黒狼の牙 〜領地を追われた元貴族。過去の世界で魔法の力を得て現在に帰還する。え、暴力組織? やめて下さい、黒狼会は真っ当な商会です〜

ネコミコズッキーニ

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古の魔法を使う者 スランとの戦い

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「世界新創生神幻会……!」

「こいつも例の子どもの1人……!」

 スランは不適な笑みを浮かべたまま足を進める。

「しかしやっぱりこいつらは役に立たなかったね。一応、エルクォーツを埋め込んだんだけどさ。やっぱり正しい手順があるのかな?」

 エルクォーツという単語が出てきた事で、ベインは分かりやすく反応を示す。

「どうしてお前がエルクォーツのことを知っている?」

「うん……? あれ、もしかしてきみもエル=グナーデの残党かな? なら丁度いい、教えてくれないかな。身体能力を向上させるにあたって、エルクォーツをどう扱ったらいいのか分からないんだよ」

 スランは本当に困っている様な口調で話す。そんな態度にベインは少し苛立ちを見せた。

「答えろ。どうしてエルクォーツを知っている。それに何故持っているんだ……?」

「頭悪いなぁ。こうして実物を持っていて、こいつらに使っているんだ。きみみたいなエル=グナーデ残党から奪ったに決まっているだろ」

「……そうか」

 ベインは腰を落とすと大斧を低く構える。その殺気はスランに向けられていた。

 信奉していたレクタリアの残した遺産とも呼べるエルクォーツ。それを良い様に使われ、このまま見逃すという事ができないのだ。

 それに相手は世界新創生神幻会に所属する少年。油断すれば死ぬのは自分だという事もよく理解している。そして静かに怒りながらも冷静さは捨てていなかった。

「……俺が先に仕掛ける。あいつの能力を見極めろ」

「ベイン……! いけるのか!?」

「ああ。それにこの中じゃ、俺が一番適任だろうから……なっ!!」

 身体能力を向上させ、一気に距離を詰める。その速度に対応できる者はそう多くないだろう。

 ベインは油断することなく、スランから目を離さずにその大斧を振るう。そして。

「が……!」

 スランまであと一歩という距離に来た時、急に強く重力が働いた。ベインは堪らずその場に倒れ込む。

「な!?」

「ベインさん!?」

 ベインは固い地面にうつ伏せになった。だがどうにか立ち上がろうと膝を立てる。

「へぇ、驚いた。そこまで動けるんだ。それじゃもうちょっと強くするよ」

「…………!」

 何とか立ち上がろうとしたベインだったが、さらに強くなる重力によって片膝をついてしまう。少しでも力を抜けば、その瞬間強く地面に激突するのが予想できた。

「ぐぅ……!」

「結構本気出しているんだけどな。きみ、今まで出会った残党の中で一番強いよ。ま、動けないだろうけど」

 スランは地面に転がるいくつかの小石を拾うと、それを上へと放り投げる。それらがベインの真上へと移動した時、一定の高さから急に速度を上げて地へと落ちた。

「がはぁ……!」

 高速で落ちる小石をベインは避ける事ができず、まともに受けてしまう。肩や背には小石がめり込んでいた。

「すばらしいね……! まだ倒れないなんてさ。でも……」

「うああああ!」

「ちぃ……!」

 ダームがナイフを投擲しながら距離を詰め、リーンハルトも大剣を手に足を前へと進める。

 スランの能力はおおよそしか分からなかったが、これ以上はベインが危ない。さすがにこれ以上、ただ立っているだけという事はできなかった。

「ふん……」

 だがナイフは全てスランの所まで到達する前に地に落ちる。またダームも途中から重力が強くなり、地に縫い付けられた様に動けなくなった。

「おおおお!!」

 その側をリーンハルトは何でもないように通り抜ける。そしてスランに大剣を振るう。

「はは。なんだい、それは」

 だがベイン同様、大剣を振るいきる前にリーンハルトも地に倒れ込んだ。急に強くかかる重力に、身体が絶えられなかったのだ。

「みんな……!」

「おいおい、まじかよ! リーンまで……!」

「くぅ……!」

 リーンハルトの身体能力は強化されたベインほどはない。そのためほとんど抵抗できず、また地面から起き上がれずにいた。

「無駄だよ。その剣、確かに威力は強いけど。僕には決して届かない」

「……っ!」

 リーンハルトはこの状況になって、自分が思い上がっていた事を自覚した。爆極剣ヴォルケインなんて巨大な力を手にした事で、一気に強くなれたと考えていたのだ。

 今ならディアノーラにも勝てるかもしれない。たとえベインが手こずる相手でも、自分なら何とかなるのではないか。そんな根拠のない自信がいつの間にか心の根底に生まれ始めていた。

(くそ……! 俺は何を思い上がっていたんだ……! これじゃみんなを……! ミニリスを守れない……!)

