88 / 186
第3章 ソロプレイヤー
第八十二話
しおりを挟む森の街道をひたすら進み東の奥へ向かうこと数時間…
途中石畳に舗装された街道から逸れ、獣道のような悪路を馬車で走るという無茶を行い、その時にルーネさんが酔って気持ち悪くなったりしたけど、ようやく採取場所に辿り着いた。
「着きました。それではこの辺で探してみましょう」
馬車から降り少し歩いた森の中でニールさんが言った。
「ここは私の狩り場でしてね、カンソーやニッケー、イコトなどの薬草が群生しているんですよ」
「…カンソーか」
「乾燥?」
訳知り顔で頷くヴァイスと、薬草の名前を言われてもわからない僕は首を傾げた。
そんなこと言われても薬草の名前なんかわからないし…
周りを見ても草木が生い茂ってるだけでどれが薬草なのかマジでわからない。
他のみんなはなんか知ってるような顔で、ちょっと疎外感を感じる:-(
「イコトって絶滅危惧種の稀少もんじゃないっすか!?いいんすか?そんなもん採って?」
「ええ、構いませんよ。ここは妖精の森に住むエルフの方と契約を交わした群生地なので、適度に採って乱獲さえしなければ問題ありません」
「ふわぁ、だからここは精霊の加護に満ちてるんですね」
ニールさんは木々の間に生えている草を抜くと僕達に見えるように掲げた。
「これがカンソー。これは主にポーションの原材料となりますが、そのままでも使えます。カンソーのエキスや粉末を甘味料として用いることもありますが、甘味として使う場合は薬臭い独特の臭気があるので注意しなければなりません…」
などとニールさんは薬草をひとつずつ摘みながら僕達に説明していく。
ニッケーは身体を温める作用があってホットポーションの材料になるとか、絶滅危惧種のイコトというのは根っ子の部分がフルヒールポーションなどの材料に使われて、ゴボウのような細長い円柱形らしい。
イコトは他にも解毒や鎮痛作用もあるらしくて様々なポーション(高ランク)の材料になるらしい。
「それでは最後に皆さんにこれを差し上げましょう」
ニールさんが薄い冊子のような本を僕達に手渡した。
なになに…【薬師入門 子供でもわかる薬草学】
パラパラとめくってみると薬草の絵が描かれていて簡単な説明文が書かれていた。
おお…!図解入りでわかりやすい。
「それでは始めましょう。くれぐれも遠くまで採りに行かないように。分からないことがあったら遠慮なく私に聞いてください」
そんなわけで薬草採りが始まった。
僕はしゃがみこむとカンソーを根本から注意深く慎重に摘み始めた。
本によると基本葉や茎に薬効成分があるものは根っ子ごと引き抜いちゃいけないらしい。
特にカンソーは生命力が強く根っ子が残っていればまた生えてくるようだ。
根っ子だけ残すように摘み取るとツーンと鼻を刺すような臭いがする。
薬品というかなんというか薬臭い独特な匂いに鼻がおかしくなりそうだ…
臭いに顔をしかめながら一本一本慎重かつ丁寧に摘み取り背負いカゴに入れていく。
さすが群生地だけあって腐るほど薬草が生えている。
とりあえずカゴいっぱいまでなら採取していいと言われているので各自採取する薬草に分かれて採ることにしている。
僕の担当はカンソーで、遠慮なく摘み取っているけどけっこう神経使うなぁ…
周りに目をやるとニッケー担当のルーネさんは僕と同じように慎重かつ丁寧にひとつひとつ摘み取っている。
でも僕と違ってすごく手際がいい。
さすがエルフ。草木の扱いはお手の物か…
イコトを担当しているのはゼルと依頼主のニールさんで、二人とも鮮やかな手つきで素早く抜いていた。
真剣な眼差しで摘み取っていくゼルとニールさん。
専門職のニールさんはわかるけど、ゼルの慣れた手つきにビックリだ。
前の仕事でよくイコトのような薬草を取り扱っていたらしいけど…でも、なんかゼルの目が欲に塗れてるような気がするのは気のせいだろうか?
