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第3章 ソロプレイヤー
第七十七話
しおりを挟むエルフ。
耳が長く尖っていて、見た目が美しい長命な種族。
アトランティスに出てくるエルフはHPは低めだけど、INTとDEXが他の種族より基本値が高く設定されている。
その高いステータスを活かした魔法や弓の遠距離攻撃が得意な種族だ。
ただ金属製の武器や防具が装備できないうえにVITもそんなに秀でてないのでどうしても防御が紙装甲になってしまう。
一長一短のわかりやすい種族だ。
「両親は普通のエルフですけど、おばあちゃ…祖母は剣と鍛治が得意な珍しい人でした」
ルーネさんはそのお婆ちゃんに懐いていて、いつかお婆ちゃんのような鍛治剣士になりたくて家を飛び出したらしい。
両親の反対を押し切って外へ飛び出し旅立ったルーネさんは鍛治といえばドワーフ、ならドワーフの国へ行こうと思い立ちドゥリンカザードにやってきた。
でも、ドワーフと仲の悪いエルフをどこも雇ってはくれない。
それでも諦めずに店を回っていたら僕達に出会ったというわけなんだけど…………
「誰がエルフなんかを弟子にするか!帰れ!」
これで何軒目だろう…
ルーネさんの依頼を受けた僕達はあれから数えるのもバカらしいくらい断られていた。
ドゥリンカザードはドワーフの街だけあって武器防具の店や鍛冶屋がとても多い。
何百件じゃきかないくらいある店を順番に回ってみたけど、どの店もルーネさんがエルフというだけでNGだ。
遠回しに断るドワーフ。さっきのようにキレて追い出すように断るドワーフ。
募集してないという理由、弟子はとらない主義など理由をつけて断るドワーフ等々…
「下手な鉄砲数打ちゃ当たるっていうけど…」
「考えていたより難しいですね…」
「…疲れた」
「ごめんなさい…僕なんかのために」
疲れて愚痴る僕達にルーネさんはペコペコと頭を下げて謝った。
「ちょっと休憩しようか?」
「了解です兄貴。じゃあ酒場にでも行きましょうか?」
僕がそう提案するとすぐさまゼルが頷いた。
ていうかゼルさん…昼間っから酒場ですか?
ルーネさんもいるんだから普通にファミレスでよくない?
あそこの黒木屋で…ってあれは居酒屋か。
あっあそこにドワーフバーガーが。
結局、僕達は近くのファストフード店に入りそこで休憩することにした。
各自注文を終え、奥のボックス席に座って一息つく。
どうでもいいけど未だにこういう店には慣れない。
注文の受け答えとか面倒くさいしできればしたくないけど、それ以前に中世っぽい世界観とか色々台無しだ…
僕はストロベリーシェイク(効果:HP2%回復)が入ったコップにストローを差し込んで吸った。
…全然吸えない。こういうとこも無駄にリアルに再現するのはやめてほしい。
「とりあえず状況を整理しよう」
少し溶けるまで待つことにした僕はコップを脇に追いやった。
「ルーネさんが就職できるにはどうしたらいいか…なにか意見ある人?」
僕がそう言うとゼルが挙手した。
「はいゼル」
「俺が思うに、ドワーフの奴等はルーネがエルフだから嫌なんだと思います。ならエルフであることを隠せばいいと思います」
「?どうやって」
「幻惑系の魔法でドワーフか人間種に化ければいいかと」
なるほど…それならいけるかも?
「でも、僕らその系統の魔法使えないよね」
「そうですね。普通なら魔法屋でその手の巻物を買うか、流れの魔導士に金を払ってかけてもらうしかありませんね」
「…それだと大金が必要」
「ヴァイスの言う通り。そういうのって高いんでしょ?それに持続時間の問題もあるし…継続的に魔法をかけるのは金銭的にも大変だと思うけど」
「…アールヴの子がイリュージョンを習得する手もある」
「でもそれだと覚えるのに時間かからない?」
僕とヴァイスが意見を交わしているとゼルが悪どい笑みを浮かべた。
「それなら使える奴の弱みを握って脅せばタダでやってくれますよ」
「そ、それはちょっと…」
「…流石元盗賊。言うことが非道…」
「えっと…ゼルさん?すみませんけどそれはイヤです」
依頼主のルーネさんがピクピクと顔を引きつらせながらゼルの意見を却下した。
「それに僕はエルフであることに誇りを持っています。魔法で姿を変えることはしたくありません」
「そうか…ならエルフでも受け入れてくれる所を地道に探していくしかねえな」
ゼルはそう言うとダブルチーズバーガー(効果:一定時間STR+1%上昇)を頬張った。
「そうだね…一件一件訪ねていくかないのか」
ぶっちゃけ面倒くさい…でもやるしかないのか…
無駄に広いこの街からルーネさんも弟子にしてくれそうな鍛治職人を探す。
自分の足で稼ぐのが果てしなく面倒くさいな。
アトラスみたいに移動手段の馬車ないのが痛い。
「…アールヴの子の実力を見せるのは?」
ヴァイスがアイスコーヒー(効果:睡眠耐性、小)をストローでかき回しながら言った。
「どうやって?」
「…露天販売?」
「それもいいけどルーネの作った武具を店に売り込むのも手だぜ。兄貴はどう思いますか?」
「うん。どっちもいい意見だと思うよ」
「アールヴの子…作ったモノある?」
「あ、はい。一応持ってますけど…」
「…見せて?」
ヴァイスに言われて、ルーネさんはアイテムストレージから一振りの剣を取り出した。
あれはロングソードかな?ちょっと無骨な感じだ。
ヴァイスはそれを受け取ると首を傾げながら剣を見つめる。
「…これじゃダメ。ファントムが作った武器の方が遥かにすごい」
「どれどれ俺に見せてみろよ」
ゼルがヴァイスから剣を受け取った。
「うーん…市販されてる物より品質が悪いな」
ゼルにもダメ出しをされたルーネさんは落ち込んで俯いてしまった。
二人とも、もうちょっと言い方に気をつけなよ。今にも泣きそうじゃないか!