 確かに爆極剣ヴォルケインはリーンハルトにしか扱えない。だがせっかく得た強大な力も、相手に届かなくては何の意味もなかった。それにベインに比べると、いくらか手加減されているのも分かる。

「ははは。無様だね。僕はタイプ詠者の幻霊クラス5。もう分かっているだろうけど、重力場を形成し、それを操る事ができるのさ。君たち程度ではどれだけ集まっても、決して僕に近づく事はできない」

 スランは任意の場所に重力場を形成する魔法が使える。範囲は広くすればするほど、また重力も強くすればするほどより力を消耗するが、汎用性はとても高い能力だった。

「この斧の人からはついでだしエルクォーツをもらうとして。とりあえずミニリス。君にはこっちに来てもらおうか?」

 そう言うとスランは目の前に落ちているナイフを掴み上げる。

「そうすればこのナイフを投げたおじさんと、君の隣にいる男は助けてあげようじゃないか」

 スランの発言にミニリスはびくりと肩を震わせる。そして小さく口を開いた。

「……リーンたちも助けて」

「君の幻霊武装の使い手か。…………いいよ。さぁこっちに……」

 しかしミニリスの前にビルツァイスが立ちふさがる。

「おいおい、嘘つくんじゃねぇよ! リーンが死なない限り、その剣は他の誰にも扱えない! 俺やおっさんみたいな奴はともかく、お前はリーンハルトだけは絶対に殺すはずだ……!」

「失礼だね。僕は殺さないとも。まぁ動けない彼を、他の者たちが殺す可能性はあるけどね」

 スランは何でもない様に笑みを浮かべる。実際、ビルツァイスの言う通りであった。最悪ベインは後回しでもいい。だがリーンハルトだけはここで確実に殺しておく必要がある。

 少し前まではミニリスも死んだところで問題はなかった。だが幻霊クラス5並の能力に目覚め、このまま殺すには惜しい存在となった。しかしせっかくの幻霊武装も、その使い手が常人では意味がない。

 爆極剣ヴォルケインはかなり強い武装だ。これは是非とも駆者が扱わなければ。スランはそう考えていた。

「ち……! やっぱりな……! 可愛くないガキだぜ!」

「可愛くない年上にそんな事を言われてもね。まぁいい、大人しく従わないのなら、ぺしゃんこに潰してから連れ帰るだけのことさ」

「くそが……!」

 ビルツァイスも無駄だと思いつつも剣を抜く。

(リーン……! まったく、恨むぜお前を! あの時お前に話しかけていなければ、こんな目に合わずに済んだってのによぉ……!)

