【Amazonベストセラー入りしました】僕の処刑はいつですか?欲しがり義弟に王位を追われ身代わりの花嫁になったら溺愛王が待っていました。

美咲アリス

文字の大きさ
1 / 15

「陛下!僕を処刑してください!」

しおりを挟む
「僕は偽者のオメガ花嫁です! どうぞ僕を処刑してください!」


 フウル・ルクセンは王座の前でパッとひざまずいた。


 国王の顔を見る勇気はなかった。


 冷たい大理石の床に両手をついて、ギュッと目を閉じて、殺されるのを覚悟する。


 頭の中は真っ白だった。心臓がドキドキと早鐘のように鳴っている。
 息をするのも苦しいほどだ。

「⋯⋯ぼ、僕は、陛下が待ち望んだ花嫁ではありません。僕は、国民に嫌われている王子です。陛下を騙してもうしわけありませんでした⋯⋯」

 涙があふれた。
 その涙を指で拭おうとしたら、指先がブルブルと激しく震えた。

「僕は⋯⋯、僕は⋯⋯」

 必死で言葉を続けようとしたとき、誰かがゆっくりと近づいてくる。

 フウルはハッとして顔を上げた。

 すると——。

 背が高くてたくましい男性の姿が見えた。

 とても若かった。十八歳のフウルよりきっと五、六歳年上だろう。

 砂漠の砂のようなくすんだ金色の短髪をしている。

 瞳はガラス細工のようにきらめく不思議な色で、吸い込まれそうなほど透き通っている。

 人間離れした美貌の持ち主だった。もしも動かなかったら彫像と見間違えてしまったかもしれないほどだ⋯⋯。
 男らしい眉の下の切れ長の目が、じっとフウルを見下ろしている。

 広間に集まった貴族たちが、
「陛下」
 と、いっせいに頭を下げた。

 ——この方がリオ・ナバ国王陛下?

 フウルは慌てて頭を下げた。震える声で繰り返す。

「ど⋯⋯、どうぞ偽者の僕を⋯⋯、僕を、処刑してください!」

 すると頭の上から、暖かさと優しさに満ちた低い声が、ほんの少しだけ笑いを含んでこう言った。

「とりあえず——、落ち着こうか?」




*****



 十日前——。


 ナリスリア国の城の中庭には、美しく着飾った王侯貴族たちが集まっていた。

 王妃主催の午後のお茶会だった。菓子や銀食器を抱えた侍女たちが右に左に忙しく走り回っている。

 赤や黄色のバラが咲き乱れる春の庭。大きくて真っ白な天幕が張られ、天幕の中にはやはり真っ白なクロスがかけられた丸いテーブルがいくつもある。
 テーブルの上には色とりどりのクリームケーキや焼き菓子がたくさん並んでいる。

 うっとりするほど甘くて美味しそうな香りがして、銀製のティーポットが明るい日差しにキラキラと輝く幸せで美しい光景⋯⋯。

 だが、そこにいきなり、甲高い女性の声が響き渡った。

「わたくしの命令が聞けないのですか?」

 王妃——黒髪で長身のエリザベートが、きびしい顔で叫んだのだ。

 続く(このお話しは『偽花嫁と溺愛王(Amazon版)』の『完結第一章』です。Amazon版では濡れ濡れエッチな短編も収録中ですので、よかったら覗いてみてください。リンクは感想ボタンの下にあります)
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

結婚初夜に相手が舌打ちして寝室出て行こうとした

BL
十数年間続いた王国と帝国の戦争の終結と和平の形として、元敵国の皇帝と結婚することになったカイル。 実家にはもう帰ってくるなと言われるし、結婚相手は心底嫌そうに舌打ちしてくるし、マジ最悪ってところから始まる話。 オメガバースでオメガの立場が低い世界 こんなあらすじとタイトルですが、主人公が可哀そうって感じは全然ないです 強くたくましくメンタルがオリハルコンな主人公です 主人公は耐える我慢する許す許容するということがあんまり出来ない人間です 倫理観もちょっと薄いです というか、他人の事を自分と同じ人間だと思ってない部分があります ※この主人公は受けです

最強で美人なお飾り嫁(♂)は無自覚に無双する

竜鳴躍
BL
ミリオン=フィッシュ(旧姓:バード)はフィッシュ伯爵家のお飾り嫁で、オメガだけど冴えない男の子。と、いうことになっている。だが実家の義母さえ知らない。夫も知らない。彼が陛下から信頼も厚い美貌の勇者であることを。 幼い頃に死別した両親。乗っ取られた家。幼馴染の王子様と彼を狙う従妹。 白い結婚で離縁を狙いながら、実は転生者の主人公は今日も勇者稼業で自分のお財布を豊かにしています。

転生したらスパダリに囲われていました……え、違う?

米山のら
BL
王子悠里。苗字のせいで“王子さま”と呼ばれ、距離を置かれてきた、ぼっち新社会人。 ストーカーに追われ、車に轢かれ――気づけば豪奢なベッドで目を覚ましていた。 隣にいたのは、氷の騎士団長であり第二王子でもある、美しきスパダリ。 「愛してるよ、私のユリタン」 そう言って差し出されたのは、彼色の婚約指輪。 “最難関ルート”と恐れられる、甘さと狂気の狭間に立つ騎士団長。 成功すれば溺愛一直線、けれど一歩誤れば廃人コース。 怖いほどの執着と、甘すぎる愛の狭間で――悠里の新しい人生は、いったいどこへ向かうのか? ……え、違う?

