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EP1 縛りプレイとソフト調達
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「このタイミングでVRMMOだぁ~!?」
スマートフォンの通話アプリに、天野武久からコールがあったのは、来週から中間テストになろうという金曜日の午後10時だった。梅雨入り前の鬱陶しいくらいの湿度に、エアコンの除湿モードをかけてから眠りにつこうかと考えていたところでの突然の連絡に、何かあったのではと慌ててスマホを手にしたものの、何のことはない、ゲームの誘いの電話であった。
「それがさぁ、何でも明日発売になる新作のVRMMO RPGが、とんでもない完成度で、それはもう現実と見まごう世界で冒険ができるらしいんだと。そんなわけで、明日早速買ってプレイしてみないか?」
武久のこういう突然の思いつきには慣れていたが、さすがに時期が悪いだろう――電話を受けてしまった一条透は、反射的にあきれた声を上げた。
「透のことだから、週末だけは勉強して、中間テストを乗り切ろうって算段だろうが、まーそんなに結果は変わりゃしないだろー」
スマホをスピーカーモードにして机に置き、エアコンのリモコンに手を伸ばしながら、さて、どう返事をしたものかと考えていた。
この悪友はこう見えて中学時代は学年トップ10に入るほどの成績優秀者で、この週末をVRMMOに捧げたとしても、間違いなく中間テストを乗り切るだけの実力があった。
対する透は、足の速さと軽い身のこなしには相当の自信があったが、勉強に関しては中の下くらいをさまよっていた。
「あのな、タケ……おまえはもう忘れてしまったのかも知れないが、俺はおまえと同じ高校に入って青春を謳歌するために、血の滲むような努力をして、なんとか入学したんだぜ? それを、入学早々初めての中間テストで惨めな結果を収めるなんて、まっぴらだっつーの」
「ま、それも、そうだな。いや、残念。実はな、発売日から数日だけ限定で、初期ログインプレイヤーのためだけのイベントやら限定アイテムやらも実装されてるって話だから、せっかくなら一緒に楽しんで起きたかったんだがな」
「そういうのは、タケが集めておいて、あとで分けてくれれば良いからさー」
「調子いいやつだなぁ。ま、いいけど。それじゃ、俺は明日に備えてネットで事前情報でも探してから寝るとするよ。おやすみ」
「ああ、おやすみ」
透は机の上に置いたスマホの通話を切ると、そのまま部屋の灯りを暗くしてベッドに横たわった。
「新作のVRMMOか……週明けにでも、タケに様子を聞いてみるかな……」
目を瞑りながらそんなことを独りごちていると、すぐに眠りに落ちていった。
――次の金曜日。
結局、テスト期間中にタケから連絡が来ることはなく、透も自分のことで精一杯で連絡どころではなかった。慌ただしく中間テストは終わり、同じタイミングで季節は梅雨に入っていた。
金曜日は午前中のテストを終えると、そのまま下校となった。テストを乗り切ったか確証はなかったが、まずは終わったことへの開放感に浸りながら、透は帰路についたが、途中で比較的大きなロードサイドの家電量販店に足を向けていた。
お店の中に入ると、まっすぐにゲームソフトのコーナーに向かった透は、でかでかと宣伝されている新作VRMMOのゲームをすぐに見つけられた。
『Real Role Online』
それがそのゲームソフトのタイトルだった。人気のためか、ゲームソフトのパッケージは数えるほどの在庫になっていた。透はその一つを手に取って、キャッチコピーを眺めた。
「『夢と冒険が詰まったファンタジーの世界で、本当にリアルな体験を貴方に』、か……。タケの事前情報によると、まさに看板に偽りなしって感じなのかな」
「まったくその通りだぜっ!」
「ぐわわっ!」
素っ頓狂な声を上げて、透はいきなり声のした方を振り返った。
「……タケ!? なんでここにいるんだ?」
「よう、やっぱり俺の読んだとおり、まっすぐここに来たって訳だな」
ニヤニヤしながら立っていたのは、同じく学校帰りであろう武久だった。
「透のことだ、俺との友情のために、テストが終わったらすぐにでもプレイしてくれるだろうと思ってたんだよ」
「ま、まーな。俺も、スマホのニュースを見たりしたら、話題になっているみたいだったから、気になっててさ」
「だろ? こちとら先週末から毎日ログインしてるけど、ちょっとゲームのクオリティが高すぎて、現実世界に戻ってくるのがつらいぐらいだったしな。プレイヤーの数も毎日増えていってる感じだよ」
「テスト期間中もって、そりゃすげーな……。そうなると、今からはじめるにしても、タケに追いつくのは当分先になりそうだなぁ……」
「そんなこともあろうかと思って、この俺が序盤の攻略のコツみたいなのをまとめてきたから、これ読んで進めてみればすぐ追いつくはずだ」
武久はそう言って、リュックの中から十数枚の紙の束を取り出した。お手製のガイドになっているらしい。
「サンキュー、タケ! じゃ、これからソフト買って帰るから、今日の夜にはログインできると思う。もしゲームの中で会えたら会おうぜ!」
「ああ、わかった! じゃあ、俺はちょっと別のところに寄っていくから、先に帰ってるわ」
透がゲームソフトをレジに持って行くのを横目で見ながら、武久は一人店を出た。
「さて、と。透は一人でなんとかなるだろうから、問題はもう一人の方だな……」
武久は、雨がいつ降ってもおかしくないような、梅雨時の曇り空を見上げて、一度大きく背伸びをした。そして、高校とは反対方向の住宅街に向かって歩き出した。
スマートフォンの通話アプリに、天野武久からコールがあったのは、来週から中間テストになろうという金曜日の午後10時だった。梅雨入り前の鬱陶しいくらいの湿度に、エアコンの除湿モードをかけてから眠りにつこうかと考えていたところでの突然の連絡に、何かあったのではと慌ててスマホを手にしたものの、何のことはない、ゲームの誘いの電話であった。
「それがさぁ、何でも明日発売になる新作のVRMMO RPGが、とんでもない完成度で、それはもう現実と見まごう世界で冒険ができるらしいんだと。そんなわけで、明日早速買ってプレイしてみないか?」
武久のこういう突然の思いつきには慣れていたが、さすがに時期が悪いだろう――電話を受けてしまった一条透は、反射的にあきれた声を上げた。
「透のことだから、週末だけは勉強して、中間テストを乗り切ろうって算段だろうが、まーそんなに結果は変わりゃしないだろー」
スマホをスピーカーモードにして机に置き、エアコンのリモコンに手を伸ばしながら、さて、どう返事をしたものかと考えていた。
この悪友はこう見えて中学時代は学年トップ10に入るほどの成績優秀者で、この週末をVRMMOに捧げたとしても、間違いなく中間テストを乗り切るだけの実力があった。
対する透は、足の速さと軽い身のこなしには相当の自信があったが、勉強に関しては中の下くらいをさまよっていた。
「あのな、タケ……おまえはもう忘れてしまったのかも知れないが、俺はおまえと同じ高校に入って青春を謳歌するために、血の滲むような努力をして、なんとか入学したんだぜ? それを、入学早々初めての中間テストで惨めな結果を収めるなんて、まっぴらだっつーの」
「ま、それも、そうだな。いや、残念。実はな、発売日から数日だけ限定で、初期ログインプレイヤーのためだけのイベントやら限定アイテムやらも実装されてるって話だから、せっかくなら一緒に楽しんで起きたかったんだがな」
「そういうのは、タケが集めておいて、あとで分けてくれれば良いからさー」
「調子いいやつだなぁ。ま、いいけど。それじゃ、俺は明日に備えてネットで事前情報でも探してから寝るとするよ。おやすみ」
「ああ、おやすみ」
透は机の上に置いたスマホの通話を切ると、そのまま部屋の灯りを暗くしてベッドに横たわった。
「新作のVRMMOか……週明けにでも、タケに様子を聞いてみるかな……」
目を瞑りながらそんなことを独りごちていると、すぐに眠りに落ちていった。
――次の金曜日。
結局、テスト期間中にタケから連絡が来ることはなく、透も自分のことで精一杯で連絡どころではなかった。慌ただしく中間テストは終わり、同じタイミングで季節は梅雨に入っていた。
金曜日は午前中のテストを終えると、そのまま下校となった。テストを乗り切ったか確証はなかったが、まずは終わったことへの開放感に浸りながら、透は帰路についたが、途中で比較的大きなロードサイドの家電量販店に足を向けていた。
お店の中に入ると、まっすぐにゲームソフトのコーナーに向かった透は、でかでかと宣伝されている新作VRMMOのゲームをすぐに見つけられた。
『Real Role Online』
それがそのゲームソフトのタイトルだった。人気のためか、ゲームソフトのパッケージは数えるほどの在庫になっていた。透はその一つを手に取って、キャッチコピーを眺めた。
「『夢と冒険が詰まったファンタジーの世界で、本当にリアルな体験を貴方に』、か……。タケの事前情報によると、まさに看板に偽りなしって感じなのかな」
「まったくその通りだぜっ!」
「ぐわわっ!」
素っ頓狂な声を上げて、透はいきなり声のした方を振り返った。
「……タケ!? なんでここにいるんだ?」
「よう、やっぱり俺の読んだとおり、まっすぐここに来たって訳だな」
ニヤニヤしながら立っていたのは、同じく学校帰りであろう武久だった。
「透のことだ、俺との友情のために、テストが終わったらすぐにでもプレイしてくれるだろうと思ってたんだよ」
「ま、まーな。俺も、スマホのニュースを見たりしたら、話題になっているみたいだったから、気になっててさ」
「だろ? こちとら先週末から毎日ログインしてるけど、ちょっとゲームのクオリティが高すぎて、現実世界に戻ってくるのがつらいぐらいだったしな。プレイヤーの数も毎日増えていってる感じだよ」
「テスト期間中もって、そりゃすげーな……。そうなると、今からはじめるにしても、タケに追いつくのは当分先になりそうだなぁ……」
「そんなこともあろうかと思って、この俺が序盤の攻略のコツみたいなのをまとめてきたから、これ読んで進めてみればすぐ追いつくはずだ」
武久はそう言って、リュックの中から十数枚の紙の束を取り出した。お手製のガイドになっているらしい。
「サンキュー、タケ! じゃ、これからソフト買って帰るから、今日の夜にはログインできると思う。もしゲームの中で会えたら会おうぜ!」
「ああ、わかった! じゃあ、俺はちょっと別のところに寄っていくから、先に帰ってるわ」
透がゲームソフトをレジに持って行くのを横目で見ながら、武久は一人店を出た。
「さて、と。透は一人でなんとかなるだろうから、問題はもう一人の方だな……」
武久は、雨がいつ降ってもおかしくないような、梅雨時の曇り空を見上げて、一度大きく背伸びをした。そして、高校とは反対方向の住宅街に向かって歩き出した。
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