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挙式
胸元が大きく開いた純白のウエディングドレスを着た亮輔に、タキシード姿でやや緊張気味の多村が、指輪を左手薬指にそっとはめ、誓いのキスをする。
それを涙を流しながら見守る美沙子。ここまで紆余曲折がかなりあったが、念願の結婚式を挙げる事が出来て、亮輔は女の幸せに包まれていた。ただし、他人の名前を語らなければいけないという負い目を感じながらではあるが…
ミスを犯すことなく、完璧に本田綾香を演じきった亮輔は、次に最大の難関である披露宴に臨むことになった。
ここには、組関係者が多数出席しており
場の雰囲気が悪くするような連中がゴロゴロしていた。
多村がなるべくヤクザ色を消すように命じていたため、美沙子達には多村がヤクザだということは、なんとかバレずに済んだ。
新婦側の友人や職場の同僚という面子もまた
多村が雇った偽物で、全てが虚飾に包まれた披露宴となった。
しかし、表向きはごく普通の結婚式で、仲人の挨拶や友人達によるお祝いのスピーチ、それらが滞りなく行われ順調に進んでいった。
多村はそれを楽しそうに見ては、席に座る亮輔に微笑みかけた。
亮輔は緊張して、あまり表情を崩さなかったが、チラッと多村を見て笑った。
しかし、この後に控える両親への手紙の朗読の事を考えると、憂鬱で仕方なかった。
とはいえ、この手紙も全くのデタラメな内容で、多村興業で働く女性スタッフが作ってくれたものを読むだけだった…
全てが仕組まれた結婚式と披露宴は、段取り通り進行し、あっけなく終了した。
「結婚式って… もっと感激するもんだと思ってた。」
亮輔はポツリと独り言を漏らした。
「すまねえな。また二人でちゃんとした式を挙げようや…ハワイかどっかでよ。」
多村は亮輔の肩に手をそっと置き、慰めの言葉をかけた。
しかし、亮輔は仕事の都合で新婚旅行にも行けず、そのまま家に帰らなければならないという侘びしさに包まれ、車の後部座席で少しふてくされてしまっていた。
「フッ… お前のそういう顔も悪くはないな。」
多村は亮輔の頬にキスをした。
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