黒狼の牙 〜領地を追われた元貴族。過去の世界で魔法の力を得て現在に帰還する。え、暴力組織? やめて下さい、黒狼会は真っ当な商会です〜

ネコミコズッキーニ

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帝都地下を歩む者 ディアノーラ 対 ルード

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 遅かったか。それが目の前の光景を見た俺の印象だった。

 衛士として派遣していた覇乱轟の2人は死に、2人は重体だ。大聖堂の中も激しい戦闘の痕跡があり、騎士にも死人が出ている。

 リーンハルトが無事なのは幸運によるものだろう。

「ヴェルト……! 遅いのよ、今まで何してたの!?」

 リリアーナが嗜める様な口調で話しかけてくる。これには言い訳のしようがないな。目の前で獣に襲われる人たちを俺は無視できなかった。

 実際に救えた命はあったが、その結果がこれだ。だが今は謝罪をする場面ではない。

「アデライアは?」

「閃刺鉄鷲のボス、ルードに連れ去られたわ! ディアノーラはその後を追ってあの穴の先よ!」

「ルード……?」

 幻魔歴の時代、群狼武風と肩を並べた二大傭兵団、裂閃爪鷲。その団長の名と同じじゃないか。

 かつてこの場所で戦った奴だから間違いないが、まぁ同じ名を持つ奴は大陸にいくらでもいるか……。

「そうか。なら俺も急ぐとしよう」

 目の前には豊満な胸を強調する服を来た女が立っている。状況からして敵なのは間違いないだろう。

 その女は強い興味を湛えた視線を、俺に向けてきた。

「ヴェルト……? そう、あなたが黒狼会のボスにして、群狼武風のヴェルトね」

「俺を群狼武風と呼ぶか」

「ええ。あなたたちの事は、この数ヶ月でしっかり調べさせてもらったもの。まさか本物の魔法使い様とお目にかかれる機会がくるなんて、思ってもいなかったケド。でも残念、過去の英雄だかなんだか知ったことではないわ。私は……」