「グラム3万♪闇市で捌けば~いっくらかな~♪」
「ゼル君…」
鼻歌まじりで摘み取っていくゼルを隣に、ニールさんはなんとも言えない表情をしていた。
………うん。気のせいだ。気のせいにしとこう。
僕は見て見ぬ振りをして自分の作業に集中した。
「あれ?」
僕は辺りを見渡した。
ヴァイスがいないんですけど………
たしか薬草の知識があるヴァイスは色んな薬草を摘む役割だったはず。
もう一度辺りを見渡してキョロキョロ探してみたけどヴァイスの姿が見えなかった。
「ねえ、ヴァイスはどこ行ったの?」
「ああ、ヴァイスなら近くで…っていねーし!?」
僕の問いに答えようとしていたゼルが辺りを見回す。
他のみんなも一旦手を休めて周りの様子を伺っていた。
「兄貴。【索敵】してみましたけど範囲内にいません!」
「マジで!?」
「ふわわ…!ヴァイスさんはどこへ行ったんでしょう?」
「これはマズイことになりましたね…」
ニールさんは立ち上がると真剣な表情を浮かべて僕の方に向いた。
「ここは妖精の森に近い場所で、もし間違って妖精の森に入っていたら非常に危険なことになります」
「え!?」
「どういうことっすか?」
「大森林の魔物はそんなに強くはないのですが、妖精の森の魔物は危険なほどに強い魔物で溢れているんです。妖精の森に住む妖精が使役している魔物で、森を守る為に徘徊しているのですが、もしヴァイス君が間違って妖精の森に踏み入れ、草木を傷つけたり生えている薬草を勝手に抜いてしまったら………」
「…ぬ、抜いてしまったら、どうなるんですか?」
「魔物に食われてしまうか、運良く命があってもエルフの街に連行されて極刑に科せられるでしょう…」
「はあ!?」
「マジっすか!?薬草抜いただけで極刑ってありえないっしょ!?」
驚きの声をあげる僕とゼル。
「えっと…僕達エルフは森の民なので、妖精の森に生えている草木を許可なく摘み取る事は禁じられています。エルフにとって妖精の森の草木は自分の命よりも大事なもので、昔はそれでよく戦争になったと聞いてますし…もし、本当にヴァイスさんが妖精の森で許可なく薬草を摘んだり草木を折ったりしたら、間違いなく殺されると思います」
ルーネさんが言いづらそうに言った。
怖っ!
エルフって自然っていうか草木を大事にするイメージあったけど、それはちょっと行き過ぎな気が………
「そりゃマズイっすね。兄貴、急いでヴァイスのバカを捜しに行きましょう!」
「そ、そうだね」
万が一ヴァイスが妖精の森に入って薬草とか摘んでたらマジでヤバい状態になる。
密かにエルフと仲良くしたいと思っている僕は急いでヴァイスを捜さないといけない使命に駆られた!
そういえばあの時僕を助けてくれたNPCもエルフだったな…
ふとそんなことを僕は思い出した。
フィールたん…君は今どこにいるんだい?
僕は胸の内で一目惚れした彼女を思い浮かべて語りかける。
あれ以来フィールたんには会っていない。
フラグを立てたと思ったんだけどなぁ。
そういえばルーネさんはフィールたんのこと知ってるかな?
今度機会があったらそれとなく聞いてみよう。
「兄貴、ヴァイスを捜しに行きましょう!」
「あ、うん了解」
僕達は一旦薬草採取をやめて、いなくなったヴァイスの捜索を開始することになった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。
たかなしポン太
青春
僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。
助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。
でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。
「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」
「ちょっと、確認しなくていいですから!」
「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」
「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」
天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。
異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー!
※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
大好きな幼なじみが超イケメンの彼女になったので諦めたって話
家紋武範
青春
大好きな幼なじみの奈都(なつ)。
高校に入ったら告白してラブラブカップルになる予定だったのに、超イケメンのサッカー部の柊斗(シュート)の彼女になっちまった。
全く勝ち目がないこの恋。
潔く諦めることにした。
戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに
千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」
「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」
許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。
許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。
上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。
言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。
絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、
「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」
何故か求婚されることに。
困りながらも巻き込まれる騒動を通じて
ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。
こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる