オリュンポス

ハーメルンのホラ吹き

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賞金首

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「バイバーイ。」


魔法の特訓ができるほどの魔力を引き出せなくなった5人は、

中央道りまで戻ってくると、いつも通り解散した。


結局エリシア、オリバー、アランの三人は最後まで属性魔法は発動することができなかったが、

十分に満足した顔でそれぞれがその場を離れていく。


ユーバッハはアイーシャと宿に戻る必要性があるので、二人きりになった。

宿への帰り道は何げないことを話す。


「楽しかったね。」

「えぇ、とても有意義な時間を過ごす事ができました。ありがとうございます。」

「ゆういぎ?」

「良い時間だった、て意味ですよ。」

「ふ~ん。」


ユーバッハが難しい言葉を使用するので、たまに聞いたことのない言葉が出てくる。

その時は好奇心が勝つので、その都度アイーシャは意味を聞く。


「難しい言葉が好きなんだね。」

「好きではないですけど、常に貴族の末裔として品のある振る舞いや言葉遣いをしないといけませんので。」

「貴族も大変なんだね。」

「貴族も大変なんですよ。」


ゴブリンの事を思い出しながら話すユーバッハの言葉には重みがあった。


「そういえば、アルもそんな話方をするんだよ。」

「アルさんは、実は獣国では貴族だったりするかもしれませんね。」

「あ~、そうかな?アルはでも、村のおじいちゃんとか、それよりももっと昔の人って感じの人の話かたかな。」

「アイーシャさんはアルさんの事何歳だと思います?」

「うーん、分からない。お父さんが30歳ぐらいって言ってたから、見た目はお父さんよりも若い。髭も生えてないし。」


アルの話になると、アイーシャはスラスラと話し続けてくれるので、

ユーバッハも話を続けるためにこの人物について適当に質問を繰り返した。


「お~う。そろそろ帰ってくる時間だと思ってたぞ。」


声の聞こえてくる方を向けば、宿の前で娘の帰りを待っていたガッシュがいた。

アイーシャが駆け寄ると、父の胸に飛び込む。


「お~。なんだなんだ?今日はお父さんの気分か?」

「ん~。そんな感じかも。」

「随分と疲れてんな。」


たまに娘が自らハグを求めて飛び込んでくる。

これほどに可愛いことがあるだろうか? 記憶を探っても嫁以外にはなさそうだった。

ガッシュの生きている中で、間違いなく大事にしている瞬間の一つだ。


「てっきりアルも来るもんだと思って飯を用意しといたんだが。」

「今日はアルいつのも場所にいなかった。」

「なに~?俺の娘よりも大事な用事があるってか?」


冗談っぽく言いながら、アイーシャを抱き抱える。

ガッシュの視線がユーバッハへ、


「お~う、坊主。村はどうだった?」

「アイーシャさんに色々と案内していただけて、有意義な時間を過ごせることができました。」

「そうかそうか。そりゃそうだ。なんたって俺の娘だかっ、イデ、イデデデ」

「もう、やめて。」


娘自慢を始める父親の耳を引っ張るアイーシャ。

キツくは引っ張られていないが、大袈裟に反応してやる。

家族のちょっとしたやりとりだ。


「今日はもう休むか?」

「はい。沢山歩いて疲れましたので、そうしようと思ってます。」

「夜ご飯の仕込みが終わったからな。もし早めに欲しかったら今のうちに言えば早めに持っていけるぞ。」

「ありがとうございます。」


耳を離した愛娘の頬にキスをして、ユーバッハを宿の中へと招き入れる。

いつの間にかユーバッハの後ろに現れたスグハとウィルフォードも後に続く。

彼らは自身の借りている宿へと移動していった。


「まぁまぁ。」


父に抱えられた娘を見て、スザンヌは二人に近寄る。


「随分とお疲れね。今日は早く寝たほうがいいかもね。」

「うん。ちょっと疲れた。」


三人が密着する。家族愛と辞書を引いたような空間。




スザンヌが娘の頭を撫でながら、


「...嬉しいのはわかるけど、魔力を使い過ぎないようにね。」


アイーシャは母の一言にビクリと反応。バレていたようだった。

父親に視線を向けると、父親も似たような反応だ。


皆同じ道を辿ったのだろうか? それは大人達のみぞ知ること。


両親が怒ってないことを理解すると、


「はい。」

「よろしい。あなた、お願いできる?」

「おう。」


素直に認め、母親の言葉を受け入れる。

スザンヌはそれを聞くと、アイーシャの額にキスをして、

そのあとがガッシュにベッドに入れられた。







「《鑑定》」

--------------------

個体名:ユーバッハ・カールマン・グレイランス lvl.63
種族:人間
称号:転生者
魔法適正:火系統、水系統、風系統、地系統、光系統、聖系統
個体特性:前世の記憶
スキル:鑑定

--------------------


スキル《鑑定》。

スキルを使用した対象の情報を読み取る事ができる能力スキル

能力により、目の前にユーバッハ自身に関する情報が表示される。


「外なる神との交流者、って称号は僕はまだ持ってない。一体なんの称号なんだ?」


アイーシャ、オリバー、エリシア、アラン、ガッシュにスザンヌまで。

この全員が外なる神との交流者という称号を持っていた。

一体どんな経緯であのような称号を手に入れたのだろうか?


