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第3章 空白を求める
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「…なんなんだよ、お前は…!」
そう叫んだ彼は少しの間呆然としていた。
さすがに私も言う言葉が思いつかず、黙り込んでいると、彼は思い出したように服のポケットから一枚の紙を取り出し、叫んだ。
「転移!」
見覚えのある紙切れに気づいた時にはもう遅く、彼の姿は忽然と消えてしまっていた。
「ぁ…」
思わず、情けない声をあげてしまう。
さすがに今回は私のミスだ。今度こそ捕縛すれば、なんとか帝国と話ができたかもしれないのに…
私は少ししょんぼりとして、長老さんの家に戻っていった。
そういえば、なんで私はこんなにも戦闘に関してあっさりしているのか。
そんなことを思ったが、すぐに頭から消えた。
後始末的なことは警備隊の人たちに任せて、私は長老さんの家へと戻った。
長老さんがけがはないかとか、やたら聞いてくるのでうっとうしかった…
それからしばらくの間、帝国軍はエルフの村へとやってこなかった。私を警戒してというのもあるのだろうか。
でも、まだ森の入り口辺りに陣地を敷いているそうで…まだ、気は抜けない。
その間に、長老さんはとんでもないことを私に秘密で進めていた。
私がそれを知ったのは、事が動き出してからだった。
最後に帝国の勇者がこの村に来てから、一週間が経った。その間、帝国軍に動きはなく、正直言って私もやることがなくて暇だった。
森の入り口に陣地を構えている帝国軍は、だんだんと減っていっていたが、撤収する様子はない。
おそらく、監視目的の現状維持だろう。
いっそのこと、この状態が続けばいいのにと、思ってしまっていたりする。
そうして、魔法の練習をするにも試したいものがなく、ただただ暇でボーっとしている私のところへ、長老さんがやってきた。
何やら真剣な顔をしている。まじめな重要な話というのは察せるが、何やら嫌な予感が…
怖いくらいに固まった表情の長老さんから出てきた言葉に、今度は私が固まった。
「リア様、王になってくださいませんか?」
「…へ?」
その後、私は長老さんから説明を受けていた…が、ほとんど頭に入ってこなかった。
何か面倒ごとがやってくるとは予想していたけれど、「王になってください」って言われても、どう反応すればいいか困ってしまう。
多分、どんな人でも突然こんなこと言われればまともに応答できないと思う、うん。
どうしていいかわからない私は、しゃべり続けている長老さんの言葉をさえぎって、質問した。
「…えっと、結局、私は何をすればいいのですか?」
「…そうですね、今のところは、何もしなくても大丈夫です。忙しくなるのはもう少し後になりますので、今はしっかり休んでいただくのが一番だと思います」
「そうですか…」
それなら、拒む理由はないけれど…忙しくなるって、私は何をすればいいのか、見当もつかない…
「…えっと、いい、ですよ?」
「おお! ありがとうございます!」
…ってあれ? 「王になりませんか?」ってことは…
「…あの、長老さん…」
「どういたしましたか?」
「国を…つくるんですか…?」
私のその問いに、長老さんは神妙な顔をしてうなずいた。
そこからは、現在の世界情勢についての説明になった。多分、私が王となったときに必要になるかもしれないから、しっかり聞いておこうと思う。
でも、正直、王になることの大変さとか、よくわからない。どれだけ大きな決断をしたのか自覚しているのかだとか、そういう風に叱られても仕方ないと思う。
私をそんな風に叱ってくれる人は、多分今はそばにいないけれど。
「現在、スティル帝国はエルゼル王国へと侵略戦争を始めたばかりです。出だしにいきなりセントラルという重要都市を占領されたのは王国にとっては痛手でしょうが、全体的にみればあまり動いていません」
「そうなんですか…?」
「はい。セントラルはあくまで商業都市。近くに魔物の多い森があるとはいえ、そこには我々エルフが住んでおり、魔物があふれたりはしない。そんな環境によって、セントラルは城塞的な能力がほぼないまま発展したのです。なので、帝国軍がこのまま動かなければ、王国軍がセントラルを取り返すのも時間の問題だと思われます」
多分、王国軍もセントラルのすぐそこまで来ているのだろう。
