完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました

美咲アリス

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 ——ここはどこだろう?
 シャルルは、真っ暗な箱の中で考えた。
 ここがどこで、今が昼なのか夜なのかもわからない。
 なにも見えないほど暗くて、すごく狭い箱の中にいるのだ。
 どうしてこんな箱の中にいるのかというと、それは敵国への貢ぎ物にされたからだった。
 ——せめてパンのかけらだけでも、もらえたらいいなあ⋯⋯。
 肩先まで伸びたピンクがかったブロンドの髪と若草色のグリーンの瞳の、痩せっぽちの十八歳のオメガの青年は、祈るような気持ちでそう思った。
 自分の国では食べるものはほとんどもらえなかった。毎日いじめられて、餓死するギリギリの量しか食べることを許してもらえなかった。
 ——ほんの少しだけでもいいから、食べ物がもらえますように。
 シャルルの願いはそれだけなのだ。 
「うわっ!」
 いきなりグラリと箱が揺れたので、両手両足にぐいっと力を入れてバランスをとる。
 どうやら敵国のエスタリア国に着いたらしい⋯⋯。
 ガサゴソという音が聞こえてきた。だれかが箱を開けようとしている。
 ——あ、まぶしい!
 箱が開くと目の前がパッと明るくなった。眩しすぎてなにも見えない。
 明るさに慣れようと思ってなん度も瞬きをしていると、とっても魅力的な低音ベルベットボイスが聞こえた。
「そなた、名前は?」
「シ⋯⋯、シャルル・カミュともうします!」
 必死でそう答えた。
 ぼんやりと人影が見えるようになってくる⋯⋯。
「あっ!」
 見えたと同時に大きな声を出してしまった。目の前の人物が信じられないほど整った容姿をしていたからだ!
 ——うわあ! なんてかっこいいお方なのだろう⋯⋯。
 二十代半ばの美貌の青年アルファだった。
 艶やかな黒髪。そして滅多にないほど美しい切れ長の目に、きらめく海のようなブルーの瞳をしている。
 まるでしなやかな黒豹のような青年だ。若々しくて野生的な力強さが全身から感じられる。
 ものすごく背が高い。たくましい広い肩と分厚い胸は歴戦の騎士のようだが、豪華な漆黒のフロックコートは高位の貴族だけが着る服装——。
 ——どなただろう⋯⋯?
 自分が置かれている状況をすっかり忘れて、ぼーっと見惚れてしまった。
「俺の名はアルベルト・カサドだ」
 美貌のアルファがにっこりと笑った。ものすごく嬉しそうな笑顔だった。まるで欲しいものがやっと手に入った少年のような無邪気な笑顔だ⋯⋯。
「えっ?」
 ——では、このお方はエスタリア国の王さま?
 アルベルト・カサドは、エスタリア国の国王の名前ではないか!
 ——大変だ!
 箱から飛び出した。あわてすぎて頭から床に落ちてしまう。
「ご⋯⋯、ご無礼をいたしました!」
 ——ああ、どうしよう! 貢ぎ物だという立場を忘れて、陛下のお顔にぼんやりと見惚れてしまった!
 敵国への貢ぎ物にされたということは、奴隷として差し出されたということだ。
 人扱いはしてもらえない。『物』として扱われるのだ。
 奴隷が国王の顔を正面から見つめるなど決して許されることではないのだ。
 ——どうしよう、殴られるかもしれない⋯⋯。
 怖くてブルブルと震えていると、アルベルト王の『恐ろしい噂』を思い出した。
 ——ああ、そうだ! アルベルト王はものすごい美食家で、人間を食べるという噂があったんだ!
 ということは、殴られるどころか自分も食べられるかもしれないではないか!
 ——ああ、どうしよう!
 恐怖で気を失いかけた。
 そのとき——。
「今日からそなたは我が国の国宝だ」
 アルベルトがささやいた。体がとろけるかと思うほど甘い声で⋯⋯。
「え?」
 ——国宝? どうして僕が国宝?
 必死に考えて、シャルルはハッとした。
 ——やっぱりあの噂はほんとうだったんだ! これからアルベルト陛下に食べられるんだ! 僕は『国宝級の食材』になってしまったんだ! ああ、どうしよう!!


