振り込む詐欺にご注意

いずも

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電子マネーを買いに来た男

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 ミチコはプリペイド式電子マネーカードの前に立ち止まった男性に目をつけた。
 怪しい。
 彼女の第六感がそう告げるのだ。
 間違いない。
 あれは、
 かつて万引Gメンとしてブイブイいわせた彼女。
 検挙率は驚異の97パーセント。
 そんな彼女が目をつけたのだ。


 キョロキョロと周囲を見渡して、不審者そのものだわ。
 素人の挙動ね。
 これはほぼ間違いない。
 あのボケ老人みたいな店員さんじゃ気付かないでしょうけど。
 あたしの目はごまかせない。
 ああ、悩んでる悩んでる。
 金額の高いやつにしようか。
 もしかしたら、低額なら棚卸しの時に数え間違いでバレないかも。
 そんな葛藤が見えているわね。

 ああっ、手にとった。
 何かしら。
 ここからじゃよく見えない。
 千円?
 三千円?
 まさか初犯で五千円?
 なんて大胆!
 厳重注意だけで済ますと味をしめちゃう。
 ここはしっかりと警察に突き出さないと。
 ほぅら、その右手に持ったプリペイドカードを……


 その男性はレジへと歩き出した。
 右手には先程のプリペイドカードを持ち、少し焦りが見えた。
 ミチコはその表情を見逃さなかった。


 あれは――
 間違いない。
 特殊詐欺に騙されているわ。
 万引き?
 何のことかしら?
 そんなことより今は彼が被害に遭うかもしれないってこと。
 それを未然に防がないと。
 あたしの声が届くどうかわからないけど。
 ううん、そうじゃない。
 やるのよ。
 そう、やるのよ、あたし。
 自信を持ちなさい。
 今までだって何人もの犯罪者を更生させてきた。
 被害を未然に防いだことも幾度とあった。
 これもそのうちの一つ。
 もう、新たな被害者を生み出しちゃ駄目。


「これくださ――」
「ちょっと待って!」
「!?」
「!?」
 バーコードリーダーを握る初老の店員と、プリペイド式カードを購入しようとする客、二人の男が突然の出来事に思わず振り返る。

「これを指摘された人は不快に思うでしょうし、まさか自分がなんて思いもしないでしょうけど、落ち着いて、怒らないで聞いてちょうだい。アナタ――騙されているわ」
「は?」
「わかってる、わかっているわ! そんな自分が被害者になるなんて、騙されるわけがない! そう、誰だってそう思っているの。そしてそんな人間ほど、一度信用してしまえばズルズルと詐欺被害に遭ってしまうものなのよ!」
「何の話です?」
 意味がわからないという顔で、客はミチコを見る。

「ちょ、ちょっと待ってくださいよ。こちらのお客様が……電子マネーを使った特殊詐欺の被害者に!?」
 持っていたバーコードリーダーはするりと手から落ち、レジ台の上で無残な姿を晒す。
「えっ」
「良かった、おじいちゃん店員さんだと思っていたけど、詐欺に関する指導は受けているのね。ええそうよ、これは由々しき事態。非常事態宣言発動よ」
「なに言ってんだこのおばさん」
「ええそうよ! ただのおばさんに見えるかもしれないけど、黙ってあたしの声に耳を傾けて!」

「よくあるのが『一億円が当たりました。つきましては振り込むための手数料として先にいくらかお支払いください』ってパターンね。欲深い人間ほど騙されるわ。さらに『追加の手数料が発生しました』とか言ってどんどん毟り取られる場合もあるから要注意よ」
「いや、これただのGoogle Playのカードだから」

「他に考えられるのは……アイドルに会えますってやつね。これはジャニーズとかの女性向けもあれば、当然男性向けもあるものね。モテナイ輩が一縷の望みを捨てきれないで手を出すパターン。だいたい最後はマネージャーとやり取りするだけで会えずじまい。アイドルとのやり取りっていうかマネージャーとやり取りするだけで終わるのよね、あれ。スマホゲー好きで有名な某アイドルが居るから、彼を騙るパターンが多いわね」
「いやまあその、スマホゲーに課金しようと思ったんだけどさぁ」