「いや、そもそも《スキル》なんか僕だけにしかないカテゴリーなんだよな。僕だけ、もしかしたら転生者だけが持っているものなのかも知れない。」


現地人にいくら鑑定をかけようが、スキルのカテゴリーは表示されない。

彼らにとってスキルといった概念はないのだろう。


自分のように鑑定ができないのだとしたら、彼ら自身は称号を持っているのか知る由もない上、

持っていても現地人には意味がないものなのかも知れない。

適当に村の人にかけても、ほぼ全員がなんの称号も持っていない。


称号を持っている人と持っていない人との差。

決定的な何かがあるんだろうが。


「そもそも、称号ってなんなんだ? 何かに作用するのか?」


ユーバッハ自身には転生者という称号が記されている。

《個体特性》は大体がその人との能力に関連する。アイーシャの天才肌といった感じだ。

しかし、称号がどのような意味を持ち何を成すのか?

能力を使っている本人でさえ、未だに全貌は不明だ。


「外なる神ってことは、内なる神ってのもいるってことなのか?」


夜のベッドの中で、一人でに思考が広がってゆく。







ユーグスタスは自前の大剣を担ぎ、暗い村の中を歩く。

真夜中を周り、村人の多くが寝ているからこそ殺人鬼と間違えられない風貌。

大剣には赤い液体が滴り、そこに彼がが歩いた痕跡を残している。


「俺が生きてる事があの雇い主の所に伝わったか。まずいな。」


暗器を持った人間がユーグスタスに突如襲いかかる。

風を切る音に機敏に反応したユーグスタスとの間に火花が散る。


「『大腕』、随分と動けるようになったなぁ。まだ脳筋馬鹿をやってるもんだと。」

「その声...」


闇良に移る人影。相手の顔は良くは見えない。

しかしながら、話し方と声はどこかで聞いたことのある男だった。

過去に同じ依頼を受けたワーカーなのだろう。


「ワーカーから足洗ったわけか。」

「あぁ。もっといい生き方を見つけた。」

「そうかぁ?宿で料理をする事がそんなにいいかぁ?」


しっかりと下調べがされている、そんな口調。

昼時にどこかから監視されていたのだろう。


「にしても、動きはよくなったかも知れねぇが、馬鹿は馬鹿のまんまだよなぁ。」

「...。」

「依頼を放棄して普通の生活に戻るなんざできねぇって、誰もが知ってる話だろう?」

「あぁ、わかってる。」

「分かってねぇから、こんなことになってんじゃねぇか? 誰もが目に付くような場所で働いて、何考えてんだ?」


ワーカーは金払いが良い代わりに、受けた任務は必ず成功させなければならない。

依頼の性質上、そうなってしまうのだ。


依頼主としては情報を聞かれた上で、仕事を遂行できない奴はいらない。

機密情報だけ聞いた上で、その足で敵対組織に情報を売られれば話にならない。

だからこそ成功か死か。常に二択の世界だ。



二人が素早く動き、お互いの刃物が猛威を振る圏内に入る。

『大腕』が振るった力強い一撃をひらりと交わし、襲撃者が胴体へ向けて刃物を突き出す。

空振りをしたものの、強力な四肢が地面を踏み込み自分へと向けられた攻撃をかわした。


避けられたはずの重い一撃を再び繰り出す。

ヒヒッ、とヒステリックな笑い声を出しながら、

暗殺者は身軽に攻撃をいなし顔面へと刃物を突き出した。


目をくり抜くような一撃、『大腕』は筋力で避け切る。

その後も風が吹くような素早い駆け引きが続く。


二人はお互いの刃物を止めあった時、

身軽な男が押し飛ばされるような形で一度距離をとった。


「まぁ、別になんでもいいんだがなぁ。俺からすれば、お前みたいなBランク殺して金が入るなら願ったり叶ったりだ。」

「そうか?今ので別段実力が離れてるようには思えなかったが。」

「...そうかもな。だがな、知ってるか?おまえみたいなBランクの首に結構な懸賞金がかかってるんだよ。それこそAランク様が興味を持ってもおかしくないような金額がなぁ。」


魅力的な懸賞金、それが男の『大腕』を殺す動機だった。


「随分と恨みを買ったんだなぁ。あれじゃぁ死ぬ事は確定したようなもんだぞ。」

「...。」

「なんだよ?ダンマリかぁ? 心に余裕がねぇと、ボロが出やすくなるってもんだぞ。」


再び男が暗器を用意して動いた。


「カッ、ハァッ...。なんだよ、今の動き、は。」


しかし、先に動いたはずの男の胴体には巨大な剣が突き刺さり貫通している。

突然『大腕』の見せたかけ離れた素早さに、激痛ながら声が漏れる。


「別にお前には負けるつもりはねぇよ。ただ、流石に生粋のAランク相手にはヤベェと思っただけだ。」


突き刺さった剣を素早く引き抜くと、男はその場に倒れ混んだ。


「『摘み食い』か。」


顔を覗けば、誰かを思い出す。

相手の体を摘み食うように、肉体に穴を開けたような殺し方で名が通っている男。

Bランクのワーカーだった。


「どうするか。聖樹目的の奴らがようやく減ってきたと思えば、今度は俺目的か。」
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