*****

 四日前——。

「おまえは今日も食事抜きよ!」
「は、はい⋯⋯、王妃さま」
 シャルル・カミュは、あわててスプーンをテーブルに置いた。
 お腹がグーッと鳴っている。朝からなにも食べていないのだ。
 ここはフランク王国の王宮殿——。
 夕食の席には華やかな衣服を着た側妃たちがずらりと座っている。
 側妃の数はぜんぶで三十六人で、シャルルは三十六番目の地位——つまり、一番下の側室だ。
 華やかな服は支給してもらえない。地味な灰色のフロックコートを着ている。
 もうずっと同じ服を着ているのであちこちが破れそうになっている。侍女たちの服のほうがきれいなほどだ。
 けれどそんな惨めな格好をしていても、シャルルはとても愛らしいオメガだった。
 肩先でふわりとカールしたブロンドは少しピンクがかっていて艶々と美しい。
 大きな目とグリーンの瞳。まるで春の若草のように清らかな色をしている。
 だれもがうっとりするほど可憐だが、その容姿のせいで、王妃や格上のオメガ側妃たちから激しいいじめを受けていた。
 オメガ——とは、男と女という性別とは別の、もう一つの性の区分のこと。
 アルファ、ベータ、オメガという三つに分かれていて、アルファはたくましい体と不屈の精神を生まれながらに持っている。その性質から王侯貴族は代々アルファの者で占められていた。
 ベータはとくにこれといった特徴はない。平民のほとんどがベータで、彼らは自分たちがベータ性であることを意識することなく一生を終える。
 そしてオメガは、思春期になると首元からアルファを魅了するフェロモンを出すという特徴があった。
 このフェロモンのせいでかつては迫害された暗い歴史もあったが、今では『オメガ襟』をつけることで制御できるようになったので迫害されることはない。
 アルファの王侯貴族たちは好んで自らの妻や側室にオメガを迎えるようにすらなっていた。
 愛らしい顔立ちのシャルルは、オメガ側妃として王宮に入った。今から半年前のことだ。
 シャルルは孤児で、孤児院に視察にきた国王のデイロに見染められたのだ。
 けれども嫉妬深い王妃と側妃たちの策略のせいで、一度も国王の寵愛を得たことはなかった。つまり、いまだにシャルルは発情を知らない⋯⋯。
「今日のお肉はとても柔らかくて素晴らしい出来ですわね。だれが作ったのかしら?」
 紫色に染めた髪を豪華に結い上げた王妃が、冷たい笑みを浮かべてテーブルを見渡した。
 王妃は側妃たちにいろいろなことを競わせるのが趣味だった。最下位になると『お仕置き』が待っている。
「僕です、王妃さま! これは鴨肉でございます」
 派手な赤毛の側妃が答えた。ジャックという名のオメガで、実家は貴族だ。
「とても素晴らしいわ」
「ありがとうございます。王さまと王妃さまのために心を込めて作りました」
「きっと王さまもお喜びになるでしょう」
「光栄でございます!」
 国王はこのテーブルにはいなかった。従者を引き連れて狐狩りに出掛けていた。
「では、次は⋯⋯」
 王妃がじろりとシャルルを見た。とても意地の悪い視線だ⋯⋯。
 ——ああ、次は僕の番だ!
 胃のあたりがキューッと痛くなる。
「このスープはだれが作ったのかしら?」
「は、はい⋯⋯、僕です、それはマッシュルームのスープでございます⋯⋯」
「——ものすごく不味いわ」
「え?」
「不味いと言ったのよ、シャルル! 聞こえなかったの?」
「は、はい! 聞こえました! ⋯⋯もうしわけありません」
「今日の最下位の料理は、またあなたね。お仕置きが必要だわ」
 王妃が笑う。恐ろしいほど冷たい笑顔だ。
 ——また殴られるんだ⋯⋯。 
 心臓が跳ね上がった。
 ドキドキと鳴る胸を両手で押さえ、震える声で頼んだ。
「ど⋯⋯、どうぞ今日だけは、お⋯⋯お許しください。昨日打たれた背中が焼けるようにいたいのです⋯⋯、それに、お腹が空いて立てません⋯⋯」
「王妃のわたくしに口答えをするとは——。この無礼者を鞭で打ちなさい! 百回⋯⋯いいえ、今日は二百回よ!」
「お許しください!」
 悲鳴のような声で叫んだ。けれども、許してもらえるはずはないのだ⋯⋯。
 鞭打ち係の侍女たちが部屋に入ってきた。みんな嬉しそうに笑っている。王妃お気に入りのサディスティックな趣味の持ち主たちだ。
「さあ、シャルルを叩きなさい——」
 王妃の命令とともに侍女たちが飛びかかってくる。
 あっというまに両手と両足を押さえつけられた。
「お許しください⋯⋯、あっ!」
 フロックコートの裾をめくられた。小さな尻が丸出しになる。その尻に鋭い革の鞭が食い込んだ⋯⋯。
「ああっ!」
 シャルルは悲鳴を上げた。

続く
※三万字ほどの中編です、サクッと短期完結目指してます^ ^
よろしくお願いしますm(_ _)m
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