世話役転生 〜生きるためなら、魔王娘の世話役くらいなってやる〜

9話 主従の契約

　しばらくして、パパさんとママさんが戻ってきた。

「おやおや、随分と仲がいいようだね」

「にゃっ、全然そんなことないにゃ！」

「いや、もういいんだよ」

　必死に首を横に振るクロさんに対して、パパさんは優しくそう言った。
　つまり、そういうことだ。

「ハース、あなたの提案を受け入れるわ」

「ママさん、ありがとうございます」

「ま、まぁあれよ。
　勝手に決めつけたこっちも悪かったわ」

　うーん、これをツンデレと言うのだろうか。
　俺にもっと知識があれば、明確な答えが出せたのに。
　くそっ！

「そういえば、主従の契約についてハースくんは何か知っているのかい？」

「いえ、特に知識はありません。
　でも、不思議と出来る気がします」

「そ、そうなんだね……」

　あれ？
　もしかして今、引かれた？

「まぁとりあえず、シェルヴィを連れてこないことには始まらないよね」

　パパさんはそう言うと床の魔法陣に姿を消し、1秒後再び魔法陣から戻ってきた。
　隣にはシェルヴィを連れている。

「パパ、いきなり連れてきてどうしたのだ？」

　あぁ、なぜかとても懐かしく、愛おしく感じてしまう。

「シェルヴィ、よく聞いてね。
　今からシェルヴィには、ハースくんと主従の契約を結んでもらう。
　これはハースくんを世話役として残すための必須事項なんだ」

　さて、どうなることやら……。

「ふーん、分かったのだ」

　えっ、決断早っ！
　……じゃなくて、ことの重要性が分かっていないパターンだろこれっ！

　流石にこれは、ねぇ……。
　パパさん、何か言ってやってくださいよ。

「よしよし、よく言えたね。
偉い偉い」

　あっ、親バカだ！

「では、主従の契約を交わす前に、ハースくんに課す縛りを伝える。
　1つ、古の魔法を悪い目的で使用することを禁止する。
　2つ、魔女と関わりを持つことを禁止する。
　3つ、清き心を持ち続けること。
　以上」

　なるほど……。
　うん、とてもいいと思う。

「我ハース・シュベルトは、その縛りを全て受け入れます」

　俺は右膝を地面に付け、その時を待った。

「よし、それじゃあ早速主従の契約に移ろう。
シェルヴィ！」

「は、はいなのだ！」

「ハースくんの前に行きなさい」

「わ、分かったのだ……」

　緊張感溢れる現場とは、こういう場所のことをいうのだろう。

「さぁシェルヴィ、右手を前に」

「はいなのだ」

　シェルヴィの右手が、俺の顔の前に出された。

「我ハース・シュベルトは、あなた様に一生の忠誠を誓い、ここに主従の契約を結ぶことを宣言します」

　俺はシェルヴィの手の甲に優しくキスをした。

「わ、分かったのだ！
　我が一生、お前の面倒を見てやるのだ！」

　すると、シェルヴィの右手の甲と俺の首に同じ模様の魔法陣が浮かび上がった。
　どうやら、無事に契約されたようだ。

「終わったのかい？」

「終わったのかしら？」

「終わったのにゃ？」

「終わったのですか……にゃ？」

　意外とあっけなく終わった主従の契約に、4人は驚いている。
　というか、シロさんはいつからそこに……。
　気づけば、固まっていたはずのシロさんが3人の横で一緒になって並んでいた。

「とりあえず、これで信用してもらえましたか？」

「えぇ、もちろんよ」

「あぁ、もちろんさ」

「これでまた、美味しい肉じゃがが食べられるにゃ！」

「改めてよろしくお願いします……にゃ」

　はぁ、何とか助かった。
　一難去ってまた一難とは、こういう時に使う言葉だったのか。
　この言葉を考えた人はさぞ、大変な人生を歩んだことだろう。

「おい、従者」

「はい、ご主人様。
　どうかされましたか？」

「よ、呼んでみただけなのだ！
　こっちを向くでない！」

「はい、申し訳ありません」

　この程度でカァァァっと顔を真っ赤にしている辺り、シェルヴィに悪用するつもりはないだろう。
　これでようやく、世話役としての人生を歩んでいけそうだ。