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フロイライン

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「村上君」

「あ、理事長
お疲れ様です。」

グランドに向かおうとしていた男子硬式野球部監督の村上茂樹は、西岡理事長に名前を呼ばれ、慌てて一礼をした。

「富田君はどうだね?」

「はい。手続きが終了し、今日から練習に参加します。」

村上はでっぷりとしたお腹を突き出しながら、恭しく報告した。


「それは何よりだ。
無理して呼んだ甲斐があったってもんだよ。」

「ですが、理事長
彼はここに転校するまで丸和高校の野球部に所属していましたが、規約では当校の野球部で選手登録する事は不可能な筈です。
一体どうやって?」

「やむを得ずの転校であれば、特例で認められるという条項があるのを知らんのかね?」

「勿論知っていますが…」

「例えば親の仕事の都合での引越しとかね。」

「まさか、理事長」

「それくらいの事は考えてある。
親の仕事を私が斡旋して、引っ越させるくらいの事は容易いもんだよ。」

「そこまでされていたとは…」


「いや、それくらいしても欲しいのが富田君なんだよ。

まあ、彼くらいの実力の持ち主なら強豪校でバリバリやっているのが当たり前の事だから、それであれば私も手出し出来なかったよ。
しかし、何故か弱小校の丸和なんかで燻った事を知ってね。どうしても欲しくなってアプローチをかけたんだよ…」


「さすがですね。丸和などのようなマイナーな学校にまでアンテナを張られていたなんて」


「いや、水谷優里君がいた学校だからね、丸和は。
彼女の転校の事で色々してるうちに、富田君の存在を知ったってわけさ。」

「なるほど」


「そんな事より村上君
地区予選は勝ち進めそうかね?」

「…富田はたしかにすごい実力の持ち主です。我々のチームに加われば相当な戦力になることでしょう。

しかし、野球は九人でやるスポーツです。
富田と他のメンバーでは実力に差がありすぎます。

それに…打つ方はそれなりに誤魔化せても、投げる方は…
ウチのチームの肝は投手力です。

ある程度抑えてくれる力のある投手が柱でいてくれたら良いところまではいけるかもしれませんが…」


「そう言うと思ってたよ。
だから君をこうして呼び止めて話をしてるんだ。

村上君

今話していた水谷優里君をチームに迎えてはどうかね?」


「いや、でも、彼女は性転換して女性として…」

「そうだ。女性として野球を続け、全国優勝を夢見ていたが、連盟の愚かな決定により、その夢を断たれたのだ。

私は彼女の無念を晴らしてやりたいんだ。

どうだろう?」

「色々問題があるとは思いますが、彼女にその気があるのなら私が反対する権利はありません。

あくまでもその気があるのなら、です。」


「そうか。
それだけ聞ければ大丈夫だ。
後は私に任せてくれ。もう予選まであまりにも時間が無さすぎる。
急がないとな。」

西岡は微かに笑って言った。
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