261 / 313
悲願
しおりを挟む
「やったあーーっ!!
優勝やあっ!」
昭和60年10月16日
東京は神宮球場のレフトスタンドで、久美子の父誠は号泣していた。
「もう、お父さん
泣かんといてよ」
隣の席で、久美子も父の姿を見ながら笑い、そしてもらい泣きしてしまった。
大阪で生まれ育ち、どんなときも阪神タイガースを応援してきた誠にとって、昭和39年以来21年ぶりのリーグ優勝を果たしたこの日は、人生において忘れられない日となった。
「俺はもう思い残す事はない!
久美子、こんな記念すべき試合を生で見せてくれてありがとう。」
球場を出て、帰りながら、誠はまだまだ興奮状態で、久美子に熱く語り、そして、礼を述べた。
「どうせやったら勝って優勝を決めれたら良かったけど、引き分けでも優勝やもんね。」
「おう、そうやで。
家でサンテレビで見るんもええけど、やっぱり生で見るんは最高や。」
「うん。ホンマに。」
「久美子…」
「どないしたん?
お父さん」
「お前、まだまだ辛いはずやのに、俺のために明るく振る舞ってくれてありがとうな。
こんなダメな親父やのに。」
「何を言うてんのよ。
少しくらいは親孝行させてよ。」
「そんなん、してもらう資格は俺にはない。
お前にしてきた酷いことの数々を、許してもらおうなんて虫の良すぎる話や。
ずーっと後悔ばかりでなあ…
今は真面目に生きてるつもりやけど、それでどないかなるとは思てへん。」
「十分よ、お父さん
ホンマに…」
「久美子、大阪に帰ってくるか?」
「えっ」
「帰ってきたところで、別に何もしてやれんけど…
こっちにおっても、色々思い出して辛いやろうから、お前さえよければ…」
「お父さん…
ありがとう。
めっちゃ嬉しいわ。そう言うてもらえて。」
「いや…」
「でも、もう大丈夫よ。
ワタシにはお父さんもおるし、支えてくれてる人が沢山おるんやもん。
そう考えたら、いつまでも塞ぎ込んでられへんて思ってね。」
「そうか。」
「元々お世話になってた京活プロからね、声をかけてもろてるんよ。
また、マネージメントをさせてほしいって。
だから、年末くらいから徐々に復帰しようかなって、そう考えてるのよ。」
「お前がそう決めたんやったら、俺から何も言う事はないわ。
元気でいてくれたらな。
で、疲れたり、なんか辛い事があったときは、いつでも帰ってくるんやで。」
「うん。
ありがとう。
お父さんこそ、ずっと元気でいてね。」
久美子はそう言うと、誠の腕に縋りついた。
優勝やあっ!」
昭和60年10月16日
東京は神宮球場のレフトスタンドで、久美子の父誠は号泣していた。
「もう、お父さん
泣かんといてよ」
隣の席で、久美子も父の姿を見ながら笑い、そしてもらい泣きしてしまった。
大阪で生まれ育ち、どんなときも阪神タイガースを応援してきた誠にとって、昭和39年以来21年ぶりのリーグ優勝を果たしたこの日は、人生において忘れられない日となった。
「俺はもう思い残す事はない!
久美子、こんな記念すべき試合を生で見せてくれてありがとう。」
球場を出て、帰りながら、誠はまだまだ興奮状態で、久美子に熱く語り、そして、礼を述べた。
「どうせやったら勝って優勝を決めれたら良かったけど、引き分けでも優勝やもんね。」
「おう、そうやで。
家でサンテレビで見るんもええけど、やっぱり生で見るんは最高や。」
「うん。ホンマに。」
「久美子…」
「どないしたん?
お父さん」
「お前、まだまだ辛いはずやのに、俺のために明るく振る舞ってくれてありがとうな。
こんなダメな親父やのに。」
「何を言うてんのよ。
少しくらいは親孝行させてよ。」
「そんなん、してもらう資格は俺にはない。
お前にしてきた酷いことの数々を、許してもらおうなんて虫の良すぎる話や。
ずーっと後悔ばかりでなあ…
今は真面目に生きてるつもりやけど、それでどないかなるとは思てへん。」
「十分よ、お父さん
ホンマに…」
「久美子、大阪に帰ってくるか?」
「えっ」
「帰ってきたところで、別に何もしてやれんけど…
こっちにおっても、色々思い出して辛いやろうから、お前さえよければ…」
「お父さん…
ありがとう。
めっちゃ嬉しいわ。そう言うてもらえて。」
「いや…」
「でも、もう大丈夫よ。
ワタシにはお父さんもおるし、支えてくれてる人が沢山おるんやもん。
そう考えたら、いつまでも塞ぎ込んでられへんて思ってね。」
「そうか。」
「元々お世話になってた京活プロからね、声をかけてもろてるんよ。
また、マネージメントをさせてほしいって。
だから、年末くらいから徐々に復帰しようかなって、そう考えてるのよ。」
「お前がそう決めたんやったら、俺から何も言う事はないわ。
元気でいてくれたらな。
で、疲れたり、なんか辛い事があったときは、いつでも帰ってくるんやで。」
「うん。
ありがとう。
お父さんこそ、ずっと元気でいてね。」
久美子はそう言うと、誠の腕に縋りついた。
1
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる