13 / 15
やっぱり僕は処刑されるんだ!!(泣)
しおりを挟む
慌てて手を伸ばして、王の服に落ちた雨粒を必死で払った。
「ああ、どうしよう⋯⋯。こんなに濡れて⋯⋯」
「フウル?」
「⋯⋯陛下、このままじゃお風邪をひいてしまいます!」
「フウル?」
「え?」
ハッと気がつくと、優しい瞳が見下ろしていた。
「少し、落ち着こうか? 気遣いはもちろんとても嬉しいが——」
リオ・ナバ王が雨に濡れた前髪を長い指でかきあげて微笑む。
「陛下⋯⋯」
どうしてこんなに優しく見つめてくださるのだろう? もしかしたら⋯⋯、もしかしたら⋯⋯、僕を許してくださるおつもりなのだろうか?
小さな希望が心に浮かんだ次の瞬間だった。
遠くの空から「キーッ!」と耳障りな鳴き声が聞こえた。
ハゲタカだ。
大きなハゲタカがぐるぐると輪を描くように砂漠の上を飛んでいる。十羽以上はいるだろうか?
リオ・ナバ王が、フウルの視線を追いかける。
「なにを見てるんだ?」
「——あの鳥です」
「ああ、あれは別名『罪人たちの番人』と呼ばれているハゲタカだ。我が国には、砂漠でハゲタカに生きながら食わせる、という処刑の方法があるんだ。大昔の話だがな⋯⋯」
「え!」
——ハゲタカに生きながら食べられる処刑?
あまりに驚いたので、リオ・ナバ王が最後につけ加えた『大昔の話』という部分を聞き逃してしまった。
——ああ、そうなんだ。僕はこのためにここに連れてこられたんだ。今からこの砂漠で、あの大きくて恐ろしいハゲタカに、僕は生きたまま食べられるんだ!
処刑される覚悟は決めていたとはいえ、あまりの恐ろしさに体がガタガタと震え出した。
両手で体をギュッと抱いて空を見上げると、顔に雨が落ちてきた。息ができないほどザーザーと強く降ってくる。
——怖がったらダメだ! この雨に塩が混じってしまったら、陛下とこの国の人たちの努力を台無しにしてしまう。塩の雨なんか降ったら、二度となにも育たなくなる!
「僕をはやく処刑してください!」
リオ・ナバ王を見つめて大きな声で言った。
「フウル?」
「はやく、はやく僕を、処刑してください!」
「——ちょっと落ち着こうか、フウル」
リオ・ナバ王はそう言いながら黒いフロックコートを脱ぐと、ふわりとフウルの頭からかけてくれた。
*****
リオ・ナバ王の上着はとてもいい匂いがしていて、フウルは思わずボーッとなってしまった。なんだか体がふわふわして、腰から砕け、座り込んでしまいそうだ。
——ダメだ、しっかりしなきゃ!
ハッとして両手を握りしめる。
「⋯⋯ぼ、僕をはやく処刑してくださらないと、このままでは塩が混じった雨が降ります。僕が持っている『ギフト』は民を不幸にする能力なのです。黙っていて、ごめんなさい!」
頭を深く下げて謝った。それから砂漠の奥に向かって走り出す。
生きながらハゲタカに食べられるつもりだった。
——僕は、僕は生きていちゃいけないんだ!
