事も手伝い、俺は適当にあしらっていた。というか、俺が何か言うまでもなく……。
「ダンタリウス。聞こえていますよ。ヴェルト様はゼルダンシア皇族にとって恩のあるお方。無礼な言動は許しません」
「ヴィ、ヴィローラ様……! しし、失礼いたしました!」
ゆっくりと進む馬車の窓が開き、ヴィローラがダンタリウスに注意を促す。同じく馬車の中にいるディアノーラも苦笑している様子が見えた。
「はは。怒られちまったな」
「誰のせいで……!」
「まぁそうカリカリすんなよ。それよりテンブルク領では見事に冥狼の尻尾を捉えたんだろ? 少人数ながらすげぇお手柄じゃねぇか」
「ふん、当たり前だ。というか何だその言葉使いは! 僕は貴族だぞ!」
「はぁん? ルングーザといや帝国貴族でも外様だろ。領地もここよりずっと南だ。皇族の覚えが良く、帝都大貴族とも取引のある黒狼会のボスである俺とお前。果たして敬語が必要なのはどっちかなぁ?」
「ぐ……!」
我ながら皇族の威光を傘になんて言い草だろう。これじゃこいつと対して変わらないな。
だが少なくとも今の黒狼会の立ち位置は、間違いなく今日までの行動の結果だ。恵まれた生まれにあぐらをかいてきた奴とはその在り方から違う……と自己弁護しておこう。
「あのダンタリウスに一歩も引かないなんて……。さすがヴェルトさん……」
「アリゼルダ……と言ったか。君も騎士団の一員なのか?」
「はい。帝都に戻れば正式に女性皇族の護衛騎士となりますが」
ジークリットやディアノーラと同じ立場という事か。確かに女性で騎士というのは珍しいだろうし、女性皇族の護衛と考えると貴重な人材なのかもしれないな。
「あの……。ろ、ロイさんはお元気ですか?」
「ロイ……? 元気は元気だが。何で君からロイの名が?」
ロイの奴。いつの間に貴族の知り合いを……? エルヴァールの護衛をしていた時にどこかで縁でもあったのかな。
「そ、その。以前にアルフリードに襲われた時に助けていただいて……」
「アルフリード……?」
誰だったか。俺はロイが過去に話していた内容からそれらしい人物と記憶を繋げていく。
「その。賞金首の……」
「ああ、あいつか!」
思い出した。冥狼の幹部の1人だ。エルヴァールの屋敷からの帰り道にロイが絡まれたと言っていたな。
その場には路地裏の乙女からの届け物を持っていた女もいたという話だった。そうか、その女はアリゼルダだったのか。
「私、アルフリードの賞金も受け取ってしまって。倒したのはロイさんなので、お渡ししたいのですが……」
「ロイは迷惑料だって言っていただろ? 構わない、そのまま受け取っておいてくれ」
「え……でも、結構な額で……」
「ならうちから何か買ってくれたらそれでいい。丁度新しく酒を仕入れる事にもなってな。お得意様になってくれたら嬉しい」
そう言うとアリゼルダは、はいと頷いた。エルヴァールと関わって以来、貴族との繋がりが増えてきているな。
「それと……。私、もう一度ロイさんに会ってお礼を伝えたいんです。あの時、何も言えなかったから……」
そう言うアリゼルダの頬と耳はほんのり赤みが増していた。
……ははーん。これはあれだな。春ってやつだな。
「いつでも来てくれ。基本、あいつは俺の代行として屋敷に居ている時が多い。ああ見えてお節介なところもあるからな。他に何か相談したい事があれば、気軽に言ってみればいい。きっと力になってくれるはずだ」
「はい……! ありがとうございます」
こうして帝都までの道中は大きな問題もなく、無事に終える事ができた。もしかしたら結社の連中が襲撃にくるか……とも考えていたんだが。
帝都に入ってしまえば、奴らもアデライアをさらうには相応の準備が必要になってくる。だが狙いがはっきりしている以上、帝国もそれなりの手はずを整えるはずだ。そう簡単にはアデライアをさらえないだろう。
(狙いはアデライアの身柄。巫女の血筋で、赤い眼が現出した事と無関係ではないだろう。レクタリアも片目が赤いという話だったし、何か知っているのは間違いない。しかし……)
レクタリアの話については気になる点がいくつかあった。赤い眼を持つ者の血に特別な意味がある事をいつ、どの様な手段で知ったのか。
