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27話 シェルヴィ様は泳ぎたい!3

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 その後、俺とシェルヴィ様は水深約70センチの浅いプールの方に入った。

 ちなみに、シロさんはサンベッドチェアを俺たちのすぐ近くまで移動させ、猫のように寝転がりながら見守ってくれている。
 ほんと、心強くて頼りになる人だ。

「シェルヴィ様、どうですか?」

「う、うむ……。
 少し冷たいのだ」

「あっ、そうなんですか。
 あはは……」

 思ってた回答と違う!
 でももしかして、水が怖いわけではないのか?
 シェルヴィ様の身長は、おそらく120センチ前後。
 このプールなら余裕で頭が出る。
 深いプールは……うん、厳しそうだ。

「じゃあシェルヴィ様、まずは水に顔をつけてみましょうか」

「か、顔をつける……だと……」

 ありゃま。
 露骨に嫌そうな顔するじゃ無い。
 こほん、失礼。
 ついおばちゃん口調になってしまった。

「水は怖いですか?」

「うむ。
 だって、溺れたら死ぬかもしれないのだ」

 へぇ、顔をつけられない人はこういう事を考えているのか。
 ……シェルヴィ様には悪いが、全く理解出来ない。
 でも、大丈夫。

「シェルヴィ様」

「ん?」

「大丈夫です。
 もしもシェルヴィ様が溺れそうになったら、この命に変えてでも、必ずお助けいたします!
 ですので、どうぞ安心してください」

「そ、そうか……!
 うむ。
 従者として励むとよいのだ」

 そう。
 恐怖心に打ち勝つ方法の1つは、安心感だ。

「ありがとうございます。
 それでは早速、10秒ほどつけてみましょうか」

「う、うむ……。
 やってやるのだ」

 そして、シェルヴィ様は大きく息を吸うと、水に顔をつけた。

「1、2、3……」

 正直、これだけでかなりの時間を取られると思っていたが、流石はシェルヴィ様。
 少し身体が震えてはいるものの、しっかりと自らを律している。

「……8、9、10!
 おぉ、シェルヴィ様お見事です!」

「ぷはぁ!
 ふっ、ふっ、ふ、これ、くらい、出来、て、当然、なのだ」

 シェルヴィ様……。
 声、震えてますよ。

「そうですよね!
 次、次いきましょう!」

 こういう時は、このいい流れに身を任せて押し切るのが効果的な気がする。

「じゃあ次は、水中に顔を入れたり、出したりしながら呼吸をする『ボビング』をやってみましょうか」

「ぼびぃくん?」

 いや、それ誰っ!
 ……とか、ツッコミ待ちじゃないよね……。

「シェルヴィ様、ボビングですよ」

「ぼびんぐ……。
 なんか可愛いのだ!」

 おぉ、なんか勝手にシェルヴィ様のテンション上がったんだけど!

「シロさん!」

「はい、どうされました……にゃ?」

「よければなんですけど、ボビングの練習を手伝ってもらえませんか?」

「分かりました……にゃ」

 そして、俺はシロさんと交代し、プールから出た。

「シェルヴィ様、ボビングとはこういうものです……にゃ」

 おっ、シロさんが実演してくれてる。
 あれならシェルヴィ様も理解しやすいだろう。
 流石はシロさんだ。

「鼻から吐いて口で息を吸う……。
 うむ、今の我なら出来そうな気がするのだ」

 よしっ、これで一旦離れてもよさそうだな。
 俺はプールサイドに置かれたインテリア的存在の岩に隠れ、作業を始めた。

 長方形……発砲スチロール……分厚すぎず……大きすぎず……。

「物質生成!」

 まぁ、大体こんな感じだったよな……。
 俺が作ったのは、みなさんご存知のビート板だ。
 もちろん、色はシェルヴィ様カラーの赤と黒だ。

「……ってか、物質生成出来ちゃった。
 一応これも、秘密にしとくか」

 そして、俺は再びシェルヴィ様とシロさんの元へ戻った。

「すみません、戻りました!」

「おっ、ハース!」

 あれ、この自慢げな顔……まさか。

「ふっふっふ、ボビング習得なのだ!」

「はい、シェルヴィ様お見事です……にゃ」

「おぉ、流石ですね!」

「ふっふっふ、ふっふっふ、ふっふっふ、これくらい出来て当然なのだ」

 それより、これはベストタイミングなんじゃないか。

「シェルヴィ様」

「ん?
 どうしたのだ?」

「次はこれを使って、息継ぎとバタ足の練習をしてみましょう」

 そう言って、俺は背中に隠しておいたビート板を取り出し、シェルヴィ様に手渡した。

「ほぅほぅ……。
 これは……なんかザラザラしてて気持ち悪いのだ」

 ポイッ。
 す、捨てられた……。
 しかし、シェルヴィ様がプールに投げ捨てたビート板は水に触れる前にキャッチされた。

「これ、もらってもいいですか……にゃ?」

「あっ、はい。
 シェルヴィ様が要らないとおっしゃられたので、是非もらってあげてください……」

「ほわぁ……!
 嬉しい……にゃ」

 ビート板にスリスリと頬を擦り付けるシロさん。

「か、可愛い……」

 俺の口から無意識に言葉が出た。
 こんな経験は初めてだ。

「ぐぬぬぬぬ……。
 やっぱり我が使うのだ!
 シロ、早くそれをよこすのだ!」

 強く右手を差し出すシェルヴィ様。

「え……。
 はい、仰せのままに……にゃ」

 なんとも言えない空気が流れるプール。
 別にビート板くらい、いつでも作れるんだけどな……。
 とても言い出せる空気じゃない。

 ここは是非、シロさんに我慢していただきたい。
 シロさんには申し訳ないが、今の優先事項はシェルヴィ様が泳げるようになることなのだ。
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