魔法戦士 トイ・ドールズ

森原明

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1 異世界からの侵略

シーン3 三重県 うめの木市 県立うめの木学園1年B 組教室内

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「ねえ?お昼、どうする?」

 今日は期末テスト前で半日登校日・・・
部活も当然休みとなって生徒達にとって貴重な日であった。

 高校に入って初めての期末テストを迎え、いい点数を取りたいなぁ~…と漠然と考えていた優子はクラスメートの広美に声をかけた。
 友人である、というだけでなく、今のところ学年上位と言われている彼女に勉強を教われば、少なくとも赤点を取るようなヘマはしないと思っているからである。



「ん?お昼?そうねぇ・・・あかりんトコお邪魔して3人でランチしない?」

あかりん…安藤明あんどうあかりの家はここら辺では数少ない喫茶店を営んでいる。
仲良し3人組となった彼女達はよくここを利用しているのだった。


「あかりんトコのお母さんはタダでご馳走してくれるし…貧乏学生のうちらからしてみればありがたい話だよね~」
「ビンボーって…人聞きの悪い。ただ、バイトもしてないから所持金が心もとないってだけで・・・」
「おんなじことやん。今日日バイト禁止のガッコーなんてウチくらいのもんやん??」

 そう言うと、広美は優子の手をつかんでそのまま自分の席でスマホを見ている明の側へ駆け寄った。


「あ~かりん☆この後あんたんちで勉強し…」
「…ごめん!ちょっ…静かにして!なんかへんな番組がスマホジャックしてるんよ」

「変な、番組?」
「すまほじゃっく??」

 言われるがまま二人が彼女のスマホを覗き込むと、そこには今まで見たこともない美形な男性が映し出されていたのだった。




「この世界の全住人たちに告げる。
我の名はサダラーン。異界の王である。
…繰り返す。この世界の全住人たちに告げる・・・」

白髪、淡いコバルトブルーのような青い瞳、透き通るような白い肌…。

そんな男がこれまた渋いが澄んだ声でスマホからこちらに呼びかけていたのだった。



「うわぁ~…何、この美形!超かっこいいんですけどっ?!」

 普段はあまり芸能人のことは気にかけない・・・と、いうよりは二次元のカッコいい男性キャラにお熱気味なオタク気質の明と広美の目がスマホ画面に釘付けになっていた。


「え~?私はあんま趣味じゃないなぁ…」


 アニメは好きだ、という理由から仲良くなった3人だったが、優子は二次元キャラに恋をするほどハマっている訳ではなく・・・他の二人よりは冷静に物事を見ているのである。
そんな優子は妙な違和感を感じて画面の中の男を注意深く観察した。
・・・いや、そんなに注意深く見なくても頭の両サイドに、普通では見られないようなものが生えていることには気がつくのだが…元々二次元寄り嗜好の彼女達二人にはさしたる問題ではないらしい。



「ちょっ、黙って」


「・・・我々はこれよりこの世界を支配下に置くために侵略を開始する。
 各国の主要人物、統治機関に属する者たちよ。私の言葉を理解したならば速やかにこの事態を受け入れ、対応せよ。
・・・我からの要求は3つ。
 ひとつ。
全ての武装を放棄せよ。
 ふたつ。
降伏し、従う意志があるならば統治機関の建物のどこかに白旗を上げて意思を示せ。
 みっつ。
我が部下がそれぞれの政治的機関を運営する事になる。
その指示に従う事。
・・・以上だ。
 猶予期間は一日与えよう。
 我々としても出来れば平和的に望みたいが、この要求が受け入れられない場合…実力行使に出るのでそのつもりで事にあたって欲しい…」





「きゃ~♡!きた、きたぁ!お約束な事実上の世界征服宣言っ!!」
「こんな美形に支配されるんなら、世界征服されても良いなぁ…私♡」
「え~?!世界征服されちゃうんだよ?自由が無くなっちゃうかもしんないんだよ?
そんなの、嫌だなぁ…私・・・」
「・・・チャンネル登録とかってどうやるんだろ?私、サダラーン様のファンになっちゃうっ☆」




・・・こんな感じなのは何もこの高校生三人だけではなかった。


 この後、この異様とも言える電波ジャックは世界中ですぐさま話題となった。
 たちまちSNS上ではサダラーンがトレンド入りし、芸能事務所は・・・大なり小なりどころか海外の某有名映画会社までが彼の居場所を探し出すことに翻弄し、なんとか自分達の所属タレントにしようと躍起になった。

 そんな一方、各国の政治機関では質が悪い電波ジャックであると判断を下し、それぞれの諜報機関が動き出して捜査が始まるのだが…
当然というか、信憑性にかけるトチ狂っているアホな宣言などする輩を本気で探し出すつもりは、各政治機関には全く無く、わずか1日でこの電波の出処を突き止めることなど出来なかった。



 当然というか…各国の首脳達は誰もこれが本当に世界を脅かす事態である、とは全く考え無かったのである。




・・・そして、この相手を無視するかのような状況が一変する事件が、翌日の同時間帯に一斉に起きるのであるが…
現時点では何も起こらないまま、この放送終了後も世界はいつも通り…。



 いつもの決まった場所では民族紛争や小競り合いはいつもどおりに行われ、大国は大国同士で睨み合いを続け、領土侵犯しただの資源がどうだの…自分の国の事中心で他の国の迷惑など顧みない国もいつも通りの嫌がらせを行い、それに対する遺憾表明を忘れないよう政治が動く。
…そんな変わりの無い茶番劇が世界ではいつもと同じように当然のように行われ・・・。

 このように現時点では、世界はまだまだ普通に平和なのだった・・・。



    
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