泥々の川

フロイライン

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恋人たちも売れる街角

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東京駅に大きなボストンバックを肩にかけた女性が降り立った。

佐野恭子だった。

久美子からの別れ話を一蹴したものの、すぐに会えないというもどかしさを我慢できず、久美子に内緒で東京にやってきたのだ。

しっかり者の恭子にしてはあまりにも無計画な旅だったが、久美子の住んでいる場所は電話で聞いて、メモに取ってあり、彼女にとってはそれで十分だった。
いきなり現れて久美子を驚かせたい。
前触れなく現れて考える隙を向こうに与えない。

やはり、恭子の久美子への想いはまったく変わっておらず、強固なものだった。



(でも、早く着きすぎたなあ。

今日は、袮留は生放送のレギュラーだったわね
よし、テレビ局の中で待たせてもらおう。)


恭子は駅のコインロッカーに荷物を放り込み、久美子がいる新宿のスタジオに向かった。


さすがに新宿では道に迷いまくった恭子は、やっとの思いで、スタジオの前に辿り着いた。

(すごい人…

みんなタレントさんが出てくるのを待ってる人達?)


恭子は出待ちで入り口のところに密集している人達をかき分け、奥に入っていった。

突き当たったところに屈強なガードマンが立っており、ルール無視の侵入者である恭子を睨みつけた。
しかし、恭子は臆する事なく、そのガードマンに

「友谷久美子さんの知り合いなんですけど、入れてもらえますか?」

と、言った。


「は?
許可証見せて。」

「そんなのありません」

「じゃあ、入れないよ。」

「えっ、何でですか?

友谷久美子さんを呼んでください。
私が友達だって証明してもらいますから。」


「ダメダメ、そんなこと許したらとんでもない事になっちゃうよ。
さあ、帰って」

ガードマンは取り合わず、当然の如く恭子を門前払いした。

普通に考えればダメな事は一目瞭然だが、勉強ばかりして、ロクに遊んでいない恭子には、少し浮世離れした面があった。

アテが外れた恭子はどうしていいかわからず、スタジオの外の植え込みの前にある柵にもたれかかり、途方に暮れていた。

そのときである

「ねえねえ」

と、声をかけて来るものがいた。

声の方向に視線を向けると、若い男が二人が側に立っていた。

恭子は怪訝な表情を浮かべ

「何ですか?」

と、答えた。


「お姉さん、このスタジオに入りたいんだよね?

俺ら、ここに出入り出来んだけど、よかったら入れてあげようか?」

と、背の高い方の男が言った。


「どういうことですか?
あなた達は学生じゃないんですか?」

見た目が自分と変わらないと判断した恭子は、胡散臭さを感じて、そう答えた。
だが、終始話しかけてくる方の背の高い男は、動じる事なく

「そうだよ、俺もコイツも大学生。
でも、ウチのオヤジが会社の社長でね。
ここの局の番組のスポンサーになってんだよ、それも何本も。
だから、俺もその友達も顔パスで入れるんだ。

何なら試してみる?」

と、言った。
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