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EP33 縛りプレイとログアウト2回目

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 神殿での激闘を終えて、しばしの休息を取った4人は再び漁師町マールの町長のところへ報告に戻った。

 ボロボロの姿で現れた4人を、町長は驚きつつ迎えた。
 
「ああ、皆さん! その格好は……神殿で、大変なことでも!?」

「ええ、かなり強力なモンスターが住み着いていましたわ」

「そして、そいつが町で目撃された人影で、船から羅針盤を奪った張本人だったみたいよ」

 フレイは神殿で拾った羅針盤を町長に差し出した。

「おお、これは間違いなく、我々が探していた羅針盤です! 怪しい人影の正体を突き止めるだけでなく、羅針盤まで取り返して下さるとは、本当に感謝の言葉もございません。皆さん、これから町の者にも状況を知らせて、神殿の調査と、船に羅針盤を取り付けて出航できるように準備を進めます。しばらく時間がかかると思いますから、ご出発まで、どうぞこの町でごゆっくりなさって下さい」

 町長は秘書を呼び、伝言すると、机の中から大きな布袋を取りだした。

「皆さん、今回は大変お世話になりました。少しばかりですが、事件解決のお礼として受け取って下さい」

 トールは受け取った袋を見ると、たくさんの硬貨が入っていた。

「おお、ありがとう町長! みんな、これだけあれば必要なアイテムとか、いろいろ買い出しできそうだな」

「では、まだ出発できるまで時間もあることですし、宿で休んだり各自買い物を済ませたりしますかね」

 
 4人は町長にお礼を言い、宿へと戻った。

「あ……! その、皆さん、今回の件でかなり疲労もたまっていることですし、私はここで一旦ログアウトさせていただけると助かるのですが……」

 アルデリアは宿に戻ると、思い出したかのようにそう提案した。

「そうだなー、確かに騒動と戦闘続きで、疲れた感じはあるし、俺も一回休みたい気分だな」

「そうね、そうしましょうか」

「それでは、続きはまたこの宿からということで」

 4人は現実世界での次のログイン時間を確認すると、各々ログアウトしていった。


 ◆◆◆


 気がつくと、透は自室のベッドに寝転がっていることに気がついた。

 時計を見る。短針はまだ正午にも届いていない。
 
 ゲーム内では数日間冒険を繰り広げていたはずだが、現実世界では数時間が経過しただけであった。

 しかし、ゲーム内の疲労は現実世界の体にも蓄積しているようで、重い頭を振り払いながら透はベッドを降り、飲み物と早めの昼食を取るため部屋を出た。

 キッチンには現れた食器が2組、シンクの乾燥棚に置いてあった。

(二人とも、朝食べてからもう出かけたのか)

 両親は透がRROにログインしている間に、朝食を済ませて家を出たようだった。

 相変わらず仲がよろしいことで、と透は独りごちた。


 野菜ジュースとトーストという軽い食事をとって、透は気分転換に外へと散歩に出ることにした。

 外は起きたときからの晴天が続いていて、この時期にしてはとても穏やかな天候だった。

 何気なしに、RROを購入した家電量販店の方へと大きな通りを歩いていると、向かいの方角から知った顔が歩いてくるのが見えた。

「おーい、タケ!」

 透は大きく右手を振った。相手も敬礼するかのようなポーズを取って近づいてくる。武久だ。

「よう、透! ゲームの調子はどうだ?」

「会うなりいきなりゲームの話かよ……。まぁ、朝からRRO漬けだったけどさ」

「はははっ、そりゃ良かった。お前も絶対はまると思ったから、紹介した甲斐があったぜ」

「そういうお前はどうなんだ?」

「ああ、もちろんRROで絶賛活動中だったさ。でも、ちょいと用事があってね、ちょうどログアウトしてきたところなんだ」

「お前もか? 偶然だなー。俺も、ゲーム内でイベント続きだったから、さすがにちょっと疲れがあって、こっちもログアウトしたところだよ」

「へぇ、そりゃ奇遇だ。もしかして、もうゲーム内で透と会っていたりしてな」

 武久はカラカラと笑った。

(俺と同じタイミングでログアウトしている……ってことは、やっぱり、タケはレーゲンのプレイヤーなんじゃないか?)

 透は武久の言うとおり、もうすでにゲーム内で会っているどころか、同じ冒険者の一団として一緒に行動している可能性も考えた。

「まぁ、ゲーム外ではキャラクターのことは明かさないって話をしていたし、そこはわからないまま、ということにしておこう」

「ああ、そうだな」

「それで、透はこれからどこへ行くつもりなんだ?」

「いや、特に目的はないけど……適当にぶらついたら帰るかな」

「そうか。俺はちょっくら野暮用というか、って感じだな」

「……仕事? タケ、バイトとかしてたっけ?」

「まぁ、ちょいとね。それじゃ、俺はもう行くから」

「ああ、またな!」

 武久はそのまま透が来た方へ歩いて行くと、住宅街の方へと向かって行った。

「仕事、ねぇ……」

 透は武久が何をしているのか、想像がつかなかったが、深く考えるのは止めて再び大通りを歩き始めた。

(次のログインは今晩8時から――)

 まだ、約束の時間まではたっぷりある。透は、貴重な晴れ間を堪能するように、街の散策を続けた。
 
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