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鹵獲編
再生
「再⽣医療では細胞や⼈⼯物を使って、もともと⼈が持っている成⻑‧発育する⼒、つまり、再⽣する⼒を引き出し治療していくんだよ。
⼈間は約60兆個もの細胞が集まってできていて、その全ての細胞も元をたどれば⼀つの受精卵から始まっている。
1つの卵⼦が精⼦を受け⼊れ、受精卵となり、それが分裂を繰り返し、神経‧筋⾁‧⾻などの成熟した細胞に姿を変え、組織や臓器が作られていく‥」
後藤の説明に、綾香はあくびをし、亮輔は首を傾げた。
「よくわかんないですけど、質問してもいいですか?」
「ああ、かまわないよ」
「こんな素晴らしい研究をしてるのに、なんで大学を辞めさせられたんですか?」
「だから、亮ちゃん
お金を横領したって説明したじゃん。」
綾香は、慌てて亮輔に耳打ちした。
「失礼な事を言うね。まあ、ほぼ事実だが。
だがね、大学を追われたときには、既にこの薬の実用化の目処が立っていたんだ。
敢えて完成させていなかった、という方が正確な表現かな。
今も大学では、この薬の開発に躍起になっているが、上手くいってないようだよ。
プロジェクトの中心にいた私が抜けたんだからね。
まあ、当然の流れとして、ノウハウを持っ私が、この新薬を先に開発してしまった、というのが本当のところさ。」
「‥」
「それに、こんな素晴らしい発明は、共産圏の国や中東から、売ってほしいと強い要望があってね、現在極秘裏に交渉中なんで、表立ってニュースに出る事はないよ。
大学側が完成させない限りはね。」
「売国奴ですね」
「まあ、何とでも言いたまえよ。
この世の中、金次第だ。
少しでも高く買ってくれるところに売りつける。
それでいい。」
「そんな物騒な国と交渉しても、最後は技術だけ掠め取られて、殺されるかもしれませんよ。」
「キミ、麗華ちゃんと一緒の顔してるのに、性格は最悪だね。」
「すいません。
でも、そんなスゴイ薬を、何故ワタシに投与してくれる気になったんですか?」
「ああ、その事ね。じゃあ、説明を続けるよ。
さっき話した再生医療に用いられる細胞の中に、幹細胞っていうものがあるんだが、幹細胞にも様々な種類があり、それぞれ異なる役割や性質を持っているんだ。
たとえば、多能性幹細胞、これは、我々の体の細胞であれば、どのような細胞でも作り出すことのできる細胞のことを幹細胞の中でも特に多能性幹細胞と言うんだ。
一方で、無限に増殖するため、意図しない細胞に分化するリスクや、ガン化するリスクがあるとされている。」
後藤は一気に捲し立てるように説明を行い、一呼吸置いてから続けた。
「これらの課題を解決するための研究も、当然進められていて、まあ、聞いたことあると想うが、代表的な2つを紹介しよう。
ES細胞は、不妊治療の際に使われないことが決まった受精卵(余剰胚)を⼈⼯的に培養して作られるんだが、どんな細胞にも変化でき、無限に増殖させることができる万能細胞だ。⼀⽅で、他⼈の受精卵を元に造られた細胞なので、この細胞を使った治療を⾏う場合に免疫拒絶反応の⼼配や、また、余剰胚ではあっても新しい⽣命の始まりとなる受精卵を使うため、倫理的な問題があるといわれてるね。
iPS細胞はヒトの⽪膚から採取した細胞に遺伝⼦を導⼊して、受精卵のような細胞にリセットすることで、⼈⼯的に造られた細胞なんだ。
ES細胞のような万能性を持っていることが期待されており、患者⾃⾝の細胞を使うので免疫拒絶反応の⼼配がなく、ES細胞のような倫理的な問題もなく使⽤することができる。
私が開発したのは、これ等の良い点だけを抽出した薬だ。
前もって培養なんてしなくてもいい、まさに夢の薬」
「へえ」
「まあ、麗華ちゃんやキミに投与するのは、副作用を見たいがためのモルモットの役目をさせたいだけで、互いにメリットがあるって話さ。」
「なんか、怖いなあ。」
「なあに、心配は要らないよ。
マウスでの実験は全て成功、そして、麗華ちゃんも成功、次はキミだけど、まず失敗はしない。」
「わかりました。その注射をお願いします。一度は諦めた人生です。
大概の事には耐えられると思います。」
「よろしい。なかなか度胸がいいね。
さすがは元男性だ。」
後藤は亮輔に、診察台に仰向けで寝るように指示し、注射の準備を始めた。
「再生したい部分に直接薬を投与する事によって、約48時間で再生する。」
