今度こそ幸せに

朝凪ちなつ

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消えない足跡

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亜美は本当に私の授業が終わるまで待っていてくれた。
「ごめん、お待たせ」
木陰でスマホをいじっていた亜美は私が声をかけると、はっと画面から目を離し、
「おつかれ」
と、優しく返してくれた。
「カフェまでちょっとあるけど、どうしよっか。次のバス5時しかないけどそれに乗る?」
「できれば人が少ないのがいいな」
また朝のように扱われるのが嫌で零れた本音だったが、亜美がそれを敏感に感じとって
「やった~、今日歩きたい気分だったんだよね。10分ぐらいだと思うから早速行こうか!」
と言ったので、マップに頼ってゆっくりと向かうことにした。
「ここのカフェね、コーヒーがすっごく美味しいんだって」
「え、亜美コーヒー飲めないんじゃなかった?」
「だからだよ、この機会に美味しいコーヒー飲んで克服したいなって」
店の画像を見せてくれたが、雰囲気も亜美がいつも行くカフェとは全然違う感じがした。
「喫茶店?」
「あ~、そっちが近いかな。こないだ俊が教えてくれたんだよね」
そう言ってから彼女はなにかに気づいて申し訳なさそうな顔をした。
「大丈夫。気にしてないよ」
意識せず、ほとんど挨拶のように言葉が流れ出た。
彼女が黙り込んでしまったから、私はどことなく道路を見ていた。
日中太陽に照らされた道路からは陽炎が立ち上り、家の前からは風鈴の音がする。 
突然賑やかな声が聞こえてきて見ると、近くの家で小学生たちが水風船で遊んでいた。
それを投げ合い、あるいは逃げ回り、笑い声が絶えず聞こえてくる。
その様子に顔を綻ばせていると、女の子が1人、勢い余って道路に飛び出してしまった。
すこし奥にはトラックがいて、大きなクラクションが鳴った。
女の子は足をひねった様子で立ち上がれないようだった。
動けない私の隣で風を切る音がしたと思うと、亜美はトラックが轢く寸前のところで女の子を助けていた。
あぁ、まただ。
私はやっぱり彼女たちとは違うのだ。そして彼女たちもやはり自分を顧みないのだ。
家の中から女性が飛び出してきて、ペコペコと亜美に謝っていた。
「怪我なくて良かったです」
亜美は笑顔でそう伝えると、お礼がしたいという女性に住所だけ渡して私のところに走ってきた。
「私かっこよくなかった?」
亜美は軽口を叩くほど軽快に振舞っていたが、肩からは血が滲んでいた。
「ケガしたの?」
「そう言えばガードレールにぶつけたかも」
亜美はそう言ったが、私の中では正体不明の黒い感情が蜷局を巻いていた。
「なんでいつもそうやって...」
言いかけた言葉に彼女はおそらく気づいただろう。
「ごめん。やっぱり今日帰るね」
それだけ言い残すと私は逃げるようにしてその場を去った。
ご飯も食べず、お風呂にも入らず、ただ眠気が来るのを待って私は暗い闇の底に落ちていった。
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