 だが過去は変えられないし、ここで自分だけ逃げるというかっこ悪い事もできない。しかし命は惜しい。そんな葛藤を抱きつつも、ビルツァイスは剣を構えた。

「今さら君如きが、そんなおもちゃで何ができるのさ」

「時間稼ぎができたんじゃあねぇの? 例えば、俺が来るまでのな?」

「!?」

 突然背後から聞こえた声に対し、スランは後ろを振り返る。そこには顔の良い男が緩い笑みを浮かべて立っていた。
 



 
 アックスはカルガーム領から帝都への帰路についていた。だが真っすぐ帰る訳ではない。方々の街で寄り道しながらのんびりと帰っていた。

「ふぅん、なるほどねぇ……」

 今も規模の大きな街にいるのだが、そこで情報屋集団「慈流典」のエージェントと会っていた。

 慈流典は帝国領を中心に活動している情報屋集団だ。そのネットワークは広く、大きな街であればだいたいどこにもエージェントがいる。

 だがその規模や実体は不明。その割に腕も確かな事から、どこかの国の資本が入った組織なのでは、と噂もされていた。

 元は雷弓真と取引があった組織なのだが、雷弓真が黒狼会に併合されてからというもの、ダグドがよく多用している。

「黒狼会にはいつもお世話になっていますからねぇ! これくらいであれば、お代などいりませんよ!」

 アックスはエージェントから街の中でもとびきり美人がいる店や、酒が美味い店の情報を聞いていた。

 ちなみに慈流典はそこまで裏社会に詳しい情報屋ではない。そういうのは別に専門にしているフリーランスの情報屋がいる。

 慈流典は街の有名人やお得なお店情報、たまにその伝手で貴族の噂話を取り扱うくらいだ。街の便利なお役立ち情報屋さん。そんな集団である。

「あと女を連れ込んでも問題のない宿も教えてくれ。多少金がかかっても文句言わねぇよ」

「いいですよ! そうですねぇ、おすすめとしては……」

 さらに別料金でお店の予約や宿の手配もしてくれる。総合サービス……と言えば言い過ぎだが、初めてくる街では便利なのは間違いなかった。

「サンキュー! 今日はこの街で楽しむとするかな!」

「最近はこの辺りも物騒ですからねぇ。酔って夜道を襲われない様に気を付けてくださいよぉ!」

「大丈夫だって! 俺、こう見えて結構強いんだぜ? ……てかなに、そんなに物騒なの、この街」

 アックスは街の治安に興味を示す。情報屋は曖昧な表情を浮かべた。

「なんと言いますか。最近、帝国領内外関係無く、少年少女が大人を殺してるって話もありましてね」

「おいおい、そりゃ穏やかな話じゃねぇな……」

「近くの街でも出たって噂ですよ。何でも世界新創生神幻会って名乗ってるらしいですがね」

 アックスは情報屋から噂話を聞く。アックス自身は知らなかったが、内容は帝都でヴェルトがマルレイアから聞いたものと共通している部分があった。

「それにこれも噂なんですがね。今、フォルトガラム聖武国の王女様が大陸に来ている事はご存知です?」

「ああ、ちょっと前までカルガーム領にいたからな。それが?」

「その王女様ですが、帝国の用意していた行程を無視して、さっさと帝都に向かっているっていうんですよ。予定よりも早く王女様が帝都に着きそうだからって連日早馬が走ってましてね。で、ここからまたさらに噂なんですが……」

「噂の噂って、それ妄想と何か違いでもあんのか……?

 アックスはやや呆れた顔で話を聞く。だが次の情報を聞いてその表情が真剣なものへと変わった。

「王女様を護衛する騎士団には帝都で名を馳せる正剣騎士団団長、クインシュバイン様の御子息様が参加されているらしいんです。でもカルガーム領から行方不明になっているらしくて……」

「なに……」

 アックスもヴェルトとクインシュバインの関係は知っているし、その息子となればヴェルトにとって甥にあたる。そしてちょくちょくヴェルトが剣の稽古をつけている事も知っていた。

「早馬が行きかう中でこぼれでた話なので、どこまで本当かは分かりませんが。でも丁度その時期に、怪しい少年少女がカルガーム領で目撃されていましてね。例の事件に巻き込まれたんじゃないかって私は思っているのですよ」

 アックスは表情から笑みを消し、今の話を考える。

 しょせんは噂だ、何の確証もない。だがもしリーンハルトが本当に行方不明で、各地で少年少女たちが起こす騒動に巻き込まれていたとしたら。それは見逃せない。

「……その情報、買わせてほしい。少年少女が具体的にどの辺りで目撃されたのか教えてくれ」

「いいですよ!」

 情報屋は知りうる噂話をアックスに話していく。アックスはおおよその地図を脳裏に描きながら情報を整理した。

「ありがとよ。これはお代だ」

「なんと……! 噂話にここまで出してくれるんで?」

「ああ。いい話が聞けたからな」

 気前よく金を払うアックスに対し、情報屋は少しその表情を消す。

「……ではこれはサービスで。実は最近、とある少女に懸賞金がかけられているのですよ」

「なに……?」

 立ち去ろうとしたアックスだったが、情報屋の話に足を止める。

「ま、私も昔はその筋で商売をしてましてね。その時の伝手で聞いたのですが。何でもその少女が通るであろう経路まで情報が回ってきているのです」

「……あやしいな、そりゃ。まるで皆さんで早い者勝ち合戦してくださいと言っているみたいじゃねぇか」

「ですね。まぁ実際に情報を流している先は大分絞られているみたいなのですが。で、その経路ですがね。丁度少年少女が目撃された地点から、この街の付近まで走っているんですよね」

 情報屋の話にアックスは僅かに顎を引く。

「……経路を知っているのか?」

「ええ。さすがにその情報は有料かつ条件付きですが……」

「条件は?」

「私が話した事を絶対に伏せていて欲しいんです。もう足を洗った身ですから」

「……分かった。ただし俺がその情報を買ったという事も伏せろよ。値段は言い値でいい」

「ありがとうございます。やっぱり黒狼会の皆さんは上得意様ですねぇ!」

 こうしてアックスは金と引き換えに情報を得る。

 ただの噂話でここまで金を払い、さらに動こうというのだ。普通であえればまずありえない行動だろう。しかし。

(帝都には急いで帰らないといけない訳でもねぇしな。ちょっとした遠足だ。それに。なぁんか気になるんだよなぁ……)

 黒狼会……というより、群狼武風の面々にはジンクスを信じている者が多い。アックスは「なぁんか気になる情報」はだいたい真実だというジンクスを持っていた。

「ま、外れなら外れで構わねぇ。場所も近いし、ちょっと足を延ばしてみますかね!」
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