オリュンポス

ハーメルンのホラ吹き

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行く手を阻むもの

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森の広範囲に漂う濃密な『魔力残滓』。

アルが《魔力感知》を行なっていた。


(大した生物はおらぬか。)


脳内には膨大な量の森の情報や、そこに住まう魔物の情報が流れ込んでいる。

魔物や人間は多く見当るが、目ぼしい生物はいない。

この森は面白くないとの結果に至り、少し肩を落とした。


(下界に来たと分かってはいたものの、残念でならぬ。)


イルクル・アルダザイム・ジエルクファ・アルティアーは大戦を生きた者。

戦闘以外の娯楽というものを知らない。

魔物が住処とする森林といえば、まさにその星の生物の基準を推し量る材料だった。


「アル...。」


そんなバトルジャンキーな考え事をしていたアルの服を、アイーシャが引っ張る。

二人の目の前に現れたのは、鉄と皮を織り交ぜた防護服を来た五人組の男たちだった。


「なんじゃ?此奴らは?」







...数分前

離れた丘の上。


「おいおい」

「あ゛?」


見張りをしていた男の声に他の四人が反応した。


「あいつ、俺たちが独占してる龍華花を見つけたようだぞ」


見張りの男に向けた視線を、今度は龍華花の群生地帯に視線を向ける。


「冒険者ってこたぁねえだろ。子連れだぜ。」


一人がそういえば、残りの三人もそれと同じような意見を言う。


「よくこんな森の深くまで大人と餓鬼一人で迷い込めたもんだなぁ。」

「怠いなぁ。偶にこういう奴がこなければ、ただ座って龍華花見てればいい仕事なのになぁ。」

「さっさと片付けに行くぞ~。」

「あぁ。だが今度の奴はちったぁ骨が有りそうだぞ。」


4人が各々の感想を述べてる間に、小さな望遠鏡を覗いた監視役の男が群集地にいる男を見た感想を語った。

それを聞き、グループの中の一人が望遠鏡を奪い取る。


「...獣人か。」

「獣人か。珍しいな。冒険者とかか?」

「わからん。だが一人ってこたぁ、間違いなさそうだぞ。」

「獣人のパーティーならまだしも、一人なら余裕だろ。」

「随分と高そうな格好もしてやがる。これは上物だな」

「餓鬼も上手いこと捕まえれば金になる。」

「おいおい。夜が待ち遠しくなるじゃねえか!」


獣人は種族総じて戦闘能力が高い。

あまり嬉しくない情報だった。

しかし一人であれば話は別だ。

五人組の男たちは晩飯に期待を寄せながら、アルとアイーシャのいる場所へ向かった。







「お前さんたち、ちょっと待ってもらおうか。」


群生地から離れつつあった二人を先回りした五人組。

その中の一人が前に出てアルとアイーシャを止めた。


(状況は5対1だ。いきなり変な動きはしねぇだろう。)

「そこの子供が持っている花はなぁ、俺たちが栽培してるもんなんだよ。返してもらおう。」

「え。い、いやだ!わたしにはこれが要るの!」

「お嬢ちゃんには悪いが、これはお願いじゃねぇんだ。こっちは商売でやっててね。」


返せと言えば、男の横にいる餓鬼が大きく反応した。

だが、こっちから引くつもりはない。

獣人の男がどう動くのかを観察していたが...。

男はいたって平然。なんの反応も示さない。


(...俺たちの事をなめてんのか?)


それならびびらせてやる必要があるなぁ。


「こっちも一日中時間があるわけじゃねえ!さっさと返しやがれ!」


声を荒げ、花を返すように宣告する。

娘は怯えて男の後ろに隠れたものの、しかしそれでも男は反応しない。

むしろ戸惑っているかのようにも見える。

だが、それでも男は大した反応を示さない。


(コイツ...何がそんなに難しい?さっさと花を返せば終わりなのによぉ。馬鹿か?)


先ほどから交渉している男は、アルの反応の薄さに怒気を覚え始めていた。


「別に、今返せば何も無かったことにしてやるから、ほら。」

「お、おう。今返せば無かったことにしてやる!」


リーダに怒りが募っているのを察してか、後ろで待機している一人が冷静な声をかけた。

リーダーは思う。


(完璧だ。これで男が花を持って近づいた所をサクッと犯れる。)


どうやら全ては作戦だったようだ。

一人が怒り、一人が冷静に話す事で相手に交渉を促すテクニック。

良い冒険者・悪い冒険者と呼ばれるものあった。



リーダーは自分の手を出し、花を返すように要求する。

すると、ようやく獣人の男が俺たちに歩み始めた。

しかし、小娘から花を取り上げてはいない。


(なんだぁ?アホなのかこいつは?)


しかし多少イラついていたのは本当だった。

わかった。

コイツ、ボコボコにしてやる。







先ほどから、アイーシャとこやつらが何かを話しているようだが。

一体何の話しておるのだろうか?

アルは目の前で起こっている事の欠片も理解していなかった。

アイーシャが大声を出したと思えば、男も声を荒げおる。

...解せんな。


「~~●~~~◇#~~~●▼~~~~」

「~~◇~~▼~~△●~~~%~~~」


今度は後ろの奴が冷静に何やらものを言った。

そして前に立つ男が差し出す手。




...此奴、何が目的だ?

様子見をしてみたものの全く理解ができなかったアル。

要領をえずとりあえず近づいて見る。


(手を出した。手か?手で何かをするのか?吾も手を出せば良いのか?)


そんな事を考えながら悠然と近くアル。

無防備なアルに男は突然動き、刃物を手に持った。


(なんじゃ?獲物など握りおって。)


アルからすれば男の動きなど「遅い」と表現するのも早い。

停滞にしか感じられない。


(このまま獲物を抜き、辿れ至るのは吾の首あたりかの?)


アルは即座に獲物の軌道を逆算し、男の意図を見通す。

この程度で吾に牙を向こうとは、世間知らずにもほどがある。

《空指弾》を出した時のように中指と親指で輪を作れば、胸元に手を置き魔力を込めずに弾いてやる。



ーーーードォオオオン。



男がフッと消えたかと思えば、少し離れた場所で音がなった。

驚愕の表情を浮かべる四人の男たち。

振り返れば、アイーシャまでもが魂の抜けたかの表情を浮かべているではないか。


(此奴ら四人も向かってくるであろうな。)


さて、残りの四人はどうしてくれようか。
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