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2 登場!魔法戦士
シーン3 うめの木学園前、フェイススペース
しおりを挟む__ ぱっしゃあぁあああんっ!!
優子とピックの目の前で、光の束がティラノサウルスの顔面に叩きつけられた。
さらさら…と軽い音を立てながら何かが飛び散り、舞い落ちてくる。
「なっ?!なんだあぁあぁ~~っ?!」
ティラノサウルスの上で陣取っていたジャッカルは、今の一撃の余波を受けて光の束と反対方向へくるくると回転しながらふっ飛ばされてしまった。
同時に恐竜も地響きを上げて地面に倒れ込む。
「・・・だあれ?この空間を制御してる張本人は?」
「あっ…あの人は・・・?」
飛び散った光の中から現れた少女が辺りを見回しているのを見た優子が誰に問うわけではない疑問を口にした。
「……ミルフィーユ?!」
「…ん?何処かで聞いたことのある声が・・・」
声の主を探し、更にキョロキョロするミルフィーユに、ピックはぱたぱたと手を振って存在をアピールする。
その存在に気が付いた彼女はそのままふわりと二人の前に舞い降りた。
「やあ☆ミルフィーユ。加勢に来てくれたのかい?」
「・・・私、リスのぬいぐるみに知り合いはいなかったと思うけど・・・?」
「ボクだよっ!ピクセリオンっ!」
「・・・・・はい???」
じ~~~~っとリスのぬいぐるみの顔を見たミルフィーユが首をかくんと横に傾げた。
「ピクセリオン先生??」
「……の、やろおおおおっ!ひきょーだぞぅっ!
変身させると見せかけて仲間なんぞよびやがってええぇ!!」
どうやら立ち直ったらしいジャッカルが猛スピードで飛んで来ると、手のひらをピックと優子とミルフィーユに向けた。
「喰らえ!火炎弓弾ッ!」
「え?!何?普通に魔法攻撃?!」
赤く光る光の帯がこちらに飛んでくるのを見た優子は慌てたが、その帯はミルフィーユが差し出した左手から発生した淡い光の前で火の粉になって、消えていった。
「ちょっと、今取り込み中だからおとなしくしてなさい」
ファイアー・アローを弾いたそのままの態勢からミルフィーユが差し出していた左手をひねるような動作をすると、空中にいたジャッカルがたちまち「しぇー!」と言いそうな奇妙な態勢になり
「うぎゃう?!」
と小さな悲鳴を上げる。
「・・・せんせー・・・また、随分と可愛くなっちゃって☆」
まるで何事もなかったかのように会話を再開したミルフィーユがピックを指をつんつんとつっついた。
「いや、まあ……ちょっと色々あってね…って・・・なんでキミがこっちにいるんだ?!」
「…詳しい話は後にしたほうがいいみたい」
ぐぎゃあああぁん!
どす、どす、どすどすっ!
口から泡を吹きながらティラノサウルスが猛突進してくるのを見た彼女は今度は右手を差し出し
「幻影障壁術!」
と叫ぶと、
ティラノサウルスと3人の間の空間にもやもやっとした何かが “発生” した。
そのもやもやしたものはまたたくまに広がって恐竜の前に立ちはだかる。
ぱっと見た目にはなにもないようにも見えて、時折光の屈折なのか、空気の流れが違うからなのかは分からないがモヤモヤとして見える。
まさに蜃気楼みたいなものなんだと優子は理解した。
その空気の壁らしきものに恐竜は激しく衝突し、鈍い衝撃音を立てながら弾き飛ばされ再び地面に倒れ込む。
(・・・魔法戦士って…こんなに強いんだ?)
現実に目の前で起こっている出来事は、大好きなアニメでもなければ夢を見ているわけでもない。
そして、自分はピックに魔法戦士にならないか?と誘われて変身しようとしていた・・・。
こんな力があれば、少なくともここにいる友達二人くらいは守れそうだ…と優子は考えた。
「…くそったれっ!何だ、貴様っ!何者だっ?!」
空中で身動きが取れずにジタバタしているジャッカルが半泣き顔で怒鳴ったところで、魔法戦士は待ってました!とばかりに名乗りを上げた。
「私は魔法戦士ミルフィーユ!
