『異界酒場 ルーナ』

みぎみみ

文字の大きさ
23 / 185
第1巻

第23話 篠田の置き土産

しおりを挟む
三ヶ月後の夜。

篠田が来た。

「今夜が最後になるかもしれない」

「どこかに行くんですか」

「入院する。大した病気ではないが、少し長くなるかもしれない」

「そうですか」

「ここに来るようになって、よかったと思っている」

ルーカスは今夜の篠田のために、特別なウィスキーを出した。十八年ものの、棚の一番奥にあるボトル。

「これは高いやつじゃないか」

「今夜のためにとっておいていました」

「嘘だろう」

「半分は嘘ではないです」

篠田は笑った。

グラスを受け取って、香りを確かめた。

「……いい香りだ」

「時間をかけたものは、香りが深くなる」

「人生と同じだな」

「そうかもしれません」

篠田はゆっくりと飲んだ。

「君に一つ、言っておこうと思っていたことがある」

「はい」

「君は、自分が異邦人だと思っているだろう。この世界に馴染めないと、どこかで思っているだろう」

ルーカスは答えなかった。

「でも、君がここにいることは、この世界にとって必要なことだ。私はそう思っている。それは哲学の話ではなく、この三ヶ月で私が感じたことだ」

「……先生」

「反論するな。事実を言っている」

ルーカスはグラスを持つ手が止まった。

「……ありがとうございます」

「礼を言うことでもない。事実を言った」

篠田はウィスキーを飲み干した。

「退院したら来る」

「お待ちしています」

篠田が帰った後、ルーカスはしばらくカウンターに手をついて、動かなかった。

この世界に必要。

その言葉が、胸の奥のどこかに刺さった。

刺さった、というより——届いた。

異世界から来た自分に、届く言葉があった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

男の仕事に口を出すなと言ったのはあなたでしょうに、いまさら手伝えと言われましても。

kieiku
ファンタジー
旦那様、私の商会は渡しませんので、あなたはご自分の商会で、男の仕事とやらをなさってくださいね。

王様の恥かきっ娘

青の雀
恋愛
恥かきっ子とは、親が年老いてから子供ができること。 本当は、元気でおめでたいことだけど、照れ隠しで、その年齢まで夫婦の営みがあったことを物語り世間様に向けての恥をいう。 孫と同い年の王女殿下が生まれたことで巻き起こる騒動を書きます 物語は、卒業記念パーティで婚約者から婚約破棄されたところから始まります これもショートショートで書く予定です。

僕は君を思うと吐き気がする

月山 歩
恋愛
貧乏侯爵家だった私は、お金持ちの夫が亡くなると、次はその弟をあてがわれた。私は、母の生活の支援もしてもらいたいから、拒否できない。今度こそ、新しい夫に愛されてみたいけど、彼は、私を思うと吐き気がするそうです。再び白い結婚が始まった。

許すかどうかは、あなたたちが決めることじゃない。ましてや、わざとやったことをそう簡単に許すわけがないでしょう?

珠宮さくら
恋愛
婚約者を我がものにしようとした義妹と義母の策略によって、薬品で顔の半分が酷く爛れてしまったスクレピア。 それを知って見舞いに来るどころか、婚約を白紙にして義妹と婚約をかわした元婚約者と何もしてくれなかった父親、全員に復讐しようと心に誓う。 ※全3話。

~春の国~片足の不自由な王妃様

クラゲ散歩
恋愛
春の暖かい陽気の中。色鮮やかな花が咲き乱れ。蝶が二人を祝福してるように。 春の国の王太子ジーク=スノーフレーク=スプリング(22)と侯爵令嬢ローズマリー=ローバー(18)が、丘の上にある小さな教会で愛を誓い。女神の祝福を受け夫婦になった。 街中を馬車で移動中。二人はずっと笑顔だった。 それを見た者は、相思相愛だと思っただろう。 しかし〜ここまでくるまでに、王太子が裏で動いていたのを知っているのはごくわずか。 花嫁は〜その笑顔の下でなにを思っているのだろうか??

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...