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第3章 ソロプレイヤー
第八十七話
しおりを挟むゼルの手引きにより僕は牢獄を脱獄してしまった…
こんな簡単に脱獄できていいのだろうか?と疑問に思う間もなく、僕はトンネルをほふく前進でひたすらに進んだ。
トンネルを抜けた先はなにかの倉庫だった。
「兄貴、その格好は目立ちますのでこれを羽織ってください」
「あ、うん」
僕はゼルに手渡されたマントを羽織った。
あ、フード付いてる。
フードを目深にかぶった僕は改めて辺りを見回した。
ここはあれかな、牢獄の近くにある警備隊の備品とか置いてある倉庫かな?
前にどぶさらいのクエストボーナスでエルフポーションを貰った倉庫に似てる気がする。
その時ガラガラと音を立てて倉庫の扉が開いた。
ビックリして身体が固まる僕。
倉庫に入ってきたのは警備隊のお兄さんだった。
ウソもう見つかった!?
「お、無事に脱獄できたようっすね」
「安心してください兄貴。こいつは俺の協力者です」
え?そうなの?
それを聞いて僕はほっとした。
ていうか警備隊の人が協力者って…一体どんなコネ持ってるの?
「ファントムの大兄貴ですね?お初にお目にかかります。自分は…」
「悪いが仁義をきるのはまたの機会にしてくれ。今は兄貴を逃がすことが先決だ」
「…失礼しました。ゼルの兄貴の命令通りに表に馬車を用意しておきました」
「悪いな。さあ兄貴、行きましょう」
ゼルが僕の手をとって倉庫の出入り口へ歩を進めた。
え…ちょっとゼルさん?
つないだ手の感触にどぎまぎする僕。
ていうか僕はノーマルだ!普通に女の子が好きです!と声を大にして言いたい。
人と触れ合うことなんて随分なかったからドキドキしてるだからね!と誰に言い訳してるのかわからないことを胸の内で叫んでいた。
外に出ると行商の馬車が止まっていて行者の席には、人の良さそうな商人っぽいおじさんがタバコを吸って待っていた。
おじさんがこちらを見てゼルに頷くと、ゼルも頷き返して馬車の中に入っていった。
手をつないでいた僕もつられるように馬車へ乗り込んでしまった。
「出せ」
「はいよ」
ゼルの指示に従い、おじさんは馬車をゆっくりと走らせはじめた。
馬車は何事もなく南門を通り抜け、追手もなにもないまま無事にアトラスの街を脱出できてしまった。
「あのゼル…どこに行くの?」
「予定ではエルフの国に亡命するつもりですけど、兄貴になにか考えがあればそれに従います」
「いや別にないけど…ていうか、エルフの国って行けるの?」
「ルーネに頼みました。ですがエルフの国に行く前に色々やらなければならない事があります。その間兄貴には不自由をかけますが妖精の森で身を隠してください」
「妖精の森…」
馬車は東へ方向転換し、この前行った妖精の森へ向かった。
移動中暇なので、僕は自分のステータスを確認したり脱獄したらどうなるのかなど色々調べてみることにした。
まずはステータス。
職業は【脱獄囚】になっていた。
タップし詳細を確認してみる。
【脱獄囚】
牢獄から脱走した囚人。
…ってそれだけ!?コト○ンクか!と胸の内でツッコミを入れる僕。
僕はステータスメニューを閉じ今度はヘルプのほうを開いてみた。
職業欄に脱獄囚がないか目を通してみる。
詳細であれだったしあまり期待できないなぁ…って、あ、あった。
【脱獄囚】
【囚人】の派生職。
牢獄から脱走するとなれる職業。
潜伏、隠蔽系のスキルを習得しAGIの成長補正が付く。
悪属性の業値が上がりやすい。
なお逃走中、管轄下の街及び警備隊(NPC)やプレイヤーに捕まった場合は牢獄に強制転移又は移送される。現在の刑法に基づき逃走の罪が適用され、一年以下の懲役に処せられる。
又、二人以上通謀し逃走した時は、加重逃走罪が適用され、三ヶ月以上五年以下の懲役に処せられる。
共犯者についてはそれぞれの刑法に基づき処罰される(別途参照)
詳細より詳しく書かれてるし…
ていうかこれを見る限り、もし捕まったらゼルや馬車のおじさんとか警備隊のお兄さんまで罰せられるってことだよね?
