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drop13:マロンブラウンシュガー_1
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昔、本でみた。一遍の詩の様な唄の様な。
《男の子は何で出来ている? カエルとカタツムリと子犬のしっぽ》
そんなことあるんだろうか、と手には開かれたままの本、顔だけで窓の外を覗く。水色と白のチェック柄のスモックは同じ年長組のしるし。
雨上がりの紫陽花に群がって、カエルやカタツムリを探してた男の子。
《女の子は何で出来ている? 砂糖とスパイスと素敵な何か》
私とあの子は何が違うの? 同じ服、同じ背丈、嬉しかったり悲しかったり、同じ気持ち。
帰り道危ないからと無理矢理に繋がされた、私と同じに温かかった手のひら。
ぱちりぱちりと瞬きをする。
ちょっと昔の事を思い出していた。もうあの時が遠い日の事の様。
服の趣味は男女で変わるものだし背丈も彼の方が高くなった。感情もきっと、もう昔みたいに共有することもない。
あの手のひらの温かさは、私だけのものじゃない。
それが、普通なのだ。
幼なじみで付き合って、果ては結婚? 老後まで? そんな漫画みたいなこと、あるわけがない。
私はこんな手のかかる幼なじみよりも隣のクラスの秋月くんの方が好みだ。とはいえ、そこまで本気でもないからたまに顔みたり活躍を聞くだけでいいというお手軽さなんだけど。
隣をみると、机に突っ伏して居眠りしてるあの時の男の子。
誰だよ、男の子がカエルとかカタツムリ、犬のしっぽで出来てるなんて言ったのは。
女の子が砂糖とかスパイス、素敵な何かで出来てるなんて言ったのは。
少なくとも、私の主成分は砂糖ではない。
黄色みたいな眩しい明るさじゃなくて、栗色を少し明るくしたような手をいれてない染めないままの髪。女の子みたいなばっしばしの長い睫毛にリップのCM来ないかな、的にそれはもう奇麗な桃色の唇。あまりにも整いすぎているから、その黄金比の遺伝子下さい、とかいいそうになるけど、言ってしまえば私の貞操がバッドエンドになるくらいの失言過ぎて心の中だけでしか叫べない。
まるで眠り姫のようなそいつが歩けば無意識にフェロモン的スパイスを撒き散らし、その素敵な何かで人の心を引き付けて。最後の仕上げは。
「ん……、けい、おはよう」
王子もとい姫のお目覚め。いやいや、姫もとい王子だ。ふー、間違えるところだった。
「ゆい、もう五時だから」
「んー……」
早く帰る用意をしてほしいくらいなのにここで会話が終わらないのは、彼が甘ったるい砂糖で出来ていると思われる要因。
「おはようのきす、して?」
はい、はいはい! コイツに今すぐエスプレッソだしたげてください。ミルクいらないから。
「螢、僕からでいいの?」
くすくすと笑いながら近付く、まだ少し眠気を引きずる唯のその整いすぎた奇麗な顔に身を引きながら。
「ば、バカじゃないのーっ」
公共施設である図書館で叫んでしまう位、その甘さは私にとって脅威。
静かに注意され(当然のことなので仕方がないがどうにも腑に落ちない)恥ずかしながら図書館を後にする。
隣で欠伸をしながら腕を空に伸ばしている忌ま忌ましい唯に気づかれないように睨む。まだ眠たそうに目を細めているから解らないだろう。
「……ん? 螢、どうしたの」
「何でもない」
はあ、と大きくため息を付くけどきっと唯にはなんにも伝わらない。
別に。私にまであんな冗談しなくていいんだけど。待ってないから。……大切だから二回言うけど、待ってないから。
唯みたいな子が好きなのはもっとキラッキラした子だと思う。
現に周りに寄ってきてるのは外見だけいえば実にかわいらしい子ばかりだ。中身はフォロー出来るほど良く思われてないし、幼なじみってだけで仲も良くはないけれど。
色んな子と付き合ってるみたいだし、そろそろ幼なじみ卒業しなきゃ。なんて考えてるけど、結局構っちゃうんだよね。幼なじみのよしみで。
あー、私も砂糖やスパイス、素敵な何かで出来ていたなら王子様が現れても周りから何を言われるでもなかっただろうに。
王子様どころか、対象にも思うわけない幼なじみにでさえからかわれそれゆえに周りからも調子に乗るなと釘をさされ……。
とばっちりだよね、これ。
はあ。私、なんでこんなトコに生まれてきたんだろう……いや、この街は好きだよ。好きなんだけど。いい人たくさんいるし、近所中が家族みたいだし、好きなんだけど。
はあ。大きくため息をついてどうしてこんなに考えていた内容がズレたのかを考える。そもそも私は何のためにここにいた?ここにきた?
早めに貰った夏休みの宿題をしにきた。
それにもかかわらず雑誌を読んで居眠りを始めた唯と、そんな姿にイライラして集中出来なかった私。どっちもどっちだと言われたら、そうかもしれないけれど。
自動ドアを通ると空気が一変する。さっきまで冷房が効いて丁度いい温度で過ごせていたと思ったけれどそれはどうやら勘違いらしい。むわっとした外気に触れると身体の芯に熱は溜まっていたのだと思う。
空をみた。
少し高めの空。正面に、入道雲が伸びて夕立の足音を忍ばせていた。
あと数日で夏休みだ。
end.
