push

くさの

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push2:声、聞きたいと思って

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 彼が1週間ほど出張に行ってしまった。

 別に海外に行くわけじゃない。電波が通じなくなる訳でもない。ただ、今までより少し長いだけだ。
 前は1~3泊が普通だった。それだけでも耐えられなくて泣きながら電話をかけたことを、今でも時々笑い話にされる。

 不安になる。
 仕事がうまくいくかとか、事故なんて合わないかとか。とちったりしないかとか。
なんてことは立て前で、浮気とかしちゃうんじゃないか、って少し疑ってる。
 真面目な彼にはありえそうもないのだけれど、真面目故にいっぱい溜まってることもあるんじゃないかって思うから。
 誘われたら、断れないんじゃないかと思うから。

 気になるなら電話すればいいよ、って大人の余裕みせられたら、逆にしたくなくなるのが子どもじゃないの?
 私だけ気になってるみたいじゃない。そんな、彼ばかり得した気にさせるのは嫌だ。
 だから、気になるし不安だけど今回は一度も電話しなかった。
 彼から掛かって来ることもなかったけど、あと1日だと思えば仕方なく堪えるしかなかった。

 1人での夕食は、これで6回目。
一昨日作って冷凍しておいたコロッケを温めてレタスとコーンだけのサラダと一緒に食べる。
食欲もあまりわかず、どちらも半分くらい残してラップをかけた。
暫くぼーっとテレビに目をやりニュースの断片を頭に入れる。
ふと時計をみると10時を回っていた。
そろそろお風呂にでも入って身体を温めて寝よう、今日はもう寝てしまおう。

 そう思って立ち上がろうとテーブルに手をつき力を入れた瞬間、電話が鳴った。
普段なかなか鳴らない為に、詐欺や勧誘かもしれないと思いつつも電話の前に立ち、留守電にメッセージが残るかを聞こうと思った。
「発信音の後に……」電子的な音声が告げ、ピーという発信音が鳴る。
 少しの沈黙。思わず息を飲んだ。

“サネユキです。ハツカ、いますか?”

 少し心配そうに声を投げる彼の姿が、見える気がした。6日振りの声が、嬉しくて嬉しくて受話器を急いで耳に当てた。

「も、もしもし……」
「ハツカ、今帰ってきたの? お疲れ様」
「ううん、今日は定時。けど今さっきご飯食べたトコ」

 少し嘘だったけれど、いいか、と思った。受話器を取るのが遅かったからそう考えたらしい。
 けど、彼から電話なんて珍しい。

「そ、それよりどうしたの? 電話掛けて来るなんて珍しい」
「ああ」

 少し照れたように声が篭る。言葉を選んでいる気配がする。

「声が、聞きたいと思って」

 今回も泣きじゃくりながらの電話が来るものだと思っていたのに、全くなかったから不安だったと、彼は恥ずかしそうに言った。
 へらり、と笑った気がしてそんな彼が愛おしかった。
 当たり前でしょっ……! そう言いたかったけれど、それこそあまりに子どもっぽい。

 いつも自分から掛けてばかりで分からなかったけれど、彼も私のことを思ってくれていたんだなあと胸がいっぱいになった。
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