「急ぐ身だ、互いに自己紹介はいいだろう。俺からの問答は1つ。どくのか、どかないのか」

 殺気を隠さず、上目線で要件のみを叩きつける。女はそんな俺を嘲けるかの様に口を開いた。

「野蛮で礼儀知らずな男ね。あなたの魔法がどの様な能力なのかは分かっているわ。言っておくケド……」

 これ以上言葉を重ねる意味はないな。こちらも相当被害にあっているんだ。

 俺は黒曜腕駆を発動させ、全身に黒い甲冑を纏う。そして瞬き一回の速度で踏み込んだ。

「…………!」

 女を殴り飛ばすつもりで拳を振るう。だが不可視の障壁が俺の拳を完璧に止めていた。

 女はいつの間にか目の前に現れた俺に驚きつつも、勝ち誇った様に目を細める。

「無駄よ! どんなパワーでも、私の障壁は……!?」

 即座に黒い剣を現出し、それを握ると強く障壁に叩きつける。障壁はあっさりと砕かれた。

「……へ」

 そのまま右足を思いきり胴に目掛けて振るう。女は手にしていた鞭を手放し、広い大聖堂の一番奥まで吹き飛んでいった。

 勢いは落ちる事なく壁に激突し、そのまま地面に落ちる。死んだかは分からないが、動き出す様子はなかった。

「お前たちは黒狼会に対して、随分舐めた真似をし過ぎた。例え問答の結果、どいていたとしても許すつもりはなかった」

 感情がどうのとか言っていたが、笑わせんな。こっちはいつだって戦いには真剣だ。

 殺す時はしっかりと、自分の感情と判断で決断している。何の感情も抱かず、仕事というだけで殺しをやってきている訳じゃねぇ。自分の生き方を貫くのに必死なんだよ。

「リニアスの障壁を、あんなにあっさりと……!?」

「リリアーナ。俺もあの穴の先に向かう」

「わ、私も……!」

「すまないが、覇乱轟の手当をしてやってほしい。今ならまだ2人は助かるかもしれない。俺を追いかけるのはそれからにしてくれ」

 見た感じ、この場で無傷なのはリリアーナくらいだ。それにここでの騒ぎを聞きつけて、誰か来るだろう。ついでにその対応もお願いしたい。

 俺はリリアーナの返事を聞く前に、穴の先に続く地下空間へと足を踏み入れた。
 



 
 七殺星の頂点、壊腕のルードはアデライアを担いだまま地下空間を走り抜けていた。

「ふん……奇妙な場所だ……」

 元々帝都の地下にこうした空間が広がっていると、事前にレクタリアより話を聞いていた。

 どういう経緯があって作られた空間なのかは分からない。だが各所には光源の役目を果たしている水晶や、区画が整理されている様子もあり、何か意図があって出来上がった空間なのは疑い様がなかった。

(光る水晶というのも珍しい。しかしレクタリア……どうして大聖堂の地下がこの空間に繋がると知っていた……?)

 貴族院へ潜入したルードたちだったが、元々大聖堂にはアデライアをさらった後に向かう場所だった。その地下に広がる空間を進み、最奥の地点で合流する手はずだったのだ。

 今頃レクタリアたちも、別ルートからこの地下空間を進んでいるところだろう。

「む……」
 
 しばらくすると広い部屋へと出る。その先には閉じた扉があり、側には球体の水晶が埋め込まれていた。

「またか。おい、お前の出番だ。さっさとしろ」

 そう言うとルードはアデライアを放り投げる。アデライアは立ち上がりながら抵抗の意思を示す様に、ルードを睨みつけた。

「ほぉう。震えるだけの姫ではないか。だが俺が優しくしている内に、言う事を聞いてた方が身のためだぞ。その年ですべての歯を折られたくはあるまい?」

 拳を握りながら分かりやすく威嚇する。こうした扉はこれで2つ目だった。

 1つ目の扉にぶつかった時、アデライアは意味も分からずその水晶に触れた。その瞬間、扉が独りでに開いたのだ。おそらくこの扉も同様の仕掛けで開くのだろう。

 だがこれ以上扉を開けると、ますます大聖堂から距離が離れる事になる。

「……ご自身の力で開かれてはいかがですか。大聖堂の扉を壊したのもあなたでしょう」

「ふ……」

 ルードは軽く払う様な動作で右腕を振るう。だが頬を殴られたアデライアは、その小さな身体が宙に浮いた。

「ここで助けを待っても無駄よ。こちらもそれなりの手を打った上で仕掛けているのだ。無駄な抵抗は諦めてさっさと扉を開け。このままお前を気絶させて扉を開けさせたり、助けのこないこの空間で辱めた上で言う事を聞かせることもできるのだぞ?」

