流浪の魔導師

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4章 ドワーフの兵器編 第1部 欺瞞の魔女

197. 真実は得てして突然知る

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「ロナさん達はどうして追われてたの?」

 話しながら、俺は地面に倒れている傭兵達の死体を一体ずつ確認する。勿論、間違いなく死んでいるかどうかの確認だ。

「私達のおつかえしているお方が移動中、連中からの襲撃を受けたんです。私達はそのお方に同行しておりまして、そのお方をお守りする為に……」

 そう話しながらロナはやぶの中を覗き込み、右手を突っ込むとごそごそとまさぐる。そしてズボッと引き抜いたその手には一振ひとふりの剣が握られていた。どうやら傭兵達に捕えられた際、奪われ投げ捨てられた自身の剣の様だ。

「そう、それは災難だったね。そのお方……というのは?」

 この場に倒れている傭兵は五人。俺が倒した三人の他に二人の死体が転がっていた。そして街道からこの場までに倒れていたのは四人。

「はい……その方はその……地元の名士めいしと申しますか……」

 ロナは少しばかり言葉を濁しながら、手にした剣を腰のさやに納める。ロナが納めたその剣と、そして残念ながら討たれてしまったロナの同僚、彼が握っている剣の刃は血で汚れていた。つまりロナ達二人は九対二という状況を魔法ではなく剣で戦い、そして六人を仕留めたという事になる。

「腕が良いのか……」

 ぼそりと呟いた俺の言葉に「はい?」と反応するロナ。

「ああ、いや……二人で剣を握って六人殺ったって事でしょ? 俺は剣に詳しい訳じゃないけど、これって凄い事なんじゃ……?」

 するとロナは力なくニコリと微笑む。

「はい、凄いです。ただし凄いのは私ではなくセーバなんです。彼は本当に強い剣士でした……彼がいなければ私は貴方に助けられるより前に、傭兵達によってとっくにどうにかされていたでしょう。本当に凄い剣士なんです……なのに……」

 話しながら徐々に下を向くロナ。しかしクッと顔を上げる。そして「行きましょう」と力強く口にした。

「……分かった。じゃあセーバさんをどこに……」

 どこに埋葬しようか? そう聞こうとした俺の言葉に被せる様に「いえ、このままで……」と返すロナ。

「え!? でも……」

「勿論埋葬してあげたいです。ですが追手がこれだけとは限りません。セーバの死にむくいる為に私がしなければならない事は、すぐにでもおつかえしているお方と合流する事です。なので……行きましょう」

 そう答えるとロナは俺の返答を待たずにスタスタと歩き出す。その姿からはセーバへの未練を必死に断ち切ろうとしている様子がうかがえた。


 ◇◇◇


 ロナはキョロキョロと辺りを見回し街道へと出る。そしてそのあとに続く俺に「本当にありがとうございました」と礼を言った。

「本来でしたらお礼の一つも差し上げなければならない所ですが、何分こちらも時間がなくて……」

 申し訳なさそうに話すロナ。「いいよ、そんなの」と俺は答える。

「ありがとうございます。では私は皆を追います。貴方も早くこの場を離れた方が良い……巻き込んでしまって本当に済みません」

「大丈夫だよ、気にしない……で……?」

 謝罪するロナに気にするなと伝えながら、そこで俺はとある異変に気付いた。

「いない……」

「え?」

「まずいな……いないぞ!」

「あの、何か……?」

「ここに見張りの傭兵がいたんだ。あのおっさん、倒したと思ったんだけど……死体がない」

 そう、街道をふさぐ様に立っていた男。魔散弾まさんだんをぶつけて倒した男の姿が見えないのだ。

「生きてたんだ……クソ! これじゃガントに行けないな……」

「え!? ガントですか?」

「ああ。今日はガントに泊まろうと思ってたんだ。でもガントへ向かう脇道を見逃しちゃって……そしたらここでその見張りがガントへの道を教えてくれた。今にして思えば、俺をこの先へ進ませない様にていよく追い払おうしてたんだろう。で、ガントへ向う為に道を戻ろうとした矢先にロナさんの声が聞こえて……あのおっさん、俺がガントに向かう事知ってる訳だし、このままガントへ行ったら面倒な事になるな……」