初めからその確信がなければ、大帝国の姫をさらおうなんてまず考えつかない。ところがそのリスクを踏んででもさらう価値があると判断した。
それにレクタリアが組織に入ってから急激にエルクォーツの研究も進んだという点。
普通、技術の革新には相応の時間がかかる。ましてや魔法の再現など、ゼロからの手探りスタートだったはずだ。いきなり有能な人材がやってきたからといって、即核心技術が出来上がるなんて事、そうある話ではない。
元々大量の大幻霊石の破片を持ってやってきたという話からして、怪しい点が多いのだ。リリアーナの話を聞いた時、レクタリアは初めからエルクォーツの研究を完成させ、組織を乗っ取るつもりでやってきたのではないかと思えて仕方がなかった。
そしてもう一つ。アデライアが赤い眼を発現させた時期が気になる。話を聞くに、どうも俺たちがこの時代にやってきた時期に発現させた様なのだ。
そもそもからして俺たちは全員、ゼルダンシア王族であるシャノーラの祝福を得て魔法の力を得ている。その事と何か関係がある気がしてならない。
(まぁ考えていても仕方がないな。黒狼会の方針は変わらない。くるなら迎え撃つし、こないなら放置だ。後手に回るのは仕方がない)
俺は帝都に戻った日の晩、早速みんなを集める。そしてリリアーナも含めてエルセマー領での出来事を話した。
「黒狼会としては巻き込まれた部分もあるんだが。俺はアデライアを守ってやりたいと思うし、クインの力にもなってやりたい。私情を挟んでいるのは百も承知だが……」
「皆まで言うな、ヴェルト。俺たちはもう群狼武風ではない。私情、大いに結構じゃないか」
最初に応えてくれたのはガードンだった。続いてじいさんも頷く。
「あの時にも言ったじゃろ。わしらの命、坊が好きに使えと」
「そうですよ。それにせっかく販路を広げた黒狼会の商売の邪魔をしてきているのは向こうです。すでに直接喧嘩も売られているんです。ここは掟に則り、きっちりと落とし前をつけさせましょう」
「じいさん……ロイ……」
分かってはいたが、今回もみんな俺の方針についてきてくれる様子だった。俺は改めて、ここまで付き合ってくれたみんなに感謝する。
「そーそー! それにこっちの世界もいろいろ楽しいしね! でもリリアーナちゃんがそんな怪しい組織の一人だったとは知らなかったなー!」
「もう残っている人も少ないし、遠からず消える組織だけどね」
「リリアーナちゃん以外には誰か応援にこないの?」
リリアーナはフィンの問いに対し、難しい表情を作る。
「連絡員は何人か動いているんだけど。直接の戦力という意味では難しいと思う。そもそもなんだけど、総主はフェルグレット聖王国の王族に血を連ねる者なの」
総主は代々その血筋が世襲で後を継いできているらしい。今の王族と直接の兄弟という訳ではないが、古に分かたれた王家の血筋との事だった。
その事もあり、結社エル=ダブラスと聖王国は互いに別団体でありながら、協力関係にもあった訳だ。おそらく王家に何かあった時の血のスペア的な役割も担っていたのだろう。
「私意外にこういう武器を扱える者は、総主の護衛についているわ。総主も結社エル=グナーデに狙われている者の1人だし」
「出て行かれた奴らに狙われているって?」
「うん。特殊武装の回収にエル=ダブラスが保有しているエルクォーツ。あいつらが欲しがる物なんていくらでもあるもの」
リリアーナはそう言うとローブから刃の付いていない剣の柄を取り出す。そう、この武器についても話を聞きたかった。
「それはどういう仕組みになっているんだ?」
「エルクォーツを人体だけではなく、物に装着して活かせないか。その研究の末に辿り着いた武器の一つよ。これは二対一組のエルクォーツで以て操るの」
一つは武器に。もう一つはそれを扱う人物にエルクォーツを埋め込むらしい。つまりリリアーナ専用の武器という事だ。
「私もエルクォーツを2つ埋め込んであるの。1つはこの流聖剣ロンダーヴを操るための物、もう1つは私自身の身体能力を強化させる役割を担っているわ」
「幻魔歴でもこの様な特殊な武装は存在しておらんかったのぅ。この点だけを見ても、相当な技術力が窺えるわい」
それについては全くの同意見だ。まぁ魔法があったからこそ、発展していなかった技術とも言えるか。ロイも頷きながらリリアーナに質問をする。
「エルクォーツというのは、通常は2つまでが限界なんですよね?」
「うん。リステルマは例外中の例外。ヴェルトたちでもなければ、普通はまず太刀打ちできる相手じゃないわ」
エルクォーツというのは、確かに今の時代を生きる者たちに魔法染みた力を与えるのだろう。
だがその力は本来の魔法よりもさらに限定的だ。成長し、進化させられる俺たちの魔法とは大きく異なる種類の力になる。
「もう一つ確認です。レクタリアはアデライア様をさらって何をしたいのか。結社エル=グナーデの最終目標は何なのか。思い当たることはありませんか?」
そこは俺も気になっているが、やはりリリアーナは難しい表情のままだった。
「分からない。多分その血を使って、何か実験したいんだと思うけど。あいつが最終的に何を目指しているのかはさっぱり分からないわ」
だがおそらく、その最終目標とアデライアが何か関係している。しかしその目標が分からない以上、やはりこちらから先手を打つのは難しいな。
「いやいや。すごいですね、ヴェルトさんは。一体何があったのです? 領主様のお屋敷で騒ぎがあったという噂もありますが……」
「すみません、詳細は言えないのです」
「ああ、それはそうですよね。しかし祭りで皇女殿下に呼ばれ、そのまま帰りの供まで務めることになるなんて。これはますますアリアを黒狼会で修行させたくなりましたよ」
ライルズさんに間に入ってもらい、俺も商談をまとめる事ができた。そして次の日。アックスたちが街に姿を見せる。
アックスには俺から、ディアノーラたちにはクインからこれからの事やエルセマー領で何が起こったかの説明を行った。
「ヴェルトがここにいる事にも驚いたが。いよいよ結社とやらが匂ってきやがった訳だな」
「ああ。アックスにはすまないが……」
「なぁに、気にすんな! お前の弟とリーンハルトの面倒はしっかり見てやるって!」
アックスもテンブルク領では結社の一員と思わしき者と交戦したとの事だった。だがこれも逃がしたものの、大した相手ではなかったらしい。
アックスは魔法による身体能力の強化はできないが、水魔法をなかなか独創的な使い方をするからな。
そうして俺はアデライア達一行と帝都までの帰り道を一緒する事になった。ちなみにレグザックは騎士団が厳重に警戒して運んでいる。
護衛戦力は騎士数名にディアノーラたちだ。正剣騎士団に所属している騎士たちはさすがにクインの管理が行き届いているのか、俺が一行に混じっている事について誰も指摘しなかった。
しかし新たに加わった者の中には一人口うるさい奴もいた。一度黒狼会の屋敷にも来た事のある坊ちゃんだ。
「なんで平民であるお前が、皇女殿下と帝都までの帰り道を一緒にするんだ!? おかしいだろ!」
こいつの名はダンタリウス・ルングーザ。にっくき旧ルングーザ王の孫にあたる。
だがこいつに直接の恨みがある訳ではないという事と、クインと久しぶりに話せて機嫌がいい事も手伝い、俺は適当にあしらっていた。というか、俺が何か言うまでもなく……。
「ダンタリウス。聞こえていますよ。ヴェルト様はゼルダンシア皇族にとって恩のあるお方。無礼な言動は許しません」
「ヴィ、ヴィローラ様……! しし、失礼いたしました!」
ゆっくりと進む馬車の窓が開き、ヴィローラがダンタリウスに注意を促す。同じく馬車の中にいるディアノーラも苦笑している様子が見えた。
「はは。怒られちまったな」
「誰のせいで……!」
「まぁそうカリカリすんなよ。それよりテンブルク領では見事に冥狼の尻尾を捉えたんだろ? 少人数ながらすげぇお手柄じゃねぇか」
「ふん、当たり前だ。というか何だその言葉使いは! 僕は貴族だぞ!」
「はぁん? ルングーザといや帝国貴族でも外様だろ。領地もここよりずっと南だ。皇族の覚えが良く、帝都大貴族とも取引のある黒狼会のボスである俺とお前。果たして敬語が必要なのはどっちかなぁ?」
「ぐ……!」
我ながら皇族の威光を傘になんて言い草だろう。これじゃこいつと対して変わらないな。