あの防衛戦の前に、王国軍に救援を要請していた…はずだから。
「2国の均衡が崩れない限り、ほかの周辺国も介入はしてこないでしょう。適度に戦況が傾いたタイミングで、優勢側に助太刀する。おそらく、周辺国は皆こうしてくるでしょう」
「…つまり、エルゼル王国もスティル帝国もしばらくの間他国からの援軍とかは求められないということですか?」
「そうですね。開戦前に秘密裏に条約等を結んでいない限り、周辺国からのどちらかへの援軍はないと考えていいでしょう……とはいっても、エルゼル王国が援軍を必要とするほど帝国との国力に差があるわけでもありません。初戦の敗北は、ほとんどが勇者による予想外の攻撃が原因でしょうから…」
「…それで、それとエルフの建国? にはどんな関係があるんですか?」
「はい。私たちは、今現在、リア様の力によって、この村を守れているといっても過言ではありません」
「…えっと…?」
「そして、たとえリア様でも、何百、何千の兵に囲まれ、どうしようもなくなる時が来るかもしれません。最初に帝国軍がこの集落へ侵攻してきたときは、警備隊の面々がそろっていたため何とかなりましたが…例えば、あの人数の軍隊が、毎日のように集落に侵攻してきた場合、疲弊によって集落の民が傷つけられるかもしれません」
「そう…ですね」
「だからこそ、私たちには後ろ盾が必要です」
「…後ろ盾、ですか」
「はい。建国宣言後いきなり国家として認めてもらえるかはわかりませんが、私たちの森から王国軍と団結してセントラルを攻めれば、どうでしょう。この集落の立地は、裏からの奇襲にもってこいなのです」
「な、なるほど…」
戦略について話されても、正直さっぱりなのだけれど…
「王国軍への協力を条件に国家の認証を求めれば、認めてもらえるかもしれません。いざというときには、リア様のお力を借りること以外に方法はないのですが…」
「いえ、全然大丈夫ですよ!」
むしろ、私の魔法を長老さんたちのために使わなかったら、何に使うんのだろうか…
「ありがとございます…まずは、王国に使者を出さなければなりません。王国からの返答が来るまでは、リア様は私の家でじっとしていていただきます」
…なんだか壮大なことが進んでいるけれど、結局、私が暇なことは変わらないようだ。
そう叫んだ彼は少しの間呆然としていた。
さすがに私も言う言葉が思いつかず、黙り込んでいると、彼は思い出したように服のポケットから一枚の紙を取り出し、叫んだ。
「転移!」
見覚えのある紙切れに気づいた時にはもう遅く、彼の姿は忽然と消えてしまっていた。
「ぁ…」
思わず、情けない声をあげてしまう。
さすがに今回は私のミスだ。今度こそ捕縛すれば、なんとか帝国と話ができたかもしれないのに…
私は少ししょんぼりとして、長老さんの家に戻っていった。
そういえば、なんで私はこんなにも戦闘に関してあっさりしているのか。
そんなことを思ったが、すぐに頭から消えた。
後始末的なことは警備隊の人たちに任せて、私は長老さんの家へと戻った。
長老さんがけがはないかとか、やたら聞いてくるのでうっとうしかった…
それからしばらくの間、帝国軍はエルフの村へとやってこなかった。私を警戒してというのもあるのだろうか。
でも、まだ森の入り口辺りに陣地を敷いているそうで…まだ、気は抜けない。
その間に、長老さんはとんでもないことを私に秘密で進めていた。
私がそれを知ったのは、事が動き出してからだった。
最後に帝国の勇者がこの村に来てから、一週間が経った。その間、帝国軍に動きはなく、正直言って私もやることがなくて暇だった。
森の入り口に陣地を構えている帝国軍は、だんだんと減っていっていたが、撤収する様子はない。
おそらく、監視目的の現状維持だろう。
いっそのこと、この状態が続けばいいのにと、思ってしまっていたりする。
そうして、魔法の練習をするにも試したいものがなく、ただただ暇でボーっとしている私のところへ、長老さんがやってきた。
何やら真剣な顔をしている。まじめな重要な話というのは察せるが、何やら嫌な予感が…
怖いくらいに固まった表情の長老さんから出てきた言葉に、今度は私が固まった。
「リア様、王になってくださいませんか?」
「…へ?」
その後、私は長老さんから説明を受けていた…が、ほとんど頭に入ってこなかった。
何か面倒ごとがやってくるとは予想していたけれど、「王になってください」って言われても、どう反応すればいいか困ってしまう。
