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「はじめまして、ユリアさま💚」by執事のセバスチャン
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まだ心の準備がぜんぜん整っていない。
「落ち着くんだ、失礼のないようにしなくちゃだめだ」
大きく息を吸ったり吐いたりしていると馬車が止まった。
「お待ち申し上げておりました、ユリアさま——」
馬車の外から明るい声が聞こえて扉が開いた。
おずおずと馬車から降りると、小柄な白髪の老人がニコニコと笑っていた。華美ではないが趣味のいいオメガ襟を首に巻いている。品のいいオメガの男性だ。
老人の後ろには黒い制服の従者や白いエプロンをつけた侍女たちが並んでいる。丁寧な礼をしながら、「いらっしゃいませ、ユリアさま——」と明るい声で挨拶をしてくれた。
ユリアも急いで膝を折り丁寧に礼をした。
「はじめまして、ユリア・ニキーチェです⋯⋯。どうぞよろしく、お⋯⋯、お願いします」
答えた声が最後は小さくなってしまった。ほとんど聞こえないほどだ。従兄弟の家ではずっと使用人に冷たくされていたし、子供のころからそんな環境で育ってきたので、ユリアにとって使用人たちは怖い存在なのだ。
「早朝からの移動でお疲れでございましょう?」
「いいえ⋯⋯。あの⋯⋯、とても立派な馬車だったので快適でした」
「それはようございました。わたくしは執事のセバスチャンと申します。どうぞ、こちらへ。お茶の用意がしてございます」
「あ、はい⋯⋯。セバスチャン、どうもありがとうございます」
大きな両開きの扉を入って玄関ホールへ。中央にピンク色の薔薇の花が飾ってある。とても大きくて豪華だ。ふわりと甘い香りが漂っている。
「きれいですね⋯⋯」
「ユリアさまのためにヴィクトルさまが選ばれた花でございます」
「僕のためにこの薔薇を?」
「ええ、そうでございます。ユリアさまの雰囲気にぴったりでございますね。旦那さまの愛を感じてわたくしは感動いたしました。胸がいっぱいでございます」
老執事は胸を押さえてキュートな笑みを浮かべた。
——ヴィクトル騎士団長が僕のためにこのピンクの薔薇を選んでくださった?
頬がカーッと熱くなっていく。きっと真っ赤になっていると思って両手で頬を隠した。
胸もドキドキしていた。とっても甘いドキドキで、心が明るくなるようなリズミカルで楽しい鼓動だ。
——胸が変? どうしたんだろう、緊張しすぎなのかな?
自分の気持ちがわからなくて考えていると、セバスチャンが隣の部屋を示した。
「ユリアさま、どうぞこちらへ」
「は、はい⋯⋯」
促されてホールの横の部屋に入る。そこは客間で、品のいいマホガニーの猫足の椅子や棚が並ぶとても広い部屋だった。
続く
「落ち着くんだ、失礼のないようにしなくちゃだめだ」
大きく息を吸ったり吐いたりしていると馬車が止まった。
「お待ち申し上げておりました、ユリアさま——」
馬車の外から明るい声が聞こえて扉が開いた。
おずおずと馬車から降りると、小柄な白髪の老人がニコニコと笑っていた。華美ではないが趣味のいいオメガ襟を首に巻いている。品のいいオメガの男性だ。
老人の後ろには黒い制服の従者や白いエプロンをつけた侍女たちが並んでいる。丁寧な礼をしながら、「いらっしゃいませ、ユリアさま——」と明るい声で挨拶をしてくれた。
ユリアも急いで膝を折り丁寧に礼をした。
「はじめまして、ユリア・ニキーチェです⋯⋯。どうぞよろしく、お⋯⋯、お願いします」
答えた声が最後は小さくなってしまった。ほとんど聞こえないほどだ。従兄弟の家ではずっと使用人に冷たくされていたし、子供のころからそんな環境で育ってきたので、ユリアにとって使用人たちは怖い存在なのだ。
「早朝からの移動でお疲れでございましょう?」
「いいえ⋯⋯。あの⋯⋯、とても立派な馬車だったので快適でした」
「それはようございました。わたくしは執事のセバスチャンと申します。どうぞ、こちらへ。お茶の用意がしてございます」
「あ、はい⋯⋯。セバスチャン、どうもありがとうございます」
大きな両開きの扉を入って玄関ホールへ。中央にピンク色の薔薇の花が飾ってある。とても大きくて豪華だ。ふわりと甘い香りが漂っている。
「きれいですね⋯⋯」
「ユリアさまのためにヴィクトルさまが選ばれた花でございます」
「僕のためにこの薔薇を?」
「ええ、そうでございます。ユリアさまの雰囲気にぴったりでございますね。旦那さまの愛を感じてわたくしは感動いたしました。胸がいっぱいでございます」
老執事は胸を押さえてキュートな笑みを浮かべた。
——ヴィクトル騎士団長が僕のためにこのピンクの薔薇を選んでくださった?
頬がカーッと熱くなっていく。きっと真っ赤になっていると思って両手で頬を隠した。
胸もドキドキしていた。とっても甘いドキドキで、心が明るくなるようなリズミカルで楽しい鼓動だ。
——胸が変? どうしたんだろう、緊張しすぎなのかな?
自分の気持ちがわからなくて考えていると、セバスチャンが隣の部屋を示した。
「ユリアさま、どうぞこちらへ」
「は、はい⋯⋯」
促されてホールの横の部屋に入る。そこは客間で、品のいいマホガニーの猫足の椅子や棚が並ぶとても広い部屋だった。
続く
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