後藤は亮輔の局部にアルコール消毒をすると、素早い手つきで注射針を突き刺した。
⼈間は約60兆個もの細胞が集まってできていて、その全ての細胞も元をたどれば⼀つの受精卵から始まっている。
1つの卵⼦が精⼦を受け⼊れ、受精卵となり、それが分裂を繰り返し、神経‧筋⾁‧⾻などの成熟した細胞に姿を変え、組織や臓器が作られていく‥」
後藤の説明に、綾香はあくびをし、亮輔は首を傾げた。
「よくわかんないですけど、質問してもいいですか?」
「ああ、かまわないよ」
「こんな素晴らしい研究をしてるのに、なんで大学を辞めさせられたんですか?」
「だから、亮ちゃん
お金を横領したって説明したじゃん。」
綾香は、慌てて亮輔に耳打ちした。
「失礼な事を言うね。まあ、ほぼ事実だが。
だがね、大学を追われたときには、既にこの薬の実用化の目処が立っていたんだ。
敢えて完成させていなかった、という方が正確な表現かな。
今も大学では、この薬の開発に躍起になっているが、上手くいってないようだよ。
プロジェクトの中心にいた私が抜けたんだからね。
まあ、当然の流れとして、ノウハウを持っ私が、この新薬を先に開発してしまった、というのが本当のところさ。」
「‥」
「それに、こんな素晴らしい発明は、共産圏の国や中東から、売ってほしいと強い要望があってね、現在極秘裏に交渉中なんで、表立ってニュースに出る事はないよ。
大学側が完成させない限りはね。」
「売国奴ですね」
「まあ、何とでも言いたまえよ。
この世の中、金次第だ。
少しでも高く買ってくれるところに売りつける。
それでいい。」
「そんな物騒な国と交渉しても、最後は技術だけ掠め取られて、殺されるかもしれませんよ。」
「キミ、麗華ちゃんと一緒の顔してるのに、性格は最悪だね。」
「すいません。
でも、そんなスゴイ薬を、何故ワタシに投与してくれる気になったんですか?」
「ああ、その事ね。じゃあ、説明を続けるよ。
さっき話した再生医療に用いられる細胞の中に、幹細胞っていうものがあるんだが、幹細胞にも様々な種類があり、それぞれ異なる役割や性質を持っているんだ。
たとえば、多能性幹細胞、これは、我々の体の細胞であれば、どのような細胞でも作り出すことのできる細胞のことを幹細胞の中でも特に多能性幹細胞と言うんだ。
一方で、無限に増殖するため、意図しない細胞に分化するリスクや、ガン化するリスクがあるとされている。」
後藤は一気に捲し立てるように説明を行い、一呼吸置いてから続けた。
「これらの課題を解決するための研究も、当然進められていて、まあ、聞いたことあると想うが、代表的な2つを紹介しよう。
ES細胞は、不妊治療の際に使われないことが決まった受精卵(余剰胚)を⼈⼯的に培養して作られるんだが、どんな細胞にも変化でき、無限に増殖させることができる万能細胞だ。⼀⽅で、他⼈の受精卵を元に造られた細胞なので、この細胞を使った治療を⾏う場合に免疫拒絶反応の⼼配や、また、余剰胚ではあっても新しい⽣命の始まりとなる受精卵を使うため、倫理的な問題があるといわれてるね。
iPS細胞はヒトの⽪膚から採取した細胞に遺伝⼦を導⼊して、受精卵のような細胞にリセットすることで、⼈⼯的に造られた細胞なんだ。
ES細胞のような万能性を持っていることが期待されており、患者⾃⾝の細胞を使うので免疫拒絶反応の⼼配がなく、ES細胞のような倫理的な問題もなく使⽤することができる。
私が開発したのは、これ等の良い点だけを抽出した薬だ。
前もって培養なんてしなくてもいい、まさに夢の薬」
「へえ」
「まあ、麗華ちゃんやキミに投与するのは、副作用を見たいがためのモルモットの役目をさせたいだけで、互いにメリットがあるって話さ。」
「なんか、怖いなあ。」
「なあに、心配は要らないよ。
マウスでの実験は全て成功、そして、麗華ちゃんも成功、次はキミだけど、まず失敗はしない。」
「わかりました。その注射をお願いします。一度は諦めた人生です。
大概の事には耐えられると思います。」
「よろしい。なかなか度胸がいいね。
さすがは元男性だ。」
後藤は亮輔に、診察台に仰向けで寝るように指示し、注射の準備を始めた。
「再生したい部分に直接薬を投与する事によって、約48時間で再生する。」
後藤は亮輔の局部にアルコール消毒をすると、素早い手つきで注射針を突き刺した。
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