あと【脱獄囚】は転職しなくても習得した職業のレベルが上げれるようだ。
これは【囚人】の時と同じだな。
だけど外だと獲得した経験値が習得している職業全てに分散されるみたいだから上がりにくいらしい。
それと転職は恩赦がないとできないみたいだ。
となると現状【脱獄囚】のままやっていかなきゃいけないってことだよね。
まあいい方向に無理矢理考えると、いちいちレベル二十まで上げなくても他の職業のレベルも上げれるのはメリットなのかな?
…でもやっぱり経験値が分配されるのがかなり痛いなぁ…
あとアイテムストレージがロックされてるのも痛い。
今まで使ってた武器防具はもちろんアイテムも所持金も使えない。
装備品はともかく、アイテムはどう所持すればいいの?
こんなデメリットばかりの状態でプレイしろというのか…:-(
………はは、なんか自首したくなってきた(泣)
でもゼルの好意を無駄にしたくないし今さら裏切りたくない。
どうせ僕は逃走中の罪人だ。
こうなったらとことん落ちてやろうかな?
闇落ちして好き勝手にやってみようかという思いがよぎった。
でもどうせならダークヒーロー的な感じをロールプレイしてみようかな?
「我が名は闇に潜み、闇に生きる者、ファントム…」
あ、ヤバい。口にしてみたらなんかカッコイイ…!
なんかテンション高くなってきたぞ。
ヴァイスと一緒にロールプレイしてみようかな?
僕は目的地に着くまでの間、ダークヒーローな自分を一人妄想しながらニヤニヤしていた。
「兄貴…大丈夫ですか?」
◇
僕が脱獄し、ダークヒーローをロールプレイしようと決意しはじめたその夜。
行き詰まっていたアトランティスの攻略にPCギルドが動き出していた。
『はい皆さんこんばんわ。幻想大陸解放隊のドンペリキングでーす』
第一層攻略生配信に映るのはドンペリキング。
顔を見ただけでイラッときた僕は睨みつけるように画面を見ていた。
ていうかなにが解放隊だ。地味に改名するくらいなら違う名前に変えろよ。
『様々な検証を行い、多くの犠牲者を出しながらもようやく攻略の目処がついた俺たち攻略組は各ギルドの協力を得て、今から第一層のボスを倒しに行ってきます!』
いいからさっさと行けよ。
『その前に俺たちと一緒にボス攻略に参加するギルドを紹介したいと思いまーす』
ドンペリキングを映していたカメラが移動し黒髪ポニーテールの美少女が映し出された。
銀色に輝く軽装鎧を身にまとった美少女を見た瞬間、僕は既視感を覚えた。
あれ?この娘どこかであったような気が…
『こちらの可愛いコは美少女ギルド、アルテミスのギルドマスターのakemiちゃんです。akemiちゃん今日の意気込みをどーぞ』
『え?あ、はい頑張ります』
『固いねー、リラックスリラックス。今日は頑張ろうね(キラッ☆)』
ドンペリキングが参加ギルドのギルマスに話しかけていく。
ぶっちゃけ自己紹介とか意気込みとかいいからさっさとボスと戦えよ。
その後、各ギルドのギルマスを紹介していくドンペリキング。
男PCはそっけない感じで紹介し、女PCには愛想を振りまいていた。
わかりやすいなドンペリキングwww
『それでは、いよいよボス戦を開始したいと思いまーす。いくぞーみんなー!』
『オオオオオオォォォォォォオオオ!!!』
ドンペリキングの号令に集まったPC達がそれぞれの武器を掲げて吠えた。
ドンペリキング率いる幻想大陸解放隊から十二人。
女子で構成されたギルド、アルテミスから十二人。
ガチ戦闘職で構成されたギルド、戦鬼から十二人。
魔法職で構成されたギルド、ウィザーズから十二人。
他にもガチ勢のギルドが四組で各十二人ずつ。
計九十六人のレギオンレイドの構成で第一層のボス部屋へ突入していった。
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