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降臨
しおりを挟む黒い塊が空を飛ぶ。稀に見る超巨大な鳥の群れだった。
普段であれば群れることのない巨鳥や魔鳥までもが、鳥達に加わって飛んでいる。
全てがとある方角の森から離れているようだった。
喚く鳥たちの去った後の森は静けさで包まれる。
嵐の前の静けさだとでもいうのだろうか。
何かの予兆とも思われる現象は、直後に続いた空間の歪みが説明した。
周囲の魔力が荒れ狂い白い光が顕現する。
目を開ける事も叶わない程の眩い光の放流。
忽然として森を照りつけたかと思えば、
なんの破壊をもたらす事なく淡い気泡のように消え去った。
その世界に何かが産み落とされた。
◇
地面に写るのは獣の影。
宙に浮いた獣人が重力に逆らながらゆっくりと地表に高度を落とす。
男が両足が地面を踏みしめると、ゆっくりと男は目を開ける。
凄まじい圧が周囲を包み込み、突風が森を襲った。
大きく息を吸い込み、目を開けた。
森の中。知っている感覚とは何かが違う。
(敵対個体はいない。)
周囲の安全を確認し、彼は力を抜いて体をほぐした。
風が肌をなぞる感覚。
足から伝わってくるザラザラ、そして湿った土の感触。
暗黒世界では感じれない、懐古的なそれらをイルクルは堪能する。
(素晴らしい、細胞が歓喜の声をあげている。ん?)
鈍っていた感覚を研ぎ澄ませていると、イルクルはあることに気づく。
自分を囲むように群れをなした矮小な魔力と、自分の足元にある弱り切った生体反応。
狼は知らない獣を確認すると、その牙で威嚇している。
(ここまで小さければ、気付く事の難しきかな。)
「ひ・か・え・よ」
畜生ほどの魔力も感じる事のできない魔物。
イルクルは気分が良かったがために、その嗄れた声で語りかけた。
しかし狼は威嚇という姿勢を変えず、恐れ多くも距離を詰める。
(なんじゃ?力の差を見極める事もできぬというか。話にならん。)
「《空指弾》」
イルクルがその手を掲げると、狼の群れの中の一匹が地に塞ぎ込む。
死。
イルクルが軽く指で弾き発生した空気の弾丸に頭を撃ち抜かれ、狼は絶命したのだった。
適当に放った空指弾は頭蓋骨を貫通し地面を大きく抉りあげた。
(ん?たかだか今ので冥土送りか。小突くつもりであったのだがな。)
イルクルと狼たちの隔絶された力の前には、狼にとって耐え切れる攻撃など存在しない。
突然仲間が動かなくなった狼の群れは、目の前の存在に更なる警戒を行う。
しかし、イルクルの目には違ったように写る。
(知性もないと来たか。)
「《念思》控えよ!」
手元に微弱な魔力を纏い、魔力に意思を乗せる。
その手をひらりと群れに振ると、利口な犬のように地面に伏せた。
知能の低い魔物に思いを伝える魔法:《念思》。
実力が隔絶した者の間でその意思は強力な力をみせ、ある種の拘束力までも発揮する。
神仏のような大自然の力に強制されたような圧力、重力を感じる狼たち。
動く事も、地面から起き上がることもできない。
そこで初めて目の前の相手イルクルという存在の脅威を正しく認知する。
「《念思》去れ!」
蛇に睨まれたネズミのように動く事のできなかった狼。
《念思》とともに体の拘束が解かれると一目散にその場を離れていった。
(邪魔者が消えたの。)
敵が居なくなったところで、改めて地面に転がっている生物を確認する。
泥だらけになった小さな生命体。
「ひ・と・しゅ。」
揺らしても、意識を取り戻さない。
仰向けにすると身体中に小さな裂傷がある、イルクルにもわかる人間種の幼い女の子だった。
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