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異世界旅館④
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部屋までの道のりは驚きの連続だった。
まずは床が全面ガラス張りになっており、優雅に泳ぐ鯉の姿を間近で見ることが出来た。
さらに、壁に設置されたボタンを押すと壁が変形し、鯉の餌が自動で準備された。
さらにさらに、隣のボタンを押すと人が上に乗っていないガラスの周りに柵が出現した。
さらにさらにさらに、柵で囲われたガラスは姿を消し、餌やりをするための穴が生成された。
この旅館が人気な理由の1つであることは間違いない。
木のいい匂いに包まれた道は、心がとても安らいだ。
しばらく道に沿って歩いていると、シンプルな横開き式の扉が見えてきた。
女将さんはその扉の前で立ち止まった。
「お客様到着いたしました。
こちらが女性の方に泊まって頂くお部屋になります」
扉のすぐ横に、『桜の間』と書かれている。
しかし、それにしてもシンプルな扉だ。
ひねりがあるようには見えない。
「失礼かもしれないですが、随分シンプルな扉なんですね」
「いえいえ、失礼だなんてとんでもございません。
初めてこの旅館にいらっしゃったお客様は、みなさんそうおっしゃられますから」
「そうなんですね……」
当たり前だ。
全てが完璧なこの旅館において、唯一この扉だけ足を引っ張っているのだから。
十分素晴らしい場所ではあるのだが、少しだけ物足りない気がした。
そんな時だった。
「むむむ! この扉、何か仕掛けがある!」
スラが何かに気づいたらしい。
その様子に、女将さんも笑顔を浮かべている。
「ではこちらの鍵を使って、鍵を開けて見てください」
スラは女将さんから鍵を受け取り、鍵を開けた。
その瞬間、桜の花びらが舞い始めた。
床に落ちると、何事も無かったかのように消えていく。
不思議な花びらだった。
「お客様、もう一度扉をご覧下さい」
俺たちは言われた通り、視線を扉へと移した。
「わぁ……綺麗なのです……」
「こいつはすげぇ……」
ひらひらと舞い落ちる桜吹雪、桜が描かれた両開きの扉、桜の花びらを模した持ち手。
全ての要素が『桜の間』の名に相応しい。
これでこそ、この旅館だ。
「じゃあ、ここで夢くんと水月さんとは一旦お別れですね」
「そうだな」
「おう」
女子チームはメルの後に続き、手を振りながら部屋の中に入っていった。
最後尾にいたキュレルとイムは、俺たちにこう言った。
「また後でね」
「夢さん、水月さんお先に失礼します」
ガラガラと扉が閉まり、女将さんと男子チームが残った。
9人もいなくなると、友達と旅行に来た高校生のような気分になる。
「それでは、お2人に泊まっていただくお部屋へとご案内いたします」
「よろしくお願いします」
「おう、よろしくな。
それより、 親友と2人きりってのは最高だな」
水月がニコニコしながら言った。
その時だった。
ガラガラと扉が開き、中からキースが出てきた。
出てきたキースからは、殺意のようなとても重たいオーラを感じる。
特に水月は強く感じているらしく、額から汗が滝のように流れ落ちている。
「キースどうしたの?」
「何か良くないことが聞こえて来たから出てきた」
「良くないこと?」
「うん。2人きりが最高って聞こえた」
ギラりと水月を睨む水月。
俺の方を向き、助けを求める水月。
この状況を楽しんでいるのか、ニコニコと微笑んでいる女将さん。
俺は静かに視線を下へ逸らした。
「女将さん、私も行っていい?」
キースが女将さんの顔を見ながら尋ねる。
これは止めなければまずいと本能が言っている。
「女将さん……男と一緒に泊まるのは……ねぇ……?」
俺は女将さんに助けを求めた。
「いいえ、泊まって頂いて結構です。
私共はとりあえず、男性と女性に分けさせて頂いただけですのでご自由にどうぞ」
