呪いでお嬢様と結ばれるのは本当の縛りプレイなのか? ~VRMMO『Real Role Online』がリアルすぎる~

夜野半月(よるのはんげつ)

文字の大きさ
12 / 34

EP11 縛りプレイとログイン二日目

しおりを挟む
  土曜日は早朝から晴天だった。まだ6時過ぎだが、窓から差し込む朝日のまぶしさで透は目を覚ました。
 
 昨夜のRROの初プレイによる心地よい疲労感もあって、早い時間に眠ったせいもあるかもしれないが、目覚めはすっきりしていた。

 両親はいつの間にか帰宅したのかわからないが、おそらく夜遅かったのだろう、ぐっすり寝ているようだった。

(さっさと食事を済ませて、ログインするかな)
 
 透はキッチンへと向かい、食パンをトースターにかけると、冷蔵庫から牛乳を取り出しコップに注いだ。
 
 朝食は、普段であれば卵料理やヨーグルトなど、そこそこバランス良く食べているのだが、まずはおなかを満たしてゲームの世界に戻りたい欲求が勝った。

 さっさと食事を済ませると、透はそそくさと自室に戻った。まだ両親が起きてくる気配はなかった。

「さて、まだ朝早いけど、今日は何の予定もないし、ゲーム三昧といきますかー!」

 起きたばかりでまだ暖かさの残るベッドに再び寝転がり、ヘッドギアとゴーグルを装着する。電源を入れたVRマシンの低いうなり声が心地よく振動として響いてくる。

「よし、準備完了……稼(ゴー)働開始(ライブ)……!」


  ◆◆◆

  まぶしい光に包まれて、しばらくして視界が開けていくとともに、周囲の音も聞こえてくる。

 ザァー……、ザァー……

(ん? 雨……?)

 聞こえてきたノイズのような音に、トールはあたりを見回したが、視界は白く覆われていて、うっすらとものの影が見えるだけだった。

「……ここは、ログアウトしたギルドの中じゃ無い……? 壁と、カーテン……?」

 視界がなかなか開かないことに、もう一度よく周囲を見回すと、それはバスタブから立ち上る湯気であることに気がついた。

「……って、じゃあ、ここは風呂か!?」

「――むぅっ?!」

 カーテンの奥から、小動物のような鳴き声が漏れた。直後、ひょっこりと丸っこい顔が現れ、トールと目があった。

「や、やぁ、アルデリア」

「……きゃぁぁぁあぁぁぁぁぁ!!!」

 即座に石けんやらなにやらが飛んできて、慌てて逆方向へと顔を向ける。幸い目の前にドアを見つけ、トールは素早くドアから脱衣所へと転がり出た。

 中からはアルデリアの悲鳴にも似た罵声が飛んできた。

「いったい、どうして、あなたが、なんで、ここに、いるんですかっ!?」

 はぁはぁと息を切らしながらまくしたてる。
 
「過呼吸になるぞ」

「余計なお世話ですわよっ!」

「大体、俺もログインしたらいきなりここに来たんだよ! てっきり、ギルドの中でゲーム再開かと思ってたのに……」

「とっ、とにかく、そこを出て、廊下で待っててくださいっ!」

「廊下? わ、わかったよ」

「トールは脱衣所の奥の扉を開け、薄暗い廊下に出てから扉を閉めた。

 しばらく待っていると、脱衣所でごそごそと音がして、まだ髪が乾ききっていないアルデリアが姿を見せた。服はキャラクターの装備品なのか、昨日と同じふりふりとした制服のような衣装を身につけていた。

「まったく、相変わらずとんでもないタイミングで現れる人ですのね」

 じとーっした目でアルデリアはトールを見上げた。
 
「俺のせいじゃないだがな……。大体、なんでゲームの中でシャワーなんか浴びてるんだよ」
 
「その文句は、ゲームの中でシャワーを浴びれるようにした開発者に言ってくださいっ!」
 
  リアルすぎるゲームも考え物だと、トールは思った。

「ところで、ここってもしかして、アルデリアの家なのか?」

「ええ、そうですわ。今朝早く起きてしまって、早々にゲームにログインして。昨日戻れなかった自宅に戻ってきたのです。なんとなく、現実世界でもシャワーを浴びたい気分になっていましたので、ゲームの中で気持ちよくシャワーを浴びていたところだったのです」