「あ~、わかった。アナタ『天皇になりませんか』ってメールを真に受けちゃったのね」
「人の話聞けよ」
「それ私のところにも似たようなメールが来ましたよ。何でも母曰く『アンタは貴族の血を引いてる』って。最終的には母へ仕送りを送ったんですけど」
「それ騙されてない? 店員さんの方が騙されてるって!」

「いや、違うか……」
「あ、やっとわかってくれました?」
「アナタ、よく見るとチンパンジー顔ね。チンパンジーからのメールに騙されたんじゃない? 『チンパンジー界ではモテモテです』って。まったく、男の人ったらいやらしいメールに弱いんだから!」
「ずっと思ってたけどすげー失礼だな! 誰がチンパンジーだよっ!」

「だったらアナタ、何に使うか言ってご覧なさいよ! やましいことが無いのなら、言えるはずよっ!」
「ぐっ……ガチャだよ! ガチャを引くために買うんだよ」
「ガチャ? ガチャガチャなんて百円もあれば引けるでしょう!」
「年十年前の話だよ! 化石脳か! ゲームのガチャだよ! 『小麦粉の夜』の期間限定ガチャを引きたいんだよ! ああもう、時間がないんだからさっさと買わせてくれよ」
「時間がないと焦らすのは特殊詐欺の常套手段よ!」
「違ぇよ! 都合の良い部分しか耳に入らないのか!」
 男はスマホを取り出し、何やら作業して画面を見せる。

「ほら、これが俺のツイッターのアカウントだよ! 界隈じゃ割と名の知れた無課金者なんだよ。『無課金なのにこんなにキャラ揃っててゴメンナサイ~』って自慢するために無課金者を装ってるんだから、さっさとキャラ引いて自慢したいんだ」
「ふぅん……? ちょっと待って、これ本当にアナタのアカウント? 成り済ましじゃなくて?」
「はぁ? いやそこ疑う?」
「だってアナタのそのツイート、ついさっき投稿したことになっているわよ」
「……え?」
 男が画面を再び覗き込む。
 そこにはガチャの結果画面が投稿されていた。

「は? え? な、なんで? 俺、いつの間に引いた!?」
「はっはっはっ、それ、実は私が投稿しました」
「え? 爺さんが? ど、どういうことだ!?」
「アナタは自分を無課金の一般人だと思い込んでいる精神異常者ね!」
「お前の方がよっぽど異常だよ!」

「あなたのログインID――つまりメアドと、入力していたパスワードを指の動きから判断しました。メールのパスワードも使い回ししているでしょう? 簡単にアカウントの乗っ取りは成功しましたよ?」
「……なっ!」
「えーっと、『実は私は無課金を装う重課金者です。今までのスクショは全て魔法のカードの力によるものでしたごめんなさい』っと……はいツイート」
「やめてぇぇぇぇ!!! っていうか爺さんめちゃくちゃスマホ使いこなしてるぅぅぅ!!!」
「あら……これはとんでもないどんでん返し、きちゃったわね。まさか主役はあたしじゃなくて店員さんだったなんて……」
「ふふ……よしてください。主役なんて、ガラでもないです」
「ああああああ……嘲笑の声が……掌を返す音が聞こえる……」

「個人情報の流出にはお気を付けください」
「お前が言うなっ!」




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みんなの感想(1件)

由理実
2023.09.10 由理実

初めまして。
みんな大好きコンビニコント。普段は人もまばらなコンビニなのに、コンビニは人に色々なイマジネーションを与えますね。24時間。何でもありの世界だからでしょうか?
あの小さな店舗には、沢山の引き出しや可能性が隠されていますね。
二転三転する展開、楽しかったです。
ありがとうございました。

解除

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