オリュンポス

ハーメルンのホラ吹き

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ヘイトの行先

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王国からゴブリンの脅威が過ぎ去った。

勇猛果敢なる王国の兵士たちの尽力により、ゴブリンの脅威は排除された。

実に素晴らしい知らせだ。


また、嬉しいことにこれまで採取困難となっていた龍華花の群生地が、

編成された討伐隊によって発見されたらしい。

感染経路不明の疫病に対して治療効果の高い植物が大量に発見されたのだ。


症状の進行は遅いとはいえ、確実に体調の悪くなってゆく奇病。

遂に治療薬が手に入ると多くの国民がこの吉報に歓喜の声を上げた。


とある商会のかしらを除いては。


「チッ。新しくできた治療薬が流通するまでに今ある治療薬は全て売り切っておけ。」


新顔の雇われワーカーが出された命令を遂行するため部屋を出ていく。


実力のあるワーカーを雇うことで龍華花の独占的な市場を手にいれ、

発病者に高値で売ることで儲けを増やしていたバステル商会の頭だった。


その感染症さえ回復薬を装ったポーションをワーカーに売らせ、誘発させたものだ。

悪事が明るみに出れば商会が窮地に追いやられることは必至。


しかし症状は進行が遅く、何が原因で発症したのかが突き止めることが困難なため、

いざ行なってみれば低リスクで売り上げを伸ばすことに成功した。


バレなければ悪事は存在しない。

そんな価値観の元、全ては自作自演で儲けていたわけだ。


「運が悪い。いや、いいのか?全てはゴブリンの所為にできる。隠蔽工作の必要がなくなったわけだが...。もう少し儲けるつもりではあったんだがな。」


ワーカーを派遣し押さえていた龍脈と龍華花。

前回流出したかのように思われた時には裏工作を行なったが、

同じタイミングで聖樹らしき存在が確認され、思われた以上の抗争に発展....したのだろう。

派遣したワーカーからは一切の連絡が途切れた。聞こえてくるのは噂のみ。


「何が地獄の門が開いただ。馬鹿馬鹿しい。あぁ...ここまで上手く行かないと流石にキレそうだ。」


そして今回の兵士による今ある龍華花の発見だ。

立て続けに計画が狂ったため、全くもって面白くなかった。


それだけでは飽き足らず、苛つく内容の報告も入ってきている。

二、三度入った同じ内容の報告。


「それで、『大腕』が村で呑気に生きているだぁ?...はっはっは」


へらへらとした態度をとりながら部屋を歩き回ると、突然キレて書斎を思いっきり蹴った。

ゴッ、っと音が鳴り書斎が動く。


「殺してくれって言ってるようなもんじゃねえか!何奴もこいつも!なんだぁ!?神が試練でも俺に与えてんのかぁ!?あ゛あ!」


体の中に溜まった鬱憤を暴力と共に吐き出す。

おかげですぐに落ち着いた男は冷静に...


「あぁ、死にテェんだよなぁ。望み通り殺してやるよ。」







「はい。では5回目の魔法の授業を始めたいと思いま~す。」

「は~い。」

「前回からしばらく空いちゃったけど、みんな感覚は忘れてないよね。」

「は~い。」


冒険者ギルドの受付エミリーと、

アイーシャ、オリバー、アラン、エリシアの顔馴染みの五人が、

村の中心部から離れた例の場所で4回目の魔法の講義を受けていた。


ゴブリン討伐の事後処理が平常業務と合わさり、

冒険者ギルド職員は多忙な日々を過ごす事となった。

結果、業務がひと段落した頃には前回の魔法の授業から大きく日数が空いてしまったが、

魔力を操作する感覚とは一度覚えてしまえばそう簡単に忘れるものではない。


「じゃあ、魔力の《循環》と《集中》までしたんだっけ?みんながどれだけできるようになったか改めて見せてくれる?まずはエリシアちゃんから。」

「はい!」


アイーシャの友達、一つ年上のエリシアが魔力を体に纏い。

エミリーが《魔力視》を使用しながらエリシアの魔力を確認する。


(うんうん。まぁ、ほんとはダメだけど、みんな嬉しくなって自己練とかするからね。)

(順調に上達しててよし。)


「じゃあ、今度はオリバー。」

「はい!」


エリシア同様にオリバーも魔力を体に纏う。


(うん。オリバーも及第点上げた時よりよくなってるね。魔力を集中するのもかなり練習したのかな?)


「はい。次、アラン。」

「はい!」


(アランも順調に扱い方が上手になってる。いい感じいい感じ。私も昔は隠れて練習とかしたな~。)


三人は順調に、少しづつ魔力の引き出せる量も増え、繊細な魔力操作に多いても上達していた。

その姿はエミリー自身の小さい頃と重ね合わせ、どこか懐かしいところがあるのかもしれない。

三人の成長に嬉しくなりしっかりとうなづいていた。


「じゃあ、今度はアイーシャ」


と最後の一人になった途端、エミリーの雰囲気が変わった。

期待...ではなく緊張の方が適切な表情でアイーシャに顔を向ける。


「は、はい!」


アイーシャも何かを感じ取ったのか、少し緊張気味だ。

アイーシャが魔力を放出し澱んでいた魔力が意思を持って循環する。

それを見たエミリーは...


(...あ、あれ?なんか、思ったよりも普通だな。)

(いきなり成人と同じ魔力量!?とか、何この滑らかな魔力の流れは!?)

(とかなんとか、度肝を抜かれるつもりだったんだけど。)


「だ、ダメでしたか?」


アイーシャが魔法の先生であるエミリーのなんともいえない雰囲気を感じ取り、

不安そうな顔で聞いた。


「いや、良い!物凄く良いよ!場所によったら10歳から魔法の練習を始める地域もあるって前に言ったっけ。みんな8歳と、7歳とアイーシャちゃんは6歳でしょ。年齢を考えるとみんな良く出来てると思います。」

「聞いた?10歳で普通はこれなんだって。俺たちエリートかもね。」

「オリバーは一歳年上でしょ。それだったら私とアランの方がすごいってことなんじゃないの?」

「かくれんぼが上手いかわりに、僕たちは魔法で巻き返す!」


三人は魔法の師匠であるエミリーに認めてもらったのが嬉しかったのか、

いつも通り対抗心を燃やしながら自信満々に話し始めた。


(しまった。勝手に期待しすぎた所為でアイーシャちゃんが。なんか悪いことしちゃったな。)


しかし、アイーシャだけは明らかに雰囲気が悪い。

即座に褒めに入ったが、誤魔化せきれなかったのかもしれない。


「ほらほら、そんな落ち込まないで。本当に凄い事なんだよ!私も最初に魔法を覚えたのは9歳ぐらいの時だったんだから。」

「え、俺たち先生よりも凄いんですか!」

「ま~、そうなのかもね?でも調子に乗ってるとまたアイーシャちゃんにすぐに追い越されるよ。」

「アイーシャ負けねぇからな!」

「...うん。」


その後も魔法の授業は続き、

それぞれが新たに《身体強化》、《魔力視》などを教わった。

次回で遂に魔法の醍醐味である火、水、風、地、その他の属性を学ぶと聞き、

今回の講義も子供達にとっては大満足で終わった。


唯一、今回の授業で習った内容は既にできるようになっていたアイーシャだけは、

なぜか三人の雰囲気に最後まで混ざりきることはできなかったが。
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