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澄んだ朝
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「瑠璃、ご飯作ったけど食べれそう?」
「ありがとう、そこに置いてて。食べれそうな時に食べるから」
「最近食べてないみたいだから私心配で....」
「本当に大丈夫だから」
つい冷たい言い方をしてしまったと思ったが、言い直す気力もなく、母が申し訳なさそうにゆっくりと部屋の前から離れていく音を静かに聞いていた。
ただ毎日日が昇るから起き、日が沈むから寝る。
去年の誕生日に彼がくれたにわとりの抱き枕は涙に濡れてすっかりしぼんでいた。
どれだけ時間が経ったかなんて分からない。
時計は外したし、カレンダーもない。
でも昨夜、カーテンの奥から聞き馴染みのある大きな音と色鮮やかな光がチラついて見えた。
毎年恒例の隣町の花火大会だとしたら、もう一週間経ったことになる。
ただぼぅっとした頭に突然大学に行かなくてはと、以前の私が語りかけてくる。
きっと私は疲れてるのだと思った。
彼を想い、焦がれるように幻影を追いかけ、目が覚めると泣いているようなそんな毎日から逃げ出したい。ただそれだけの思いに突き動かされ、私は身支度をした。
私が1階に降りると、母は驚いた様子だったが、目尻を下げ
「行ってらっしゃい」
と、以前のように送り出してくれた。
ドアを抜けるとまだ涼しい風が私の中を吹き抜け、暖かな光が街をつつみ始めていた。
なんて残酷なんだろう。
当たり前だが何も変わらない日常の風景。
早くついたからか講堂に来ている学生は少なかった。
一番後ろの席を確保して教材を準備していると、ちょうど今入ってきたであろう亜美がこちらを見るなり一緒にいた友達に謝る様子をして、足早に私の席へ向かってきた。
「おはよう。瑠璃」
「おはよう」
自然に私の隣に荷物を下ろすと、亜美も教材の準備を始めた。
特にそれ以外聞いてくることも無く「いい天気だね」とか「ルーズリーフ家に忘れてきた!」など私は休んでいなかったのでは、放課後には彼が校門で待っているのではと錯覚してしまうほど亜美はいつも通りだった。
遠巻きにこちらを覗いてくる友人がそれは違うと教えてくれたが、私はそれよりも亜美といた方が心地よかった。
亜美の態度は一貫して変わることなく、授業中も居眠りしたり、スマホをいじったりしていた。
「ねえ、瑠璃。私瑠璃の授業終わるまで待ってるからさ、放課後一緒にカフェ行こうよ」
「カフェ?」
この唐突な提案に私は正直気乗りしなかった。
なぜなら私たちはよく互いの彼氏を連れて4人でカフェに行った思い出があったので、また思い出して辛くなってしまうだけではないかと思ったからだった。
しかし、視界の隅にネイルのされていない亜美の手が映ると条件反射で、
「亜美がいいなら」
と答えていた。
少し間を置いて、そっと横を覗いてみると彼女はまた俯いて眠っているようだった。
髪がかかっていたので払ってあげると、彼女がヘアセットを全くしていないことに気がついた。
目の下にもクマのようなものがあり、それを見つけて私はやり場のない思いでペンを力いっぱい握りしめた。
「ありがとう、そこに置いてて。食べれそうな時に食べるから」
「最近食べてないみたいだから私心配で....」
「本当に大丈夫だから」
つい冷たい言い方をしてしまったと思ったが、言い直す気力もなく、母が申し訳なさそうにゆっくりと部屋の前から離れていく音を静かに聞いていた。
ただ毎日日が昇るから起き、日が沈むから寝る。
去年の誕生日に彼がくれたにわとりの抱き枕は涙に濡れてすっかりしぼんでいた。
どれだけ時間が経ったかなんて分からない。
時計は外したし、カレンダーもない。
でも昨夜、カーテンの奥から聞き馴染みのある大きな音と色鮮やかな光がチラついて見えた。
毎年恒例の隣町の花火大会だとしたら、もう一週間経ったことになる。
ただぼぅっとした頭に突然大学に行かなくてはと、以前の私が語りかけてくる。
きっと私は疲れてるのだと思った。
彼を想い、焦がれるように幻影を追いかけ、目が覚めると泣いているようなそんな毎日から逃げ出したい。ただそれだけの思いに突き動かされ、私は身支度をした。
私が1階に降りると、母は驚いた様子だったが、目尻を下げ
「行ってらっしゃい」
と、以前のように送り出してくれた。
ドアを抜けるとまだ涼しい風が私の中を吹き抜け、暖かな光が街をつつみ始めていた。
なんて残酷なんだろう。
当たり前だが何も変わらない日常の風景。
早くついたからか講堂に来ている学生は少なかった。
一番後ろの席を確保して教材を準備していると、ちょうど今入ってきたであろう亜美がこちらを見るなり一緒にいた友達に謝る様子をして、足早に私の席へ向かってきた。
「おはよう。瑠璃」
「おはよう」
自然に私の隣に荷物を下ろすと、亜美も教材の準備を始めた。
特にそれ以外聞いてくることも無く「いい天気だね」とか「ルーズリーフ家に忘れてきた!」など私は休んでいなかったのでは、放課後には彼が校門で待っているのではと錯覚してしまうほど亜美はいつも通りだった。
遠巻きにこちらを覗いてくる友人がそれは違うと教えてくれたが、私はそれよりも亜美といた方が心地よかった。
亜美の態度は一貫して変わることなく、授業中も居眠りしたり、スマホをいじったりしていた。
「ねえ、瑠璃。私瑠璃の授業終わるまで待ってるからさ、放課後一緒にカフェ行こうよ」
「カフェ?」
この唐突な提案に私は正直気乗りしなかった。
なぜなら私たちはよく互いの彼氏を連れて4人でカフェに行った思い出があったので、また思い出して辛くなってしまうだけではないかと思ったからだった。
しかし、視界の隅にネイルのされていない亜美の手が映ると条件反射で、
「亜美がいいなら」
と答えていた。
少し間を置いて、そっと横を覗いてみると彼女はまた俯いて眠っているようだった。
髪がかかっていたので払ってあげると、彼女がヘアセットを全くしていないことに気がついた。
目の下にもクマのようなものがあり、それを見つけて私はやり場のない思いでペンを力いっぱい握りしめた。
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