泥々の川

フロイライン

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夢の出発点

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「着いたで。
ここのマンションの8階や。」


「えっ、めちゃくちゃ良いですやん。」


「ほぼ新築や。
ここの部屋ウチで買うたんや。」


「賃貸とちゃうんですか?」


「ちゃうちゃう。分譲や。
去年建ったとこや。」


「何でまた…」


「さっきも言うたやろ?

これも先行投資や。
久美子は俺が取ってくる仕事を頑張ったらええねん。」


「それは、もう、頑張るしかないですね。
責任重大やわ。」


「もう手は打ってあるから心配すな。
ウチの目論見通りな、ポルノでお前の事を見てくれたテレビ関係者っていうのが少なからずおるんや。
それと、このところのグラビアやろ。

関西ローカルや言うても、こっちの関係者と繋がってへんわけでもない。

つまり、既にお前の認知度は東京でもあるってことやし、実際に引き合いも来てるんや。」


「ホンマですか!

嬉しいっ。
ワタシ、頑張ります。」


「まあ、頑張ってや。

で、ここがお前の住む部屋や。」


甲斐は解錠すると、ドアを開けた。

真新しい匂いのするマンションの中を、恐る恐る覗き込む久美子だったが

「うわっ、ホンマにすごいですね!」

と、感激の面持ちで後ろにいる甲斐に言った。


「これまでも頑張ってきたからなあ、久美子は。
これからも頼むで。

ほな、俺は帰るし」


「甲斐さんはどちらに住まれてるんですか?」

「あー、俺も近くやで。
東陽町の方や。」


「そうですか。」


「一応、こっちに住んでる事務の女の子に頼んで、住むのに最低限必要なもんは買うといたから。

足らんもんあったら、また言うて。
自分で買いに行くんやったら領収書もろといてや。」


「わかりました。
ホンマにありがとうございます。」


「あ、そうそう。
俺も気をつけるけど、東京での活動が軌道に乗るまでは大阪弁禁止な。」


「えっ」


「漫才師と違って、アイドルなんかは大阪弁使わないだろ?
つまり、そういうことなんだよ。」


「うわあ、甲斐さん気色悪っ!」


「何がだよ!

わかったらさっさとお前も直せよ。」


「そんな事言われても、ワタシは大阪でも一番濃いとこ出身やから、なかなか抜けへんわ。」


「だから、大阪弁禁止!
罰金取るぞ、これから。」


「あ、すいません

気をつけます。」


「まあ、そういうことだから。
明日から早速活動開始するから、今日はゆっくり寝て体調を整えといてくれよ。

じゃあ。俺帰るし。」


「甲斐さん。
色々ありがとうございます。
ワタシ、頑張りますので、これからもよろしくお願いします。」


久美子は玄関で靴を履く甲斐に頭を下げた。

甲斐はそんな久美子を見て、あまりの美しさに一瞬固まってしまった。

「久美子はウチの大切な商品だから、変な気が起きる前に帰るよ。」

と、笑って言うと、そのままドアを開けて去っていった。

久美子は甲斐の言葉にドキッとして、暫くの間、ドアの前に立ち尽くした。
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