泣きながら走っていく。
だけどすぐに後ろから、
「フウル、待て!」
がっしりと力強い手に止められた。
「離してください! 僕は処刑されないといけないんです!」
「処刑などしない、するわけがないだろう!」
力強く引き寄せられ、そのまますっぽりと広い胸の中に⋯⋯。
王の上着をかぶったままのフウルを、リオ・ナバ王はしっかりと抱きしめた。
「へ、陛下?」
「——我が国に恵みの雨を持ってきてくれた花嫁を、処刑するわけがないだろう?」
「だけど僕は、塩の雨を降らせてしまいます⋯⋯」
「塩など混じっていないぞ?」
リオ・ナバが手で雨を受ける。
たしかに今降っている雨に塩は混じっていなかった。
「⋯⋯でも、ナリスリア国では、僕が降らせる雨には塩が混じっていたんです」
「変な話だな——。そなたの国のオメガが持つ特殊な能力について調べたことがあるが、太陽や風、それに雨を導く力はあっても、自然に反した能力を持つという情報は一つもなかった」
「だけど、ほんとうなんです」
広い胸に顔を押し付けて、フウルは小声で呟いた。
「塩が混じる雨か——。奇妙すぎる。調べてみるから、俺に任せて欲しい」
「だけど、僕はヘンリーじゃないんですよ? ヘンリーのような日差しを呼び込む力は持っていません」
「我が国に必要なのは、日差しじゃない。雨だ——。そなたが嫁いできてくれてよかった。ようこそ、我が国へ、雨降り王子どの」
リオ・ナバ王はにっこりと微笑んでフウルの手を取り、手の甲にそっと口付けをした——。
続く(この短編には長編『偽花嫁と溺愛王』がAmazonにあります。溺愛の続きと、濡れ濡れエッチな『初夜編』と、ほのぼの『子育て編』が入っています。よかったらAmazonも覗いてみてください。エッチバージョンのリオ・ナバ王がいます!)
「ああ、どうしよう⋯⋯。こんなに濡れて⋯⋯」
「フウル?」
「⋯⋯陛下、このままじゃお風邪をひいてしまいます!」
「フウル?」
「え?」
ハッと気がつくと、優しい瞳が見下ろしていた。
「少し、落ち着こうか? 気遣いはもちろんとても嬉しいが——」
リオ・ナバ王が雨に濡れた前髪を長い指でかきあげて微笑む。
「陛下⋯⋯」
どうしてこんなに優しく見つめてくださるのだろう? もしかしたら⋯⋯、もしかしたら⋯⋯、僕を許してくださるおつもりなのだろうか?
小さな希望が心に浮かんだ次の瞬間だった。
遠くの空から「キーッ!」と耳障りな鳴き声が聞こえた。
ハゲタカだ。
大きなハゲタカがぐるぐると輪を描くように砂漠の上を飛んでいる。十羽以上はいるだろうか?
リオ・ナバ王が、フウルの視線を追いかける。
「なにを見てるんだ?」
「——あの鳥です」
「ああ、あれは別名『罪人たちの番人』と呼ばれているハゲタカだ。我が国には、砂漠でハゲタカに生きながら食わせる、という処刑の方法があるんだ。大昔の話だがな⋯⋯」
「え!」
——ハゲタカに生きながら食べられる処刑?
あまりに驚いたので、リオ・ナバ王が最後につけ加えた『大昔の話』という部分を聞き逃してしまった。
——ああ、そうなんだ。僕はこのためにここに連れてこられたんだ。今からこの砂漠で、あの大きくて恐ろしいハゲタカに、僕は生きたまま食べられるんだ!
処刑される覚悟は決めていたとはいえ、あまりの恐ろしさに体がガタガタと震え出した。
両手で体をギュッと抱いて空を見上げると、顔に雨が落ちてきた。息ができないほどザーザーと強く降ってくる。
——怖がったらダメだ! この雨に塩が混じってしまったら、陛下とこの国の人たちの努力を台無しにしてしまう。塩の雨なんか降ったら、二度となにも育たなくなる!
「僕をはやく処刑してください!」
リオ・ナバ王を見つめて大きな声で言った。
「フウル?」
「はやく、はやく僕を、処刑してください!」
「——ちょっと落ち着こうか、フウル」
リオ・ナバ王はそう言いながら黒いフロックコートを脱ぐと、ふわりとフウルの頭からかけてくれた。
*****
リオ・ナバ王の上着はとてもいい匂いがしていて、フウルは思わずボーッとなってしまった。なんだか体がふわふわして、腰から砕け、座り込んでしまいそうだ。
——ダメだ、しっかりしなきゃ!
ハッとして両手を握りしめる。
「⋯⋯ぼ、僕をはやく処刑してくださらないと、このままでは塩が混じった雨が降ります。僕が持っている『ギフト』は民を不幸にする能力なのです。黙っていて、ごめんなさい!」
頭を深く下げて謝った。それから砂漠の奥に向かって走り出す。
生きながらハゲタカに食べられるつもりだった。
——僕は、僕は生きていちゃいけないんだ!