転生悪役弟、元恋人の冷然騎士に激重執着されています

柚吉猫
BL
生前の記憶は彼にとって悪夢のようだった。 酷い別れ方を引きずったまま転生した先は悪役令嬢がヒロインの乙女ゲームの世界だった。 性悪聖ヒロインの弟に生まれ変わって、過去の呪縛から逃れようと必死に生きてきた。 そんな彼の前に現れた竜王の化身である騎士団長。 離れたいのに、皆に愛されている騎士様は離してくれない。 姿形が違っても、魂でお互いは繋がっている。 冷然竜王騎士団長×過去の呪縛を背負う悪役弟 今度こそ、本当の恋をしよう。

既成事実さえあれば大丈夫

ふじの
BL
名家出身のオメガであるサミュエルは、第三王子に婚約を一方的に破棄された。名家とはいえ貧乏な家のためにも新しく誰かと番う必要がある。だがサミュエルは行き遅れなので、もはや選んでいる立場ではない。そうだ、既成事実さえあればどこかに嫁げるだろう。そう考えたサミュエルは、ヒート誘発薬を持って夜会に乗り込んだ。そこで出会った美丈夫のアルファ、ハリムと意気投合したが───。

オメガだと隠して地味なベータとして生きてきた俺が、なぜか学園最強で傲慢な次期公爵様と『運命の番』になって、強制的にペアを組まされる羽目に

水凪しおん
BL
この世界では、性は三つに分かたれる。支配者たるアルファ、それに庇護されるオメガ、そして大多数を占めるベータ。 誇り高き魔法使いユキは、オメガという性を隠し、ベータとして魔法学園の門をくぐった。誰にも見下されず、己の力だけで認められるために。 しかし彼の平穏は、一人の男との最悪の出会いによって打ち砕かれる。 学園の頂点に君臨する、傲慢不遜なアルファ――カイ・フォン・エーレンベルク。 反発しあう二人が模擬戦で激突したその瞬間、伝説の証『運命の印』が彼らの首筋に発現する。 それは、決して抗うことのできない魂の繋がり、『運命の番』の証だった。 「お前は俺の所有物だ」 傲慢に告げるカイと、それに激しく反発するユキ。 強制的にペアを組まされた学園対抗トーナメント『双星杯』を舞台に、二人の歯車は軋みを上げながらも回り出す。 孤独を隠す最強のアルファと、運命に抗う気高きオメガ。 これは、反発しあう二つの魂がやがて唯一無二のパートナーとなり、世界の理をも変える絆を結ぶまでの、愛と戦いの物語。

うそつきΩのとりかえ話譚

沖弉 えぬ
BL
療養を終えた王子が都に帰還するのに合わせて開催される「番候補戦」。王子は国の将来を担うのに相応しいアルファであり番といえば当然オメガであるが、貧乏一家の財政難を救うべく、18歳のトキはアルファでありながらオメガのフリをして王子の「番候補戦」に参加する事を決める。一方王子にはとある秘密があって……。雪の積もった日に出会った紅梅色の髪の青年と都で再会を果たしたトキは、彼の助けもあってオメガたちによる候補戦に身を投じる。 舞台は和風×中華風の国セイシンで織りなす、同い年の青年たちによる旅と恋の話です。

ウサギ獣人を毛嫌いしているオオカミ獣人後輩に、嘘をついたウサギ獣人オレ。大学で逃げ出して後悔したのに、大人になって再会するなんて!?

灯璃
BL
ごく普通に大学に通う、宇佐木 寧(ねい)には、ひょんな事から懐いてくれる後輩がいた。 オオカミ獣人でアルファの、狼谷 凛旺(りおう)だ。 ーここは、普通に獣人が現代社会で暮らす世界ー 獣人の中でも、肉食と草食で格差があり、さらに男女以外の第二の性別、アルファ、ベータ、オメガがあった。オメガは男でもアルファの子が産めるのだが、そこそこ差別されていたのでベータだと言った方が楽だった。 そんな中で、肉食のオオカミ獣人の狼谷が、草食オメガのオレに懐いているのは、単にオレたちのオタク趣味が合ったからだった。 だが、こいつは、ウサギ獣人を毛嫌いしていて、よりにもよって、オレはウサギ獣人のオメガだった。 話が合うこいつと話をするのは楽しい。だから、学生生活の間だけ、なんとか隠しとおせば大丈夫だろう。 そんな風に簡単に思っていたからか、突然に発情期を迎えたオレは、自業自得の後悔をする羽目になるーー。 みたいな、大学篇と、その後の社会人編。 BL大賞ポイントいれて頂いた方々!ありがとうございました!! ※本編完結しました!お読みいただきありがとうございました! ※短編1本追加しました。これにて完結です!ありがとうございました! 旧題「ウサギ獣人が嫌いな、オオカミ獣人後輩を騙してしまった。ついでにオメガなのにベータと言ってしまったオレの、後悔」

処理中です...