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フロイライン

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「珀クン

昨日の今日で、気持ちは何も変わってないと思うんだけど、またウチに遊びに来てね。」

久美子は珀に優しげな口調で声をかけた。


「はぁ…」

だが、珀はまだ、昨日の秒殺事件を引きずっており、蚊の鳴くような声で返事をし、久美子の買った商品のバーコードをスキャンした。


「ワタシも是非、あなたと一緒に頑張りたいって思ってる。

お世辞抜きで、あなたには才能があると思ったわ。

フツーにやればミサトに不覚を取ることなんてなかったと思うし、それに、珀クンにはスター性があるわ。」

ミカの意外な言葉に、珀は思わず顔を上げた。


「桐生君、今ヒマだし、ちょっと外で話してきたら?

レジは俺見とくし。」


お人好しの兼子は、珀にそう言うと、強引にレジから追い出した。


珀は仕方なく、久美子とミカと三人で外に出た。


「あの、こんな僕を誘っていただいてすごく嬉しいんですが、新東京に落ちた事と、昨日の瞬殺で、プロレスへの夢を諦める事が出来ました。

もう少ししたら田舎に帰ろうと思っています。」   

外に出ると、珀は、さっき決断した事を二人に話した。


「そうなんだね…

もう、後悔はない?」


久美子は、相変わらずの優しい言い方で話しかけた。


「後悔がないと言ったら嘘になりますが、自分の中では吹っ切れることが出来ましたので…」


「ねえ、後悔ってものが少しでもあるんなら、こっちに残して帰っちゃダメだよ。」


ミカは、一歩前に出て、珀に顔を近づけて言った。


「でも…」


「ウチのプロレスをあなたに経験して欲しい。

大きな事を言えた立場じゃないけど、後悔なんてさせるつもりはないから。」


美しい顔をしていても、口から出る言葉はとことん熱いミカだった。


「ニューハーフのプロレスなんてって思うのは当然の事だし、世間の人もそんな目で見ているって事は否定できないわ。
でも、ワタシ達のプロレスはストロングスタイルで、ブックもない、ガチンコ勝負の世界なの。

ウチら以外にももう一つ団体があって、そことの対抗戦も始まったところ。

最近は、お客さんの見る目も変わってきたって実感してるし、ワタシ自身、すごく充実してる。

体が小さくても、一生懸命頑張ればスターになれるわ。」


「…」


「それと同時に、あなたが小さい頃から抱えている悩みを解決できるわ。」


「えっ、それは…」


「いいの。
ワタシもそうだし、ウチの子達もみんな同じだから。」

ミカは、真剣な眼差しで珀を見つめて言った。
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