泣きながら走っていく。
だけどすぐに後ろから、
「フウル、待て!」
がっしりと力強い手に止められた。
「離してください! 僕は処刑されないといけないんです!」
「処刑などしない、するわけがないだろう!」
力強く引き寄せられ、そのまますっぽりと広い胸の中に⋯⋯。
王の上着をかぶったままのフウルを、リオ・ナバ王はしっかりと抱きしめた。
「へ、陛下?」
「——我が国に恵みの雨を持ってきてくれた花嫁を、処刑するわけがないだろう?」
「だけど僕は、塩の雨を降らせてしまいます⋯⋯」
「塩など混じっていないぞ?」
リオ・ナバが手で雨を受ける。
たしかに今降っている雨に塩は混じっていなかった。
「⋯⋯でも、ナリスリア国では、僕が降らせる雨には塩が混じっていたんです」
「変な話だな——。そなたの国のオメガが持つ特殊な能力について調べたことがあるが、太陽や風、それに雨を導く力はあっても、自然に反した能力を持つという情報は一つもなかった」
「だけど、ほんとうなんです」
広い胸に顔を押し付けて、フウルは小声で呟いた。
「塩が混じる雨か——。奇妙すぎる。調べてみるから、俺に任せて欲しい」
「だけど、僕はヘンリーじゃないんですよ? ヘンリーのような日差しを呼び込む力は持っていません」
「我が国に必要なのは、日差しじゃない。雨だ——。そなたが嫁いできてくれてよかった。ようこそ、我が国へ、雨降り王子どの」
リオ・ナバ王はにっこりと微笑んでフウルの手を取り、手の甲にそっと口付けをした——。
続く(この短編には長編『偽花嫁と溺愛王』がAmazonにあります。溺愛の続きと、濡れ濡れエッチな『初夜編』と、ほのぼの『子育て編』が入っています。よかったらAmazonも覗いてみてください。エッチバージョンのリオ・ナバ王がいます!)
116
あなたにおすすめの小説
最強で美人なお飾り嫁(♂)は無自覚に無双する
竜鳴躍
BL
ミリオン=フィッシュ(旧姓:バード)はフィッシュ伯爵家のお飾り嫁で、オメガだけど冴えない男の子。と、いうことになっている。だが実家の義母さえ知らない。夫も知らない。彼が陛下から信頼も厚い美貌の勇者であることを。
幼い頃に死別した両親。乗っ取られた家。幼馴染の王子様と彼を狙う従妹。
白い結婚で離縁を狙いながら、実は転生者の主人公は今日も勇者稼業で自分のお財布を豊かにしています。
結婚初夜に相手が舌打ちして寝室出て行こうとした
紫
BL
十数年間続いた王国と帝国の戦争の終結と和平の形として、元敵国の皇帝と結婚することになったカイル。
実家にはもう帰ってくるなと言われるし、結婚相手は心底嫌そうに舌打ちしてくるし、マジ最悪ってところから始まる話。
オメガバースでオメガの立場が低い世界
こんなあらすじとタイトルですが、主人公が可哀そうって感じは全然ないです
強くたくましくメンタルがオリハルコンな主人公です
主人公は耐える我慢する許す許容するということがあんまり出来ない人間です
倫理観もちょっと薄いです
というか、他人の事を自分と同じ人間だと思ってない部分があります
※この主人公は受けです
転生したらスパダリに囲われていました……え、違う?
米山のら
BL
王子悠里。苗字のせいで“王子さま”と呼ばれ、距離を置かれてきた、ぼっち新社会人。
ストーカーに追われ、車に轢かれ――気づけば豪奢なベッドで目を覚ましていた。
隣にいたのは、氷の騎士団長であり第二王子でもある、美しきスパダリ。
「愛してるよ、私のユリタン」
そう言って差し出されたのは、彼色の婚約指輪。
“最難関ルート”と恐れられる、甘さと狂気の狭間に立つ騎士団長。
成功すれば溺愛一直線、けれど一歩誤れば廃人コース。
怖いほどの執着と、甘すぎる愛の狭間で――悠里の新しい人生は、いったいどこへ向かうのか?
