神話級量産します ―日本語で何か書くだけで最強アイテムができる異世界生活― ~銀髪ロリ美少女と始める言霊スローライフ~

みぎみみ

文字の大きさ
19 / 30
第三章「霧の洞窟」

第一節 道中の世界

しおりを挟む
ダーレムへの街道は、よく整備されていた。
エルムの里の木の門をくぐって街道に出た瞬間から、景色の質が変わった。里の周囲は農地と林だったが、街道に出ると視界が開けて遠くまで見渡せる。街道の両側に草が茂り、その向こうに丘が緩やかに続いていた。空が広い。遮るものがなく、水平線近くまで空だ。こんなに広い空を一度に見たのは、この世界に来てから初めてだった。
石が敷かれている部分と土のままの部分が交互に現れ、馬車の轍が深く刻まれた場所もある。整備されている、と言っても日本の舗装道路とは違う。継ぎ目があり、雨で削られた跡があり、石が欠けて土が露出した箇所がある。それでも歩くのに支障のない道だ、と真は思いながら足を進めた。足の感触が里の石畳とは少し違う。より広い道を歩いているという感触がある。
すれ違う旅人がいた。
背に荷物を積んだ行商人が単独で歩いている。何かを売り歩いているのか、何かを仕入れに行くのか、分からないが一人で歩いている。擦れ違いざまに軽く会釈した。真も会釈した。それだけで通り過ぎた。名前も知らない人間と、一瞬だけ同じ道を共有して、また別の方向に進んでいく。旅をしている、という感覚が濃くなる瞬間だった。
荷馬車が追い越していった。荷台に木箱が積まれている。御者が手綱を握りながら、前だけを見て通り過ぎた。馬のひづめの音が遠ざかっていく。街道の轍が深いのは、毎日こうした荷馬車が通り続けているからだろう。
騎乗の使者が風を切って駆けていった。これは速かった。すれ違う前に蹄の音が聞こえ、気づいたときには通り過ぎていた。何かを届ける急用があるのか、あるいはそういう仕事の人間なのか。この世界にも情報や物を運ぶための仕組みがあるのだと分かる。
歩きながら、ガルドが世界の仕組みを説明した。
「通貨は銅貨、銀貨、金貨の三種類だ」とガルドは言いながら、腰の袋から小銭を取り出して見せた。銅貨は親指の爪ほどの大きさで、表面に文字が刻まれている。銀貨は一回り大きく、光沢がある。「銅貨百枚が銀貨一枚、銀貨百枚が金貨一枚になる」
「一般的な宿と食事でどのくらいかかるか」と真は聞いた。
「一日銅貨三十枚から五十枚といったところだ。宿の質によっても変わる。エルムの里みたいな村の宿なら三十枚以下だが、街に近い宿場になると高くなる」
「ギルドの依頼の報酬は」
「最低ランクで銅貨五十枚前後。一日こなせば食費と宿代が出る。複数件こなせば余裕が出る。難度の高い依頼になれば銀貨単位になる」
真は数字を頭の中で整理した。コンビニの時給換算で考えようとしてみたが、物価の基準が違いすぎて比較できなかった。ただ、一日の最低限の依頼をこなせばその日は生きていける、という仕組みは分かった。
「手持ちの金がない」と真は言った。転移するときに財布は持ってきたが、日本円は当然使えない。
「当面は出してやる」とガルドが言った。「返せるようになったら返せばいい」
「借金みたいで悪い」
「俺も最初は誰かに出してもらった。回していくものだ」
「誰に出してもらったんだ」
「昔の上官だ。俺が傭兵になりたての頃、何も持っていなかった。宿代と飯代を何度も出してもらった。その人間はもうこの世界にいないが、回していくという言葉を残してくれた」とガルドは淡々と言った。感傷を表に出さない言い方だが、その人間のことを大切に思っているのは声の調子から分かった。
冒険者のランクについても説明を受けた。
「FからE、D、C、B、A、Sと上がっていく」とガルドは続けた。「Sランクは大陸全体で一桁いるかどうかだという話だ。依頼をこなした数、討伐した魔物の種類と数、緊急依頼への対応実績などが評価される。複合的に判断されるから、一つの指標だけで上がるわけではない」
「今の俺はFか」と真は言った。
「Fだ。登録したばかりだからな」
「ユナはEくらいか」
「Eになったばかり」とユナが答えた。
「それは速いのか」と真はユナに聞いた。
「普通よりは早いと思う」とユナは答えた。それ以上の説明はしなかった。どうやって上げたのか、どのくらいの期間でEになったのか、聞いても答えてもらえない内容かもしれなかったので、真は聞かなかった。
一定の間隔で宿場を兼ねた集落があり、そこで休憩を取ることができた。最初の宿場で水を補充し、軽い食事を取った。宿場の食堂は旅人を相手に商売しているので、速く出てくることと値段が手頃なことが優先されていた。味はエルムの里の食堂より薄かったが、腹が膨れれば十分だと真は思った。次にここを通るときは自分で何か作れるかもしれない、と考えながら食べた。
宿場を出てしばらく歩いたところで、一度だけ魔物に出くわした。
草むらが揺れたのをガルドが先に気づき、「来る」と言った。その言葉が終わる前に、野ウサギの三倍ほどの大きさがある生き物が二頭、草むらから飛び出してきた。
牙の生えた犬のような生き物だ。体格は小型犬ほどだが、牙が長く、目が赤い。「牙犬か」とガルドが呟いた。魔物の種類として分類されているらしかった。
「やってみろ」とガルドが真に言った。
真が短剣を構えると、一頭が飛びかかってきた。動きが速い。昨日のスライムより明らかに速い。しかし速度の予測はできた。飛びかかってくる軌道を見て、体を斜めにずらして避け、すれ違いざまに短剣を振り抜いた。一撃で倒れた。倒れ方が速かった。刻印の効果だ、と真は思った。「斬」が宿ったあの短剣でなければ、一撃で倒せたかどうか分からない。
「神話級の武器は効果が違う」とガルドが言いながら、もう一頭を斧で仕留めた。
ガルドが魔物の体内を確認した。小指の先ほどの、薄く光る石が出てきた。
「魔石だ」とガルドが言い、真に見せた。「換金できる。強い魔物ほど大きくて高値がつく。今のは下位種だから入っていたのは運がいい方だ。低位の魔物は魔石を持たないことの方が多い」
「こういう石が全部に入っているわけじゃないのか」
「そうだ。強さと魔石の有無は相関している。強い魔物を倒した方が、換金価値が高い」
「料理の素材に使える魔物はいないのか」と真は聞いた。
ガルドが真を見た。ユナも真を見た。二人の表情が少し似ていた。この場面でその質問が来るとは思っていなかった、という顔だ。
「いる」とユナが先に答えた。「大型の魔物は肉になる。ダンジョンの中に食用になるものを落とす魔物もいる」
「ダンジョンか」
「この先の街道を外れたところに、難易度の低いダンジョンがある」とガルドが言った。「霧の洞窟という。冒険者見習いがランクを上げるのに使う場所だ。ダーレムに行く前に寄ってみるか。いい経験になる」
「行こう」と真は即答した。
ガルドがにやりと笑った。「料理の素材を探しに行く気だろ」
「それも含めて」と真は言った。
ユナが前を向いたまま、小さく笑った音がした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

ずっとヤモリだと思ってた俺の相棒は実は最強の竜らしい

空色蜻蛉
ファンタジー
選ばれし竜の痣(竜紋)を持つ竜騎士が国の威信を掛けて戦う世界。 孤児の少年アサヒは、同じ孤児の仲間を集めて窃盗を繰り返して貧しい生活をしていた。 竜騎士なんて貧民の自分には関係の無いことだと思っていたアサヒに、ある日、転機が訪れる。 火傷の跡だと思っていたものが竜紋で、壁に住んでたヤモリが俺の竜? いやいや、ないでしょ……。 【お知らせ】2018/2/27 完結しました。 ◇空色蜻蛉の作品一覧はhttps://kakuyomu.jp/users/25tonbo/news/1177354054882823862をご覧ください。

最上級のパーティで最底辺の扱いを受けていたDランク錬金術師は新パーティで成り上がるようです(完)

みかん畑
ファンタジー
最上級のパーティで『荷物持ち』と嘲笑されていた僕は、パーティからクビを宣告されて抜けることにした。 在籍中は僕が色々肩代わりしてたけど、僕を荷物持ち扱いするくらい優秀な仲間たちなので、抜けても問題はないと思ってます。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜

KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞 ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。 諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。 そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。 捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。 腕には、守るべきメイドの少女。 眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。 ―――それは、ただの不運な落下のはずだった。 崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。 その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。 死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。 だが、その力の代償は、あまりにも大きい。 彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”―― つまり平和で自堕落な生活そのものだった。 これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、 守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、 いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。 ―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。

処理中です...