魔法戦士 トイ・ドールズ

森原明

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2 登場!魔法戦士

シーン6 登場!魔法戦士オキシペタラム

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「・・・・・」

(その昔、最強と謳われたオキシペタラム…
文献や遺跡の壁画に描かれていたのは全てが断片的な情報しか無かった…どんな姿をしているんだ?)

 ピックは文献と伝承と壁画に描かれていた象形文字の解析から予想はしていたものの、その実態は分かってはいなかった。




「・・・・・」

(先生が研究してた伝説の魔法戦士…どんな姿をしているの?!)

 弟子としてピックから学んでいたミルフィーユは、時々話に上がっていた伝説の魔法戦士については、ピックから聞いていた分しか知らない。
 しかしまるで憧れの女性を追い求めるような情熱的な瞳で研究する彼の、その熱い瞳に惹かれてしまった彼女もまた…その存在に憧れを抱いていた。
 だから、自分なりの解釈から生み出した今の彼女の魔法戦士…変身スタイルは、実のところソレを元に創り上げたひとつの答えだった。
 現時点でまだオキシペタラムの伝説に追いつけるほど強くはないだろうが、先生ピックに認めてもらうために研究した成果である。
 自信を持って自らが変身して戦うという選択肢を選んだ彼女にとって、ミルフィーユのその姿は、彼女から見たオキシペタラムのようなものなのだ。




「・・・・・」

(おきしぺたらむとか言ってたな…ピックのやつがお熱だったのは知ってるが、やつの言う通り最強の魔法戦士なら・・・そんな奴と戦って勝てるのか?
勝てばオレこそが最強ってことになるけどよ~……
実際のトコロ、一体どんなやつなんだ?)

 ジャッカルはピックが熱心に研究していた魔法戦士のことは知っていたが、先程名前を言い間違えてしまった通り、そこまでその魔法戦士に関しては興味は無かった…。
 しかし、今、それが目の前に姿を現す。
 そして、これから戦うことになる相手が “最強” という肩書を持っている事には興味が湧いていた。





(((煙が邪魔で見えない…)))


 3人のそれぞれの思いを、目の前の煙が綺麗に覆い隠してしまっている。





(・・・ついに変身したのね…優子ってば、どんな姿になってるのかしら…)

 青い光に包まれながら変身していく様子を途中までは確認できていた明だったが、途中からは眩しさに耐えられなくて見ることが出来なかったのだった。
それは同じ場所で同じものを見ていた広美も同じだった。

(クラスメイトで友達が魔法少女になる瞬間に立ち会えてるのに…最後までは見ることが出来なかった……こんな機会、滅多に無いだろうになぁ…残念)

 それでも、あの煙が晴れれば優子の勇姿を見ることが出来る。
二人はワクワクしながらその時を待った。





「…けほ、けほっ☆何よ、この煙…なんにも見えないじゃない」

煙の中から優子の声だけが聞こえてくる。


 この場にいる全員が、声の主の姿が確認できる、煙の晴れる瞬間を心待ちにしていた。



・・・・・そして。


その瞬間は唐突にやってきた。

変身が終わった後によくある、一陣の風が吹いて祝福するように、さぁ~っと優しい風が吹き抜けたのだ。






 そこに現れた最強と謳われる魔法戦士を見て、その場にいた全員が一瞬固まった。





「ま、魔法戦士オキシペタラム、見参っ☆」


 恥ずかしい中今できる精一杯で手を前に差し出しながらポーズを決める。
…しかし、すぐに周りの様子がおかしいことに優子は気が付いた。



「・・・あ、あれ?なんか、変だった?」





「・・・・・え、ええええぇ~~~?!」

「・・・・・は、はい???」

「・・・・・は?????」

「・・・きゃあぁ~~~ん」
「・・・な、なんてかわいい…」




 ピックが予想外すぎるその姿に絶叫し。

 ミルフィーユは予想外すぎるその姿にどうリアクションして良いのか分からず首を傾げ。

 ジャッカルは想像の斜め下のその姿に目が点になり。

 友人二人は思わず駆け寄って優子を激しくハグして顔を擦り寄せた。









「え?!あ、ち、ちょっとぉ?!二人共何して…」

 状況を理解していない優子は友人二人をとりあえず自分から引っぺ剥がそうとして、次に自分の声がおかしいことに気が付いた。


「あれ?声が高くなって・・・」

「きゃああぁん♡その声が、また、たまんなあぁい」
「ゆうこぉ~♡アンタって子は、あんたって子は~!」

「二人共、離れてくんないと戦えないよ?」

「戦うってどんな戦いするのぉ~?一番戦いに向かないその姿で~」



「・・・へ?私、いったいどーなって……」

 何がなんだかさっぱり分からない優子は、何とか二人から逃れようとしてジタバタするうちに視界に入った自分の足を見てぴたりと動きを止めた。




「・・・なに?この、あし……」

その脚を触ろうとして手を伸ばそうとしてまた動きを止める。


「な、なに?この、手……」

「キ、キミ…なんて姿に・・・どーしてそんな…」

 半泣き状態で優子にしがみついたピックが、とうとうこらえきれずに泣き出した。


「どーして?最強の魔法戦士があぁ!そんな姿になっちゃうんだああああぁ!!」

「ちょ…どーして泣くのよっ!泣いてないで説明…」



「あなた・・・そうよね?自分じゃその姿は見れないもんね…『ミラージュウォール』」

 衝撃的な登場に呆けたジャッカルのおかげで何の抵抗もなくあっさり恐竜の手から逃げたミルフィーユが優子の前に飛んでくると、指をパチン☆と鳴らして簡単な魔法を発動させた。
 優子の前に現れた光る壁。

 そしてその壁…鏡状に光を反射するそれに映し出された自らの姿を見た優子が悲鳴を上げた。



「いっ…いやああああああああああああああぁ!
ぺんぎんっ!ぺんぎんの、きぐるみいいいいいぃ!」


 その様子を見たミルフィーユも、とうとう我慢の限界に達してしまった。


「きゃははははははっ!なあに?それええぇ?めっちゃ、うけるぅ~~~!!あはははははあぁ~~~!
さ、最強の魔法戦士が、ペンギんなんてぇ…あぁ~~~っ!お、おなかがぁ…い、いたあぁい!」




「なんでぇ~・・・脅かしやがってえ…ただのペンギンじゃねえか……
手強い相手が来るんだと思ってたんだが、緊張して損したぜ…」


 数秒間。
 彼は想像からあまりにもかけ離れたその姿を見て頭の中が現実に追いつかず、目を小豆豆のようにしてしばらく呆けていたのだが・・・。
 ミルフィーユのけたたましい笑い声が目覚まし時計のような効果があったのか…ようやく我に返った。
そしてメチャクチャ弱そうにしか見えない相手だと悟ると、悪役らしくペロリと舌舐めずりをし、ニヤリと笑う。


「・・・これで、オレが最強だっていう肩書が手に入るわけだな・・・ラッキーだぜ」

 ジャッカルは自分の獲物に対して容赦のない攻撃を放った。


「ファイアーボールっ!消し飛んじまえっ!」


 友達二人に抱きつかれ、ピックに泣き付かれ、さらに笑いながら地面を転がるミルフィーユ・・・。
 対象に当たると炸裂して対象を破壊する、ポピュラーだが確実に危険な攻撃魔法を防ぐ手立てがない彼女達は、ジャッカルの魔法攻撃をそのまま受けてしまうしかなかった。




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