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交差する思い
小さな背中
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蒼は福山に帰ってきた。
だが、実家には向かわなかった。
元住んでいた家は、差し押さえられてしまい、父はもう住んでいなかったからだ。
「ここのはず。」
蒼は、タクシーを降りると、メモを見ながら路地を進んだ。
「あ、ここだ。」
蒼は、一階に五軒ある部屋の奥から二番目のドアの前に立つと、ドアをコンコンとノックした。
しばらくすると、ドアが開き、見慣れた顔がドアの隙間から見えた。
いや、見慣れている筈だったが、やつれ果てて、無精髭を蓄えたその顔は、全くの別人に見えた。
「蒼太…」
父は、力なく蒼に声をかけた。
入船町から程近い、小さなアパートで一人で住んでいた。
中に入ると、蒼は、早速、高橋を紹介した。
「こちらは高橋悠生さん。
あの、実は…
ワタシ達、近いうちに結婚するつもりなの。
だから、一緒に付いてきてもらったの。」
「あの、高橋と申します。
突然にお邪魔しまして申し訳ありません。
蒼さんと真剣にお付き合いさせていただいております。」
高橋は、ガチガチになりながら頭を下げた。
「そうですか。
蒼太が大変お世話になっているようで…
堂々と蒼太の父ですと、ご挨拶したかったですが、こんな姿をお見せして恥ずかしいかぎりです。」
父は、いつものような威圧感もなく、弱々しい声で高橋に挨拶をした。
「お父さん、会社の方はどうなってるの?」
「倒産したよ。
あっけなくな。
もう不動産も含めて資産になるようなものは何も残っていない。」
「そうなの…」
「自己破産の手続きをする事になるが、再起は無理だよ。」
「お父さん、あのね
高橋さんとも話してたんだけど…
もしよかったら東京に来ない?」
「東京?」
「うん。
高橋さんと今、新居を探してるの。
そこにお父さんも一緒に住まない?」
「えっ、俺が?
それは迷惑をかけるだけだし、せっかくの新婚生活を邪魔したくないから、有難い話だけど遠慮しておくよ。」
「いえ、これは僕からも希望した事です。
親に感謝し、大切にするのは当然の事です。
自分は血の繋がりこそありませんが、蒼さんと一緒になったら、お義父さんとも家族になるわけですし…
どうでしょうか。
一緒に住んでいただけませんか。」
「高橋さん
あなたや蒼太の思いやりに感謝します。
しかし、私は感謝されたり大切にされたりする価値のない人間なんです。
ここにいる蒼太の悩みにも耳を貸そうとせず、子供の時から理不尽なまでの接し方をし、苦しませてきました。
今でこそ後悔していますが、かといって、それで全てが許されるわけではありません。
お気持ちだけ、有り難く受け取らせてもらいます。」
父は、二人の厚意を受け入れようとはしなかった。
だが、実家には向かわなかった。
元住んでいた家は、差し押さえられてしまい、父はもう住んでいなかったからだ。
「ここのはず。」
蒼は、タクシーを降りると、メモを見ながら路地を進んだ。
「あ、ここだ。」
蒼は、一階に五軒ある部屋の奥から二番目のドアの前に立つと、ドアをコンコンとノックした。
しばらくすると、ドアが開き、見慣れた顔がドアの隙間から見えた。
いや、見慣れている筈だったが、やつれ果てて、無精髭を蓄えたその顔は、全くの別人に見えた。
「蒼太…」
父は、力なく蒼に声をかけた。
入船町から程近い、小さなアパートで一人で住んでいた。
中に入ると、蒼は、早速、高橋を紹介した。
「こちらは高橋悠生さん。
あの、実は…
ワタシ達、近いうちに結婚するつもりなの。
だから、一緒に付いてきてもらったの。」
「あの、高橋と申します。
突然にお邪魔しまして申し訳ありません。
蒼さんと真剣にお付き合いさせていただいております。」
高橋は、ガチガチになりながら頭を下げた。
「そうですか。
蒼太が大変お世話になっているようで…
堂々と蒼太の父ですと、ご挨拶したかったですが、こんな姿をお見せして恥ずかしいかぎりです。」
父は、いつものような威圧感もなく、弱々しい声で高橋に挨拶をした。
「お父さん、会社の方はどうなってるの?」
「倒産したよ。
あっけなくな。
もう不動産も含めて資産になるようなものは何も残っていない。」
「そうなの…」
「自己破産の手続きをする事になるが、再起は無理だよ。」
「お父さん、あのね
高橋さんとも話してたんだけど…
もしよかったら東京に来ない?」
「東京?」
「うん。
高橋さんと今、新居を探してるの。
そこにお父さんも一緒に住まない?」
「えっ、俺が?
それは迷惑をかけるだけだし、せっかくの新婚生活を邪魔したくないから、有難い話だけど遠慮しておくよ。」
「いえ、これは僕からも希望した事です。
親に感謝し、大切にするのは当然の事です。
自分は血の繋がりこそありませんが、蒼さんと一緒になったら、お義父さんとも家族になるわけですし…
どうでしょうか。
一緒に住んでいただけませんか。」
「高橋さん
あなたや蒼太の思いやりに感謝します。
しかし、私は感謝されたり大切にされたりする価値のない人間なんです。
ここにいる蒼太の悩みにも耳を貸そうとせず、子供の時から理不尽なまでの接し方をし、苦しませてきました。
今でこそ後悔していますが、かといって、それで全てが許されるわけではありません。
お気持ちだけ、有り難く受け取らせてもらいます。」
父は、二人の厚意を受け入れようとはしなかった。
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