多分、どんな人でも突然こんなこと言われればまともに応答できないと思う、うん。
どうしていいかわからない私は、しゃべり続けている長老さんの言葉をさえぎって、質問した。
「…えっと、結局、私は何をすればいいのですか?」
「…そうですね、今のところは、何もしなくても大丈夫です。忙しくなるのはもう少し後になりますので、今はしっかり休んでいただくのが一番だと思います」
「そうですか…」
それなら、拒む理由はないけれど…忙しくなるって、私は何をすればいいのか、見当もつかない…
「…えっと、いい、ですよ?」
「おお! ありがとうございます!」
…ってあれ? 「王になりませんか?」ってことは…
「…あの、長老さん…」
「どういたしましたか?」
「国を…つくるんですか…?」
私のその問いに、長老さんは神妙な顔をしてうなずいた。
そこからは、現在の世界情勢についての説明になった。多分、私が王となったときに必要になるかもしれないから、しっかり聞いておこうと思う。
でも、正直、王になることの大変さとか、よくわからない。どれだけ大きな決断をしたのか自覚しているのかだとか、そういう風に叱られても仕方ないと思う。
私をそんな風に叱ってくれる人は、多分今はそばにいないけれど。
「現在、スティル帝国はエルゼル王国へと侵略戦争を始めたばかりです。出だしにいきなりセントラルという重要都市を占領されたのは王国にとっては痛手でしょうが、全体的にみればあまり動いていません」
「そうなんですか…?」
「はい。セントラルはあくまで商業都市。近くに魔物の多い森があるとはいえ、そこには我々エルフが住んでおり、魔物があふれたりはしない。そんな環境によって、セントラルは城塞的な能力がほぼないまま発展したのです。なので、帝国軍がこのまま動かなければ、王国軍がセントラルを取り返すのも時間の問題だと思われます」
多分、王国軍もセントラルのすぐそこまで来ているのだろう。
あの防衛戦の前に、王国軍に救援を要請していた…はずだから。
「2国の均衡が崩れない限り、ほかの周辺国も介入はしてこないでしょう。適度に戦況が傾いたタイミングで、優勢側に助太刀する。おそらく、周辺国は皆こうしてくるでしょう」
「…つまり、エルゼル王国もスティル帝国もしばらくの間他国からの援軍とかは求められないということですか?」
「そうですね。開戦前に秘密裏に条約等を結んでいない限り、周辺国からのどちらかへの援軍はないと考えていいでしょう……とはいっても、エルゼル王国が援軍を必要とするほど帝国との国力に差があるわけでもありません。初戦の敗北は、ほとんどが勇者による予想外の攻撃が原因でしょうから…」
「…それで、それとエルフの建国? にはどんな関係があるんですか?」
「はい。私たちは、今現在、リア様の力によって、この村を守れているといっても過言ではありません」
「…えっと…?」
「そして、たとえリア様でも、何百、何千の兵に囲まれ、どうしようもなくなる時が来るかもしれません。最初に帝国軍がこの集落へ侵攻してきたときは、警備隊の面々がそろっていたため何とかなりましたが…例えば、あの人数の軍隊が、毎日のように集落に侵攻してきた場合、疲弊によって集落の民が傷つけられるかもしれません」
「そう…ですね」
「だからこそ、私たちには後ろ盾が必要です」
「…後ろ盾、ですか」
「はい。建国宣言後いきなり国家として認めてもらえるかはわかりませんが、私たちの森から王国軍と団結してセントラルを攻めれば、どうでしょう。この集落の立地は、裏からの奇襲にもってこいなのです」
「な、なるほど…」
戦略について話されても、正直さっぱりなのだけれど…
「王国軍への協力を条件に国家の認証を求めれば、認めてもらえるかもしれません。いざというときには、リア様のお力を借りること以外に方法はないのですが…」
「いえ、全然大丈夫ですよ!」
むしろ、私の魔法を長老さんたちのために使わなかったら、何に使うんのだろうか…
「ありがとございます…まずは、王国に使者を出さなければなりません。王国からの返答が来るまでは、リア様は私の家でじっとしていていただきます」
…なんだか壮大なことが進んでいるけれど、結局、私が暇なことは変わらないようだ。
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