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第1巻
第23話 篠田の置き土産
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三ヶ月後の夜。
篠田が来た。
「今夜が最後になるかもしれない」
「どこかに行くんですか」
「入院する。大した病気ではないが、少し長くなるかもしれない」
「そうですか」
「ここに来るようになって、よかったと思っている」
ルーカスは今夜の篠田のために、特別なウィスキーを出した。十八年ものの、棚の一番奥にあるボトル。
「これは高いやつじゃないか」
「今夜のためにとっておいていました」
「嘘だろう」
「半分は嘘ではないです」
篠田は笑った。
グラスを受け取って、香りを確かめた。
「……いい香りだ」
「時間をかけたものは、香りが深くなる」
「人生と同じだな」
「そうかもしれません」
篠田はゆっくりと飲んだ。
「君に一つ、言っておこうと思っていたことがある」
「はい」
「君は、自分が異邦人だと思っているだろう。この世界に馴染めないと、どこかで思っているだろう」
ルーカスは答えなかった。
「でも、君がここにいることは、この世界にとって必要なことだ。私はそう思っている。それは哲学の話ではなく、この三ヶ月で私が感じたことだ」
「……先生」
「反論するな。事実を言っている」
ルーカスはグラスを持つ手が止まった。
「……ありがとうございます」
「礼を言うことでもない。事実を言った」
篠田はウィスキーを飲み干した。
「退院したら来る」
「お待ちしています」
篠田が帰った後、ルーカスはしばらくカウンターに手をついて、動かなかった。
この世界に必要。
その言葉が、胸の奥のどこかに刺さった。
刺さった、というより——届いた。
異世界から来た自分に、届く言葉があった。
篠田が来た。
「今夜が最後になるかもしれない」
「どこかに行くんですか」
「入院する。大した病気ではないが、少し長くなるかもしれない」
「そうですか」
「ここに来るようになって、よかったと思っている」
ルーカスは今夜の篠田のために、特別なウィスキーを出した。十八年ものの、棚の一番奥にあるボトル。
「これは高いやつじゃないか」
「今夜のためにとっておいていました」
「嘘だろう」
「半分は嘘ではないです」
篠田は笑った。
グラスを受け取って、香りを確かめた。
「……いい香りだ」
「時間をかけたものは、香りが深くなる」
「人生と同じだな」
「そうかもしれません」
篠田はゆっくりと飲んだ。
「君に一つ、言っておこうと思っていたことがある」
「はい」
「君は、自分が異邦人だと思っているだろう。この世界に馴染めないと、どこかで思っているだろう」
ルーカスは答えなかった。
「でも、君がここにいることは、この世界にとって必要なことだ。私はそう思っている。それは哲学の話ではなく、この三ヶ月で私が感じたことだ」
「……先生」
「反論するな。事実を言っている」
ルーカスはグラスを持つ手が止まった。
「……ありがとうございます」
「礼を言うことでもない。事実を言った」
篠田はウィスキーを飲み干した。
「退院したら来る」
「お待ちしています」
篠田が帰った後、ルーカスはしばらくカウンターに手をついて、動かなかった。
この世界に必要。
その言葉が、胸の奥のどこかに刺さった。
刺さった、というより——届いた。
異世界から来た自分に、届く言葉があった。
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