だが少なくとも今の黒狼会の立ち位置は、間違いなく今日までの行動の結果だ。恵まれた生まれにあぐらをかいてきた奴とはその在り方から違う……と自己弁護しておこう。
「あのダンタリウスに一歩も引かないなんて……。さすがヴェルトさん……」
「アリゼルダ……と言ったか。君も騎士団の一員なのか?」
「はい。帝都に戻れば正式に女性皇族の護衛騎士となりますが」
ジークリットやディアノーラと同じ立場という事か。確かに女性で騎士というのは珍しいだろうし、女性皇族の護衛と考えると貴重な人材なのかもしれないな。
「あの……。ろ、ロイさんはお元気ですか?」
「ロイ……? 元気は元気だが。何で君からロイの名が?」
ロイの奴。いつの間に貴族の知り合いを……? エルヴァールの護衛をしていた時にどこかで縁でもあったのかな。
「そ、その。以前にアルフリードに襲われた時に助けていただいて……」
「アルフリード……?」
誰だったか。俺はロイが過去に話していた内容からそれらしい人物と記憶を繋げていく。
「その。賞金首の……」
「ああ、あいつか!」
思い出した。冥狼の幹部の1人だ。エルヴァールの屋敷からの帰り道にロイが絡まれたと言っていたな。
その場には路地裏の乙女からの届け物を持っていた女もいたという話だった。そうか、その女はアリゼルダだったのか。
「私、アルフリードの賞金も受け取ってしまって。倒したのはロイさんなので、お渡ししたいのですが……」
「ロイは迷惑料だって言っていただろ? 構わない、そのまま受け取っておいてくれ」
「え……でも、結構な額で……」
「ならうちから何か買ってくれたらそれでいい。丁度新しく酒を仕入れる事にもなってな。お得意様になってくれたら嬉しい」
そう言うとアリゼルダは、はいと頷いた。エルヴァールと関わって以来、貴族との繋がりが増えてきているな。
「それと……。私、もう一度ロイさんに会ってお礼を伝えたいんです。あの時、何も言えなかったから……」
そう言うアリゼルダの頬と耳はほんのり赤みが増していた。
……ははーん。これはあれだな。春ってやつだな。
「いつでも来てくれ。基本、あいつは俺の代行として屋敷に居ている時が多い。ああ見えてお節介なところもあるからな。他に何か相談したい事があれば、気軽に言ってみればいい。きっと力になってくれるはずだ」
「はい……! ありがとうございます」
こうして帝都までの道中は大きな問題もなく、無事に終える事ができた。もしかしたら結社の連中が襲撃にくるか……とも考えていたんだが。
帝都に入ってしまえば、奴らもアデライアをさらうには相応の準備が必要になってくる。だが狙いがはっきりしている以上、帝国もそれなりの手はずを整えるはずだ。そう簡単にはアデライアをさらえないだろう。
(狙いはアデライアの身柄。巫女の血筋で、赤い眼が現出した事と無関係ではないだろう。レクタリアも片目が赤いという話だったし、何か知っているのは間違いない。しかし……)
レクタリアの話については気になる点がいくつかあった。赤い眼を持つ者の血に特別な意味がある事をいつ、どの様な手段で知ったのか。
初めからその確信がなければ、大帝国の姫をさらおうなんてまず考えつかない。ところがそのリスクを踏んででもさらう価値があると判断した。
それにレクタリアが組織に入ってから急激にエルクォーツの研究も進んだという点。
普通、技術の革新には相応の時間がかかる。ましてや魔法の再現など、ゼロからの手探りスタートだったはずだ。いきなり有能な人材がやってきたからといって、即核心技術が出来上がるなんて事、そうある話ではない。
元々大量の大幻霊石の破片を持ってやってきたという話からして、怪しい点が多いのだ。リリアーナの話を聞いた時、レクタリアは初めからエルクォーツの研究を完成させ、組織を乗っ取るつもりでやってきたのではないかと思えて仕方がなかった。
そしてもう一つ。アデライアが赤い眼を発現させた時期が気になる。話を聞くに、どうも俺たちがこの時代にやってきた時期に発現させた様なのだ。
そもそもからして俺たちは全員、ゼルダンシア王族であるシャノーラの祝福を得て魔法の力を得ている。その事と何か関係がある気がしてならない。
