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第三話 ~秋守と冬夜~
09 (秋守)
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朝日は今日も綺麗に顔を見せているのに、心は曇りがち。
ホームルームまでの時間で、またもこう考えを巡らせる。……やっぱり分からない。頬杖をつきながらどれだけ唸っても、答えは見つからない。
周りからお前は心配性過ぎると言われる俺でも、ここまで考えを堂々巡りさせたことはなかったな。
あらゆる仮定をいくつも並べてみたけれど、結局は何も分からなかったんだ。何がって、昨日、北原さんが急に怒り始めた理由がさ。
胸倉を掴まれてしまうくらいに、彼を怒らせてしまった。なのに何故原因が分からない?
俺の存在が気に喰わなかった? それなら現れた時点で突っかかって来るよな。
二人きりの時間を邪魔されたくなかった? でも、夏歩さんに俺と一緒に帰るかどうかと問いかけていたっけ。
いつまでも解決されない疑問に小さく溜め息を零したと同時に、ふと過ったこと。そう言えばあの時、「あのババアが……」と言っていたよな。
動転していたから聞き違えたと思いたいけれど、直前に俺が口にしたのはまみさんの名前だった。
夏歩さんのお母さんをババア呼ばわりしているのか? まさかな。親友もしくは恋人の母親をババアだなんて……。
あれ、でもちょっと待てよ。思い返せば、夏歩さん達母子が会話をしている場面を見たことがない。ひょっとすると、夏歩さんとまみさんは不仲なのかな。
父さんが選んだ人、ましてや今では俺の母親でもある人を悪く言われるのは好ましくない。だけど、夏歩さんと付き合いの長い北原さんは、俺の知らない何かしらの事情を知っているのかもしれない。
……よし、今日もう一度彼に会ってみよう。そして出来れば真実を教えてもらおう。
怒らせたばかりの人と再度接触するのは緊張するけれど、このもやもやをそっとしておけそうにはないもんな。
北原さんにどう話を持って行こうか。まずは謝罪と挨拶だろうかと考えを始めた時に、
「あっ、夏歩さん!」
教室に入って来た人の名前を呼ぶ。振り向いた表情を見て、心臓が何者かにわしづかみにされてしまう。
眉間にはうっすらとしわが寄っていて、明らかに口元は下がっているんだ。昨日のことを怒ってるんだよな……。
「あの、昨日は後を付いて行ったりしてごめん。その、北原さんがどんな人なのか気になって。本当にごめんっ!」
思い切り目を瞑りながら、両手を合わせて謝罪する。すると、そんなに間を置かずに優しい声が聞こえた。
「冬夜もびっくりしていたけれど、大丈夫よ。あの、それよりも……」
……よ、良かったぁ。大丈夫だと言ってもらえた。ますます嫌われたんじゃないかと、かなり不安だったんだよ。
安心したものの、何やら口ごもって戸惑っている様子を見せる彼女。困り顔はますます色を濃くして、口数を少なくさせてしまう。何を言い掛けているんだろうか?
「おーっす! 秋、今日こそは遊べるよなっ?」
どうしたの、を唱えようとしたまさにその時に、真横からにょきっと現れた幼馴染に苦笑いを捧げよう。
春平くん。体当たりをしてこなかっただけましだけど、人と人が話している間を邪魔しちゃいけませんよ。
「あぁ、おはよ。悪いんだけど、今日も寄りたい所があるんだ」
「えぇーっ、まじかよ!」
「え、そうなの……」
大袈裟にがっかりした春平の嘆きに混じって、小声で聞こえた彼女の呟き。きょとんとしてしまっているであろう顔で見つめると、ぽつりと言う。
「実は、あなたの家にカーディガンを取りに行きたいと思っていたの」
この件を切り出しにくかったから、悩んでいる表情をしていたんだ。
だけど、『あなたの家』発言が少し残念だなぁ。あそこは俺だけでなく、夏歩さんの家でもあるんだから。
「帰って来るのが遅くなるんだったら別の日にするわね」
「ううん、大丈夫。これを渡しておくよ」
家族になってから一度として帰って来なかった彼女が、自分から帰宅すると言ったんだ。
こんな貴重な前向きな機会を逃す訳にはいかなくて、鞄の内ポケットに入れっぱなしのまま渡せないでいた物を手渡す。
取り出したそれを、まるで初めて見た理解不能な何かのような顔でじっと見つめて、固まってしまっている。
「夏歩さん? 手を出してもらえると嬉しいんだけど」
おずおずと作られた両手の器の上に、銀色をした冷たさを預けよう。細いリングが付いただけそれは、家の鍵。
「えっ! ちょっと待て。本当にいいのか!?」
「何が?」
「だってこいつは今まで一度も家に帰って来てないんだろ? それに、秋が一緒に帰るんじゃない。そんな奴に鍵を手渡したりしたら、何か盗られたりさぁ!」
「お前なっ、夏歩さんは家族なんだよ! 失礼なことを言うな」
十センチほど低い位置にある後ろ頭を鷲づかみにして、額を机にぐりぐりと押し付けてやると痛みに喚く。全く、どうして春平は夏歩さんを敵視するかな。
「あの……、本当にいいの? 川縁くんの言う通り、私は信用の無い人間よ?」
「夏歩さんまで何を言ってるのさ。信用してなかったら鍵なんて渡さないよ」
そして彼女が呆然としている理由も分からない。家族の一員なんだから、自由に帰宅出来るのが当然じゃないか。
……って、ここで気づいた一つの事実。夏歩さんが家に帰るなら、北原さんとは一対一で会話しなければならない!?
