ブレイクソード

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八十一話 昇る者

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俺は世界樹の最短距離を八咫烏に教えてもらいながら移動している。一日に移動できる距離は決まっているが、それでも百日以内には着くだろう。



なんで移動できる距離が決まっているのか。それは八咫烏の力を俺が引き出せていないからだ。これは烏の口からきいたから間違いないだろう。そういう契約だしな。互いに嘘は付けないって契約。



なんでも召喚される神は天界、または神界と呼ばれるとこから自ら降りてきたものが召喚に応じているということだ。だから厳密に言うと神ではないらしい。



八咫烏は堕天したものを「堕ちた者」と呼んでいた。自らの地位を捨て、暇を潰すことを優先した愚か者に付けられた蔑称らしい。もしかしたらファンドも神だったのかもしれない。にしては馬鹿だと思うが。



そういえば久しく召喚していなかったな。魔法空間も大きくなって収納に困らなくなったからな。初めは重宝したけど旅を続けるにつれて登場しなくなった。インフレは恐ろしいな。



「俺も腕を磨かないといけないんだよな」二人を失い、自身が余りにも無力だということを悟った。



「そういえば読めてない本があったな」あの日、店主からもらった解読の出来なかった本。たまに読んではいたが、挿絵からしか想像することしかできなかった大和国で書かれたである本。



「久しぶりに読んでみるか」魔法空間から取り出して、パラパラと数ページ読んでいく。おかしい。前までは読めなかったはずの本が読めるようになっている。もしかして二人が発動させた魔法が原因なのか?



二人の願い。和解するという意味。もしかして___点と点が繋がった。俺たちが、世界が忘れていたありふれていた概念。言語を取り戻して再び再興していこうとしていたんだ。



なんで今まで気が付かなかったんだ。エルフいるのに、俺たちと同じ言葉を話すのか。言葉を失ったから。じゃあなんで俺は使えるんだ?恐らくは二人が最後に俺にくれた贈り物。二人が使えた言語を俺が使えるようにとくれたもの。



自問自答をして、答えに辿り着いて行く。線で結ばれていくたびに俺は打ち震えた。俺達人間の浅はかさや、エルフたちが紡ぎたかったこと。そのすべてが、言葉、文字となって俺に伝えられた。



「この本はエルフたちが大和国で書いた神様の本だったんだな」挿絵を見ると、動物や人間を中心に書かれている。剣なんかは儀式のために使われているだけの装飾に過ぎなかった。あの時の俺は視野が狭かったな。



昔に何があったのか。俺は生きていないから分からない。でも二人が伝えてくれたように後世に俺が伝えていく。それが俺の役割。この無機質な機械と共に俺が途切れないように残していかなければいかないもの。



「なんだか俺がやることがはっきりしてきたよ」本を熟読して神をできるだけ多く召喚すること。人と繋がっていくこと。俺が今できることだ。もしかしたら二人を生き返らせることができるかもしれない。もしかしたらブレイクが死んだときに役立つかもしれないしな。まぁあいつは強いからそんなことは無いか。



「本当に死者を蘇らせる神はいるのだろうか,,,」全てのページを読んでみだが、それらしきものは無かった。単に大和国の文字を読めていないから見落としているだけかもしれないが、大部分がエルフ語で書かれているからそれは無いだろう。



「簡単にはいかないか,,,おっと」本を閉じようとしたら、表紙がめくれてしまった。大事なものだから大切に扱わないと,,,



「なんだこれ?」表紙をもとに戻そうとしたら、裏に文字と絵が描かれているのが見えた。



見た目は掠れていてよく分からないが、文字なら何とか読める。死んだ、生、廻、外す。汚いし、大和国のも使われているからこれくらいしか読み取れなかった。



でもここから推測できるのは死んだ人間は生を循環しているってことか。恐らくこの絵の神はそれから外すことができるのだろう。



「目標はこいつかな」本を魔法空間に戻して、歩き始める。八咫烏クラスの神だったら、間違いなくあの札は必要になる。遅かれ早かれ大和国には行くことになるだろう。適当に神を呼び出して力を付けていくのが最善の選択だろうな。



「遅いぞ。急かしたのはお前だろう」トロトロと歩いていた俺を見て烏は怒った。姿が見えないと思っていたが、めっちゃ前に行っていたんだな。



「悪い悪い。ちょっと神に夢中になってな」適当に謝って烏の後を追う。



「死者を生き返らせる神か?」烏の発言に心臓が貫かれた気分になった。どこまで見透かしてんだこいつは。



「もしそうならやめておいた方が良い。『あいつ』は堕ちた者の中で最も性格が悪いからな」



「絵の神を知っているのか?」何かを知っていそうだったので聞いてみる。嘘は付けないし何かしらの返答が来るだろう。



「多少な。あんなのに頼るくらいならブレイクとerrorを探したついでにした方が良い」烏の声が一瞬途切れたかと思えば、普通の声になった。なんて言ったんだ?ノイズが走った様な,,,



「お前は,,,いや、また今度にしておこう」意味深なことを言い残して烏は無言で羽ばたいた。空から落ちてきた一枚の黒い羽根は重く、湿っていた。



「何か隠してるのか?」烏に聞いたが口は固く閉ざされたままだった。どうやら話せないようだ。契約を無視してまだ秘匿したい何かをこいつは持っている。



「無視か?どうせ俺はそこまで辿り着くぞ?話すなら今の内だ」半分脅しのようになっていしまっているが、仕方が無い。契約を守っていないのは向こうだ。



「覚悟はあるのか?」重々しい言葉が辺りに響く。圧倒的な威圧と、神の威厳に心臓だ掴まれた気分になる。これで力を出し切れていないのか。



「あぁ」何とか言葉を絞り出して返事をする。二人を助けられるのなら何があったて構わない。



「なら死んでくれ」自分の体が上にある。頭は無い。もしかして俺は殺されたのか?誰に?烏の羽に血が付いている。犯人はアイツか?そんなことはどうでもいい。なんで俺は意識を保てているんだ。走馬灯?違う。



「向こうで待っている。もう一度我も羽ばたくからな」烏の声が脳に響き渡る。何がどうなっているんだ,,,



疑問を残しながら俺は死んだ。後悔ばかりが残っていて仕方がない。最後に見たのは太陽に向かって羽ばたく三足の烏だった。
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