(まぁ考えていても仕方がないな。黒狼会の方針は変わらない。くるなら迎え撃つし、こないなら放置だ。後手に回るのは仕方がない)
俺は帝都に戻った日の晩、早速みんなを集める。そしてリリアーナも含めてエルセマー領での出来事を話した。
「黒狼会としては巻き込まれた部分もあるんだが。俺はアデライアを守ってやりたいと思うし、クインの力にもなってやりたい。私情を挟んでいるのは百も承知だが……」
「皆まで言うな、ヴェルト。俺たちはもう群狼武風ではない。私情、大いに結構じゃないか」
最初に応えてくれたのはガードンだった。続いてじいさんも頷く。
「あの時にも言ったじゃろ。わしらの命、坊が好きに使えと」
「そうですよ。それにせっかく販路を広げた黒狼会の商売の邪魔をしてきているのは向こうです。すでに直接喧嘩も売られているんです。ここは掟に則り、きっちりと落とし前をつけさせましょう」
「じいさん……ロイ……」
分かってはいたが、今回もみんな俺の方針についてきてくれる様子だった。俺は改めて、ここまで付き合ってくれたみんなに感謝する。
「そーそー! それにこっちの世界もいろいろ楽しいしね! でもリリアーナちゃんがそんな怪しい組織の一人だったとは知らなかったなー!」
「もう残っている人も少ないし、遠からず消える組織だけどね」
「リリアーナちゃん以外には誰か応援にこないの?」
リリアーナはフィンの問いに対し、難しい表情を作る。
「連絡員は何人か動いているんだけど。直接の戦力という意味では難しいと思う。そもそもなんだけど、総主はフェルグレット聖王国の王族に血を連ねる者なの」
総主は代々その血筋が世襲で後を継いできているらしい。今の王族と直接の兄弟という訳ではないが、古に分かたれた王家の血筋との事だった。
その事もあり、結社エル=ダブラスと聖王国は互いに別団体でありながら、協力関係にもあった訳だ。おそらく王家に何かあった時の血のスペア的な役割も担っていたのだろう。
「私意外にこういう武器を扱える者は、総主の護衛についているわ。総主も結社エル=グナーデに狙われている者の1人だし」
「出て行かれた奴らに狙われているって?」
「うん。特殊武装の回収にエル=ダブラスが保有しているエルクォーツ。あいつらが欲しがる物なんていくらでもあるもの」
リリアーナはそう言うとローブから刃の付いていない剣の柄を取り出す。そう、この武器についても話を聞きたかった。
「それはどういう仕組みになっているんだ?」
「エルクォーツを人体だけではなく、物に装着して活かせないか。その研究の末に辿り着いた武器の一つよ。これは二対一組のエルクォーツで以て操るの」
一つは武器に。もう一つはそれを扱う人物にエルクォーツを埋め込むらしい。つまりリリアーナ専用の武器という事だ。
「私もエルクォーツを2つ埋め込んであるの。1つはこの流聖剣ロンダーヴを操るための物、もう1つは私自身の身体能力を強化させる役割を担っているわ」
「幻魔歴でもこの様な特殊な武装は存在しておらんかったのぅ。この点だけを見ても、相当な技術力が窺えるわい」
それについては全くの同意見だ。まぁ魔法があったからこそ、発展していなかった技術とも言えるか。ロイも頷きながらリリアーナに質問をする。
「エルクォーツというのは、通常は2つまでが限界なんですよね?」
「うん。リステルマは例外中の例外。ヴェルトたちでもなければ、普通はまず太刀打ちできる相手じゃないわ」
エルクォーツというのは、確かに今の時代を生きる者たちに魔法染みた力を与えるのだろう。
だがその力は本来の魔法よりもさらに限定的だ。成長し、進化させられる俺たちの魔法とは大きく異なる種類の力になる。
「もう一つ確認です。レクタリアはアデライア様をさらって何をしたいのか。結社エル=グナーデの最終目標は何なのか。思い当たることはありませんか?」
そこは俺も気になっているが、やはりリリアーナは難しい表情のままだった。
「分からない。多分その血を使って、何か実験したいんだと思うけど。あいつが最終的に何を目指しているのかはさっぱり分からないわ」
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