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捕球
しおりを挟む実家で花嫁修行をする亮輔は、久しぶりにのんびりとした時間をすごすことが出来ていた。
しかし、この田舎での生活で一つだけ困ることがあった。
それは女性ホルモンの注射をしてくれる病院が存在しないことだった。
店に出ていた頃はヒロミに教えてもらった美容外科で、ほぼ毎週ホルモン注射を打ってもらっていた。
そうやって定期的にホルモンの補填をしないと、睾丸の無い亮輔の体は自力で内分泌をコントロール出来ず、体調を崩してしまうのだ。
ネットで経口タイプのものを取り寄せても良かったが 個人輸入という形になるため、時間がかかってしまう。
どうしようか思案していると、ふと、前に同僚のニューハーフが話していたことを思い出した。
産婦人科でもホルモン注射を打ってくれるところがあるという内容の話を、確か聞いたことがある…
亮輔は早速、母親に聞いて地元の産婦人科に電話をした。
断られる可能性が高いと踏んでいたのだが、何故かすんなりOKしてくれたので ホッと胸をなで下ろした。
しかし、実際に足を運んでみると、美容外科とは全然勝手が違って、亮輔は一気に緊張感に包まれてしまった。
中に入って周りを見渡すと、ほぼ100パーセント女性で非常に辛いものがあった。
それでも目的を果たさなければいけない。
受付に行き
「すいません… 先ほどお電話しました松山と申しますが…」
と、小さな声で伝えると、受付にいた女性は
予想外の方向から聞こえてきた男性の声に
びっくりして顔を上げた。
それでも
前もって連絡していたこともあり、すぐに事務的な対応に戻った。
「それでは、体温測定とこれに御記入をお願いします。」
亮輔は体温計と問診表のようなものを渡されて椅子に座った。
やはり、どうも落ち着かない。
けれども、注射はどうしても打たなければならない…
亮輔はキツイ雰囲気の中、自分の名前が呼ばれるのをひたすら待った。
一時間は待っただろうか…診察室のドアが開いて、看護士の女性が呼び出しを行った。
「松山さん~! 松山亮輔さん!」
(ゲゲッ!下の名前まで言いやがった!!)
亮輔はその場から逃げたくなった。
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