「そうか、奇遇だな。俺も朝早く目が覚めちまって、朝食を軽く済ませてすぐにログインしたところだったんだ」

「ホント、嫌な奇遇ですわね……」

 そう言いつつ、アルデリアは少し考え込むと、何か思いついたように顔を上げた。

「私が今朝ログインしたときは、確かに昨日ログアウトした、盗賊ギルドのテーブル付近に戻ってきました。……まさかとは思いますが、例のスキルのせいで、後からログインしたトールさんは、私の近距離にログイン位置を変更された……なんてことが……」

「……あり得るな。このゲームのリアルさ加減を考えると、物理的距離を離すようなことは許さない気がするぜ……」

「――っ!」

 アルデリアは声にならない声を上げて、頭を抱えた。
 
「ま、まぁ、そのあたりの細かいことはおいおいわかってくるだろうから――」

「わかっておかないと、困りますわっ!」

 立ち直ったのか、ずいっと指をトールに向ける。

「トールさん、こうしましょう。私がログインして良しとしたら、あなたもログインする、ということで。大変不本意ですが、現実世界のスマホのSMSでやりとりしましょう。ゲーム内のメッセージはログインしないとわかりませんから」
 
「おいおい、正気かよ……。俺は自由にログインできないのか?」

「そうですわ。私はちょっと名の知れた家系の娘、あなたは盗賊、どちらに従うかは、明白ですわ」

「それ、ゲーム内のキャラクターの設定じゃないかよー。まぁ、わかったよ。それじゃ、ソロで行動したいって時にも、事前に連絡すれば良いな」

「ええ、結構ですわ。ま、すぐにでもこの呪いのスキルをリムーブする方法を探してみせますから、それまでの辛抱ですわ」

 その後、システムメッセージを使って、トールはアルデリアとスマホの番号を交換した。

「くれぐれも、私用の電話やSMSは送らないでくださいねっ」

「わーってるよ……。さて、結局今回も一緒に行動するしかなくなったわけだが、どうする?」

「そうですわね。まずは、前回のクエスト攻略でキャラクターのレベルが上がりましたから、そちらの処理をしてしまいましょう」

「了解。それじゃ、この機会にお互いのステータスやスキルを確認しとこうぜ」

「ええ、そうしましょう。飲み物を用意しますから、ダイニングの方へ行きましょう」

 アルデリアは薄暗い廊下を玄関の方に向かって歩き始めた。

(しかし、ここで親父さんが殺されたんだよな……)

 後でその現場を見せてもらえないものか、とトールは考えながら、アルデリアの後をついて行った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

癒し目的で始めたVRMMO、なぜか最強になっていた。

branche_noir
SF
<カクヨムSFジャンル週間1位> <カクヨム週間総合ランキング最高3位> <小説家になろうVRゲーム日間・週間1位> 現実に疲れたサラリーマン・ユウが始めたのは、超自由度の高いVRMMO《Everdawn Online》。 目的は“癒し”ただそれだけ。焚き火をし、魚を焼き、草の上で昼寝する。 モンスター討伐? レベル上げ? 知らん。俺はキャンプがしたいんだ。 ところが偶然懐いた“仔竜ルゥ”との出会いが、運命を変える。 テイムスキルなし、戦闘ログ0。それでもルゥは俺から離れない。 そして気づけば、森で焚き火してただけの俺が―― 「魔物の軍勢を率いた魔王」と呼ばれていた……!? 癒し系VRMMO生活、誤認されながら進行中! 本人その気なし、でも周囲は大騒ぎ! ▶モフモフと焚き火と、ちょっとの冒険。 ▶のんびり系異色VRMMOファンタジー、ここに開幕! カクヨムで先行配信してます!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする

夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】 主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。 そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。 「え?私たち、付き合ってますよね?」 なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。 「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

処理中です...