「お、女将さん……なんで……」
こうしてキースは、俺と水月の部屋に泊まることとなった。
まずは床が全面ガラス張りになっており、優雅に泳ぐ鯉の姿を間近で見ることが出来た。
さらに、壁に設置されたボタンを押すと壁が変形し、鯉の餌が自動で準備された。
さらにさらに、隣のボタンを押すと人が上に乗っていないガラスの周りに柵が出現した。
さらにさらにさらに、柵で囲われたガラスは姿を消し、餌やりをするための穴が生成された。
この旅館が人気な理由の1つであることは間違いない。
木のいい匂いに包まれた道は、心がとても安らいだ。
しばらく道に沿って歩いていると、シンプルな横開き式の扉が見えてきた。
女将さんはその扉の前で立ち止まった。
「お客様到着いたしました。
こちらが女性の方に泊まって頂くお部屋になります」
扉のすぐ横に、『桜の間』と書かれている。
しかし、それにしてもシンプルな扉だ。
ひねりがあるようには見えない。
「失礼かもしれないですが、随分シンプルな扉なんですね」
「いえいえ、失礼だなんてとんでもございません。
初めてこの旅館にいらっしゃったお客様は、みなさんそうおっしゃられますから」
「そうなんですね……」
当たり前だ。
全てが完璧なこの旅館において、唯一この扉だけ足を引っ張っているのだから。
十分素晴らしい場所ではあるのだが、少しだけ物足りない気がした。
そんな時だった。
「むむむ! この扉、何か仕掛けがある!」
スラが何かに気づいたらしい。
その様子に、女将さんも笑顔を浮かべている。
「ではこちらの鍵を使って、鍵を開けて見てください」
スラは女将さんから鍵を受け取り、鍵を開けた。
その瞬間、桜の花びらが舞い始めた。
床に落ちると、何事も無かったかのように消えていく。
不思議な花びらだった。
「お客様、もう一度扉をご覧下さい」
俺たちは言われた通り、視線を扉へと移した。
「わぁ……綺麗なのです……」
「こいつはすげぇ……」
ひらひらと舞い落ちる桜吹雪、桜が描かれた両開きの扉、桜の花びらを模した持ち手。
全ての要素が『桜の間』の名に相応しい。
これでこそ、この旅館だ。
「じゃあ、ここで夢くんと水月さんとは一旦お別れですね」
「そうだな」
「おう」
女子チームはメルの後に続き、手を振りながら部屋の中に入っていった。
最後尾にいたキュレルとイムは、俺たちにこう言った。
「また後でね」
「夢さん、水月さんお先に失礼します」
ガラガラと扉が閉まり、女将さんと男子チームが残った。
9人もいなくなると、友達と旅行に来た高校生のような気分になる。
「それでは、お2人に泊まっていただくお部屋へとご案内いたします」
「よろしくお願いします」
「おう、よろしくな。
それより、 親友と2人きりってのは最高だな」
水月がニコニコしながら言った。
その時だった。
ガラガラと扉が開き、中からキースが出てきた。
出てきたキースからは、殺意のようなとても重たいオーラを感じる。
特に水月は強く感じているらしく、額から汗が滝のように流れ落ちている。
「キースどうしたの?」
「何か良くないことが聞こえて来たから出てきた」
「良くないこと?」
「うん。2人きりが最高って聞こえた」
ギラりと水月を睨む水月。
俺の方を向き、助けを求める水月。
この状況を楽しんでいるのか、ニコニコと微笑んでいる女将さん。
俺は静かに視線を下へ逸らした。
「女将さん、私も行っていい?」
キースが女将さんの顔を見ながら尋ねる。
これは止めなければまずいと本能が言っている。
「女将さん……男と一緒に泊まるのは……ねぇ……?」
俺は女将さんに助けを求めた。
「いいえ、泊まって頂いて結構です。
私共はとりあえず、男性と女性に分けさせて頂いただけですのでご自由にどうぞ」
「お、女将さん……なんで……」
こうしてキースは、俺と水月の部屋に泊まることとなった。
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