黒狼の牙 〜領地を追われた元貴族。過去の世界で魔法の力を得て現在に帰還する。え、暴力組織? やめて下さい、黒狼会は真っ当な商会です〜

ネコミコズッキーニ

文字の大きさ
123 / 174

皇帝陛下の秘密部隊

しおりを挟む
「……奥で話そう」

 ディザイアは扉をノックして中にいるウィックリンから許可を取る。そして俺たちは部屋の奥へと足を踏み入れた。

「アデライア……! 無事でいてくれたか……!」

「お父様……!」

 改めて俺たちはここまで何があったかを話す。そしてウィックリンたちの経緯と合わせて情報共有を行った。

 ルングーザ領の軍は当初、貴族街に現れた獣や怪物をしっかり討伐していたらしい。

「だがそれらはルングーザ領軍を貴族街に入れるための工作だったのだ。そうして合流したテンブルク領の軍と合わせ、城は一気に抑えられてしまった」

 エルヴァールとその主だった貴族は城に軟禁されているらしい。

 エルヴァールにも世話になったからな。城に乗り込むならついでに助けたいところだ。

「せっかくヴェルト殿たちが結社の思惑を打ち砕き、アデライアを救出してくれたのだが、肝心の私がこのありさまだ。申し訳なく思う」

「…………」

 ウィックリンの話を聞きながら俺はこれまで出てきた情報を整理する。だがまだだ。まだ足りない。

「ルングーザとテンブルクの領軍はどれくらいの規模なんだ?」

「詳細は分からない。だが万はいってはいないと思う。それだけの規模が一気に流入しては、兵士をどこに泊まらせるにか、食事はどうするかなどの問題が出る」

「なるほど……兵を本気で駐屯させるつもりなら相応の準備をしてくるだろう。だがこの侵攻の速さから見て、おそらく最低限の装備で移動してきた……」

 先発隊は最低限の物資と人員で進ませ、おそらく後詰めにちゃんとした……という言い方も変だが、帝都近郊に駐屯できるくらいの物資を持った輸送兵が現れる可能性もある。

 つまり見方を変えれば、ここには少数の敵兵にその親玉がいる訳だ。

「クイ……騎士団は?」

「主だった者たちは城に幽閉されている。ディナルドもな」

 こちらも助けだせれば、戦力としてカウントできるかもしれない。大分見えてきたな。

「ヴェルト殿。どうかアデライアを連れてここから逃げてくれないだろうか」

 ウィックリンから弱腰な提案が飛んでくる。その内容にアデライアも驚いている様だった。

「逃げる……?」

「そうだ。魔法復活の可能性はなくなったが、帝都は依然としてヴィンチェスターの支配下にある。それにテンブルク領の軍は数も多い。昨日のうちにゼノヴァーム領に応援の急使は走らせておるが、駆け付けてくれたところでルングーザ領軍、テンブルク領軍の連合軍とどこまで戦えるか……。そもそも駆け付けてくれる保証もない。ならば今のうちに……」

 俺はウィックリンの言葉を途中で遮る。帝国貴族であれば、皇帝の言葉を途中で止めるなどあり得ない事だろう。
 
 だが俺はお構いないで口を開いた。

「陛下。勝機というのはいつもどこかに隠れているものです。そしてそれを見つけられれば苦労はないのですが、なかなかそう上手くはいきません。でも別にそれで良いのです。他にその勝機を見つけられる者を多く仲間にすればいいだけですから」

 そう言うと俺は立ち上がってアデライアの近くまで移動する。

「敵兵はまだそれほど数がそろっておらず、その情報伝達経路も整っていません。にも関わらず敵の親玉は勝ったと油断して城に居る。次の皇帝位は確実だと浮かれている。ここには今、一騎当千にして歴戦の傭兵、群狼武風がいるのにです」

 ……自分で言ってると恥ずかしいな。だが傭兵はこれくらい強気で丁度良い。

「何より俺たちは今、アデライアに雇われている。つまり皇帝といえど、その願いを聞く義理はない。例えどれだけの財宝を積まれようが、群狼武風は決して雇い主を裏切らないからな」

 そう言って俺はアデライアに視線を合わせる。

「アデライア。決めるのはお前だ。お前は俺たちに何を望む? 陛下の言う通り、どこかへ連れていってほしいのなら、望む場所へ連れて行こう。だが一言。やれと言うのなら、俺たちはその命令に従う」

「……できる、のですか?」

「もちろんだ」

 部屋に沈黙が訪れる。だがアデライアの決断は早かった。

「お願いします。どうか城を取り戻し、反逆者たちを捕えてください……!」

「了解だ」

 アデライアは決意を固めた強い目をしていた。

 自分の指示で、これから人が死ぬ事になるのだという事をよく理解しているのだろう。もっとも、そんな業を背負わせるつもりはないが。

「アデライア……」

 ウィックリンは何とも言えない感情でアデライアの名を呼ぶ。だが反対する事はなかった。

「さて。これから城を奪還しに行くが、まずは皇宮の敵兵を排除する。リリアーナとディアノーラはここに残り、アデライアたちを守っていて欲しい」

「分かったわ」

「心得た」

「それから。城で暴れ回るちゃんとした大義名分が欲しい」

「ちゃんとした大義名分……?」

 皇女たるアデライアからの依頼というのも悪くないが、どうせならもっと強いものが望ましい。それこそ誰もがひれ伏す様な。そしてここにはアデライアに甘い皇帝がいる。

「あくまで城に攻め込むのはアデライアに雇われてだが。暴れる時は陛下の名を語ってもいいか?」

「私の名の下に堂々と正義を行う口実にする訳だな。私とてアデライアが変に注目されるには避けたいし、ここで黒狼会の行動を止めないという事は、認めたも同義だ。好きにするがよい」

 投げやりになった……とは違うな。ウィックリンも皇族としての覚悟を決めたのだろう。アデライアに触発されたかな。 

「助かる。あと顔を隠すものがあれば助かるんだが。包帯とか、フルフェイスの兜とか……」

「ああ。それなら仮面舞踏会用の仮面がいくらかあるから、好きなのを選ぶとよい」

「仮面……舞踏会……?」

 聞いた事はないが、字面の通りなのだろう。変わった催しもあるもんだ。見せてもらうが、確かに変わった仮面が多かった。各々勝手に好きなのを選ぶ。

「よし。それじゃ始めるか。ああ、それと。今回は殺しはなしだ」

「え?」

「まじで?」

「まじだ。皇宮や城を血で汚すつもりか。それに……」

 横目にアデライアを見る。みんなそれで事情を察してくれた様子だった。

 戦乱の世ならいざ知らず、こんなつまらない事でアデライアに業を背負わせる事はないだろう。

「この程度の掃除に、わざわざ手を汚す事もないだろう。捕まえた奴らは後で法が裁く。それに久しぶりの雇い主様だ、ここで俺たちの仕事ぶりをよく見てもらおうじゃないか」

 甘い……とは少し違うと思う。1日だけの群狼武風とはいえ、これはアデライアの求めに付き合っている様なもの。今の俺たちは黒狼会が本分だ。

「いいよ~。たまにはこういう縛りも悪くないしね!」

「団長代理の指示には従うさ」

「僕の場合は手加減を強く考えないといけませんね」

「ふ……」

「ふぉっふぉ。レクタリアの相手をしておった事を思うと、この程度は朝飯前じゃ」

 魔法は有りだし、今さら手こずる様な手合いはいないだろう。というかガードンの笑みはどういう感情なんだ。クールに決めているつもりなのかもしれないが、割と悪い顔に見える。

「さて我が雇い主殿。ここで吉報をお待ちあれ」

「……はい。どうか、よろしくお願いします……!」
 



 
 こうして仮面を被った俺たちの作戦が開始された。

 皇宮の敵兵を次々と無力化して、まずはこの建物を解放する。後の守りはディアノーラとリリアーナ、それにディザイアに任せる恰好だ。あの3人なら問題ないだろう。

「よし! 皇宮の敵兵はこれで全部だな!」

 床には意識を失った者や、強いダメージが残ってまともに動けない敵兵が転がっている。俺は黒曜腕駆を発動させていたが、全身に覆う事はできず、腕のみの発現となっていた。

「ヴェルトの魔力、まだ戻らないねぇ」

「消失していなかっただけ儲けものだな。よし、ここから城までつっきるぞ! 中に入ったら各々作戦通りに動け!」

「了解!」

 皇宮の外に飛び出すと、そこには多数の敵兵が待ち構えていた。中での騒ぎを聞きつけて集まったのだろう。これも好都合だ。

「出てきたぞ!」

「なんだ、貴様らは……!」

 突如として現れた、仮面を付けた6人組。怪しさ満点だろうな……!

「俺たちは皇帝陛下の秘密部隊! これより王位を簒奪しようという不忠の輩を成敗する! 我らの道行を邪魔立てする者は、同じく反逆者であると心得よ!」

 堂々と皇帝陛下の名を語り、好きなだけ暴れる。ロイは威力を最小に絞った爆発魔法を、アックスは太い水糸でその動きを封じていく。

 フィンは不意打ちで敵指揮官を的確に戦闘不能にし、ガードンは目立つ様に大立ち回りを見せる。じいさんはものの数秒で多くの兵士を一撃でノックダウンして回っていた。

「なんだ、こいらは!」

「つ、強すぎる!」

「み、水が!? ガボガボ……!」

「また爆発したぞ!?」

「だ、だめだ、止められないぃ……!」

 みんな絶好調とまではいかなくても、それなりに魔法の力は戻っている様だった。

 全然戻らないのは俺だけだな。だが腕さえ黒曜腕駆を纏えれば、それで十分。俺もその拳で兵士たちを倒していく。

「よし! このまま注目を集めつつ城に乗り込むぞ!」

「おう!」
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

辺境貴族ののんびり三男は魔道具作って自由に暮らします

雪月夜狐
ファンタジー
書籍化決定しました! (書籍化にあわせて、タイトルが変更になりました。旧題は『辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~』です) 壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

魔道具は歌う~パーティ追放後に最高ランクになった俺を幼馴染は信じない。後で気づいてももう遅い、今まで支えてくれた人達がいるから~

喰寝丸太
ファンタジー
異世界転生者シナグルのスキルは傾聴。 音が良く聞こえるだけの取り柄のないものだった、 幼馴染と加入したパーティを追放され、魔道具に出会うまでは。 魔道具の秘密を解き明かしたシナグルは、魔道具職人と冒険者でSSSランクに登り詰めるのだった。 そして再び出会う幼馴染。 彼女は俺がSSSランクだとは信じなかった。 もういい。 密かにやってた支援も打ち切る。 俺以外にも魔道具職人はいるさ。 落ちぶれて行く追放したパーティ。 俺は客とほのぼのとした良い関係を築きながら、成長していくのだった。

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~

空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。 もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。 【お知らせ】6/22 完結しました!

1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!

マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。 今後ともよろしくお願いいたします! トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕! タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。 男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】 そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】 アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です! コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】 マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。 見てください。

処理中です...