……え、違う?
〈完結〉【書籍化・取り下げ予定】「他に愛するひとがいる」と言った旦那様が溺愛してくるのですが、そういうのは不要です
ごろごろみかん。
恋愛
「私には、他に愛するひとがいます」
「では、契約結婚といたしましょう」
そうして今の夫と結婚したシドローネ。
夫は、シドローネより四つも年下の若き騎士だ。
彼には愛するひとがいる。
それを理解した上で政略結婚を結んだはずだったのだが、だんだん夫の様子が変わり始めて……?
オメガだと隠して地味なベータとして生きてきた俺が、なぜか学園最強で傲慢な次期公爵様と『運命の番』になって、強制的にペアを組まされる羽目に
水凪しおん
BL
この世界では、性は三つに分かたれる。支配者たるアルファ、それに庇護されるオメガ、そして大多数を占めるベータ。
誇り高き魔法使いユキは、オメガという性を隠し、ベータとして魔法学園の門をくぐった。誰にも見下されず、己の力だけで認められるために。
しかし彼の平穏は、一人の男との最悪の出会いによって打ち砕かれる。
学園の頂点に君臨する、傲慢不遜なアルファ――カイ・フォン・エーレンベルク。
反発しあう二人が模擬戦で激突したその瞬間、伝説の証『運命の印』が彼らの首筋に発現する。
それは、決して抗うことのできない魂の繋がり、『運命の番』の証だった。
「お前は俺の所有物だ」
傲慢に告げるカイと、それに激しく反発するユキ。
強制的にペアを組まされた学園対抗トーナメント『双星杯』を舞台に、二人の歯車は軋みを上げながらも回り出す。
孤独を隠す最強のアルファと、運命に抗う気高きオメガ。
これは、反発しあう二つの魂がやがて唯一無二のパートナーとなり、世界の理をも変える絆を結ぶまでの、愛と戦いの物語。
既成事実さえあれば大丈夫
ふじの
BL
名家出身のオメガであるサミュエルは、第三王子に婚約を一方的に破棄された。名家とはいえ貧乏な家のためにも新しく誰かと番う必要がある。だがサミュエルは行き遅れなので、もはや選んでいる立場ではない。そうだ、既成事実さえあればどこかに嫁げるだろう。そう考えたサミュエルは、ヒート誘発薬を持って夜会に乗り込んだ。そこで出会った美丈夫のアルファ、ハリムと意気投合したが───。
転生悪役弟、元恋人の冷然騎士に激重執着されています
柚吉猫
BL
生前の記憶は彼にとって悪夢のようだった。
酷い別れ方を引きずったまま転生した先は悪役令嬢がヒロインの乙女ゲームの世界だった。
性悪聖ヒロインの弟に生まれ変わって、過去の呪縛から逃れようと必死に生きてきた。
そんな彼の前に現れた竜王の化身である騎士団長。
離れたいのに、皆に愛されている騎士様は離してくれない。
姿形が違っても、魂でお互いは繋がっている。
冷然竜王騎士団長×過去の呪縛を背負う悪役弟
今度こそ、本当の恋をしよう。
【完結】王子様たちに狙われています。本気出せばいつでも美しくなれるらしいですが、どうでもいいじゃないですか。
竜鳴躍
BL
同性でも子を成せるようになった世界。ソルト=ペッパーは公爵家の3男で、王宮務めの文官だ。他の兄弟はそれなりに高級官吏になっているが、ソルトは昔からこまごまとした仕事が好きで、下級貴族に混じって働いている。机で物を書いたり、何かを作ったり、仕事や趣味に没頭するあまり、物心がついてからは身だしなみもおざなりになった。だが、本当はソルトはものすごく美しかったのだ。
自分に無頓着な美人と彼に恋する王子と騎士の話。
番外編はおまけです。
特に番外編2はある意味蛇足です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる