『異界酒場 ルーナ』

みぎみみ

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第5巻

第22話 水月の二冊目

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六月の末。

水月が来た。

「二冊目の本が、来月出ます」

「おめでとうございます」

「担当が礼奈さんで、良かったです。全然違いました、一冊目と」

「どう違いましたか」

「一冊目は一人で書いた。二冊目は礼奈さんと作った感じ。対話しながら書けた」

「礼奈さんと対話する、というのは」

「言葉について、ずっと話し合った。どの言葉が正確か、この言葉で伝わるか——言葉を一緒に磨いていくような作業でした」

「それは、礼奈さんの強みですね」

「強みです。言葉を大切にする人で、作家側の言いたいことを絶対に削らないで、でもより届く言葉に変えてくれる」

「良い編集者ですね」

「最高の編集者です」

水月はシャンパンを受け取った。

「一冊目の表紙は深い青でしたが、二冊目は何色ですか」

「緑です。夜の森の緑」

「どんな物語ですか」

「夜の森を一人で歩いている人の話です。道に迷っているように見えて、実は——目的地がない方が、色々なものに気づける、という話です」

「それは、水月さん自身の経験ですか」

「半分は。ここに来ていた頃、書けないことが続いた。でも書けない時間に、色々なものが見えた。それが二冊目になりました」

「書けない時間が、本になった」

「そうです。ルーカスさんが言っていた——書けない時間が、書ける時間を作る——それが、本当のことでした」

ルーカスはシャンパンのグラスを磨きながら、言った。

「あなたの本を、向こうへ持っていきたいです」

「持っていけるんですか」

「転移で持っていけるかどうかは分からないですが……読んで覚えます。内容を」

「覚えて向こうに持っていく」

「そうです。向こうの誰かに話します。夜の森を歩いていた女の話、として」

水月は少し目を細めた。

「……本が、別の世界に行くんですね」

「言葉が、別の世界に届きます」

「それは——嬉しいです。本を書いて、一番嬉しいことかもしれない」
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