黒狼の牙 〜領地を追われた元貴族。過去の世界で魔法の力を得て現在に帰還する。え、暴力組織? やめて下さい、黒狼会は真っ当な商会です〜

ネコミコズッキーニ

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ガラム島の貴族と建国祭

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「んん、んふっふっふー、んふぅ~」

 上機嫌で鼻歌を歌う男性がいた。その男の名はエルオネル・ブラハード。フォルトガラム聖武国において、ブラハード領を治める領主である。

「ご機嫌ですね、父上」

「当然だ。こうも順調に事が進むとは思っておらんかったからな」

 部屋にはエルオネルの他に2人の少年少女、そして息子セオドリックがいた。エルオネルは側で侍らせる少年少女の「お母さま」のことを思い出す。

「ここまで何年かけたか分からんが。投資が活きて嬉しい限りだ」

「まさか我が領のグネール湖にあの様な存在が眠っていたとは思いませんでした。この歳にして私も神というものの存在を信じる様になりましたよ」

「うむ。その目的が分かりやすいというのも良い。そしてこうして手を組めたのもな」

 エルオネルと「お母さま」の付き合いは長い。それこそエルオネルがまだ少年だった時代からの付き合いだ。

 エルオネルは「お母さま」と多くの点で利害が一致しており、長く協力関係を築いてきていた。

(かつての時代と同じく自分が女神として君臨し、自分の自分による自分のための国を作る。くく……端から見ればただの妄想だが。しかし彼女は実際にそれを可能とする力と技術を持ち合わせている。そしてこうして古の魔法を使う子どもたちを生み出した)

 幻想歴の時代に存在した、魔法を操る獣。幻霊。「お母さま」はその幻霊に関する何かを持っていた。

 そしてエルオネル自身も協力し、幻霊の何かを使用して魔法を操る子どもを作った。

 今では自らの私兵としても何人か使っている。そして少年少女たちは最強の兵士であると同時に、質の高い愛玩動物でもあった。

「陛下はどうされるおつもりで?」

「口では勇ましい事を話しているがな。あれは演技、本心では帝国と正面からやり合う気はないだろう」

「そうなのですか?」

「ああ。そもそもやる気ならこれまでも機会はあった。今日まで何もしてこなかったのが良い証拠よ」

 エルオネルは隣に座る少年の頭を撫でる。そうして国王であるアーランディスの事を考えた。

(聖武国の王としてのプライドはあるだろうが。ガラム島の外にその勢力圏を作る気がないのは明白だ。しかしこのまま使節団やフランメリア王女が帝都にいるまま、何もしないのでは貴族たちに対する示しがつかん。くく……今頃どうしようか、頭を痛めているだろうなぁ)

 エルオネルの頭の中には2つのプランが走っている。1つは帝国との開戦後の動きだ。

 本気になった帝国との戦いにおいて、カルガーム領の港を抑えるのはそう簡単な話ではない。カルガーム領自体も小国くらいの規模はあるし、実際に力もある。聖武国側の侵攻は難しいものになるだろう。

 自国の兵が消耗しきったタイミングで、自分の領軍を出す。そしてその編成にはエルクォーツが埋め込まれた兵士や、魔法を使う少年少女たちがいるのだ。帝国軍を圧倒し、港を占領するのは容易いことだろう。

 そうして聖武国内において、自らの影響力を高めていく。魔法を使う少年少女たちの存在も隠すつもりはない。貴族は誰もが自分を頼ってくるだろう。

 そして2つ目。それはガラム島の支配者になることだ。

 子どもたちを使うのもそのための手段であり、何も戦場での武功を欲しての事ではない。まずは王家の存在感を周囲から削っていき、いずれ完全に掌握する。

 これも数年先を見据えた計画であり、エルオネルからすれば長期スパンでの行動は大して苦ではない。

 そうして女神の復活を待つ。いずれ世界中が女神にひれ伏す事になる。その時、ガラム島は世界の中心になるのだ。

 そして自分はそのガラム島の支配者として君臨し、女神の名代を務める。そのための仕込みは数年前から行ってきている。

「しかしそうなると、戦争は起きないのでは?」

「いや、戦争は起こる。これは大前提であり、必要な事だ。安心しろ、そのために必要な手は既に打った」

 エルオネルの構想において、ゼルダンシア帝国との戦争は絶対に必要なものだ。そもそも魔法使いたちの戦場での実績がなければ、聖武国内においてその存在感を高める事ができない。そして戦う相手にも相応の格が必要だ。