「あの、コウさん……私の目的地もガントなんです……」

「え!?」

「私のお仕えしているお方は、恐らく今頃はガントにいるはずなんです。多分連中は私達が向かう先をある程度絞っているはず。ガントは私達にとっては何の当てもない街で……勝手の分からない街に逃げ込むのは危険だという意見もあったのですが、でもだからこそ連中の裏をかけるんじゃないかって……」

「だったら益々まずい。俺はすでに連中と敵対しているから……仮に連中が俺を探す為にガントへ向かったら……」

「私の仲間が見つかってしまうかも……」

「クソッ! ごめんロナさん、ガントに行こう。俺も付き合う」

「でも……良いんですか?」

「ああ、これは俺のミスだ。あの見張りが死んだのかちゃんと確認しなかった。これでロナさんの仲間が連中に見つかりでもしたらさすがに申し訳ない。行こう!」


 ◇◇◇


 元は何もない小さな村だった。しかしすぐ隣の山の岩肌からいくつもの鉄鉱石が発見される。その地を治める領主はすぐに調査を開始、そしてその山には大量の鉄が眠っている事が判明する。何もなかった小さな村は沸いた。そしてあれよあれよと言う間に人が増え、村はどんどん大きくなる。程なくしてその村は街となった、良質な鉄を産出する街。

 鉱山都市ガント。

 荒々しい鉱夫達が集うこの街。鉱夫達は仕事が終わると酒場に集まり、酒を飲み、飯を食い、時に笑い時に喧嘩し、騒がしい夜を過ごす。と、そんなイメージが浮かびがちだが意外にもこの街の夜は静かなのだ。勿論日が暮れた直後の早い時間にはその様な光景も目にするだろう。しかし基本的に鉱夫達の朝は早い。夜がけると彼らは早々に自分達の寝床へと向かい、翌日の仕事に備えるのだ。

 そんな静かな時間が流れる夜の鉱山都市ガント。その中心から少し外れたとある宿の一室に集まる三人の男。やがてその部屋に一人の女が訪れた。

「ミゼッタです、遅くなりました」

 ラベンは剣を握り扉の横に立つと「物を作るは……?」と部屋の外へ向け問い掛けた。ミゼッタは「世界をつくる」と答える。するとラベンはカチャ……と少しだけ扉を開き部屋の外をうかがう。そして扉の前に立つのが大きな紙袋を抱えたミゼッタである事を確認すると、ようやく彼女を部屋の中へ迎え入れた。

「済まないミゼッタ、重かったろう? ご苦労だった」

「いいえジェスタ様、お気になさらず。まだ開いている店があって良かったですわ」

 ミゼッタは抱えている紙袋をドサリと三人が囲んでいるテーブルに置く。そして紙袋の中からパンや肉、ワインの瓶などといった食糧を次々と取り出しテーブルの上に並べてゆく。

「ホッ、まずはこれだろうて……」

 ノグノは迷わずワインに手を伸ばすとトクトクとカップに注ぐ。そして「ささ、ジェスタ様……」とそのカップをジェスタの前に置く。ジェスタはカップを手にすると「ああ、頂こう」とクッとワインを口に含む。

「ふぅ。ミゼッタよ、良いワインを選んだな。ラベン、しっかりと食べろ。セーバがおらぬ今、そなたの剣が頼りだ」

「は……」と答えるやラベンはガブリと骨付きの肉にかぶり付く。するとミゼッタは「あらジェスタ様、私の魔法は頼りになりません?」とパンを片手に意地悪っぽく問い掛ける。ジェスタは軽く笑いながら「無論当てにしている。ロナが戻るまで、しかと頼む」と答えた。


 ◇◇◇


 かなり遅めの夕食を取り終えた一同は今後の対応を協議する。

「やはりマンヴェントへ向かうべきと思うが……どうか?」

 テーブルの上には小さく千切られたパンの欠片かけらがいくつか転がっている。ジェスタはその一つを指差しながら三人に問う。それらのパンの欠片かけらはこの辺りの主要な街。パンとテーブルでこの地方の地図を再現したのだ。