「兄貴は目から見てどうですかこの剣は?」
ゼルがルーネさんの剣を僕に差し出した。
僕にも見ろと?
僕はゼルからルーネさんの剣を受け取った。
「兄貴は腕利きの冒険者ながら鍛治の腕も一流なんだ。そこら辺のドワーフより腕は確かだぜ」
ちょっとゼルさん。なに勝手に僕の評価上げてるの!?
僕なんかランクFの底辺冒険者だよ!?そりゃあ鍛治はちょっと自信あるけど本職のドワーフの人には負けると思うよ。
「ふわぁ…!そうなんですか!?」
キラキラした瞳で僕を見つめるルーネさん。
いや、そんな尊敬するような目で見られても困るんですけど…
僕は気恥ずかしさを誤魔化すために、受け取ったルーネさんの剣をタップした。
『【ロングソード?(武器長剣種、物理攻撃力+4)】』
………(汗)
更にタップし詳細をチェック。
『製作者ルーネ。祖母である鍛治剣士ベイラの教えを受けて鍛え上げた長剣。目に入れても痛くない愛する孫が一所懸命作った一振りに祖母が花丸をあげた稀代?の名剣』
………:-()
隠しステータスを見てみると、耐久値、重撃値、鋭利値、速度値、CR値、全てが最底辺…
強化もしてないのに強化回数が一回しかできないという代物だった。
「コレ…お婆ちゃん褒めてくれたの?」
「あ、はい!お婆ちゃん…いえ祖母が上手くできたねって褒めてくれました!」
親バカ…いやこの場合は婆バカか?
「ちなみに聞きたいんだけど、ルーネさんが修行に出るって言った時、お婆ちゃんなにか言ってた?」
「いえ…祖母が亡くなって喪があけてから家を出ました。僕は祖母の意志を継ぐ為に絶対に鍛治剣士になりたいんです!」
ルーネさんが僕の目を真っ直ぐ見つめて言った。
決意に満ちた力強くて綺麗な瞳…
やる気はあるんだろうけどこれじゃあね…(苦笑)
「あのさルーネさん。ドワーフじゃなきゃダメなの?」
「え…?」
「確かにドワーフは鍛治に優れてる。でも他の種族にも優れた鍛治師はいるよ?まずはそういった人に師事を乞うのはどうかな?」
「それはそうですけど…」
僕の提案に思い悩むルーネさん。
その時ゼルが口を開いた。
「ルーネには悪いがドワーフは職人気質だ。こんな腕前じゃ受け入れてくれないと思うぜ?」
「一所懸命頑張って腕をあげます!」
「そうはいってもな…ドワーフの弟子になりたいならもっとレベル上げてからの方がいいと思うぜ?」
「…ファントムは良い鍛治師。まずはファントムの弟子になる?」
「いやいやヴァイス!僕じゃなくてディーノさんのとこの方がいいと思うんだけど」
「ああ、そういえばあの親父も中々の腕前でしたね」
「…究極の剣を作る鍛治師。うん…良いと思う…」
その時、キュピーン!とルーネさんの目が輝いた。
うん?このパターンはどこかで見覚えが………
「あの!究極の剣ってなんですか!?」
いきなりテンションが上がったルーネさんに僕はディーノさんの事を簡潔に説明した。
「………わかりました。本当はお婆ちゃんのようにドワーフの方に弟子入りしたかったですけど、そのような方がいるのなら是非紹介してください。お願いします!」
「うん…別にいいけど、依頼はどうなるのかな?」
ドワーフじゃないので報酬はないですとか言わないよね?
「はい。もしその方の弟子になれたら依頼達成ということで、約束の報酬は差し上げます」
「了解。じゃあ紹介するから転移門でアトラスに行こうか?」
「はい!よろしくお願いします!」
ペコリと頭を下げるルーネさん。
…ていうかヴァイスもそうだったけどNPCって案外わかりやすいね:)
NPCはみんなこうなのかな?と思いつつ、僕達はドゥリンカザードの転移門からディーノさんのいるアトラスへ転移することにした。
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