 ルードの言葉にアデライアはびくりと肩を震わせる。だが自分を気絶させるつもりはないだろうと判断していた。

 もし自分が水晶に触れるだけで良いのなら、初めから気絶させているはずだ。それをしないという事は、そうできない理由があるから。

 そしてもう1つ。大聖堂の扉を破壊できる力の持ち主でも、地下空間にある扉を開けられはしないという事。

 この先に進むには、やはり自分の存在が必要不可欠なのだろうと考える。

「…………」

「ふん……年齢の割になかなか胆の座った女よ。良かろう、それなら……」

「アデライア様!」

 部屋に女性の声が響く。そこには単身で追いかけてきたディアノーラが立っていた。

 ディアノーラはアデライアが無事でホッとするが、頬にぶたれた痕があり、怒りの視線をルードにぶつける。

「ほぅ……まさかこれほど早く来るとはな。リニアスはどうした?」

「既に斬った。お前も無駄な抵抗は止めて……」

「嘘だな。お前ではリニアスの守りを崩せまい。騎士どもに場を任せて自分だけ追いかけてきたか。ふん、リニアスめ……わざとお前を通したな」

 あの女の事だ、初めはやる気でディアノーラの相手をするつもりだったが、途中で面倒になったのだろうとルードは考えた。

 もちろんディアノーラ1人くらい、ルードなら問題ないと判断もしていただろうが。

「まぁ良い。ここでアルフォース家の剣士であるお前を屠り、姫には素直に言う事を聞いてもらうとしよう」

 それにこの状況は好都合でもあった。ディアノーラをうまく使えば、この先もアデライアを従わせる事ができるだろう。

 目の前で残忍に殺してもいいし、動けなくして人質にしてもいい。

「許さんぞ……ルード……! 我が名はディアノーラ・アルフォース! 皇族守護の剣、その身で受けるが良い!」

「ふは……まぁよい。丁度動き足りぬと思っておったのだ」

 ディアノーラは剣を引き抜くと、ルード目掛けて一直線に駆ける。ルードは2つのエルクォーツを用いて身体能力を向上させ、真正面から臨んだ。

「はっ!」

「ふん!」

 ディアノーラの振るう剣は迷いのない太刀筋を描いていた。

 だがルードは左手の甲をそっと刀身の腹に添えると、小さく横方向に力を加える。それだけでディアノーラの剣筋は逸らされてしまった。

「…………!」

「ははっはぁ!」

 ルードは右足を1歩踏み込み、同時に右腕を繰り出す。

 しかしディアノーラは剣を振り終えたと同時に、身体を右に捻ってこれを躱す。合わせて地に触れた剣先をすくい上げる。

「ほう……!」

 ルードの顎先に剣先が迫るが、首を曲げてこれを難なく躱す。しかしディアノーラの攻勢は止まらない。

 剣を振り上げた勢いに任せ、左足で蹴撃を放つという連撃を繰り出していた。ルードはその蹴撃をまともに受ける。しかし。

「…………!」

「ふんっ!」

 ルードの身体はビクともしなかった。ディアノーラの体格から繰り出される蹴りではまともなダメージを受けないと判断し、ルードはあえて避ける事なく受けたのだ。

 そして隙が生まれたディアノーラに向けて、渾身の右拳を突き出した。

 ディアノーラは咄嗟に後方へと跳ぶが、僅かにルードの拳が触れる。左肩にダメージを負ったが、その影響は最小限に抑える事ができた。

 そのまま器用に足を回転させ、再び剣をルードに向けて構える。

「やるな……! さすがは名高きアルフォース家の剣士! 正直、お前の事を見くびっていたぞ!」

「…………」

 ルードはディアノーラに向けて素直な称賛を送る。だが当のディアノーラは額に薄く汗を流していた。

(……戦力差は8:2といったところか。ルード……まさかこれほどの武の持ち主が、父上以外にいようとは……!)

 ディアノーラは今のやり取りで、ルードのおおよその実力を計っていた。

 まだルードは本気を出していない。それに対し、自分は全力と言っても差し支えない集中力で戦っていた。

 おそらくは父ディザイアと同等かそれ以上の実力者。それも拳のみで。

 結社には異端の実力者が多く在籍していると聞いていたが、ルードはその力が純粋に身体能力の強化である分、より自分との差を感じやすかった。

 無傷で勝てない相手なのは間違いないだろう。しかし相打ちを覚悟した立ち回りであれば、決して敵わない相手ではない。

 ディアノーラは改めてこの戦いに、全身全霊を懸けるという覚悟を決める。

(こうしてアデライア様を危険な目に合わせたのは2度目になる。これでは護衛騎士……いや、アルフォースの名を名乗る資格がないな。しかし……! 例えここで死ぬとしても……! この男だけは必ず、ここで仕留めてみせる……!)

 決意を新たに、真っすぐにルードの目を見る。その視線にルードも何かを感じ取った様子だった。

「……俺にそんな目を向ける奴は随分と久しぶりだ。この戦いが生涯最後の戦いになると覚悟を決めたか。ここで討つには惜しい女よ。どうだ。俺の女になるのなら、これ以上姫を傷付けずにおいてやるぞ。結社に来れば、お前も今以上に強くなれよう」

「……ふ。生憎だが、お前の様な男は生理的に受け付けん。何よりここで死ぬ男の女になりたがる者などいないだろう」

「まったくだ。だいたい良い歳こいたおっさんが、10代の女に手を出そうとしてんじゃねぇ」

「!?」

 部屋に新たな男の声が響く。そしてその声はディアノーラとアデライアがよく知る声だった。
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