左様さようですな。此度こたびの一件の説明をせねばなりませぬでしょうし、何より助力を求めねばなりますまい。しかしながら……」

 同意しながらも眉間に深いシワを寄せ渋い表情を見せるノグノ。「そう。しかしながら、なのだ」とジェスタはノグノの危惧きぐする当然の問題を説明する。

「連中は決して手緩てぬるくない。十中八九そこらに網を張っておるであろう。その網をどうやってくぐるか……いや、そもそもどこに網があるのか、現状はそれすら分かっていない」

「そうですね。本来であれば斥候せっこうを放ち、安全なルートの探索を行う所ですが……」

 言いよどむミゼッタ。言った所で……と思ってしまったのだ。ラベンはミゼッタが言おうとしていたであろう言葉を引き継ぎ口を開く。

「だが人も時間もない。そして時が経つにつれ危険度も増す。ここに隠れていても早晩そうばん発見される」

「ホッ、行くも行かぬも地獄なり……か。ならば行きましょうぞ?」

 軽く微笑みながらノグノはジェスタに進言する。その言葉に小さくうなずくミゼッタとラベン。それを見たジェスタは「よし、ではルートだが……」と再び地図をしたテーブルを指差す。


 ◇◇◇


「ない……か。次に行きましょう」


 ◇◇◇


「ここも……ない。では次へ」


 ◇◇◇


 闇の中馬を走らせ俺とロナはガントに辿り着いた。夜更よふけの街は静かで人影もまばら。急に大きくなった街らしく何と言うか、ギュッとしていると言うか、ゴチャッとしていると言うか、通りも変に狭かったり広かったりと雑多ざったな印象を受ける街だ。ロナは先導し巧みに馬を操りながら、キョロキョロと辺りの建物を眺めて何かを探している。

「ロナさん、仲間を探してるのは分かるんだけど……アレかな、何か目印とか出てる感じ?」

 ロナの横に馬を進めて問い掛ける俺に対し、相変わらずキョロキョロとしながら「はい、つちです」とロナは短く答える。

「……土?」

「はい。金槌かなづちではなく木槌きづちでして……」

「あ、つち……ハンマーね」

「合流先の目印です。外から見て分かる様に木槌を建物の入り口や窓にぶら下げて……」

「ああ、そういう事……でも何で木槌?」

「そこはやはり、私達ドワーフは物作りにけていますから。ドワーフ以外で工具を暗号に使おうなんて、そんな発想にはならないでしょう?」

「なるほど。確かに木槌なんてぶら下がってても、普通は何の事か分からないね……」

 ト、ト、ト……と二頭の馬の歩く音が静かに響く。

「いやちょっと待って!」

 しばらく進んでようやく俺はさらりとげられた驚きの真実に気付いた。

「ドワーフ!?」

「はい? あの……どうしました、コウさん?」

「ドワーフって……ロナさんドワーフなの?」

「はい、そうです……けど?」

「いやだって、ドワーフって何かこう……背が低くてガチッとしててひげモジャで……いや、ロナさん女だしひげはアレだけど……でも物作りってのは共通してるか……え、でも何か……え……ドワーフ……?」

 俺は自身の知るドワーフ像とロナを比べ軽くパニックになる。あまりに違い過ぎるのだ。まぁドワーフ像と言ってもゲームなんかのイメージでしかないのだが。困惑する俺の様子にロナはクスリと笑った。

「コウさんは随分昔のドワーフをイメージしてるんですね。まぁ身近にドワーフがいなければそんな事分かりませんしね」

「昔……?」

「確かに大昔のドワーフはそんな感じだったと聞いています。でも長い時間の流れる間に段々とその容姿も変化したんです。やはり人との交わりによるものだったのでしょう。人と交わり子が産まれ、そしてそれが繰り返されて……今では純血のドワーフなんて一人もいませんよ。その過程で平均身長も伸び、男性の髭も薄くなり、極端に筋肉質だった肉体は人のそれに近付いたんです。見た目で人かドワーフかなんて分からないくらいに……と、そんな感じですね」

「はぁ……そう……なんだ……」

 何だろう、この変ながっかり感。そりゃ髭モジャのガチムキよりロナみたいな美人の方が良いに決まってる。決まってるけども……

「あの……どうかしました?」

「いや、何でも……」

 ドワーフはもはや普通の人と変わらなかった。
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