アンタ達みたいな邪悪な異界の者からこの世界を守るために戦う自由の戦士よ☆」
なんだかVサインを顔の前に出して可愛く笑顔を作ってポーズを取る彼女を見た優子は
(…え?なに??もしかして、アレもしなくちゃなんないの?なんか恥ずいな・・・)
と思ってしまった。
「・・・何が自由の戦士だよ・・・
どうせキミのことだから暇つぶしとか魔王への嫌がらせとかそんな理由で参戦したんじゃないのかい?」
ぴくっ
ため息交じりに呟いたピックの言葉に、ミルフィーユは肩を少し動かし反応する。
「…図星か」
「ちっ…ちがうわよっ!私は私にしか出来ないことをするためにわざわざ自分で変身して戦うことを選んだんだからねっ!!
有り余る魔法力を全開にして暴れられるからだとか、サダラーンが困って悔しがる顔が見たいとか、先生達が散り散りになっちゃったのを探し出して回収して、目の前に並べて笑い転がりたいから始めたとか、そんなんじゃないんだからねっ!!」
「・・・なるほど。微妙にベクトルが違う魔女っ子かぁ……」
「…しかもちょっとツンとデレも混じってたりしてちょっと可愛いんじゃない?」
「そこっ!外野は黙ってなさい!!」
広美と明が楽しそうに話しているところへツッコミを入れたミルフィーユは真っ赤な顔で怒鳴っていた。
「・・・君は分かりやすいね~・・・まあ、そこが生徒としても可愛かったんだけれど」
「かっ…可愛い??」
更に顔の色を赤く染めて、ミルフィーユが両手を頬に被せるようにしながらもじもじし始めるのを見た優子は
「・・・ああ☆」
ぽん、と両手を叩いて納得して頷いた。
「なるほどなるほど。それじゃあ、お邪魔な私達は退散して、後は二人でごゆっくりどーぞって事にして任せちゃおうかな?」
「・・・なんで君が納得してるんだよっ!だいいち何に納得してるんだよっ??」
「ふたりで、ごゆっくり・・・」
何だか慌てている先生を尻目に、そそくさと空間の端っこあたりを目指して移動しようとする3人の中の一人になって逃げようとする優子の裾をしっかり掴んだピックは、その近くで両手を頬に当てて赤面しているミルフィーユにもツッコミを入れることを忘れない。
「君も彼女達の冗談にそんなあからさまな反応しなくていいからっ!
とにかく時間を稼いでくれないか?!」
「よ、よくもまあ…オレ様を置き去りにしたままにしやがったな?!ぶっ殺してやる……」
なんとかミフフィーユの魔法から抜け出したジャッカルが、ゼイゼイと息を荒くしながらこちらを睨みつけている。
なんかもうすでにダメージを受けてボロボロ感のある彼が息巻いてそう言ってもいまいち説得力は無い。
「・・・なんかもう決着ついちゃってない?今更戦っても多分勝ち目はないんじゃ・・・」
「やかましいわ!!敵に情けをかけられるほどオレは参ってねえ!」
思わず哀れんでしまった優子の一言で気力だけは復活したらしいジャッカルが肩をわなわなと震わせながら大声で叫んだ。
「と、とにかくっ!優子、変身して戦おう!
キミが、アイツを倒すんだ!」
「え~?…どーしても、変身しなきゃ、ダメ?」
ミルフィーユが登場したことでなし崩しに変身するのを逃れられるんじゃないかと思っていた優子は剥れっ面でピックを見る。
「・・・とにかくっ!この世界を守るためにキミが戦うんだ!もう契約しちゃったんだから文句を言わない!!」
「はーい★分かったわよぉ・・・」
・・・こんなにやる気のない魔法少女(正確には魔法戦士だけど)は今までいたのだろうか?
とにかく、優子は仕方無しにピックからもらった指輪を見ながら承諾したのだった。
応援ありがとうございます!
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