うわー……、めちゃくちゃ緊張するな。また怒らせて胸倉を掴まれないようにしないと。
ホームルームまでの時間で、またもこう考えを巡らせる。……やっぱり分からない。頬杖をつきながらどれだけ唸っても、答えは見つからない。
周りからお前は心配性過ぎると言われる俺でも、ここまで考えを堂々巡りさせたことはなかったな。
あらゆる仮定をいくつも並べてみたけれど、結局は何も分からなかったんだ。何がって、昨日、北原さんが急に怒り始めた理由がさ。
胸倉を掴まれてしまうくらいに、彼を怒らせてしまった。なのに何故原因が分からない?
俺の存在が気に喰わなかった? それなら現れた時点で突っかかって来るよな。
二人きりの時間を邪魔されたくなかった? でも、夏歩さんに俺と一緒に帰るかどうかと問いかけていたっけ。
いつまでも解決されない疑問に小さく溜め息を零したと同時に、ふと過ったこと。そう言えばあの時、「あのババアが……」と言っていたよな。
動転していたから聞き違えたと思いたいけれど、直前に俺が口にしたのはまみさんの名前だった。
夏歩さんのお母さんをババア呼ばわりしているのか? まさかな。親友もしくは恋人の母親をババアだなんて……。
あれ、でもちょっと待てよ。思い返せば、夏歩さん達母子が会話をしている場面を見たことがない。ひょっとすると、夏歩さんとまみさんは不仲なのかな。
父さんが選んだ人、ましてや今では俺の母親でもある人を悪く言われるのは好ましくない。だけど、夏歩さんと付き合いの長い北原さんは、俺の知らない何かしらの事情を知っているのかもしれない。
……よし、今日もう一度彼に会ってみよう。そして出来れば真実を教えてもらおう。
怒らせたばかりの人と再度接触するのは緊張するけれど、このもやもやをそっとしておけそうにはないもんな。
北原さんにどう話を持って行こうか。まずは謝罪と挨拶だろうかと考えを始めた時に、
「あっ、夏歩さん!」
教室に入って来た人の名前を呼ぶ。振り向いた表情を見て、心臓が何者かにわしづかみにされてしまう。
眉間にはうっすらとしわが寄っていて、明らかに口元は下がっているんだ。昨日のことを怒ってるんだよな……。
「あの、昨日は後を付いて行ったりしてごめん。その、北原さんがどんな人なのか気になって。本当にごめんっ!」
思い切り目を瞑りながら、両手を合わせて謝罪する。すると、そんなに間を置かずに優しい声が聞こえた。
「冬夜もびっくりしていたけれど、大丈夫よ。あの、それよりも……」
……よ、良かったぁ。大丈夫だと言ってもらえた。ますます嫌われたんじゃないかと、かなり不安だったんだよ。
安心したものの、何やら口ごもって戸惑っている様子を見せる彼女。困り顔はますます色を濃くして、口数を少なくさせてしまう。何を言い掛けているんだろうか?
「おーっす! 秋、今日こそは遊べるよなっ?」
どうしたの、を唱えようとしたまさにその時に、真横からにょきっと現れた幼馴染に苦笑いを捧げよう。
春平くん。体当たりをしてこなかっただけましだけど、人と人が話している間を邪魔しちゃいけませんよ。
「あぁ、おはよ。悪いんだけど、今日も寄りたい所があるんだ」
「えぇーっ、まじかよ!」
「え、そうなの……」
大袈裟にがっかりした春平の嘆きに混じって、小声で聞こえた彼女の呟き。きょとんとしてしまっているであろう顔で見つめると、ぽつりと言う。
「実は、あなたの家にカーディガンを取りに行きたいと思っていたの」
この件を切り出しにくかったから、悩んでいる表情をしていたんだ。
だけど、『あなたの家』発言が少し残念だなぁ。あそこは俺だけでなく、夏歩さんの家でもあるんだから。
「帰って来るのが遅くなるんだったら別の日にするわね」
「ううん、大丈夫。これを渡しておくよ」
家族になってから一度として帰って来なかった彼女が、自分から帰宅すると言ったんだ。
こんな貴重な前向きな機会を逃す訳にはいかなくて、鞄の内ポケットに入れっぱなしのまま渡せないでいた物を手渡す。
取り出したそれを、まるで初めて見た理解不能な何かのような顔でじっと見つめて、固まってしまっている。
「夏歩さん? 手を出してもらえると嬉しいんだけど」
おずおずと作られた両手の器の上に、銀色をした冷たさを預けよう。細いリングが付いただけそれは、家の鍵。
「えっ! ちょっと待て。本当にいいのか!?」
「何が?」
「だってこいつは今まで一度も家に帰って来てないんだろ? それに、秋が一緒に帰るんじゃない。そんな奴に鍵を手渡したりしたら、何か盗られたりさぁ!」
「お前なっ、夏歩さんは家族なんだよ! 失礼なことを言うな」
十センチほど低い位置にある後ろ頭を鷲づかみにして、額を机にぐりぐりと押し付けてやると痛みに喚く。全く、どうして春平は夏歩さんを敵視するかな。
「あの……、本当にいいの? 川縁くんの言う通り、私は信用の無い人間よ?」
「夏歩さんまで何を言ってるのさ。信用してなかったら鍵なんて渡さないよ」
そして彼女が呆然としている理由も分からない。家族の一員なんだから、自由に帰宅出来るのが当然じゃないか。
……って、ここで気づいた一つの事実。夏歩さんが家に帰るなら、北原さんとは一対一で会話しなければならない!?
うわー……、めちゃくちゃ緊張するな。また怒らせて胸倉を掴まれないようにしないと。
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