 他領と小競り合い程度の活躍ではだめなのだ。あの大帝国の軍隊を圧倒する活躍だからこそ意味がある。そして魔法使いたちにはそれを可能とする十分な実力がある。

「さすがですな。どの様な手を打たれたのです?」

「フランメリア王女には犠牲になってもらう。帝都内でその死体が発見されれば、陛下といえど戦争以外の道はとれまい」

「なるほど。世界新創生神幻会の子どもたちですね?」

「ああ。彼らが帝都でその優秀な仕事ぶりを発揮してくれたのは記憶に新しい。次も上手くやってくれるだろう」

 ディンが帝国貴族を殺した時、フランメリアたちはあえて殺さなかった。あの時はまだ生きていないと意味がなかった。

 しかしそのフランメリアが帝都内で逃亡していると聞き、時間も経ったことで両国の関係はよりややこしい形になった。

「できるだけ早く……帝国に見つかる前に確実に殺してもらわねばならん」

 エルオネルとて、フランメリアが帝都でいつまでも逃げられるとは考えていない。帝国側よりも早く見つけ出し、その命を奪う。そしてその報告を以て両国開戦の合図とする。

 もし失敗したとしてもいくつか案は考えているが、今は再び帝都に向かったディンたちの帰りを待つしかない。

「父上の悲願が叶う時も近いですな」

「だと良いがね。あとは女神の復活の時期次第でもあるが……」

「具体的な時期は決まっているのですか?」

「さて……。私には何も教えてくれんよ。そう遠くないと思っているのだがね。どうやら箱舟の起動に手間取っているらしい」

「箱舟……ですか」

 幻想歴よりもさらに昔に存在したという、空に浮く巨大な都市。それは今、ブラハード領にある広大な湖……グネール湖の底に沈んでいた。

「天空に浮かぶ都市……これこそ女神が住まうに相応しい。お前にもあのヴィジョンを見せてやりたいが……」

「父上が女神より見せてもらってという、神秘の映像ですね。それは興味あります」

「今度私の方から頼んでおこう」

 数年越しで追いかけてきた計画が今、大きく動き出した。魔法を使う者たちも数は十分。あとは火が付くのを待つだけである。

「世界が真なる主を迎える日も近い。今の王家にはそのための贄になってもらう」

 


 
 建国祭が始まって2日目。帝都は多いに盛り上がっていた。俺も黒狼会のボスとして各地に顔を見せている。

 祭りの期間は10日あるが。10日間全てこの盛り上がりという訳ではなく、最終的にその規模は小さくなっていく。

 だが折り返しとなる5日目には皇族の乗った馬車が街中を走るパレードもあるし、そこまでは盛り上がり続けるだろう。

「ふぅ……やっと俺も余裕ができたかな」

「ヴェルトさんは建国祭は初めてですし。楽しんでこられては?」

「そうだな……」

 アリアは部屋でくつろいでおり、ミュリアが俺に茶を出してくる。ちなみにフィンたちは遊びに出ている。

 誰かが屋敷に残っている必要はあるので、今は俺がその留守番役を務めていた。

「今日は屋敷でゆっくりするよ。せっかくだ、ミュリアもアリアと一緒に遊びに行けばいい」

「え、いいの!?」

「ああ。黒狼会が出している出店も問題ない様子だったしな。何なら小遣いもやるぞ」

 特にミュリアはいつも俺のスケジュール管理をしつつ、他の商会やギルドとの折衝もしてくれている。これくらいは感謝の気持ちを込めて良いだろう。

 アリアは手放しで喜んでおり、それを見たミュリアは仕方がないと肩をすくめた。

「ではお言葉に甘えさせていただきます」

「ヴェルトさん、何かお土産買ってくるね~」

 二人が部屋から出ていくのを見送ると、俺は資料棚に目を通し始めた。せっかくだ、この間取り寄せたフォルトガラム聖武国の歴史書に目を通すとしようか。

 そう考えていたタイミングで扉のノックが鳴る。

「開いてるぞ」

「失礼します」

 部屋に入ってきたのはマルレイアとリリアーナだった。2人ともお祭りだというのに、あまり良い表情をしていない。

 それだけで何か厄介事だと感じ取る。それにその手の話題の種はいくらでもあるからな。

「少しお耳に入れておきたい事がありまして……」

「……この間の話関連かな」

「はい。フォルトガラム聖武国の王女、フランメリア様の潜伏先と思わしき場所が分かりました」

「…………」

 マルレイアはきっと自分の手勢を使い、情報収集を続けていたのだろう。何のため……という予測はいくつかつくが。

 いずれにせよ必要な事だと判断したからこそ、その行方を追っていたのは分かる。そしてその情報は確かに気になるものであった。

「潜伏先……という事は。使節団は拘束されたが、フランメリアは逃亡していたと?」

「詳しい経緯は分かりません。ですがフランメリア様は何らかの事情で、帝国に拘束される前に貴族街を出たのでしょう。実は目を付けていた商人がおりまして。そこから情報を拾いました」

 当事者でない以上、マルレイアも全てを知っている訳ではない……か。

 だが二国間で不穏な空気が漂う中、マルレイアの持ってきた情報は俺としても無視できないものであった。

「聞いたところで俺に何ができるかは分からんが。話は聞かせてくれ」

「はい」
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