《男の子は何で出来ている? カエルとカタツムリと子犬のしっぽ》
そんなことあるんだろうか、と手には開かれたままの本、顔だけで窓の外を覗く。水色と白のチェック柄のスモックは同じ年長組のしるし。
雨上がりの紫陽花に群がって、カエルやカタツムリを探してた男の子。
《女の子は何で出来ている? 砂糖とスパイスと素敵な何か》
私とあの子は何が違うの? 同じ服、同じ背丈、嬉しかったり悲しかったり、同じ気持ち。
帰り道危ないからと無理矢理に繋がされた、私と同じに温かかった手のひら。
ぱちりぱちりと瞬きをする。
ちょっと昔の事を思い出していた。もうあの時が遠い日の事の様。
服の趣味は男女で変わるものだし背丈も彼の方が高くなった。感情もきっと、もう昔みたいに共有することもない。
あの手のひらの温かさは、私だけのものじゃない。
それが、普通なのだ。
幼なじみで付き合って、果ては結婚? 老後まで? そんな漫画みたいなこと、あるわけがない。
私はこんな手のかかる幼なじみよりも隣のクラスの秋月くんの方が好みだ。とはいえ、そこまで本気でもないからたまに顔みたり活躍を聞くだけでいいというお手軽さなんだけど。
隣をみると、机に突っ伏して居眠りしてるあの時の男の子。
誰だよ、男の子がカエルとかカタツムリ、犬のしっぽで出来てるなんて言ったのは。
女の子が砂糖とかスパイス、素敵な何かで出来てるなんて言ったのは。
少なくとも、私の主成分は砂糖ではない。
黄色みたいな眩しい明るさじゃなくて、栗色を少し明るくしたような手をいれてない染めないままの髪。女の子みたいなばっしばしの長い睫毛にリップのCM来ないかな、的にそれはもう奇麗な桃色の唇。あまりにも整いすぎているから、その黄金比の遺伝子下さい、とかいいそうになるけど、言ってしまえば私の貞操がバッドエンドになるくらいの失言過ぎて心の中だけでしか叫べない。
まるで眠り姫のようなそいつが歩けば無意識にフェロモン的スパイスを撒き散らし、その素敵な何かで人の心を引き付けて。最後の仕上げは。
「ん……、けい、おはよう」
王子もとい姫のお目覚め。いやいや、姫もとい王子だ。ふー、間違えるところだった。
「ゆい、もう五時だから」
「んー……」
早く帰る用意をしてほしいくらいなのにここで会話が終わらないのは、彼が甘ったるい砂糖で出来ていると思われる要因。
「おはようのきす、して?」
はい、はいはい! コイツに今すぐエスプレッソだしたげてください。ミルクいらないから。
「螢、僕からでいいの?」
くすくすと笑いながら近付く、まだ少し眠気を引きずる唯のその整いすぎた奇麗な顔に身を引きながら。
「ば、バカじゃないのーっ」
公共施設である図書館で叫んでしまう位、その甘さは私にとって脅威。
静かに注意され(当然のことなので仕方がないがどうにも腑に落ちない)恥ずかしながら図書館を後にする。
隣で欠伸をしながら腕を空に伸ばしている忌ま忌ましい唯に気づかれないように睨む。まだ眠たそうに目を細めているから解らないだろう。
「……ん? 螢、どうしたの」
「何でもない」
はあ、と大きくため息を付くけどきっと唯にはなんにも伝わらない。
別に。私にまであんな冗談しなくていいんだけど。待ってないから。……大切だから二回言うけど、待ってないから。
唯みたいな子が好きなのはもっとキラッキラした子だと思う。
現に周りに寄ってきてるのは外見だけいえば実にかわいらしい子ばかりだ。中身はフォロー出来るほど良く思われてないし、幼なじみってだけで仲も良くはないけれど。
色んな子と付き合ってるみたいだし、そろそろ幼なじみ卒業しなきゃ。なんて考えてるけど、結局構っちゃうんだよね。幼なじみのよしみで。
あー、私も砂糖やスパイス、素敵な何かで出来ていたなら王子様が現れても周りから何を言われるでもなかっただろうに。
王子様どころか、対象にも思うわけない幼なじみにでさえからかわれそれゆえに周りからも調子に乗るなと釘をさされ……。
とばっちりだよね、これ。
はあ。私、なんでこんなトコに生まれてきたんだろう……いや、この街は好きだよ。好きなんだけど。いい人たくさんいるし、近所中が家族みたいだし、好きなんだけど。
はあ。大きくため息をついてどうしてこんなに考えていた内容がズレたのかを考える。そもそも私は何のためにここにいた?ここにきた?
早めに貰った夏休みの宿題をしにきた。
それにもかかわらず雑誌を読んで居眠りを始めた唯と、そんな姿にイライラして集中出来なかった私。どっちもどっちだと言われたら、そうかもしれないけれど。
自動ドアを通ると空気が一変する。さっきまで冷房が効いて丁度いい温度で過ごせていたと思ったけれどそれはどうやら勘違いらしい。むわっとした外気に触れると身体の芯に熱は溜まっていたのだと思う。
空をみた。
少し高めの空。正面に、入道雲が伸びて夕立の足音を忍ばせていた。
あと数日で夏休みだ。
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